同棲中の彼氏は汚し魔……。我慢して掃除するべき?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室18】
✳️今週のお悩み✳️
彼と同棲中ですが、彼が汚し魔で掃除や片付けをしてくれません。私が潔癖気味なせいもあるかもしれませんが、お互いどうやったら歩み寄れるでしょうか。それとも、我慢して掃除は私がするべきでしょうか。
(Shimba・山形県)
宇多丸:
僕はこの連載でもよく、「いきなり結婚する前に、お試し期間として一年くらいは同棲してみたほうがいいのでは?」と言ってるけど、まさにこういうこと!
一緒に暮らしてみて初めてわかる「合わない部分」っていうのが、必ず出てくるわけですよ!!
そこをすり合わせてゆくことができる相手なのか、どうか。
だって彼氏、「汚し魔」までいっちゃってるんでしょ!?
いっぽうのShimbaさんは、潔癖気味だっていう。
潔癖 vs 汚し魔。
一番、組んじゃいけない同士だよ!
まずね、我慢して私が掃除するべきでは「ない!」です。それは最初に言っておきたい。
やっぱ、片方が我慢することで成立してる関係なんて、どう考えても良くないでしょ。いつかどこかで、もっとイヤ〜なかたちで破綻しちゃうと思いますよ、きっと。
こばなみ:
宇多丸さんも片付けられない部類ですよね?
宇多丸:
Shimbaさんの彼氏と比べてどの程度かはわからないけど・・・。僕は有機物系のゴミに関してはむしろ潔癖なんですよ。ピザが入ってた箱とかでさえ、できるだけ速攻で外に捨てに行きたいくらい。ペットボトルもすぐに中身をキレイに洗うし。
ただ、本とかDVDとかCDとか、あと服!
とにかくやたらとモノを買うもんで、すぐに収納しきれなくなっちゃう。で、次第にそういうモノたちを、無造作にそこらじゅうに置くようになる。
だからまぁ、その意味では完全に「汚し魔」の部類なんだと思いますよ。自分ではあんまり認めたくない部分なんだけど・・・。
で、ですね。
Shimbaさん、彼が「掃除や片付けをしてくれません」って言い方してるけど、僕自身を含めそういう人は、掃除や片付けが「できない」んですよ。
より正確に言うと、
「掃除や片付けを定期的にしなくてはいけない」という教育を受けてこなかった人。だから、「しなくちゃ」という方向にそもそも頭が働かない。
たとえば、僕の家は、いつでもかなりの量の本が床に積んであるわけ。本棚に入ってる分とは別にね。
これ、しつけがちゃんとされている人だったら、そもそも本棚に入りきらないほど本を買わないようにするとか、買ったらそれまで持ってた本を整理するとかして、とにかく本棚に入りきる量にキープするわけですよ。
うんちしたらおしりを拭くのと同様に、そうするべきであるという習慣が仕込まれているんです。
僕だって頭で考えればそうしたほうがいいってわかってるんだけども、気がつくと、本を積んだまま放置してしまっている。「あそこの山、なんとかしなきゃなぁ・・・」とは一応思ってるんだけど、実際に手をつけることはなかなかしない。
つまりそれって、
ある問題を「見て見ぬふり」するクセがついてしまっている、
ということですよね。
人によってその「見てみぬふりゾーン」の許容度合いも違うんだけどさ。
逆に、部屋をいつもキレイに保てる人っていうのは、「見て見ぬふり」を自分に許さない人、という言い方もできる。
「だって、解決すべき問題がそこにあって、どうすれば解決するかもわかってて、あとはちょっと行動に移すだけ・・・、なのに、なぜただ放置しておくわけ?」っていうね。「バカなの?」っていう。
おっしゃるとおり!!
なのでこれは、別に彼も悪気があって「掃除をしてくれない」のではなくて、これまでのしつけ、育ち方の違いの問題。彼が生きてきた世界のルールと、Shimbaさんのルールの「緩さ」の差なんですよ。
だからね、少なくとも簡単に折り合いがつく問題じゃない。
一番いいのは、自分が潔癖だなんて言ってる人は、潔癖な相手を選べってこと!
こばなみ:
掃除するようには、直らないってことですよね。
宇多丸:
直るとか直らないっていう次元の話じゃないっていうか。
でもね、僕がちょっと変わったのは、非常に潔癖な知人に、まさにさっきの話そのまんまなんだけど、理詰めで「なぜ部屋が汚い人ってのはダメなのか」ということを説かれて、まったくその通りだ!と心底納得したというのが大きくて。
作家の平山夢明さんと精神科医の春日武彦さんが対談している「『狂い』の構造」っていう超面白い新書があって、そのなかに「『面倒くさい』が『狂い』のはじまり」という章があるんだけど、さっき言った「見て見ぬふり」が多い人が部屋を汚しやすい、というのはまさしくそうで、進行してゆくと、どんどん狂気の領域に近づいてゆく。
わかりやすいのは、いわゆる「ごみ屋敷」の住人ですよね。
僕も、いま冷静に振り返ってみればそれに近い状態の部屋に住んでいたことがあるから、余計にわかるんですけど。
本人は
「いや、これはごみじゃない、どれも必要なものだ」とか、
「どこに何があるかはわかってる」とか、
「いずれある程度は片付けるつもりだが、このなかで何が要るもので何が要らないものかを判断できるのは自分だけだから、やっぱり他人にはいじられたくない」とかなんとか言って、ハタから見たらどう見たって取り返しがつかないレベルまで行っちゃってる問題を、平気で「見て見ぬふり」し続けられる。
その態度をこそ人は「狂気」と呼ぶことも知らずに・・・。
ちなみに僕、上記の屁理屈、全部実際に言ったことありますから!
