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キャリアアップのための勉強している私。同期と人生観にギャップがあり、生き方を否定されているような気になってしまい……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室353】


✳️今週のお悩み✳️
私は、まわりとの人生観のギャップに悩んでいます。会社の仲の良い同期達(皆男性です)は、度々「贅沢はしなくても、家族で日々楽しく過ごしたい」「派手さは無くても、ささやかな暮らしを大切にしたい」という趣旨のことを言います。そんな時、「贅沢はしなくても」「派手さは無くても」の前置きは必要ないのでは?と思いながらも、「その通りだね」と返答しながらいつもモヤモヤしています。私は幼い頃から勉強に励み、今もキャリアアップのための勉強にプライベートの大半を割いています。そのことを知っている近しい人達から前述のようなことを言われると、生き方を否定されているような気にもなります。どの程度向上心を持つかは人それぞれですが、「贅沢はしなくてもいい」とわざわざ言われると、「自分は身の程を弁えている欲深くない人間だ、そしてお前はそうでなない」と言われているようです。わざわざこのような前置きをするのはどのような目的からだと思いますか? 私が細かいことを気にし過ぎなのでしょうか。
(ケー子・32歳・会社員・兵庫県)


こばなみ:
これって、ケー子さんの思い込みのようにも感じますけど、いかがですかね?

宇多丸:
そうね……、少なくとも、ケー子さんの生き方に対する批判を暗にしてるんじゃないか、というような疑念に関しては、さすがにそれはちょっと考えすぎじゃないの、って感じはやっぱりしますよね。

たぶんそういう言ってる人たちは、あくまで自分に言い聞かせてるんだよね。

「かつてのような立身出世コースはもはや望めないけども、それでも俺らは幸せなんだ! むしろこっちのが正解なんだ!」的に。

そうやって、自分の人生を肯定したいだけなんだと思いますよ。他人の選択を否定したいわけじゃなくて。

要は単に自分とは違う考え方を表明してるなぁってだけなんだから、「なるほどねぇ」とかなんとか、適当に受け流しとけばいいじゃんと思うけど、それでもどうしても心穏やかではいられないんだとしたら、それはむしろ、ケー子さん側が内心抱えている、不安や不満の反映だったりするんじゃないですかね。

こばなみ:
第三者からみたら、キャリアアップをがんばってて、本当にすごい!と思いますけどね。会社としても、いい人材ですよ!

宇多丸:
ねぇ。みんなもそこは普通に尊敬してるんじゃないかと思いますけどね。

まぁ、そのぶん嫉妬を買ってたりする可能性はあるかもだけど、それはもう、何をどうしたって生じうるものでもあるからねぇ。

ひょっとするとケー子さん、昔から頑張り屋さんだったぶん、たとえばまわりと歩調が合わずにガリ勉呼ばわりされたりとか、それこそ「女のくせに」的な差別を受けたりして、自負もあるけど深い孤独も感じてきた、みたいな部分があるのかもしれないですね。

だとしたらホント、あなたは間違ってないからもっと自信持っていいよ!って言ってあげたいよ。

とは言え、あまりにも他者の言い分に敏感になりすぎちゃうと、じゃあ自分と同じような人生を歩んでない人は、こっちの生き方を否定しているのか?って話にもなっちゃうじゃん?

たとえば、「うちは子どもいませんがそれでも楽しくやってます」って夫婦がいたとして、その人たちはじゃあ、子を持つ生き方を否定しているのかって言ったら、そういうことじゃないわけじゃん。

あなたもそうすればいいのに~!とか、押しつけてきたりするんなら話は別だけどさ。

そりゃあ、内心では誰だって自分のルートこそが正しいと思いこみたいんだし、その違いについて突きつめて議論なんかしだしちゃったらそれこそ対立するしかなくなっちゃうかもだけど、そんなことしてもキリがないし不毛だってこともみんなわかってるから、たいていはあえてスルーしてるわけだよね。それは知恵だし、マナーの部類でもある。 

こばなみ:
同期だし、昔はみんなでバリバリやってたのに、時が経って、自分だけ違っちゃったなぁという疎外感もあるのかなぁ。

宇多丸:
そうかもね。

しかし、だとしても、それはあくまでケー子さん側が勝手に思ってることですからね、他の人たちからしてみれば。

さっきも言ったように、誰しもそれぞれ違う事情と違う選択、違う苦しみや喜びがあって……、だからこそ、まずは自分が来た道をなんとか肯定したい、ってだけだと思うんですよね。みんな必死!

なので、そっちはそうなんだ、こっちはこうです、お互い頑張ろうね!ってことでいいじゃん、と思うんだけど……。

こばなみ:
「わざわざこのような前置きをするのはどのような目的からだと思いますか? 私が細かいことを気にし過ぎなのでしょうか」ということですけど。

宇多丸:
目的ってほどのものというよりは、何度も言いますが、ただただ「俺は間違ってないよね」というのを誰より自分自身に言い聞かせてる、ってことだと思いますよ。

たとえば、仮にそのまわりの男たちが、「ケー子さんもいいかげんキーキー働くのやめてさー」とか、無神経で押しつけがましいこと言ってきたりしたんなら、即座にキレ散らかしていいと思うけどさ。

じゃあ、ものすごーく意地悪なことを言っちゃえばさ。ケー子さんがわざわざこうしてその件を取り沙汰してみせるのは、どのような目的からなのでしょうか? 私たちの人生を否定したいのでしょうか?……みたいなことも言えちゃうわけでしょう。

でも、それは違うじゃん。

ケー子さんは、「自分の生き方を否定されたくなかった」だけじゃん。

それと同じことですよ。そういう風に考えられませんかね?

おそらくケー子さんは、努力の成果が明確なかたちとして実感できる手前の段階にいて、自分が進んできた道に、まだまだ自信が持ちきれない感じなんじゃないかな。

だから今は、他人の言うことが実は気になってしょうがない。

その意味では、ケー子さんもやっぱり、自分への言い聞かせを必要としてるんですよ、ほかの人と同じように。

てか、そうじゃない人なんていないんじゃない? 実は。

でもさ、たぶんだけど、ケー子さんはそのなかでもちゃんと次の段階に向かって積み重ねをしてる人だから、もうちょっとしたらきっと、立場的にも経済的にもいろいろ余裕が出てきて、彼らの言うことも、「はい、降りちゃった人たちの言い訳~」とか、本気の上から目線で聞き流せるようになりますよ。

典型的な「アリとキリギリス」ケースですもん。差は必ず出る。

現時点で確信が持てないなら僕らが言いますよ、

最後に笑うのはあなたです!

こばなみ:
そうですよ!!

あと、キャリアアップのために頑張ってる人、まわりにもいると思うから、そういう人たちとしゃべって高め合っていくのもありだと思いますよ。私、社外にそういう友達がいるんですけど、すごく励みになっています。付き合う人を変えるのも、おすすめかも!


【今週のお絵描き】

画・宇多丸



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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。



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