ギャラ交渉をしないままズルズルと仕事をしてしまった場合、お金の話をどう切り出していますか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室302】
✳️今週のお悩み✳️
現在、私は大学助手のかたわらデザイナーとして個人の仕事をしています。今までちょこちょこと前職場から主に業務委託として仕事を受けてきているのですが、先日10年近くお世話になっている方からデザインのお仕事をいただき、その方がアートディレクターで私がデザイナーという立ち位置で商品開発の仕事が始まりました。初めて大きな規模のお仕事に関われて喜んでいたのですが、ギャラ交渉をしていません。そのうち向こうから言ってくるかな?と思っていたけどそんな気配はなく、仕事の内容を噛み砕いていけば短納期でデザイナーの範疇を超えた仕事も含まれており(メーカー開発や商品の納品時期の管理)不安になってきました。また、向こうも初めてのアートディレクター職ということもあり丸投げ状態で「早くデザインを出して」としか言われてません。デザインに関しては自分の思うようにやろうと思うのですが、お金のことを言うタイミングを見失い不信感が募る日々です。打ち合わせと顔合わせの2回しか直接会っておらずあとはLINEの短文(了解、いつできる?の2パターン)のみのやりとりで言い出すのも億劫な気持ちです。この仕事で結果を出せれば経験にもなるし、繋がっていくとは思うのですが、ヘタこいたな~という気持ちでいっぱいです。宇多丸さん、こばなみさんは仕事のお金の話をどう切り出していますか? また知り合いとのお仕事で気をつけてるポイントなどあればお教えいただきたいです。よろしくお願いします。
(つねこ・30歳・大学助手兼デザイナー・東京都)
こばなみ:
これって、デザイナーあるあるというか、私たち編集やライターでも、同じようなことがありますよね。
お金の話、聞きづらいっていうのはたしかにわかるけど……。
宇多丸:
ぶっちゃけ僕も、過去に何度か仕事してるような相手だと、ギャラの話をちゃんとしないままズルズル依頼を受けてしまうこと、たまにありますね。
そういうときはもちろん、向こうを信用してるというのと、だいたいの相場というのがわかっているからとか、なんならいくらでもいいやと思っているから、でもあるので、特に改めて問いただしたりもしないんだけど。
でもまぁ、あんまり褒められたことじゃないかな、やっぱり。
つねこさんもすでに重々おわかりの通り、最初に報酬の合意をしないまま仕事を進めてしまうのは、後から揉める元になり得るし、精神衛生上もよろしくない。
相談文にもあるように時間が経てば経つほど切りだしづらくなるし、とは言えいつかは必ず話し合わなきゃならない件なわりに、今さらどうにもならない感じにはどんどんなってゆく……、後回しにしていいことなんもないよ!
まして、つねこさんみたいに個人で、フリーの立場でやってる人が、そこを曖昧にしたまま大きな頼まれごとをいろいろやっちゃうなんて、絶対ダメでしょ。
前に「フリーライターをしています。安請け合いするクセをなんとかしたい!」って相談のときにも言ったけど、フリーって、足もと見ようと思えばいくらでも見られちゃう立場でもあるからさ。安請け合いばっかりしてたら、どんどん都合よく使われるようになってっちゃう。
だからって、あんまり高望みや選り好みばかりしてると仕事こなくなっちゃうしね。
要は、自分の実力と値段の釣り合いを、絶妙にとってゆかないといけないわけですよ、フリーでやってくなら。
さてこの段階から、どうしたもんかね。
こばなみ:
至急、言う、ですかね。
ちなみに、お金も話もそうですけど、業務の領域のことも絶対に話したほうがいいですよね。
私、スタッフさんから、途中で言われることもありますよ。
私が発注側で、お金のことは最初に言うようにしていますけど、思ったよりやることが多くなってしまった場合とか。
そういうときは、「もう少し、考えてもらえませんか」と言われたりとか、こっちからも、「想定以上に多くなってしまったので考えますね」とか、やりとりしたり。
だから、途中で言ってもぜんぜんいいんじゃないですか。
宇多丸:
当然そうだよね。
言いだすのが億劫なのもわかるけど、そこは後回しにしたツケ、ということで。
ひょっとしたら、相場とかもまだよくわかってなかったりする?
