飲み屋で奢ろうとしてくる男性に、対等じゃなく扱われた気がして腹が立つ! 本当はありがたく奢られるべき?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室227】
✳️今週のお悩み✳️
私はお店でお酒を飲むのが大好きなのですが、人と約束をして出かけるのを億劫に感じてしまうのでよく一人で飲みに行きます。また、焼酎・日本酒・ビール等が好きであり、金銭的余裕もめちゃくちゃあるわけではないので大衆酒場的な安い立ち飲み屋などに行くことが多いです。そういったお店で一人で飲んでいると、ほかのお客さんに話しかけられたり店長さんと話していると他のお客さんとのコミュニケーションが始まったりすることが多く、それ自体はそれなりに楽しんではいるのですが……。奢ろうとしてくる男の人にどうしても腹が立ってしまいます。飲んでいて盛り上がって一杯奢るよ!となっても急に対等じゃなく扱われた感じがするし、急に「美人だね!」「何か食べる?」などと言われてもその代わりにあなたと話すのは嫌です……、自分で食べたいもの食べるし、と思います。確かに自分は年齢が若く、対等じゃないのも理解しているのですが、酒場でそれぞれのお金でそれぞれの飲み食いする他者という意味では対等でありたいと思ってしまいます。こんな奴は一人で大衆酒場に行く資格がないのでしょうか。ノリが悪いと思われていそうで申し訳ない気持ちもあります。ここは妙なプライドを持たず、ありがたく奢られるべきなんでしょうか?
(町ん・24歳・東京都)
宇多丸:
こばなみはこの気持ち、わかる?
こばなみ:
うーん、奢られたらだいたい「あざーっす!」って飲んじゃうことが多い気も……。
なのであまりそこまで考えたことなかったです。
ノーテンキですみません!
宇多丸:
まぁ、特に若い女性が酒場でひとり飲みしてたりすると、近くにいるおじさんとかが、酒の勢い込みで馴れ馴れしく絡もうとしてきたりするのは、ある程度避けられないことだろうけど……、町んさんとしても、別にそれ自体をハナから拒絶してるわけじゃないんだよね。
こばなみ:
そして町んさん、話しかけたくなっちゃうようなかわいさなんだろうな~。
宇多丸:
ただそこで町んさんは、奢ってあげるって話が出てくると途端に、下に見られてるような気がしたり、そこはかとない「代わりに言うこと聞け」プレッシャーを感じたりして、一気に冷めちゃうと。
たしかに、気持ちとしては理解できなくもないけども。
ただ、飲み屋では誰もが対等ということと、奢られるってことは、別にそんなに矛盾しないんじゃない?とも僕は思うけど。 要はさ、飲み屋でたまたま会った人に一杯二杯奢ったり奢られたりなんてのは……、バカっぽい言い方になっちゃうけど、ただの「ノリ」じゃん。 手っ取り早く景気づけしようってだけで、深い意味なんかないでしょ、たいていの場合は。 それだけに、知らない人、気が乗らない人の杯なら、やんわり断ったって別にいいわけだし。
ひょっとしたら町んさんもさ、いずれもっと歳とって、かつての自分のような若い子と飲む機会があれば、別に威張ってるわけでもなんでもなく、「おう、若いの! ここは素直に一杯ごちそうになっとけ!」みたいな気分が、やっぱりわかるときが来たりもするんじゃないかなぁ。 それって、上下関係をアピールしてるっていうよりは……、単純に、君が一緒に飲んでくれて俺は楽しいよ!っていう、その場に対する「祝祭感の演出」みたいなニュアンスが強いんだと思うんですよ。
言ってみれば飲ん兵衛なんてもんは、そうやって長年奢り奢られを繰り返して、生涯でだいたいトントンになればいいやみたいな、そんな程度の心持ちでいればいいんじゃない?という気がする。 なので、一杯やそこら奢られることを、あんまり貸し借りをつくってしまった!みたく重く考えることはないよ。 「ゴチんなりまーす!」つって、当たり前のような顔でグビグビやってればいいんだと思いますけどね。
逆に、そのくらい軽いもんだからこそ、ちょっと奢ったくらいでなにか恩着せがましい態度取ってくるようなヤツはダセェ、って話でもあるし……。 要するに、話したくもないような人からの杯は断ればいいし、不快なレベルまでグイグイくる人からのアプローチも退けていいし、普通に嫌なもんは嫌と言えばいい、一緒に飲んでもいいと思えたときだけ受ければいい、ってだけのことじゃね? ナンパと一緒で、ナンパすること自体がナシってわけじゃなくて、人と場合によるというだけ、みたいな。
