後退した生え際を前髪で隠している婚活中の男友達。余計なお世話ですがどうにかしたほうが……!?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室105】
✳️今週のお悩み✳️
宇多丸さん、はじめまして。男性の友人(36歳)は、おそらく頭頂部近くまで生え際が後退しています。それを残った髪を長く前髪としてたらして隠しているのですが、ちょっとした動きや風でぱっくりと割れてしまい地肌が見えるため、一緒にいると本人も周りも髪が気になって仕方ありません。私としては、潔く坊主なりにした方が彼の魅力が増すと思うのですが、外見にコンプレックスを持っている様子が伺えるだけに、誰もそれを言えずにいます。余計なお世話であることは百も承知ですが、彼は早く結婚したいと周りに女性の紹介を度々求めるため、「それじゃあ……」と思わずにはいられません。やや繊細なハートを持った彼に、ポジティブな気持ちで「ハゲ隠し」に見切りをつけてもらうには、誰がどのような言葉をかけるのがよいでしょうか。
(かしまろ・36歳・愛知県)
宇多丸:
この連載の第一回目が、ハゲ散らかしてるダンナがスキンヘッドにしたがってるんだけど大丈夫かな?という相談で、そのなかでも言ってますけど、僕、そうやってハゲ散らかすとか、いわゆる「バーコード」とか、とにかく中途半端に髪の毛を残してるせいで余計にみっともないことになっちゃってる男の人って、ホントに何考えてるか全然わかんない!って思ってたんですよ。
だって、誰がどう見たって見苦しい以外の何もんでもないのに、「少しでも毛があるほうがマシ」っていう一点に固執しちゃうって……、はっきり言えば、アタマ悪いの?って話じゃんよ。
でも、今回の相談で初めて、そういう人がなぜそこに行きついてしまうのか、ちょっとだけわかった気がしましたよ。 たぶん、今みたいに誰の目から見ても完全アウト!な状態になる前に、もっとグレーな段階が、ずーっとシームレスに続いてきたんですよね、本人的には。
「あっ、オレもついに、生え際がちょっとだけ後ろに来始めたかな」となんとなく気づくところから始まってさ。 「でも、こうやって前髪で隠せば……、大丈夫」「まだ、大丈夫」「まだなんとか、大丈夫!」と、自分を安心させ続けてきたわけでしょ。 でも、毎日同じ鏡の前で同じ作業を繰り返してるから、どこかの段階でもはやごまかしの効かない完全危険領域に入ってしまっていたとしても、本人は気づかないんですよ。ずーっと地続きの「大丈夫」で来ちゃってるから。
あれですよ、水を張った鍋にカエルを入れて少しずつ熱していくと、温度がだんだん上がってることにカエルは気づけないから、逃げもせずにそのまま茹であがって死んでしまうっていう、あの話みたいなもんで。
こばなみ:
それって女性の肌のシミやたるみとも同じですよね。
宇多丸:
そうそう、「老い」全般に通じる話かもね。
「まだ大丈夫」「まだ大丈夫」って、要は毎日すこーしずつ、現実から目をそらし続けてるみたいなもんだもんね。
で、ある日ふと鏡のなかの自分を見て、改めてギョッとすることになったりもするっていう。
でもさ、今回の相談に出てくる男性はまさにそうだろうけど、言っちゃえばそういう、「惰性」が原因でいつの間にかおかしな髪型になっちゃってた、みたいな人はさ、おそらく今さら根本的に髪型を変える勇気もないんだよね、きっと。 たぶん若い頃から、あんまり劇的に髪型を変えたこと自体ないのかもしれない。
だから、自分ではずっと同じような、無難な感じで来てると思ってるんだよね。 その結果、思いっきり難ありまくりになっちゃってるとも知らずに……。
こばなみ:
自分でアウトな瞬間を気づけたらいいけども……。私も最近、白髪が多くて、ちょっと悩んではおりまして対処をしてますが、いずれどっかの瞬間で思いっきり短く切るとか、シフトチェンジしなきゃだなぁとは思っています。
最近だと、テレビを観ていて、柳葉敏郎がうまいこと白髪混じりな感じにシフトチェンジしたなぁと。
そういう自己プロデュースっていうんでしょうか……。
宇多丸:
僕のこのスキンヘッド&サングラスだって、自分の見た目や加齢をある程度客観的に分析した上での、まさに自己プロデュースの産物ですからね。
こばなみ:
いまのスタイルが完成するまでにどれくらいかかったんですか?
