夏休みのスケジュールが空っぽ……。 どうやってこの暇をつぶせばいい?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室56】
✳️今週のお悩み✳️
大学4年生です。就職活動が終わり気が付いたら夏休み! しかし夏休みのスケジュールが空っぽ……。どうやってこの暇をつぶすことができるでしょうか。
(こばみ・福岡県)
宇多丸:
なんて贅沢な悩みなんだ! 就職はもう決まったってこと?
こばなみ:
4年生だったら順調な人はこの時期には終わってると思いますよ。宇多丸さん、これちょっとプランを考えてみましょうよ!
宇多丸:
まぁ、やっぱり……、ふつうに「旅行」だよね。
こばなみ:
ホントにふつうじゃないですか!
宇多丸:
いやいや、つまり「働き出したらできないこと」をやるべきってことだからさ……、
要はあれだよ、目的をきっちり決めない旅行とかしてみなよ、ってことですよ。
本当に「目的がないこと」をやるのって、大人になってくると時間ないし、難しくなるじゃん。
旅行するにしてもさ、ツアー的に効率よく観光地を回るとかでは絶対なくて、もっと放浪寄りっていうか。 そんなの、間違いなく社会人になるとできなくなっちゃうことだから。 とにかく、まともな大人はやらないような旅の仕方を考えてみればいいんじゃない? たとえば1万円でどこまで行けるか、とかでもいいし。
こばなみ:
テレビ番組みたいになってきましたね。
宇多丸:
しかもいまどきは、そういう旅の過程を、ブログでもSNSでも逐一アップして、グイグイ盛り上げてったりもできるわけじゃん?
後々のための記録にもなるし、一石二鳥ですよ。
こばなみ:
そういや3月に「青春18きっぷ」で13時間26分電車に乗って鳥取に行ったんですけど、それをずっとツイートしてて、けっこう盛り上がりましたよ。今まさに売ってますし、安いし、「青春18きっぷ」おすすめです。ちなみに大人も使えますよー!
宇多丸:
仮にこばみさんが、そんな風に積極的に外に出てくようなタイプの人じゃなかったとしても……たとえばさ、夏の間じゅう部屋に籠って、「『男はつらいよ』全48作、全部観ました!」とか、そういうんでも全然いいと思うんだよ。「『こち亀』全巻読みました!」でもなんでもいいんだけど。
とにかくひたすらバカげていて、忙しい人は絶対にやらないような、それでいて何かしらの達成感があるようなこと……、そういうのをとりあえず、この夏の目標にすればいいんじゃないですかね。
こばなみ:
案外大人になって、そういうのが役に立つ気がする。話のネタに。
宇多丸:
まぁ、寅さん制覇はふつうに勉強になっちゃうことでもあるからな……
、もっと本気でバカげた、誰かに話してもポカンとされちゃうようなのが一番いいんだけどな。
「47都道府県全部の『ドトール』に行く」とかさ!
こばなみ:
ドトール制覇!? バカでいい!!
宇多丸:
47都道府県のお土産屋を回ってご当地キティのストラップをコンプリートしてみるとか!
47都道府県の男とワンナイト・ラブしてみるとか!
とにかく、人様から心底呆れられるようなのがいいですよ。 あっでも、ハメを外し過ぎて、内定取り消されないようにね! あとはもちろん、身の安全は第一でお願いします。
こばなみ:
日本地図を塗りつぶしていってほしいですね。
宇多丸:
いいなぁ、こばみさん。人生最高の夏が始まるよ、これから。
でもちょっと切なくなってくるね。来年は就職してるんだよ。
もうこんな感じの夏は、二度と帰ってこないんだよ。
たぶんね、リアルタイムでのこばみさんの実感は、そんなに甘美なものではないはずなんですよ。 それどころか、「結局なんかパッとしなかったな~」「ロクなことなかったな~」みたいな感じかもしれない。
でもね。 まさにその「不発感」込みで、後から振り返るとそれはやっぱり、かけがえのない、一度きりの夏の思い出になってゆくんですよ!
僕だって、思い出すのは結局、「あの不発の夏」のことばっかりだったりするもんね。 たとえば、高校最後の夏を完璧なものにしようと、友達と気合いを入れて石垣島に行ったんだけど、ちょうど超大型の台風に直撃されちゃったりさ。 で、仕方なくホテルでフテ寝してたら、なんと部屋の窓ガラスが暴風で割れちゃって、雨がびゅーびゅー吹き込んできてベッドが水浸し。 帰り間際になってようやく曇り空くらいにはなってくれたんで、わずかな残り時間で、友達と砂浜にお山を作って帰りましたよ。 不発……。
あと、これは中学の頃、友達のおじさんがやってる白浜だかのペンションに何人かで泊まりに行ったときもね。 夜になると、ふつう若いやつらはみんな、花火をやるって名目で砂浜にまた出てくわけですよ。要はまさにその時間こそがナンパのチャンスだからさ。 俺ら的には「ひょっとすると、今年こそ何かが起こるかも……!?」くらいには、期待に胸(と股間)を膨らませてやってきてるわけですよ。
そしたら、そのペンションのオーナーのおじさんがさ、夕食が終わったところで、「キミたち、こんなの興味あるかな?」とか言って、趣味のバイクのビデオを流し始めたのよ。 こっちも一応気を遣って、「興味、あります!」とか答えちゃったんだけどさ。
そもそもバイクのビデオっつってもさ、どっかを猛スピードで駆け抜けてゆくような、そんな派手なやつじゃなくて、なんか岩場みたいなとこを、できるだけ車体を動かさないようにちょこんちょこんと小刻みに跳ねてくっていう、ちょっとこれ以上考えられないくらい地味~な競技なのよ。 おじさん「どうだい?」 俺ら「いや、凄いっす……」
そうこうしている間にも外からは、花火の音や、女の子たちがキャッキャはしゃいでる声が聞こえてくるわけよ。 正直、俺たち全員貧乏ゆすりしまくってたよ! 結局ビデオ一巻、丸々鑑賞させられて。
ところが、ようやく終わったっていう安堵感からか、誰かがつい「いや~ホント、カッコよかったっす! 免許取ったら俺もやろうかな~」とかなんとか、要らぬおべっかを口にしてしまったんだよね。 そしたらおじさん、途端に目を輝かせて。 「あ、そうかい? 実はビデオ、他にもまだいっぱいあるんだよ!」
最終的にはプラス二巻ほどだったかな、あんまり動かないバイクのビデオをさらに何時間か見せられて……、 深夜近くなってあわてて砂浜に駆けつけた頃にはもう、人影もすっかりまばらになってて、残ってるのはいちゃついてるカップルだけでしたよ。
当然、その後は内輪同士で罵り合いですよね。 「なんなんだよお前のおじさんはよ!」 「俺たちの青春を返せ!」 「泊めてやってんのにその言い草はねぇだろ!」
……だけど、思い出として愛おしく感じられるのは不思議と、ふつうに楽しかった夏よりも、そういうどっかしら「不発」なときのことだったりするんだよな~。
ちなみに、手前味噌ではございますが、ライムスターの『Magic Hour feat.さかいゆう』という曲の二番、私のパートは、まさにそういう、「すべてが不発に終わったある夏の一日」が、最終的に最高の思い出へと転じてゆく瞬間、を歌ったものでありまして。 こばみさんも、この夏の旅のBGMに、いかがでしょうか?
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年8月9日に公開したものを再編集し、掲載しています。