こばなみ:
町んさん、「こんな奴は一人で大衆酒場に行く資格がないのでしょうか?」「ノリが悪いと思われていそうで申し訳ない気持ちもあります」と、けっこう深刻に考えてらっしゃるようですが。
宇多丸:
一緒に飲みたくもないような人にどう思われようと関係ねぇ!とは思えないんですかね。
「ありがたく奢られるべきなんでしょうか?」って聞いてるけど、もちろん「べき」なんて義務的な話ではまったくない。
「町んさん側のノリ」が一致したときに限る、ってことでなんの問題もないと思いますよ。
こばなみ:
こうだからこうしなきゃいけない、とかはないってことですよね。
宇多丸:
あと、大きなことを言えば、飲み屋って、「いいことも悪いことも起こる」のが前提の場じゃないですか。
うざいヤツがいるとか、たまにケンカが起こるとか、そういう凸凹込みで、飲み屋の魅力というか。
だって、不快なことを完全に避けたければ、家で飲めばいいんだもん。僕とかそういうときも多いですが……。
でもそうじゃなくて、わざわざ「他者」が……、しかも、正気を失いかけた連中が(笑)ウジャウジャいるところに、それでもいちいち出かけてゆくっていうのは、やっぱそういうことだろうと思うんですよね。
ちなみに、僕がよく行くバーとかまさにそういう感じだけど、そういう「他者」同士の集まりだっていうのをみなさん基本的にはわかっているからこそ、年齢や職業とか関係なく、それこそどこぞの大会社の社長もほとんどフリーターの人も、まさに対等の立場でワイワイやってますよ。 たまにあんまり粋じゃないおっさんとかが自分の仕事自慢とかしはじめたりするんだけど、そういうのはあんま相手にされなくて。 単に、余裕があって奢りたい人は奢る、奢られたほうもサクッとゴチになる、お互い盛り上がってハッピー!というだけで、そこに支配関係を持ち込こもうとするような人がいたら、速攻嫌われて終わりだと思いますよ。
さっきも言ったけど、奢ってくる人もさ、「いや、俺も若いころこういう場で年上の人によくごちそうになってたから、今度は俺が下の世代にそれを“お返し”してるだけなんだ」「だから、奢り返すなら俺にじゃなく、さらに君より若い人たちに、いずれ頼む」みたいな、そういう心意気の人って多いんじゃないかなぁと思うんですよね。
こばなみ:
お金はまわっていくもんですしね~。
宇多丸:
年齢を重ねたり出世したりすると、威張る気持ちなんかゼロでも、単純に収入や地位のバランス的に、「さすがにここは自分が持たないとおかしいだろう」っていう場面、増えてくると思いますしね。
なので、いまのうちにガンガン奢られておくってのも、やっぱそう悪くないんじゃないかと思いますよ!
こばなみ:
どんどん奢られなくなってきますからね~。
宇多丸:
四十路越えたらホント、出てくいっぽうだよ!(笑)
あと逆に、「偉そうにしてくるパイセン方」っていうのも、いつかどんどんいなくなっていってしまうものだから。 ウゼェなぁと思いつつ彼らの「可愛がり」を受けるというのも、今のうちにしかできない経験かもしれないし。 僕とか、今や気がつくとその場では最年長、みたいなことが増えちゃったから、たまに先輩的な人とご一緒すると、ついついはしゃいじゃって、甘えてしまったりしがちなくらいだもん。
ま、いずれにせよ、町んさんが好きなように飲みゃあいいよ、というのが大前提です! どうしても抵抗があるのなら、「奢られるのが好きじゃなくて」ってストレートに言うのもアリだと思います。 そこからまた、「えーなんでなんでー?」ってなるかもしれないけど、その話題でひとくさり盛り上がるのも酒席の楽しさのうち、くらいには気軽に考えていただいて。 とにかく、「礼儀はあるけど、“こうしなきゃいけない”って決まりはないのが酒場」ということで……。
【今週のお絵描き】
*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年2月24日に公開したものを再編集し、掲載しています。