有休を取ると、手当ももらえる!? “休む文化”を浸透させて、誰もが働きやすい職場へ。
2030年までに“女性活躍”という
言葉がなくなる世界をめざして、
リーダーとして働く女性を応援する
F30プロジェクト。
女性活躍と聞くと
女性ばかりにスポットが
当たりがちですが、
その根本は性別問わず活躍できる
環境があるべきだということです。
今回は、従業員が
「働くうえで性差を感じない」と
従業員アンケートで出ている企業、
株式会社コスモスモア
(現・株式会社GOOD PLACE)さんの
画期的な従業員支援制度に
ついてご紹介します。
働く場をつくるオフィス事業と、リノベーションをはじめとする建築事業を展開するコスモスモア(現・株式会社GOOD PLACE)さん。従業員のライフスタイルに合わせた多様な働き方を実現するために、画期的な有給休暇制度を導入しています。
その背景には、働きやすい会社の実現には、義務である有給休暇日数の取得と同時に、さらなる有給取得率の向上が必須であると考えたからだそう。
営業・設計・施工を担当する職種は、特に案件の進行具合によってスケジュールが左右されるため、なかなか有休を取得しづらい環境が続いていました。義務である年5日の有給休暇取得こそ達成はしていますが、さらに働きやすい企業を実現するために、掲げた目標は有給休暇取得率70%。そのために取り入れた画期的な制度とは?
斬新な制度を整えた管理部総務人事課課長の松井 伸城(まつい のぶしろ)さん、マーケティング統括部マーケティング統括課課長の吉町 佳奈(よしまち かな)さんのお二人にお話を伺いました。
<History>
「有休取得率が低い傾向がある建築業界。そこで、有給休暇を取得したら手当を支給することに」
——さまざまな休暇制度があることに驚きました。
松井さん:
建築業界は、比較的年次有給休暇の取得率が低い業界です。うちの会社も、寝食を忘れるほど仕事に熱中したり、土日も現場をまわったりするため、平日に代休を取得することも多く、有休制度を活用しきれていない傾向が見られました。
そこで、2017年には、部署や担当するプロジェクトなど多様な働き方に対応できる有給休暇取得促進制度として、3日連続で有給休暇を取得することで3万円の手当が支給される「MOREホリデー」を導入。さらに、年間で設定された日に有給休暇を取得することで1万円の手当が支給される「有休取得推進日」、自身の誕生月に1日有給休暇を取得することで1万円の手当が支給される「メモリアル休暇」などを導入してきました。
——有給で休めるうえに、手当まで支給されるとはうれしいですね!
吉町さん:
おかげさまで、従業員のほとんどが「メモリアル休暇」を取得していますね。自分の誕生月は休むきっかけになるようです。特別休暇になるのですが、女性特有のPMSや不妊治療の事由で休める「Life Style Support休暇」も働きやすさを考えたものです。男性も不妊治療の際に利用できます。具体的な理由を告げずに申請できるようにして、気軽に利用できる仕組みとしました。
松井さん:
他業界に比べて休暇が取りにくいといわれている建築業界ですが、2024年から業界全体で完全週休2日制の導入が予定されています。当社は2020年から完全週休2日制にしたところ、年間で数日ある土曜出社日がなくなったため、有給休暇を利用する機会が減り有給休暇取得率が低下するという現象が起きてしまったんです。現在、有休の取得率は約60%(2021年度)と業界内では決して低くはないのですが、まだまだなんです。
——2022年には、新たに「いつでも休暇」という制度が設けられました。他の休暇制度との違いはなんでしょうか。
松井さん:
いつでも好きなときに取得できることです。
たとえば、仕事が忙しくて有休取得促進日もMOREホリデーも使えない(3連休をとる余裕がない)、誕生日もまだ先……となると、ますます手当のある有休取得が遠退いてしまうんですね。でも、「いつでも休暇」は、プロジェクトが終了して仕事がひと段落したときなど、自分のタイミングで利用できます。いい仕事をするためにも休息が必要なことを浸透していきたいと考えています。
吉町さん:
労働時間が長くなりがちな業界なので、休みを取るという意識改革をしてほしいですね。自身がいきいきと働くためのリフレッシュする機会としてはもちろん、子育てや介護などさまざまな事情で働くことに支障が出た場合なども、万全の制度でサポートしています。
◆手当も支給されるコスモスモアの有給休暇取得促進制度
◆その他の休暇制度(一部抜粋)
「職場に迷惑をかけたくない、収入が減少してしまう。この課題を解決したら、男性も育休取得をしやすくなるはず」
