母に言われた「恥ずかしい」という言葉が呪いみたいに付きまとって辛いです。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室356】
✳️今週のお悩み✳️
2カ月ほど前のお話なんですが、母親と口論になったとき「(あなたのことが)恥ずかしい」と言われました。その日の高校の保護者会でどういったことがあったのかは知らないし知りたくもありませんが、その言葉がいつでもふとしたときに思い出されます。
普段は仲がいいのですがたびたび思い出して嫌な気持ちになります。聞いたときはショックだったしすごく悲しくなりました。それに母親と私はヒップホップを好んで聴いているのですが、「自分が自分であることを誇る」(Kダブシャインさんから引用)という文化のもとで、人に恥ずかしいと言うなど失礼じゃないか!?という別の方向性からの怒りも湧いてきます。
一応母親からの謝罪はあったのですが(でも言われた事実は消せないし、言ったってことは心の中で思ってるってことじゃん!)と思って、許す(忘れる)ことができない状況です。母親のことは基本好きなのに「恥ずかしい」という言葉が呪いみたいに付きまとってきて、とても辛いです。こういうことを相談できる知り合いがおらず、また、同じような経験の方の目にとまれば良いなと思い相談させていただきました。
(M・16歳・高校生・東京都)
宇多丸:
こばなみは、親からむかし言われたことで、実は傷ついてる、とかってある?
こばなみ:
あんまりないけど、1つだけ思い出しました。40歳手前ぐらいのときに、私が結婚してないことを母があまりにもしつこく言ってきてたので、傷つくし、ムカつくし、で言い返しました。
母は太ってるので、「デブにデブっつっても変わらないでしょ? 言うだけでなにか変わるわけじゃないんだからやめてほしい」と。すごく傷ついていましたが、でもその日以来、結婚のことは私に言わなくなりました。本当は傷つけ合わずに理解しあえたらよかったんでしょうけども、両者殴り合いでノックダウン、握手!でしたね……。
宇多丸:
なるほど。お互いガチでつぶしあうところまでいったん行ったからこそ、それ以降はある程度わかってもらえたというか、親しき仲にも礼儀あり的な一線を引くようになった、という感じですかね。
ならばまぁ、結果オーライではあるけど。
僕は幸いにもそういう記憶があんまりないんだけど、あえて言えば、けっこうまだちっちゃいころ、両親が子どもにはわからないだろう的なノリで、僕について「根気がない」とか「(マナーとして良くない癖などを)直さないとダメだ」みたいに真横でひそひそ話しあっているのを、「なに言ってるかはわかるよ……」と内心イラッとしながら聞いてた、くらいのことはあったかな(笑)。
ともあれMさんのケースですが。
その「恥ずかしい」っていうのがどういう文脈で出てきたものなのかは、この相談文のなかにはあえてという感じで書かれていないので、僕らも厳密にはよくわからないまま話すしかないんだけども……、もはや自分では直接触れたくないほど嫌な件だった、ってことですかね。
前の段から推察するに、要は保護者会で「お宅の娘さん、問題ありますよ」みたいなことを誰かから言われた、ってことだよね?
で、Mさん的には、その内実は知らないし知りたくもないと言いつつ、とはいえおそらく、「うっすら察しはついてる」感じではあるよね、きっと。
だからこそものすごく不本意にも思うし、そこに安易に乗っかってしまったお母さんに腹も立つ、ってことでしょう。
一応お母さんに謝らせてもいるんだから、はっきり抗議もしてはいるんだよね。
こばなみ:
お母さんの謝罪っていうのは普通に「ごめんなさいみたい」みたいな感じで、理由なく言ったんですかね?
