70代半ばの父と母の仲が険悪になり、母の愚痴が止まらない。聞くのはつらいが聞くしかない……?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室419】
✳️今週のお悩み✳️
聞いてください。父と母が歳を取り(70代半ば)、仲が悪くなりました。理由はお互い頑固になっているのと、母のあたり(責めるような、逃さないような怒り口調)が強い、しかし父はだらしなくて言われるのは自業自得。生活だけでなく金にもだらしないです。その愚痴が私のところにきます。離婚したい!と母が言ったりもするのですが、もういい歳なんだし、離婚だけはやめてほしい……。でも母のストレスもわかる。私は愚痴を聞くしかないのでしょうか。ただ、愚痴を聞くのも疲れます。仕方ないんですかね……。
(ふうか・48歳・東京都)
「離婚だけはやめてほしい」って気持ちが子どもとしてあるのは当然わかるけど、ぶっちゃけそこはもう、好きなようにさせてあげなよ、って気も僕はしますけどね。
当たり前だけど二人とも大人なんだしさ。
別れたら一人ひとりで暮らしていくのが心配というのと、両方をそれぞれふうかさんが見なくてはいけないというのもあるので、やめてほしいと言ってるのかなぁとも思いましたが。
ご兄弟はいらっしゃらないか、この件に関してはあまり頼りにならないとふうかさんは考えてるって感じですかね。
まぁ、そのお母さんの愚痴というのがどのくらいシリアスなニュアンスなのかは、この文だけではわからないところもあるけども。
たとえばふうかさんに吐き出すだけ吐き出したらまぁまぁスッキリしてるとか、そのくらいのテンションという可能性もありますが。
ただその愚痴がすごくて、ふうかさんとしては辛いんですよね。
聞き流すってのもあるだろうけど、当事者同士のことも知ってるし、なかなか割り切れないってのもありますよね。
私もたまに母のマシンガントークを聞いております……あれが頻繁だと辛いなと想像しました。
ひとつたしかなのは、お母さんにとって今のふうかさんが、心おきなく思いのたけを話せる相手になっている、ということですよね。
ひょっとしたらだけど、年寄りになって急に仲が悪くなったわけでも実はなくて、生育過程のふうかさんにはそういう面を極力見せないようにしていただけで、お母さん的にはずっと、お父さんに不満を溜め込んだままここまで来ていたところもあったりしたのかもしれないじゃない?
で、ふうかさんもようやく対等な大人同士として話を聞いてもらえるくらいの年齢になったから……というような感じなのかもしれない。
なるほど。
なので、直接の解決策ではないけれども、とりあえず一種の親孝行と考えて頑張る、という考え方はひとつできるかと思いますが。
親孝行だ、という気持ちの切り替えをすることで心持ちは変わるので、少しは疲れも減りますかね。
ただ、やっぱりずっと愚痴を聞くしかないのですかね……?
もちろん、そういう話はしんどくなるからもう嫌だって、ストレートに言ってもいいとは思いますけどね。
ただどっちにしろ、これからまた夫婦仲が好転するってことも、まずないでしょうからねぇ。
個人的には、やはりお母さん側をもうちょい解放してあげるというか、少しでも気が楽になるような状況を作ってあげられないかな、という気もしますけども。離婚という結論に限らず。
ふうかさんに接するときのテンションだって、そしたらちょっとは変わってこないかなぁ。
お父さんに何か話しに行くのとかはあんまり意味がない? ちょっと聞いたけど大丈夫なの……?とか。
それはもちろん、ふうかさんとお父さんがどのぐらいの関係性かによるけども。
もちろんお父さんのことも好きで大事に思ってる、ということだったら、ここでふうかさんがお母さん側にだけついちゃうとお父さんの味方がいなくなっちゃって可哀想、みたいな考え方で、やっぱりちょっとは話を聞いてあげたり、忠告してあげたり、ということはありうると思いますけど。
ただ、そういうお父さんに対するケアと、お母さんの気持ちに対するケアはたぶん、ある種それぞれ別物というか、こっちが解決したからこっちも同時に解決するとか、そういうもんでもない気がするんですよね。
たとえば、お父さんが今さら改心というか、自分自身で生活や人生に対する態度を改善してくれる余地がどのくらいあるのかは疑問だし、ちょっとやそっとなんかしたところで、お母さんの不満は本質的に解消されるのか、という問題もある。
僕はやっぱり個人的には、たとえばとりあえず別に住んでみたりとか、とにかくいったん距離を置いてみればいいんじゃない?と思いますけど。
まぁひょっとしたらお父さんは、単独の生活力はぜんぜんないタイプで、よりよろしくない状態になってしまうかもしれないけど……、そこは最低限フォローもしつつ、いかに自分が奥さんに甘えてたか思い知っていただく、ということで(笑)。
熟年になって別居したら関係がよくなったという人もいるようですね。
そうね。
言うまでもなく激しくケースバイケースな話ではあるけども。
なんにせよ、お母さんがお父さんへの不満を常に感じていてピリピリしている、この夫婦のかたちが続く限り、娘への愚痴というガス抜きは、彼女にとって必要だからこそ、おそらく止まらないんだろうからさ。
だからやはり、これまでの状態から何かをがらりと変えてゆくか、現状維持の代わりにふうかさんが鬱憤の受け皿になってあげるか、大きく言えばどっちかしかない、ってことじゃないですかね。
いずれにしても、とくにお母さんをそろそろ「妻」とか「母」といった役割から解き放って、ひとりの苦悩する個人として対等に見てあげる、というのがポイントなんじゃないかと思います。
それこそ、ひょっとしたら前から実はあまりうまく行ってなかったの?とか、同じ目線で聞いてみる機会でもあるんじゃない?
あるいはそこで、私のために長年我慢してくれていたんだ、ということがわかるとか、ありえない話じゃないと思うし。そしたら話を聞く姿勢もだいぶ変わるじゃない?
逆に、さっき言ったみたいに、お母さん的には実際そこまで深刻なつもりなかったんですけど……という場合もあるだろうけど。
それがわかったらわかったで、ちょっとホッともするだろうし。
同様に、これまでの距離感にもよりますが、お父さんにもやはりひとりの大人として話を聞きに行ってみてさ。
彼は彼で、実は悩んできたのかもしれないし。
単純に興味深いと思いますけどね。
あなたたちにもそんな時代があったんだ、そんなこと思ってたんだ、って。
それに彼らだって、いつまでもそこに元気でいるわけじゃないんだから、聞けることは聞けるうちに聞いといたほうがいいのは間違いない。
それこそ『東京の生活史』よろしく、昭和から令和を生きたある二人の男女の人生をインタビューするつもりで。
ま、体力は要りますけどね、きっと。
ズバッとした解決案が示せなくて申し訳ない限りですが……。
とにかく、ここから先はいよいよ、本人たちの好きなように生きてってもらえばいいよ、ってことに尽きると思いますけどねぇ。
もうさんざん頑張ってきたんだからさ。
70代半ばなら、もうちょい人生は長いですしね。
とはいえ、親も自分も時間は有限でもあるので、正月に帰省したときにでも、私も親にこれまでのストーリーを聞いてみようかなと思いました。
それで新たな付き合い方が発見できたらいいですね。