自分も他人も信じきれない。疑いの芽が1つでもあると、彼とも別れたくなってしまいます。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室268】
✳️今週のお悩み✳️
自分も他人も信じきれない、自分の性格について相談です。まったく信じられないという訳ではないのです。自分がやり遂げた仕事は確実にあると思っていますし、この先も、これくらいの程度の仕事ならできるだろうと信じられるところもあります。今お付き合いしている彼についても、(付き合って10カ月程ですが)付き合い始めよりも、2人の関係は深くなっていると感じますし、彼に頼ったり、いろんなことをお願いすることもできるようになってきました。でも、どこか芯のような部分では自分を疑ってる自分もいるし、彼を信じていない自分がいるのです。そんな疑いの芽がある瞬間に芽生えてしまうと、一気に自分で積み上げてきた信頼とか自信とかをぶち壊しにしてしまいます。たとえば、2人で電車に乗ったとき、私と彼が所属している社会人サークルの人がたまたま乗ってきたことがありました。私はまだそこに入って1年くらいで参加頻度もそんなになく、プライベートでの付き合いもないので、全然気にしてなかったのですが、彼はサッと私から離れて、一緒に降りる駅まで他人のふりをし始めました。後で話をしたところ、彼はそのサークルに2年以上所属していて、サークル活動以外の場でも頻繁に飲みに行ったり遊びに行く仲だそうで、2人の関係を知られるのが恥ずかしくなってそんな行動になってしまったとのこと。私はすごく傷ついたし、恥ずかしいという感覚が子どもっぽいと感じると伝えると、丁寧に謝ってくれましたし、誰よりも大切だとも言ってました。が、まだ彼の言葉を信じられません。彼に会ってもよそよそしく振舞ってしまいますし、どっかで私のことを恥ずかしいと思ってるんだろうな、とか思い始めると止まらなくて、彼の気持ちが信じられなくて、苦しくて、別れたくなります。ただ、何かのきっかけで、今までの自信も信頼もすべてぶち壊したくなるといった展開は、彼との関係に限ったことではないので、多分私の性格が問題なんだろうなと思うのです。その度に、なんて自分は非力なんだろう、自分で自分を孤独にするんだろうと苦しくて、なんだかやり切れません。宇多丸さんも、繰り返し人はみんな孤独の中に生きてるって仰っていると思うのですが、そんな中でどうやったら生きられるんでしょう。そんなの、私が自分で考えることなんだと思うんですが、人はみんなどうしてるんだろう、と少し気になり、相談させていただきました。よろしくお願いします。
(しまねこ。・28歳・大阪府)
宇多丸:
これ、すっきりした答えは出ようもない問題かもしれないけど、こういう悩みを抱えている人って意外と多いのかもな、とも思いました。
「すべてぶち壊したくなる」っていうのは、どういうことなのかな?
こばなみ:
もうなにもかもやだー、別れたい!とかじゃないですかね。1か0しか考えられなくなってしまうのかな、と思いました。
宇多丸:
なるほどね。
ちなみに「人はみんな孤独の中に生きてる」っていう話、ひょっとしたら、僕の意図とはちょっとだけ違うニュアンスで受けとられてるのかな、という気もしたんですけど。
たしかに人は誰もが他者同士であって、完全にわかり合うなんてことは不可能、どころか、実はロクに意思疎通もできてないのが基本、くらいのもんだとは思うんですけど、同時に、全員そうなんだから別に自分だけが孤独ってわけじゃない、とも言えるわけじゃないですか。
みんな孤独、ということはみんな孤独じゃない、みたいな逆説というか……、要は、完全にわかり合えることもない代わりに、完全にわかってもらえないわけでもない。 「全面的に信じられるか、全面的に信じられないか」みたいな、さっきこばなみが言ったような極端な思考をしてると、現実とはどうしても折り合いがつかなくなってくるはずで。実際にはみんな、もっとグレーな状態で、ゆるーくつながったり離れたりを繰り返してる、って感じじゃないかなぁ。
たとえば、手前味噌ですが『サイレント・ナイト』という曲で僕が歌っているのも、まさにそんな感じの「孤独との付き合い方」のことなんですけど。
ただ、その曲のなかでも言ってることだけど、そういう世界の本質的な不安定性というか、よるべなさ、みたいなものを平気でやりすごすためには、たしかにやっぱり、ある種の無根拠な楽天性みたいなものが必要なのかもしれなくて……、「ひとりがさびしくないのは ひとりじゃないからさ/いつだってまた会えると疑っちゃいないからさ」、っていうね。