宇多丸:
最初にスキンヘッドキャラを打ち出し始めてから、となると……、どうやって剃るかとか、サングラスの大きさや濃さ、ひげの塩梅なんかも、実は少しずつ調整してきたんで、「まぁ、こんなもんかな」っていう、要は今とほぼ地続きなところまで落ち着くまでには、なんだかんだで6年くらいはかかってるかもですね。
もちろん今でも、流行や自分自身の変化に応じて、ちょっとずつちょっとずつ、微調整は続けてるんですよ。『Still Changing』なんですよ!
こばなみ:
さて。かしまろさんは具体的にはどう切り出せばいいですかね?
宇多丸:
やっぱり、かしまろさんも内心思われていた通り、女性の紹介を求められたタイミングですかさず、「だったら私からもひとつ、アドバイスさせてもらいたいんだけど……」などと切り返すのがいいんじゃないですかね。彼も素直に耳を貸しやすいでしょうし。
しかもそこで、ハゲ隠しだけをピンポイントで指摘するんじゃなくて、「ヘアスタイル含めたファッション全体を女子目線でブラッシュアップしてあげる」というような体裁を取っておけば、いたずらに彼を傷つけることもないんじゃないでしょうか。 「あなた、素材はいいんだから」的なフォローをきっちり入れておけば、むしろ親身になってもらって嬉しいくらいなんじゃないかと思いますけどね。
髪型についても、「どうせハゲはバレてるんだから、隠すよりモロ出しのがマシ!」みたいな、わざわざ後ろ向きかつキツい言い方をするんじゃなくて、「ある年齢以上の男は絶対に“ベリーショート”がステキ」的な、あくまでポジティブな変化なんだというのを強調した、ソフトな誘導の仕方はいくらでもあると思うんです。
実際さ、これはハゲてるかどうかに関わらず、イイ歳したおっさんがヘアスタイルなんかいちいち気にして、何かっていうと鏡の前でチマチマ整えてるのとかって、よーっぽどカッコよくて似合ってる人じゃない限り、僕はあんまりイケてるとは思えないんですよね。
こばなみ:
やたら気にしてる人とかには、うわーって思っちゃうかも。
宇多丸:
本人はちょい悪オヤジのつもりでも、ハタから見るとただの金八だよ!みたいな人、結構いますからね。
あ、うちのMummy-Dさんが髪型を気にするのはいいの。あれは「よっぽどカッコよくて似合ってる」うちに入るから(笑)。
こばなみ:
たしかにカッコいいです!
宇多丸:
ということで、基本的には男は、30歳半ば越えたらさっさと短髪にしたほうがいい、というのが僕の意見でーす。
ハットとか、被りもの込みのコーディネートもしやすいしさ。かしまろさんから、そういうファッションの提案もしてあげるといいかもしれません。
いっそのこと、かしまろさんのお友達の女性からも何人か有志をつのって、もちろんその男性含めて休みの日に集まってさ、「○○さん改造計画!」みたいに、イベント的に盛り上がっちゃうのもいいんじゃない? みんなでヘアサロン行って、セレクトショップ行って……、もちろん資金はその男性の自腹ですけど。 で、最後にアドバイス料として、ディナーでもおごってもらうっていう。
こばなみ:
一気に楽しそうになってきましたね。
宇多丸:
彼だって、女性たちによってたかって構われて、まんざらでもないはずですよ(笑)。
人間関係的にアリなら、これは一番のおすすめプランかもですね。
そもそもかしまろさんも、彼が人としては好感持てるからこそ、ここまで心配してるんでしょうからね。 なんならこの改造計画がきっかけで、二人がいい感じになっちゃう可能性だってゼロではないよ!
こばなみ:
かしまろさんがシングルだったら、の話ですが。
宇多丸:
ラブコメ映画だったら、完全にくっついちゃう話だよ、これ!
ま、そこまで行ってもおかしくない級に、彼の改造計画、上手く行くといいですね、ということで……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年7月18日に公開したものを再編集し、掲載しています。