——今年4月の改正育児・介護休業法の改正に伴い、「産後パパ育休制度」がはじまりました。御社は出産・育児支援制度も充実されていますね。
松井さん:
以前から、ベビーシッター利用補助制度、勤務時間変更制度など、出産前後のみならずお子さんの成長に合わせたさまざまな制度で持続的に子育てをサポートしてきました。そのおかげで、女性の育児休暇後の復職率はほぼ100%で、出産・育児を機に退職する人がいないほどです。ただ、一方で男性の育児休暇取得率は30%程度です。アンケート調査をしたところ、その理由は「職場に迷惑をかけたくない」「収入が減少してしまう」ということでした。では、ここを解決すれば取得しやすくなるだろう、という発想で新たに3つの制度が誕生しました。
1つ目は「子育て休業応援手当」です。子育てのため休業を取得する人の担当業務を引き継いだことで業務が増加する人への対価として、最大6ヵ月間、月に最高10万円の手当を支給します。子育ては大切なことと理解していても、業務が増加することで不公平感がわいてしまうものです。また、休む人も仕事を押し付けるようで申し訳ないと感じてしまうのです。子育てのための休業を取得する人だけでなく、それをサポートする部署のメンバーへ手当を支給することは、その両者の気持ちが納得できる制度だと思っています。
吉町さん:
フォローする体制は会社として整えるべきですが、どうしても一時的に業務が増えてしまう場合もあります。その増えた業務に対する正当な対価だということです。
松井さん:
2つ目は「出産前後の特別休暇の拡充」です。配偶者の出産時に従業員に付与される有給の特別休暇を1ヵ月に拡充しました。パートナーが出産する場合は2日の特別休暇が年次有給休暇とは別に付与されるという特別休暇をアレンジしたものです。1ヵ月の期間内であれば分割取得を認めているため、出生後1ヵ月は週3日特別休暇を取得しながら業務引継ぎを完了させ、出生後2ヵ月から本格的に長期の育休を取得するなど、自身で働き方を調整することが可能です。出産前後の特別休暇中は、育児休業給付金の受給対象外になりますが、100%の給与補填となります。なにより、生まれたての赤ちゃんと一緒にいられるのが嬉しいですよね。
私には2人の子どもがいますが、もし当時この制度があったら、絶対に使いたかったですね(笑)。
3つ目は、「育休に関するeラーニング研修の実施」です。男性社員のなかには、育休がどういうものか理解できていない方も多くいます。そこで、出産後の生活や育休の実態などを知ることを目的としたeラーニング研修を実施することにしました。これは全従業員を対象とした研修で、相互理解を深めます。当社の平均年齢は約35歳で、これから結婚・子育てを控えている社員も多くいます。彼らが気兼ねなく育児休暇を取得でき、職場にスムーズに復帰できるよう考えた結果の施策となりました。
「若い世代が管理職をめざすためにも、管理職の有休取得日数と取得率を上げたい」
——聞けば聞くほど魅力的な制度ばかりですが、今後の課題はありますか?
松井さん:
管理職の有休取得率を上げていくことですね。有休取得の促進をし始めて8年が経ちますが、まだまだ管理職の取得日数と取得率が低い状況です。当社はプレイングマネージャー的な管理職が多く、休みを取りにくい場合もあるのですが、そこを改善しなくてはなりません。管理職は休みにくいという常識ができてしまうと、若い世代が管理職を望まなくなってしまい、会社の成長に影響が出てしまいます。
吉町さん:
私自身も管理職を避けていたタイプだったのですが、育児休暇から復職した1年前に気持ちを切り替えて管理職を選びました。
当社の制度を使用しながら、子育てと仕事のバランスが保てています。難しく考えず、自分を成長させるためのステップとして管理職を目指したいと思える環境づくりが女性活躍にもつながりますし、今後の課題だと考えています。
松井さん:
若い世代は短時間で効率よく働くのが上手だと感じています。このような制度や風土があることは、長期的に「働きやすい会社」として認知され、企業価値も上がることを期待しています。
制度というのは
利用する必要のない人にとっては、
不公平を感じる場合があることも。
特に女性活躍では、
出産・育児をする女性を支援する制度が
クローズアップされがちですが、
さらに一歩進んだ制度づくりに取り組んでいる
コスモスモアさんの実行力には
驚かされるばかりです。
こういった画期的な制度が
多くの企業に刺激を与え、
誰もがより働きやすい職場づくりに
つながることを願っています。
<お話を伺った人>
取材・文:佐々木 美穗/撮影:鈴木 愛子