趣味のコピーバンドを続けたいけど、友達が少なくてライブ集客が不安……!【ライムスター宇多丸のお悩み相談室149】
✳️今週のお悩み✳️
最近ひょんなことから趣味でコピーバンドをやることになりました。その活動の中で困っていることがあります。趣味でバンドをやるにはライブでの集客が必須ですが、私は友人が本当に少ないのです。理由は簡単で、性格に問題があります。自信無く卑屈で流されやすく、とても自己中です。コミュニティに属すことがあっても、自分勝手な態度を取ったり(急に機嫌が悪くなったり)、異性関係でフラフラして居づらくななったりして嫌われてしまい、疎遠になることが多かったです。つまり、ただ人見知りで……ということではなく、明らかに嫌われるせいで友達がいない、ということです。そのことに数年前に気がつき(それまでは自覚がありませんでした)自分でもショックでしたが、こんな私でも一緒に居てくれる数少ない友人を大切にして、少しずつ直していこうと努力しています。しかし、バンドをやるとなると自分だけ集客に貢献しないわけにもいかず、数少ない友人に毎回来てもらうわけにもいきません。コピーバンドという性質上、発表会的な意味合いが強く明らかに好かれている相手でないと呼び辛いというのもあります。バンドを通じて音楽の趣味を共有したり、演奏したりすることは本当に楽しく続けたいのですが、どうしたらいいかわかりません。何とか折り合いをつけて続けていくことはできるでしょうか。また、気持ちよくライブに来て!と言えるような人間関係は、どのようにすれば築けるのでしょうか。
(りったん・27歳・神奈川県)
宇多丸:
りったんさん、かな~り厳しい自己評価をしてらっしゃいますけど……、そこまで自覚できてる人は、その時点ですでにもう、人として相当に成長できちゃってるってことだとも思うんで。
まぁその謙虚さは保ちつつ、とは言えそこまで過剰に卑屈になることもない、くらいの感じで行けばいいんじゃないですかね。
だいいち、いま27歳で数年前ってことは、20代前半とかでしょ? 全然若い若い! どいつもこいつもまだまだお子ちゃま引きずってて、後から考えると顔から火が出そうなことしまくってる年頃ですよ! 僕なんか人間的にまったく固まってない、ゲル状でしたから、ゲル状(笑)。 なので、りったんさんに関しては、むしろその歳で自分のことをそこまで厳しく見つめ直せるなんてすごいなぁ、と感心しちゃうくらいですよ。
で、素人バンドのチケット手売り問題ね。 ライムスターも、キャリア最初期には当然やってましたけど。今みたいに、無名のラッパーが出れるような機会も場所もまったくなくて、自分たちでやってくしかなかったからさ。
で、代々木チョコレートシティっていう小さなライブハウスで毎月やってたイベントに、サークルの人たち呼んだりして。いまをときめくジェーン・スーさんにも、何度も買ってもらいましたよ(笑)。 ま、そこはひとつ、「ライムスターの超初期ライブ観れたんだぜ?」ってことでご勘弁いただくとして……(笑)。
ただ、そこでも売り上げの個人差はすっごくありましたからね、当然のことながら。 特に、一緒にイベントやってたイースト・エンドが、あれはテンプル大学のつながりだったのかなぁ、とにかく毎回ムッチャクチャお客をいっぱい呼んでくるんだよね! 女の子もすごく多くて、正直うらやましかったよなぁ。 そこへ行くと僕たちの人脈なんか、ホント地味なもんでしたから。
でも、もちろん売った枚数に応じてキックバックもあるし、人によってはやっぱりそんなに人づきあいが得意じゃないタイプでぶっちゃけゼロ枚、みたいなこともあったけど、そこの格差は、「まぁ、それはそういうもの」って感じで、特に問題にもなってなかったと思いますね。
まぁ イベンターによってはね、きっちりノルマを課せられて、足りないぶんはこっちが埋める、要は実質「お金を払って出させてもらう」っていう、あんまり気持ちがいいとは言いがたいケースもあったりはするだろうけど……、りったんさんの場合はお友達同士で、別にこれで金を儲けようって話でもないんだろうからさ。 とりあえず箱代はシンプルに割り勘にしておいて、チケット売った分だけ本人にキックバック、って感じにしとけば、別に誰も気まずくはならないんじゃない?とは思いますけど。
でね、今回の相談に関しては僕、ひとついい解決策というか、ぜひ検討していただきたい提案がございまして。
ずばり、ストリートライブをやったらどうですか?