こばなみ:
前職場ってあるので、相場はわかるのでは?
でも、大きな規模の仕事は初めてなのですね。
宇多丸:
大きな規模ってことは当然大きな金額が動いてるんだろうし……、いざ聞いてみたらこの値段じゃやれねーよ!なんてこと、今さらありうる?
こばなみ:
ないとは言えませんよね……。
商品パッケージデザイン、実は2万円だったとか……。
もし途中でそうわかったとしても、もちろん交渉はしつつですが、やりきるしかないのかも、ですね……。
で、次は絶対に最初に話をする、もしくは受けないなど。
宇多丸:
結局何事も、いったんは自分で痛い目にあって、学んでゆくしかないのかもね。
タダ働きかよ! 二度とこんな目に遭うのは嫌だ!って。
まぁ、相手の機嫌を損ねてもう仕事もらえなくなったらどうしようとか、フリーは特に不安になってしまうのもわかるけどさ。
でもさ、ギャラの話したからって不機嫌になるような相手とは、そもそも仕事しないほうがいいよ!(笑) ハナから搾取する気、満々ってことじゃん!
こばなみ:
その昔、出版が調子のよかった頃は、お金の話をそこまでしなくて、言われた金額でやってたってよく先輩から聞きますけど。それはギャラがよかったから、別に文句もなかったって。
だけど今は出版社だけでなく制作費が変わってきていますし、企業のお仕事とかだとだいたい最初に「お見積ください~!」ってなりますから、ギャラのことを聞くことは全然変ではないと思いますよ。
宇多丸:
ねぇ。
特にフリーにとっては、お金の話をどう切りだしていますか?とか聞いてる場合じゃないんだよね。
そこでどう自分に値段つけるかも、重要な仕事のうちなんだよ!
今からでもいいから、いったんしっかり交渉はしてみるべきじゃないですかね。
こばなみ:
全然いいと思いますよ!
若干、想定の範疇をすでに超えてそうなのは気になりますけどね。
それも言ってもいいと思います。
宇多丸:
それほど、関われるだけでも光栄です!って仕事ではあるんだろうね。
だからって、あんまりダンピングしすぎるのはやっぱり、今後のためにもよくないと思いますよ。
おたく、あの仕事いくらで受けたんでしょ?なんて話が伝わってしまうかもしれないし……、そしたら、そこから急に値を上げていくのも、難しくなっちゃうでしょ。
こばなみ:
お金と業務の領域は必ず最初に! あと期間とか、ずるずる延びちゃった場合の条件とかも大切かも!
と言いながら、私も知り合いからの仕事を安請け合いしちゃって、途中までギャラを聞かずにやっていて、途中で聞いたらとんでもなく少なくて、会社に言ったら、なんだそれってなって、揉めて、しかも作業はどんどん増えるしで、もうどうしようもなくなって、上司と謝りにいって、結局その仕事を降りました、な~んてこともありましたよ。
思い出すたびに、申し訳ないし、恥ずかしいし、今でもあのとき最初に聞けなかった自分を呪いますね。
ちゃんと最初に聞かないと、いろんな人を傷つけるということがわかりました。
宇多丸:
勉強になるエピソードだなぁ。
まとめますと、知り合いだろうがなんだろうが、のちのち気まずくならないためにこそ、条件の話は、最初に、シビアに! これ特にフリーの基本!
まぁ今回の気まずさは、今後のためのいい反省材料だと思うしかないですね。それにしたって、今からでもなる早で切りだすに越したことはない、ということで……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年11月30日に公開したものを再編集し、掲載しています。