で、それはたぶん、育っていく過程で、通常はやはり親とか、なんにせよ家族的に身近な人から与えてもらう確信のようなもの、ではあるだろうと思うんだけど。 このあたりのことに関しては、『隣る人』という素晴らしいドキュメンタリー映画を、機会があればぜひ参照してみていただきたいんですが。
だから僕だって、別に絶対的な孤独が平気とかいうわけではもちろんなくて。「俺はひとりでも平気だもんねー」などとほざける程度には、本質的にはひとりじゃないと思える環境がしっかりあったし、ある、というだけの話なんですよね。
こばなみ:
その感じ、わかります。
ただまぁ恋愛に限らずですけど、白と黒にきっぱり考えてしまうことは、そりゃありますよね。グレーの状態を保てないというか。
宇多丸:
まぁそうね。
とにかくなぁ……、彼との関係も、ひとつパーツを抜いたら全部崩れちゃう、っていうジェンガみたいなイメージじゃなくて、どこか欠けてたり壊れてたりするところがあっても、こまめに補修しながら徐々に強度を高めてけばいいんだ、くらいの気持ちで臨めるようになるといいんですけどねぇ。
問題の他人のフリ事件にしても、言うまでもなく彼の最初のふるまいは最悪だけど、しまねこ。さんの訴えに対しては、ひとまず誠実に応えようとはしてるみたいじゃない? もちろん、しまねこ。さんがそれでもまだ不安や不信を拭えないでいる、ということも引き続き伝えてゆくべきだろうし……、原因が原因なんだから、彼も普通に、サークル仲間の前で付き合ってます宣言でもしろよ、とは思うけど。
ただ、しまねこ。さんも若干自覚してるように、実のところは彼がどうこうという問題でもなくて、ただただ無闇に自分も他人も信じられない、だからすぐその不安定性に耐えられなくなって、いっそ先回りしてすべてをご破算にしてまわりたくなってしまう、という思考サイクルから抜けられずにいるのだとしたら……、一回ちゃんとプロのカウンセリングを受けてみるというのも、ひとつの手だと思いますよ。
というのもね、しまねこ。さんがここまで「何も信じられない」って考え方をしてしまうというのは、裏を返せば、「何か絶対的に信じきれるものがほしい」という強い渇望がある、つまり、自分を取りまく世界に対して信頼感や安心感をじゅうぶんに抱けずにきたからなんじゃないか、と推測することもできるから。 それを、まだまだ付き合いたて10カ月でしかない相手にいきなりすべて満たしてもらおうというのが、そもそもかなり無理な話でさ。 そんなの、親だって後からじゃ難しいことかもしれないのに。
じゃあその原因がなんなのかとか、そこからどう心を解きほぐしてゆけばいいのかとかは、この場ではどうにもならないことというか、ホントにプロに頼ったほうがいい領域だと思うからさ。 実際僕のまわりでもそれで一気に楽になったという人、たくさんいるんで。
そんな感じで、パートナーをはじめとした周囲の人間との関係も、自分自身との付き合い方も、どっちも常に丁寧なケアやメインテナンスが欠かせないものだ、ということですよ。 それでようやく、この不安定な世界や人生をなんとか乗りきってゆけるかどうか、という話だからさ。それは誰もが例外なく。
永続的にオールオッケーな状態とか、ありえないですから!
こばなみ:
そう見える人たちだって、きっとそうじゃないですしね。
宇多丸:
それこそ、絶対的な信頼で結ばれているように見えたり、そう公言してるような連中同士っていうのが、一番危ないんじゃないの?(笑)
完璧でーす!がよりどころになっちゃうと、ひとつひびが入っただけで、ピキーンって全壊する恐れがある。
その点いまの彼は、自らの過ちや未熟さを即座に認めて詫びる程度には、まともな柔軟性があるみたいだからさ。見込みはありますよ、全然。 だからって、そういう彼の誠意を「限界まで試す」みたいな甘えは、信頼渇望型はとかくやりがちなアレですけども、間違いなく互いに破滅一直線なので、厳に戒めてくださいね、念のため……。
それよりもやはり、そういう負の思考サイクルから抜け出すよう、ご自分の心を正しくケアしてあげることが先決だと思います。 「ちゃんと話をきいてくれる他者」がいるってだけで楽になることもあるので、くれぐれもカウンセリング受けることを恥ずかしいとか思わないでくださいね。 インフルになったら病院行くし、盲腸なら手術する。それと一緒だから!
この場で僕らに言えるのはここまでかな。
こばなみ:
この連載が、少しでもモヤモヤが晴れるきっかけになれば幸いです。気になりますので、もしよければ事後報告も送ってください~!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年2月2日に公開したものを再編集し、掲載しています。