宇多丸:
どういう謝り方をしたのかもここではわからないけど、少なくともMさんはまだぜんぜん納得できてないようだからね。
でも、このモヤモヤを解く糸口もまた、お母さんと真正面から対話する、ということのなかにしかないんだよね、やっぱり。
だから、まさにこの相談文に書いているような、まだまったくスッキリできてない気持ち、というのをちゃんと伝えてさ。
そのうえでもう一回改めて、どういうつもりでお母さんがそう言ってしまったのか、それを聞いてMさんがどう感じたのか、それに対してお母さんはさらにどう思うのか、全部きっちり俎上にあげて、整理しあう機会を設けるという、この正攻法中の正攻法がたぶんやはり一番いいんですよ、できるならば。
これが、そのへんの友人同士程度だと、そこまでの労力を関係維持に注ぐところまで行かなかったりするのが普通だったりもすると思うけど、Mさんのところの母娘なら大丈夫なんじゃないか、って気がするんですよね。
まず、とりあえずでもすぐ謝ってくれたというだけで、だいぶ話を聞いてくれるお母さんではあるんじゃないかという感じがするし、Mさんも、そんなお母さんならわかってくれるはず、というそもそもの期待値が高かったからこそ、ここまで激しく失望してたりもするわけでしょ。
まぁあとは、「思ってるから言うんじゃん!」って言いたくもなる気持ちもわかるんだけど、人間というのは、文字通り「心にもないこと」を、それでもなぜか口にしてしまうこともあるという、なかなかにポンコツな生き物ですからね、これはホントに。
特に、攻撃されていると感じて過度に自己防衛的になってしまうときとか、逆に調子に乗って攻撃的になりすぎたときとかに、「思わぬ」ひとことがつい口をついて出てしまうってこと、誰にもありがちだと思うんです。
今回のお母さんはおおかた前者で、先生やほかの保護者の前でメンツをつぶされた!みたいな感情が、「思わず」先に立っちゃったんでしょう、Mさん側の事情や気持ちを考える前に。
つまり、Mさんは自分の存在そのものを否定されたように感じているかもしれないけど、お母さんからしたらおそらくそんなつもりはまったくなくて、むしろ彼女こそが保護者会で自分を否定された気分になったからこそ、その責をMさんに反射的に転嫁しちゃった、みたいなことなんじゃないのかな、と僕は推測しますけども。
それはもちろん褒められたことじゃないし、お母さんもそこは自覚してるからこそ、まず謝りはしたんだろうけど。
ただとにかく、Mさんだっていつかは、そういう「思わぬ」やらかしで人を無用に傷つけてしまうときはくるかもしれないし……、というかむしろ、すでにもう山ほどやっちまってる可能性のほうが大なわけでしょ。
そのあげく、言い訳をしたくてもその機会さえもらえないとか、自分としては誠心誠意謝ったけど許してもらえなかったとか、そういう感じになってしまうことだって、じゅうぶん考えられる。
僕はだからこれ、責任などをしっかり追求すべきときとか、そう簡単に許しちゃダメな件というのは世の中当然あるんだけども、それと同時に、「とはいえ自分だっていつかそうなるかもだし、すでにそうなのかも」程度の謙虚さは、誰もが常に頭の片隅には置いておくべきだろう、とも思うんですよね。
こばなみ:
いま言ったことナシにして~!とかありますよね。勢いでメールを返信しちゃって、送信取り消しできないとかも含め。
宇多丸:
そんなふうに、発言や行動を取り消したいけど今さら遅い、というような局面、Mさんの人生にも今後必ず訪れますから。それもきっと、何度も。
同じように親だって、繰り返し過ちをおかすひとりの人間だし、もっと言えば、ちゃんと話しあったりしないと溝が広がってゆくばかりの「他者」なんだ、という事実を受け入れてゆくのが、ひょっとしたら真の意味で「大人になる」ってことなのかもしれないですよね。
なので、最終的にお母さんを許すか許さないかはMさんが決めればいいことだけど、現状はまだ、いろいろ決めつけるには早いというか、コミュニケーションがじゅうぶんでない感じが僕らからはします、正直。
こばなみ:
そのままにしている分、言い出しにくいかもしれないですが、そこはなんとか切り出して!
でも、お母さんだからまだお話できそうだし、よかったですよね。
宇多丸:
ホントそうだよ。
僕なんかもう、烙印だけ押されてもはや申し開きもさせてもらえないような人、いっぱいいるよ……。
その意味で今回は、お母さんもMさんも、親子同時に成長するチャンスかもしれない、という言い方もできますよね。
最悪、とことん話しあった結果やっぱ許せん!となったとしても、自分なりにやれることは全部やったうえではっきりした意志をもってくだした判断なら、少なくとも納得はできるというか、ただモヤモヤが続くだけ、よりは先に進めるわけだから。
こばなみ:
ますます保護者会で何を言われたのが気になってきてしまいますが……。
宇多丸:
そこを正しく把握してない限りはお母さんの真意もたしかめようがないし、「呪いみたいに付きまとってきて」っていうのも、要はその状態が続いているせいですよね。
個人的にはさっき言ったように、お母さんも別にMさんの存在を「恥ずかしい」と思ってるわけじゃなくて、単に自分が人前で「恥ずかしい思いをした」っていう事実に耐えられなくて、安直に当たり散らしちゃったとか、そういう話なんじゃないかと思うけどなぁ……。
いずれにしても、当人抜きでごちゃごちゃ考えてても、ラチがあかないから。それこそ疑心暗鬼になるばかりでね。
こばなみ:
とにかく、この悪いループから抜け出せますように!
宇多丸:
逆に、もしこれを乗り越えられたら、ある種対等な目線になれるというか、言わば親友的な母娘になっていけたりするんじゃないか、とも思いますので。
せっかく基本は仲がいいお母さんなのだし、いい方向に行くといいね。
しんどいだろうけど、ご自分の精神衛生のためにもここはもうひとふんばり、頑張ってみてください!