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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室274】相手によって態度を変えてしまう私。どうしたら揺るがない強い自己を保てるでしょうか?


✳️今週のお悩み✳️
私には相手によって態度を変えてしまう癖があります。優しい人には優しく、丁寧な人には丁寧に接し返している分には無問題ですが、粗野な人には素っ気なく、喧嘩腰の人には負けじとつい言い返してしまいます。要は自分が大事に扱われていないと思うとスイッチが入ってしまうようです。頭では相手の態度に同調する必要はないし、自らの評判を落とす危険もあるとわかっています。自信のなさが原因なのではとも考えています。この不自由な性格を変えたいです。どうしたら揺るがない強い自己を保てるでしょうか。また、お二人は普段どのように自分を律していますか? 教えていただけましたら幸いです。

(虎バター・24歳・東京都)


宇多丸:
こばなみはどうですか?

こばなみ:
ま、変えてるというか、多少なりとも変わっているとは思いますよ。

とくに喧嘩腰の人には、同じテンションで言うと本当に喧嘩になるじゃないですか。

それは嫌だからイラッとしながらも、まずは相手の言い分を聞いて、そのまま流すときもあるし、ゆっくり怒りを入れつつ意見することもあったり。

宇多丸:
まぁ、きっとみんな、だいたいそんなもんだよね。
要は、これは敵対的な関係に限らず、人によって対応の仕方が変わったり、それに反応するかたちで相手方の温度感も変化するって、別に普通のコミュニケーションの在り方じゃない?って感じはする。
虎バターさんが特別ずるいとか変だとかいう話じゃないと思いますけど。

むしろ、誰ともいつでも接し方が一定、なんていう人がいたとしたら、逆になんかちょっと変に見えるんじゃないかと僕は思いますけどね。
よっぽど不遜なのか、もしくは常に腹に一物ある感じなのか……。

こばなみ:
変わらないのって怖いですよね。

宇多丸:
もちろん、誰に対しても丁寧で腰が低いに越したことはないんだろうけど、それだってしょせん、ある意味機械的にできることだからね。
そのせいで、単によそよそしく見える場合もあるでしょうし。

こばなみ:
立ち入らないようにもしている?

宇多丸:
ぶっちゃけ僕もそういうところあると思いますよ。
特に、毎日番組やるようになって、お会いする人の総量がケタ違いで増えたから、ある無難なラインから向こうには基本行かないようにしている、みたいなのはあるかもしれない。
まぁでも、横柄で無礼とかよりは間違いなくいいでしょ。

その意味で、虎バターさんは「揺るがない自己」に憧れてるようだけど、まさにその横柄で無礼っていうような人も、そこに当てはまってはしまうわけじゃん?
「ブレない」っていう表現がもっぱらポジティブな意味で使われるようになってるけど、それってそこまで無条件でいいことか?って僕は考えてます。

たとえば、自分の成功経験や実績に強固な自信がありすぎて、もちろんそれはそれで傾聴に値するものなのは間違いないんだろうけど、いつしかそこを過信するようになっちゃって、もはや新しい考え方ややり方が耳に入らなくなっちゃってるだけの「ブレない」おっさんとか、そっこらじゅうにうんざりするほどいるわけじゃん?

こばなみ:
いますね。偉い人にありがちですよね。誰もそれ変ですよ!とかも言ってくれないから?

宇多丸:
言うまでもなく僕だって重々気をつけていかなきゃいけないことでもあるわけだけど、なんにしてもそんなの、最悪じゃん。

まぁもちろん、その人をその人たらしめている核というかさ、そこを外したら生きてる意味がなくなっちゃうような本質的信念、みたいなものを守り通す尊さというのはあると思うけどさ……、その次元のせめぎ合いを、日常生活でいちいちしてるわけでもないでしょ?というのもあるし。

そんなこんなでね、「揺るがない強い自己」なんてものは、たいていの場合、幻想か単なる愚かさなので、目指すべきものではありません、とはまず言えると思います。

それより、虎バターさんがご自分のことを「不自由な性格」と感じてしまっているのは、喧嘩腰の相手に同じレベルで反応してしまうとか、むしろ、「人との関わり方にやや柔軟性を欠いている」ことから来るものなんじゃないかなぁ。

たとえばさっき言ったような「人の話聞かないおじさん」にもさ、言ってることを真に受けて、それこそ「ブレない信念」で言い返しちゃったりすると、どえらいことになったりするわけですよ。僕なんか正直ちょいちょいやらかしちゃいがちですけど(笑)……もともと聞く耳を持ってなくてプライドばかり高いような相手と、まともな議論どころか、会話すら成り立つわけがないのに。

そんな不毛なコストを払う前に、「あーこれ、『人の話聞かないおじさん』キター!」って、さっさと見切りをつけて、適当におだて上げるなりそれとなく距離を取るなりして、誰もが損しないほうに舵を切るって手もあるわけだからさ。

つまり、相手によって適切に、しかも自分なりの考えで、対応を変える。
それで良くない?