ああいうのって、どの程度事前の許可取りとかが必要なのかわからないけどさ。いまどきは、いろんなとこでいろんなレベルの人が、わりとカジュアルにジャカジャカやってるわけじゃないですか。りったんさんなんか神奈川なんだから、どこかにはやれるとこ、必ずあるはずでしょ。
そしたらまず、箱代はかからないわけだから。 お金かかるにしても、アンプを使うなら発電機のレンタル代と、ガソリン代、あとは機材の運搬費とか? とにかく、必要経費はメンバーで均等に出し合ってさ。 あとは聴衆からの投げ銭を、ちょっとでももらえりゃラッキー!くらいの気持ちで、かすかーに期待する(笑)。 素人のカバーバンドが道楽でやる演奏なんだから、そもそもそれで黒字を出そうとするのが図々しい、くらいに考えておきましょうよ。
で、何が素晴らしいって、知り合いに来てもらうハードルが劇的に下がる! 「週末の何時から駅前でやってるから、良かったら何かのついでにのぞいてみて~」とか、ものすごーくカジュアルに誘いやすくなるでしょ。 おまけに、これこそライブハウス貸しきりでやってたら起こりえないことだけど、知らない人にも見てもらえて、ヘタすりゃ、喜んでもらえるかもしれない!
こばなみ:
それ、すごくいいアイデアじゃないですか!
宇多丸:
って言うのも、去年、ツアーの途中で寄った高速のサービスエリアで、なぜか、白昼堂々コピーバンドのライブが突如始まってさ(笑)。
女性ヴォーカルの方含め、全員40代くらいだったと思うんだけど。
まず『翼の折れたエンジェル』の大熱唱から始まって(笑)、「なぜこの曲!」と突っ込む間もなく、オールディーズからサルサまで、異常に幅広いレパートリーがガンガン続いてくんだけどさ。 オーディエンスも、明らかに知り合いっぽい人たちから、完全に通りすがりのサービスエリア客まで、老若男女入り混じってて、みんな適当に飲み食いしながら、のんびり雑に眺めてる感じで……、なんかすっごく、楽しそうで良かったんですよ、その雰囲気が。 ストリートライブって言っても、いわゆるプロ志向的なのばっかりじゃなくて、こういう、ゆるめな良さもあるんだなって。
ということで、りったんさんも一度、バンドメンバーに提案してみてはいかがですかね?
そこで同時に、チケットをあまり売りさばけてないことへの引け目の件も、素直に伝えてみるといいかもしれない。たぶんだけど、「そんなこと気にしなくていいよ!」って、普通に言ってくれるんじゃないかなぁ。
こばなみ:
最後のほうの質問、「気持ちよくライブに来て!と言えるような人間関係は、どのようにすれば築けるのでしょうか」というのはどうです?
