犬派? 猫派? どちらを飼うかで夫とモメています。犬で説得するにはどうしたらいい?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室368】
✳️今週のお悩み✳️
宇多丸さんは犬派? 猫派? どちらでしょうか? じつはどちらを飼うかで夫とモメています。私は犬派で中型犬を飼いたいのですが、犬は世話が大変でできないから猫、私が世話をすると言っても信じられないということで猫、とにかく世話の面から猫の一点張りで、夫との話し合いが進みません。もし宇多丸さんが犬派でしたら、夫を説得する材料を考えていただけないでしょうか。犬が嫌いというわけではないようなのですが。変な相談ですみませんが、犬を飼うことは長年の夢ですので、なんとか叶えたいと思い、恥ずかしながら思い切って相談しました。
(コーギーのおしり・40歳・会社員・千葉県)
こばなみ:
私は両方飼っていたのでなんとも判断しづらいのですが、宇多丸さんは犬派? 猫派? どっちですか?
宇多丸:
どっちかと言えば犬派ですけど……、ただ僕、ぶっちゃけ子どものころにハムスターを一瞬飼ってただけで、基本ペットと暮らしたことはないも同然なので、今回の相談のように実際の飼育に関わる話に対して厳密に答えるなら、どっち派とも言えない、とするべきなのかもしれないですけどね。
そもそも生き物をロクに飼ったことないし、今んところその予定もない派、というか。
だからたぶん、質問する相手、間違えてますよ!(笑)
これ、要は飼育にかかる手間が問題になっているわけだよね。
世話が楽なのは猫、と。
こばなみ:
猫は散歩がないから。でも猫は家具をガリガリしちゃったりとかも、ありますけどね。
宇多丸:
そうだよね。
家に置いてあるモノに執着が強い人は猫は飼えないんじゃないかな、とも思うけど。
こばなみ:
でも、かわいいですけどねぇ。
宇多丸:
ただ、「かわいい」だけでは済まされないのが生き物でもあって、今回の件も、まさにそこが争点になっているわけだよね。
コーギーのおしりさんは犬を飼うのが長年の夢とまで言っているけど、パートナーはそこを共有していない。
これってそれこそ、子どもを持つ/持たないに関する考えの違い、みたいなことにも通じる話じゃないかな。
つまり、どっちかが本当は不本意なのに我慢してる、みたいなことにしちゃうと、いずれいろいろなゆがみが出てきたり、長続きしなかったりすることになるんだと思う。
まず、夫側が言っていることって、要はとにかく面倒なことは嫌だ、って話に尽きるわけだよね。
そういう人ってそもそもあんまり、ペット飼うのに向いてないんじゃないかな……。
あくまで、手がかからない猫ならギリでアリ、くらいのテンションであって、積極的にオレ猫派!みたいな感じは、この文を読む限りぜんぜんしないんだけど。
こばなみ:
ちょっと消去法っぽい感じですもんね。
宇多丸:
なんか、「毛が生えてて動くかわいいもの」として犬か猫のどっちかを選ぶ、くらいの考えなんだったら、やっぱあんまり実際に飼うのは良くないんじゃないかなー、って気も正直しちゃうんですけどね。
なんにしてもコーギーのおしりさんとは、根本のところで現状かなりの食い違いがある感じですよね。
ダンナのほうはぶっちゃけ、本当になにか生き物を飼いたいと思っているのかしら……。
こばなみ:
だから、もっとよく話し合わないとですね。そのための材料としては……!?
宇多丸:
コーギーのおしりさんの願いを健全なかたちで叶えるという方向なら、やっぱりそれは、「犬ってやっぱいいな!」と夫側に心底思ってもらう、ってこと以外にないですよね。
幸いにもこの世界、「犬っていいな」系譜の本だの映画だのが一大ジャンルを成しているくらいなので、まずはそのへんをダンナに与えてみる、ということは比較的容易にできるかと。
当然「猫っていいな」も同じくらいあるわけですけど……、ただ、猫はやっぱり、作り手の思い通りの「演技」をさせるのが難しいぶん、実写作品とかはやや少なめかもしれないですけどね。そこを驚異的レベルでクリアしたのが1996年のロシア映画『こねこ』だったりしますが。
ともあれ僕自身、幼少時から「犬っていいな」という気持ちは人一倍持ってきたので、犬系作品も、山ほどおすすめしたいものはありますよ!
あちこちですでにさんざん言及したことがあるタイトルばっかりにはなっちゃいますけど、まぁそれだけホントに間違いないものばかりということで、「またそれかよ!」と言わずご容赦いただければ……。
まずはやっぱり、内田かずひろさんの『シロと歩けば』ですね!