こばなみ:
それができない人が多いのだと思います。

宇多丸:
でも、やろうと思いさえすればできること、でもないかなぁ。そういう言わば方便としてのコミュニケーションって。

それに、コミュニケーションってそもそも、「探ってゆく」もんじゃない?
ひとつの正解やひとつのメソッドがあるというようなもんじゃ、もともとない。

虎バターさんも、あえて言えばですけど、態度が悪い相手に対して「反射的に」、つまり一種定型的にリアクションしてしまっていることをこそ、反省すべきなんじゃないですかね。
人によって、ちゃんと考えたうえで対応を変えているのなら、なんの問題もないですよ、やっぱり。

こばなみ:
でもまぁ、最初から喧嘩腰の人は嫌ですよね……。
なんであれって最初からそういうモードでくるんですかね? キャラづくり?

宇多丸:
あとはやはり、マウンティングが目的の場合もあるでしょうね。

なんにしたって、そういうめんどくさい手合いにいちいち付き合ってあげるほどこっちもヒマじゃないからさ。
「あ~、たしかにね、ほんとにね」とか、向こうの気がおさまるまで話を聞いてあげるフリでもしてればいいんじゃないですか? クレーマー係と同じだよ。
そこはまさに方便としてのコミュニケーションというか、知恵ですよね。

こばなみ:
ちなみに、お店だったかなんだったか忘れましたが、おかしいなと思ったのでお客様センターに電話してかくかくしかじか言ったけど、クレーマーだと思われてるから、通り一遍のことしか言われないし、とりあってくれないってことがありまして。

宇多丸:
あぁ、そっちの立場か!(笑)

ただね、そのクレーマー対応係としては、どこまで行っても「私が悪いわけじゃないし……」ってのはあるんじゃないですか。
その人に、感情的な謝罪感、心からの誠意、みたいなもの求めること自体が、そもそもお門違いかもしれないっていう。

こばなみ:
そうすると、お客様センターというそのシステム自体がお門違いな気も……。

宇多丸:
あくまで「窓口」だからね。
だから、仮にどれだけ心から申し訳なく思っているように聞こえたとしても、しょせんはそういう技術に長けているだけ、とも言えますから。
まさしく「方便としてのコミュニケーション」の典型かもしれない。

やっぱ、直接の当事者で責任を感じて当然の人か、そのお店なり会社なりが嫌われたくないと本気で思ってる人……要はそれではっきり損するような上の立場の人じゃないと、「本気で」「心から」対応しろっつっても、なかなか難しいんじゃないですかね、実際のところ。
それもまたもどかしいし腹立たしいのもわかるけどね。

こばなみ:
そうすると、お客様センターがある限り、伝える術がないんですよ。でもなんのことか忘れちゃったから、もうたいしたことじゃなかったんだろうけど。

宇多丸:
事程左様に、怒りってもののボタンの掛け違いは起こりやすい、ということで……。

ただ、その話から改めてわかるのは、怒ってる人に対して、虎バターさんみたいにこちらも真正面から怒りテンションで返すっていうのは、同じレベルに立ってあげているという意味では、さっきのクレーム窓口のように「一律で感情的なやりとりとは距離を置く」スタンスよりは、やっぱりずっと親密なコミュニケーションの仕方ではあるのかも、ってことだよね。
現にこばなみは、表面上丁寧ではあっても慇懃無礼をそこに感じたわけだから。

だからと言って、毎回毎回やたらとモメるのが賢明とも無論思えないわけで……。

なのでやっぱり、相手によって、あるいは時と場合によって、最も適切と思われる対応をその都度その都度しっかり冷静に考えて、トライとエラーと学習を重ねてゆくしかないんだと思いますよ、我々は。
コミュニケーションに答えも近道もない!
 さしあたって今の虎バターさんは、とりあえず脊髄反射でカッとしてしまわないよう気をつける、というあたりから始めれば、もうじゅうぶんじゃないですかね。



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年3月23日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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