宇多丸:
うーん……、どうなんですかねぇ。
少なくとも、100%趣味の範囲で音楽やってたりお芝居やってたりする知り合いからチケットを買って観に行ったりするのって、ぶっちゃけて言えば、基本的に「お義理」なわけじゃん。 誘う側も、よっぽど無神経なやつじゃない限り、それは重々承知の上で、申し訳ないなぁと思いながらも背に腹は代えられず声かけてるもんだと思うし。
で、実際観てみたら「うわっ、これはキツい……」ってレベルのものだったりして、気まずい思いすることとかも、まぁぶっちゃけあるわけじゃない? それでも一応、こっちも礼儀として「いや、よ、良かったよ~!(キミらが楽しそうで……)」くらいは言わなきゃなんないしさ。 ごくたまに、「うん、つまんなかった!」とかって、気持ちいいくらい正直な感想を伝えられるタイプの方もいらっしゃるようですが(笑)、まぁ僕含め普通の小心者たちにとっては、それなりに気を使う場にならざるをえないものではあるよね。
そういう思いしすぎて、どんどん出不精になってく人の気持ちもわかるよ。
こばなみ:
もちろん、行ったら行ったで良かったっていうパターンもいっぱいあるんですけどね。
誘われたときの断り方も難しいですよね、正直。
宇多丸:
たぶん、さっきもチラッと言ったけど、手前の道楽のために人様からお金を取ろうっていう、この構造にそもそもちょっと歪みがあるんだよね。
昔の僕らだって、そりゃ申し訳ないは申し訳なかったもの。
だから、どうしてもお代をある程度いただかなきゃならないような場合でも、決して「気持ちよく」払ってもらうなんてことを期待しちゃいけないんですよ、きっと。 どれだけチケットを買ってくれるような知り合いが多い人であってもそれは同じことで、「こっちの勝手な趣味に協力してもらっちゃって、ホントすみません!」っていう気まずさは常に持っていていただかないと……、来てくれて当然みたいな顔してるような人は、そのうちたぶん、友達減ってくと思いますよ。
なので、「気持ちよくライブに来て!と言えるような人間関係」なんて、そんな図々しいもんを築こうとしちゃダメ!というのが僕の結論です(笑)。
そこへ行くとやっぱ、ストリートライブ作戦は、その問題を比較的フェアにクリアできるわけだからさ。かなりいいと思うんだよなぁ。
もし仮に、本当に「気持ちよく」チケットを買ってライブに来てもらう方法なんてものがあるとしたら……、それは唯一、「みんながお金を払ってでも観たいと思うようなバンドになる」、これしかないですよ!
要は、パフォーマンスの質を上げまくって、お代に見合うどころじゃなくて、それを大きく上回るような満足感を与え続けることができれば、いつか向こうから「チケットまだある?」って聞いてくるようになる!……かもしれない。
でも、マジな話、自分らの出し物で人から金取るって、ホントはそういうことなはずでしょ?
こばなみ:
たしかに。私も身に沁みます。女子部のイベントも同じですね。仲良しだから来て~とかじゃないし、まして有料イベントだったらそれを払うだけの価値をどこに見出すか、それを考えて企画をしないと。結局、ライブも芝居もイベントも商品なんですもんね。
宇多丸:
じゃあ、そのレベルまで腕磨くにはどうしたらいいかって言うと、その場合もやっぱり、ストリートライブでさんざんもまれてくりゃいいじゃん!ってことになる(笑)。
あと、箱を借りないでやる大きな利点がもうひとつあって、どれだけ素人バンドだろうと、ライブハウスでガラガラの状態でやるのって、経済的にだけじゃなく精神的にもけっこうツラいものがあるはずだけど、道端で勝手にやってるぶんには、見てる人がまばらだろうと、それほど盛り上がっていなかろうと、それはそれって感じで成り立っちゃうもんだからさ。 ホント、二重三重に利点だらけ!
ということで、とりあえずは力を合わせてストリートライブやり続けて、手応えが出てきたら有料ライブハウス公演を目指す、っていう計画を僕はオススメしたいですね。
その前に、チケット売りが思うようにできなくて心苦しい件も、メンバーとしっかり意思疎通を図るのを忘れずにね。 演奏でハートがシンクロできるメンツなんだから、りったんさんの心情を素直に伝えれば、あっさりわかってくれる可能性大……だと僕は思いたい!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年6月4日に公開したものを再編集し、掲載しています。