飼い犬の視点で語られる4コマ漫画で、とにかく犬という生き物のけなげさ面白さが、見事な観察眼とハートの底からほのぼのするタッチで、あますところなく描かれてゆく。
特に僕が大好きなのは、単行本一巻目最後のエピソードかな、シロがなにかと家の人のお手伝いをしようとするんだけども、やっぱ犬だからどれもあまりうまくいかなくて、そういうつもりじゃないのに~(泣)となってしまうという、一連の流れがまずあって。
するとそこに、会社から帰ってきたお父さんが通りがかる。シロは、今度こそ!と喜び勇んで、「僕が持ってあげますよ~」とばかりにお父さんのカバンをくわえて、先に歩きだすわけです。
横にいた長男は「お父さん、カバンにシロの歯形ついちゃうよ?」と心配するんだけど、それに対してお父さんは、「いいのいいの、シロくんがカバン持ってくれてお父さん楽チンだよ、ありがとう」と優しく返す。
夕暮れの帰り道、シロもご機嫌だし、みんな幸せ。「優しい」ってこういうことだよな、としみじみ思いださせてくれるような、本当に美しい場面で。僕はいつもここで、ポロポロ涙がこぼれてしまうんです。
犬との暮らしって、僕は経験したことないけど、きっとこういう風に、「まっすぐな存在」を受け入れていく、ということなのかもな、それって素敵なことだよな、と読むたびに思います。
こばなみ:
モコ(実家の犬)に会いたくなってきました……!
宇多丸:
以前「アフター6ジャンクション」でリバーサイド・リーディング・クラブの皆さんに紹介していただいた『その犬の歩むところ』という、これまた堂々たる「犬小説」の傑作がありましたが、そこでも描かれていた通り、犬というのは基本的に、人間から善性、良い面を引きだす存在なんだと思いますよ、大きく言えば。
もちろんその小説もおすすめですし……。
あとは、はた万次郎さんの『ウッシーとの日々』というエッセイ漫画も僕は大好きですね。
北海道のかなり田舎なほうに移住した作者が、ウッシーという飼い犬や、猫の母娘などと生活してゆくさまが描かれるんだけど、特に単行本何巻目かのあとがきでの、「自分には価値がなく死んでしまいたいと思っているような人には、犬を飼うことをおすすめしたい。これほどに全力で自分のことを求め、喜んでくれる存在がそこにいるのだということを、毎日実感できるから」(だいぶ前に読んだ記憶に基づく大意)という言葉には、胸をわしづかみにされました。
同時に『ウッシーとの日々』は、生き物を飼うということのリアルな重み、みたいな部分もわりとしっかり描かれている作品なので、今回の相談にも関係する部分が意外と多いのかもしれないですね。
映画ならだんぜん、こういう話になったときにはもう毎回必ず名前を挙げてますけど、『マーリー 世界で一番おバカな犬が教えてくれたこと』がなにしろもう、僕の中では最高峰です!
これに関しては『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』のなかでまぁまぁ詳しく書いてるので、そっちを読んでくださいね(笑)。
あとは、久住昌之さんと実弟の久住卓也さんのコンビQ.B.B.の、『とうとうロボが来た!』も、これは犬をむちゃくちゃ飼いたいんだけども住環境的になかなか願いがかなわなかった少年が、引っ越しを期に……?という大筋のストーリーがある4コマ漫画で、今のコーギーのおしりさんや、かつての僕の心情には、一番近いあたりを突いているかもしれない作品でございます。
ちなみに、一応「猫っていいな」系のおすすめも挙げておくと、これも何度もあちらこちらで触れてはいますけど、真造圭伍さんの『休日ジャンクション』という短編集のなかの、『家猫ぶんちゃんの一年』という一編が、本当に、素晴らしい!
これは明らかに犬ではちょっと醸しだせない味わいというか、猫視点ゆえのある種のドライさ、淡白さこそが、より深い感慨を生んでいる一作ですね。
これもそうだけど、やはり「その生き物ならではの在り方」というのをしっかり生かした作品にこそ、僕はグッとくる傾向がありますね。
こばなみ:
『家猫ぶんちゃんの一年』、さっき読んだら、しみました……。
ほかも早く読みたい! 観たい! これはかなり心が動くのでは。
宇多丸:
だといいけどね。
単にコーギーのおしりさんの犬飼いたい欲を、一方的に高めてしまっただけだったりして(笑)。
ただまぁとにかく、最初のほうでも言ったように、犬にしろ猫にしろ、生き物を飼うというのは軽い気持ちで決めていいことじゃないと思うし、仮にもパートナー同士であれば、きちんとした合意なしに進めていい話でも当然ない。
一度はじめたら絶対的な責任を負うことになる案件ですからね。
だからたぶん、犬派か猫派かなんて話をする前に、そもそもあなたはペットを飼いたいと自分で積極的に思っているのか?というところから、夫側に一度確かめてみたほうがいいんじゃないかな、という感じが、この相談文を読む限りはちょっとしますけど。
とりあえず今回僕が挙げた作品はどれも、実際に飼う/飼わない、犬派/猫派問わず、万人に自信をもっておすすめできる名作揃いなので、まずはダンナとフラットに、仲良く楽しくご鑑賞いただければと思います。
その上での直接交渉、うまく折り合えるといいんですけどね……。
こばなみ:
どういう結論になったのか、ぜひ教えていただけるとうれしいです。私も犬、将来的には飼いたいと思っているので!