ということで、「部屋の乱れは心の乱れ」って言葉は、ウソじゃないんですよ。
そのいっぽうで、度を越した潔癖というのもまた困ったことになるわけですが。
こばなみ:
潔癖も狂気になりますよね?
宇多丸:
放っておくと無秩序になってしまう世界のなかで、なんとか一定の秩序を保とうとしてるのが通常のキレイ好きな人なんだとしたら、それが行きすぎて、世界の「すべて」をコントロールしたいという絶対に実現不可能な強迫観念に囚われてしまったのが、「病的な潔癖性」ということなのかもね。
こばなみ:
私、テレビのリモコンなんかを机に平行とか垂直とかに置かないとダメって友達がいて、ちょっと怖いんです。
宇多丸:
でもまぁ、それはさ、たとえば箸を並べずグチャッを置く人がいたとして、そういう人に僕らはきっと「なんでちゃんと箸置きに並べて置かないの?」って言いたくなるけれども、あっちに言わせれば「え、別に食べるのに支障ないし・・・、うるさいなぁ!」みたいな、そういう違いかもしれないじゃん。
「どうせ置くならきちんと並べたほうが気持ちいいのに、なんでしないの?」みたいな。
こばなみ:
気持ちがいいのはわかるけど、それを強要されるのが嫌っていうか。
宇多丸:
まぁ、リモコンの置き方は「礼儀」として一般化してるわけじゃないから、ちょっと話が違ってくるとも思うけど。
でもね、この汚部屋問題の場合は、両者の主張はやっぱりイーブンじゃないと思うんだよ。
「部屋をキレイにする」と「汚くする」だったら、明らかに「キレイにする」側に理があるでしょう。
少なくとも積極的に「汚くする」べき理由はまったくないんだから。
こばなみ:
うむむ。で、宇多丸さんは、今は汚部屋問題は改善されたんですか?
宇多丸:
まず、結婚時の引っ越しでいわゆるごみ屋敷状態からは完全に脱しました。ただ、モノがまた次第に増えてゆくにつれ、乱雑な「見て見ぬふりゾーン」がだんだん増えてきちゃってるのも事実。だから時々「ハッ! これじゃイカン!」と一念発起して、猛然と片付け始めたりとか。
こばなみ:
すごい進歩じゃないですか! いまはもう大丈夫?
宇多丸:
いや、完全に大丈夫ではないよ。時々奥さんとかから注意されないとダメだったりもするけど。
この間も、大量に服とかDVDを売ったりしてね。
これがまた結構それなりの額になったりするのがモチベーションにもなるし。
とにもかくにも、意識的に気をつけるようにはなったし、「ダメだ!」と思ったら即行動に移す習慣はちょっとだけついたかもしれない。
あとは、同居する家の間取りにもよるよね。
ちゃんと二人それぞれの部屋が確保できるのだとしたら、百歩譲って、そこは自分ルールで行なってもよしとしよう。
でも、共有スペースについては二人で話し合って、ルールをつくっていくべきだよね。
ただ、Shimbaさんのところは、
「お互い気がついたときに片付けようねっ!」
的な決めごとができる相手でもないわけだからな〜。
こばなみ:
ルールをつくっても守れないこともありますよね。
宇多丸:
そうなんだよな〜。
でもホント、なんでそこを確かめてから同棲しなかったのかねぇ。
彼氏の部屋にお泊まりに行ったときとかに、トイレの様子とかで、なんとなくわかんじゃん!
こばなみ:
それをいっちゃ~、おしまいじゃないっすか(笑)。
でも、私も片付けられない部類なんですけど、その昔、片付けをしてくれるいい人と付き合ったことがあります。
宇多丸:
こばなみは自分のモノが勝手に片付けられても平気なの?
こばなみ:
ぜんぜん平気、むしろウェルカム。その人はいわゆる世話焼きのお母さんみたいな人だったんですけどね。私みたいなズボラな性格の人には、それはもう極楽ですよ~。
宇多丸:
なるほどね。潔癖かつ世話焼きか。
こばなみ:
そう。その組み合わせだと、お互いハッピー!
宇多丸:
そういう相性はアリなんだねぇ。
とにかく、結婚の前にお試し同棲が必要って言ったけど、さらにその前に、それこそお泊まりのタイミングとかで、暮らしに関するお互いの考え方、態度の違いをチェックするのも大事ってことみたいだね。
ただまぁShimbaさんには、それを今さら言っても仕方ないので・・・。
とりあえず彼氏には、さっき言った平山夢明さんの本でも読ませて、「汚し魔」というのが人としていかにダメな存在か、放っておくと狂気にまで発展してゆきかねない悪癖であるかを、まずは理屈面から、徹底的に納得していただくことから始めてみては?
そこがクリアできないようなら・・・、率直に申し上げて、
「この先もこの調子でずっと一緒に暮らすのは正直、無理」という意志を、彼にはっきり伝えたほうがいいと思います。
そこで彼も初めてことの重大性に気づく、ということもありますので(例の結婚話同様)。
結論:
汚部屋も二人のルールの違いも
放置しておけば「狂気」のはじまり。
まずは平山夢明さんの本を読もう。
*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2013年11月2日に公開したものを再編集し、掲載しています。