趣味で絵を描いている彼。私にだけ見せてくれず疎外感があります……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室175】
✳️今週のお悩み✳️
付き合って3カ月の彼氏がいます。彼氏は趣味で絵を描いているのですが、絶対に見せてくれません。彼氏は以前友達とお金を出しあってスペースで展示をしていたこともあり、趣味とはいえある程度本気で取り組んでいるようです。彼氏の友達は「展示ぜひ見に来て!」って言ってくれたのですが、彼氏は本当に嫌だから来ないでほしいと強く言ってきて、展示の宣伝のDMも隠されて……、私は相手が本気で嫌がることはしない方がいいと思い、結局見に行きませんでした。だけど、ちょっとした落書きとかは見せてくれたりします(街中でこんなおもしろい人いたー、みたいにサラッと描いてくれます)。本人に何故か聞いたら、「本気で描いたものと落書きは違う。自分の考えていることをミヤに知られるようで嫌だ」とのこと。恋人である私以外には、展示スペースという誰でも見られる空間に飾って見せているのに、どうして私だけダメなのか……、いつか見せてくれるだろーと考えていましたが、この前彼氏と彼氏の友人とごはんを食べて、彼と友人が絵の話をしていたので、帰り道に「次展示あるときは見に行っちゃお」と軽く言ったら「絶対に来ないでほしい。本当に嫌だ。自分の意見はこれからもかわらないんじゃないかな」と言われて、かなりショックでした……。じゃあ私のいる前で絵の話をしないでよって思いました……。私が「別に絵がどうとかだけじゃなく、その強情な感じがよくわからないし、のけものにされているようで悲しい」と伝えたところ「ごめん、俺が悪いってわかってるけど嫌なんだ」と。これって付き合ってもっと経ったらいつか見せてくれたりするものでしょうか? 彼氏が好きなこと、頑張って作ったものをこのままずっと知らないでいるのかと思うとなんだか寂しいし、彼氏の友達も趣味で絵を描いたり、バンドをやっていたり等の創作活動をしている人が多く、おのずとその話題が多くなるので、私だけのけもの感があって嫌です(彼氏は自分の友達に会わせたがります。そのへんもよくわからない……)。
(ミヤ・26歳・東京都)
こばなみ:
ちなみに宇多丸さんは、家族にライブとか見せたくないって思うことはあるんですか?
宇多丸:
見せたくないとまでは言わないけど……。
なんだかんだ言って僕、素の状態はめちゃくちゃおとなしいので、普段そういう面にだけ触れてるような近しい人にほど、ライブとかで明らかにキャラが変わってるところを見られるのは(笑)、やっぱりちょっと恥ずかしいっていうのはありますね。
せめて、「見られてる」ってことを意識させないようなところから見てて~!みたいな。
実際、親をライブにちゃんと呼んだのとか、実はかなり後になってからだったりしますもん。それこそ武道館が初めてだったくらいかもしれない。
こばなみ:
今回のミヤさんの彼も、そういう照れみたいなのがあるのかな、と思ったのですが。
宇多丸:
あとは、その彼が特に、自分のなかの醜い面というか、ダークサイドを叩きつけるような表現をしてるとかね。
たとえば、非常に変態チックな性的モチーフを扱ってたりとか、普通は引くくらいバイオレントだったりとか……、なんであれ自分の内面の、ものすごーくドロドロしているところをさらけ出すタイプのアーティストだったとしたら、好きな人だからこそそこは見られたくない、という心理が働いたとしても、まぁまったく理解できないってわけでもない気がするけど。
前に「親友が部屋に入れてくれない」って相談があったじゃないですか。 あのときに、決して褒められたもんじゃないのは大前提として、僕もそういう時期があったからその人の気持ちもわかんなくもない、要は自分の脳内を直で見られるような感じがして嫌なんじゃないか、って答えたけど、あれにも近い話かもしれないね。
こばなみ:
ネット検索の履歴とか、無意識の部分まで見られる気がして嫌だってことでしたよね。
宇多丸:
この彼に関して言えば、他の全員には見せられるものがミヤさんだけには見られたくない、ってことなんだから、それだけミヤさんの存在が彼にとって特別だってことは間違いないわけですよね。
だからたぶん、ホントに悪気があるわけではなくって、むしろミヤさんには自分の「普通にいい人」なところ、善良な面だけ見せていたいっていう、要は強い好意ゆえの自意識過剰、ってあたりが実体なんだろうとは思いますけど、おおかた。
それと、まだ自分の表現に自信がないって部分もあるのかも。
今は事実上、とはいえ狭いサークルのなかで、同じレベルの仲間同士、基本和気あいあいやってる段階だろうからさ。ミヤさんという、ある意味外部の人の視線に、直に自分の作品がさらされてしまうのが怖い、ということもあったりするのかもしれない。
一緒に展示してる他のヤツのほうが素敵!って思われたらどうしよう、とか(笑)。いや、ホントに心配だったりするもんよ、そういうこと! 付き合って3カ月、まだまだカッコつけてたい時期なんでしょう、彼も。
ただまぁいずれにしたって、ミヤさんにしてみたら、自分にだけ壁を作られてるみたいで、いい気持ちはしないのは当然ですよね。 そこで彼もまた、自分に非があるというのを一応認めてみせてはいる、というのが余計厄介だよな……、言ってみれば、すでに開き直られちゃってるわけだもんね。
こばなみ:
ネットでも調べられるだろうし、こっそり見ちゃえばとも思っちゃいましたが、「私は相手が本気で嫌がることはしない方がいいと思い」と仰ってるし、たしかに嫌がることをしてまで見たくないですもんね。
宇多丸:
そこできっちり一線を守ったミヤさんは偉いですよ。
相手を裏切らない、信頼こそが前提っていう、愛情関係の基本がよくわかってらっしゃる。
そこへ行くと、パートナーとしてのマナーが守れてないのは彼のほうだからね! だいたいさ、この件に限らず、同席してる誰かがついてゆけないような話題で勝手に盛り上がるってこと自体、普通にエチケットとしてアウトでしょう。 そこはストレートに文句言っていいところじゃない? 「私の前で絵の話されても現状疎外感が募るだけなんですけど」って。
そのうえで、できればやっぱり、「自分にだけ絵を見せてくれないことに、こっちはあなたが思ってる以上に傷ついてる」「もちろんそちらにも事情があるんだろうけど、正直これまでの説明ではまったく納得できていなくて、ずっと苦しんでる」ということを、いつも言ってる通り改めて「素直に」伝えて、彼から誠実なリアクションが返ってくるのを期待するしかないよね。
実際彼だって、いつまでもそうやって逃げ続けるわけにもいかないはずなんだしさ。 どこかのポイントではやっぱり、カッコ悪かろうがなんだろうが、「これがオレなんだ」ってところを投げ出して、相手に受け入れてもらうって段階を経ないと、どんな関係も深まってゆかないし、続いてゆかないでしょうよ。 だからいいかげん、勇気出してみようよ! さもないと、遅かれ早かれフラれて終わりだぞ!って、彼へのメッセージになってしまうけど……。
ミヤさんも、「私があなたの作品の一番のファンになるから!」みたく、くれぐれも「優しく」アプローチしてあげるのを忘れずにね。 マジめんどくせぇ話だけど……(笑)。
こばなみ:
話し合ったからすぐ解決するって話じゃないと思いますけど、繰り返し話しながら年月を重ねて、いい関係になっていくといいですね。まずは時間を作って彼と向き合ってみてくださいませ。
そして今回、彼にも読んで欲しいですね! うまくいくことを願っております!!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年1月7日に公開したものを再編集し、掲載しています。