上司に言い返すのが苦手。その場で済ますために謝ってしまい、後から嫌な気持ちになり、友達に愚痴り、また自分が嫌に……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室342】
✳️今週のお悩み✳️
些細なことですが、ストレスになっているのではないかと、悩んでいることがあります。私は人に言い返すことが苦手です。たとえば、会社の上司に注意をされたときなど、本当は私のせいではないし、指示も違っていたのにと思って言い返したくても、言うことができません。言い合いになるのが嫌なので、さっさとその場で済ますために謝ってしまいます。ただこれが、後からどんどん、嫌な気持ちになってきてしまいます。友達に文句を言ってしまうこともあり、そんな自分が嫌になります。どうしたらそんな嫌なサイクルから抜け出せるでしょうか?
(コメ・37歳・会社員・東京都)
宇多丸:
職場で上司などに言い返すことができるか?
こばなみはどうしてますか?
こばなみ:
私は比較的、言うようにはしてますかね。でもさすがにバーンと言い返したりはできないですよ。何かモヤモヤが残ってたら、いろいろ考えてから「昨日の件、ちょっといいですか」とか、一拍置いて言うとか。
ただ、会社の規模とか、自分の立場にもよるのかも、ですよね。
宇多丸:
まぁでもさ、上司になかなか言い返せない、後で陰口叩いてもそれはそれで自己嫌悪……的なのって、言っちゃえば、ものすごーく普通のことでもありますよね。みんなそんなもんだよ!みたいな。
少なくとも、そんなに日々そこらじゅうでカジュアルに行われている行為、というわけではないと思いますよ、目上の人物への反論というのは。
こばなみ:
そうですね。ちなみに私は逆に部下にキレられたりとかしますよ。でもたまにですけどね。
宇多丸:
結局さ、そんなふうにちょっと言い返したところで、特にいまどきは、そこまでの問題にはならないんでしょうね。
そこで、生意気だ! 飛ばしてやる! 倍返し! なんてことは、普通ない(笑)。
むしろ近年は、それこそパワハラとか、ブラックな職場と見なされないよう、上役側のほうが気を使ってるくらいじゃないですか? 大半のまともなところはそうだと思う、いや思いたいですが……。
それから、コメさんの「さっさとその場で済ますために謝ってしまいます」っていうのも、むしろ、世の多くの人もやってる、生きてゆくうえでの「知恵」のうちでしょ。
要は、わざわざ問いただすほどの件じゃないなとか、話の通じにくい馬鹿とこの程度の件で揉めても時間の無駄、みたいな損得判断の話であって……、だから、そのことに関してあまりにもご自分を責めすぎるのもどうなのかな、と思いますけども。
真面目な方なんですよね、コメさん。
こばなみ:
そうやって過ごしてない人なんてほんの一部な気もしますが。じゃないと疲れちゃう。
宇多丸:
もちろん、たとえば、こっちにまったく非がない件で責任を押しつれられたりしたことが、そのまんま業務評価に響いてくるとか、要は実害が深刻になりかねない場合は、揉めるのを避けて黙ってばかりだと、当然あんまりいいことにはなってゆかないですよね。
つまるところやっぱり、メリット、デメリットのバランス次第、ということに尽きるわけですが。
こばなみ:
宇多丸さんはどうなんですか?
宇多丸:
僕だってみなさんと同じですよ。
めんどくせぇから黙っとこ、って場面も普通に山ほどありますよ。
ただ、これは僕の信条というか考え方として、本当に正すべきとか放置しちゃよくないと判断したことに関してはやっぱり、内に溜め込んだままだと結局は、少しずつでも着実に、自分の精神や人生を毒してゆくだけだろうとも思うので。
なので、それ級のことに関しては、できるだけその場で、それが難しくてもなるだけ早めに、はっきり意見として表明するようにはしてます。
それはもう単純に、そうしないとどうにも気持ち悪いから、ってことなんだけど。
それで「めんどくさいやつ」認定されてきたところも確実にあるんでしょうが(笑)、一度そうなっちゃえば楽、というのもありますよ。要は言い返しのハードルが、以降はちょっと下がるから。
あと、相手がちゃんとした人で、こっちの言ってることにも理があるなら、それで決定的に嫌われるってことも、経験上は……、「そんなに」ない(笑)。てか、それで怒ったりするような人とはこっちもそれ以上付き合いたくないし。
とにかく、仮にやむなく口ごたえしたところで、揉めたくないのは周囲のみんなも同じなんだから、基本「ことを収める」方向にその場の力は働くもんで、そんなたいしたことにはならないケースがほとんどじゃないですか。
もちろん、物の言い方にもよるだろうけど。ケンカ腰はなんであれダメ!
ただ、たしかに難しいのは、そうやってはっきり言ったら言ったで、「あれ、言うほどのことだったかなぁ」とか、それはそれでかえって、あとからモヤモヤしちゃうこともたまにあって。
言ったことが間違ってたなと思うならまだ、サクッと謝って訂正でもすればいいんだからぜんぜんシンプルなんだけど、厄介なのはむしろ、なまじこっちの主張自体はそこそこ正しいときで。
そこでの「なんか強く言いすぎたかも……」くらいの反省とかは、わざわざあとからフォローするほどのタイミングもなくて、なかなかモヤりが解消されなかったりもするんですよね。
だから、言ってしまったこと、言わなかったこと、両方に後悔は生じうるわけですよ。
なので結論はやはり、ケースバイケースで適切にハンドリングしてゆければいいですよね、って当たり前のことに尽きるわけだけど。
①まずは、自分に実際降りかかる被害がどの程度か、その都度の冷静な見極め。社会正義や良識に反すること、みたいなのも僕はここに入れてますけども。
②そのうえで、それが一線を越えたと思えた際にはやはり、自衛のためのアクションをしっかり起こしてゆく覚悟。
③そして、実のところ世の事物の大半を占めると言ってよかろう「ホントはどうでもいいこと」に関しては、言わば「合理的退却」も常に平然と辞さない、いい意味での図太さ。
とりあえずはこんな感じで、考え方を整理してみてはいかがでしょうか。
肝心なのは、どちらか一方、極端に走る必要はまったくない、ということですね。
コメさんも、もっと気を楽に持っていいと思いますよ。
こばなみ:
こうじゃなきゃダメってことはないですしね。私は宇多丸さんの言う③の感じで、意識を楽しい方にぶっ飛ばすこともあります。モヤったときに「ていってもこれで死にやしないし、どうでもいっか(鼻ホジホジ)」って。
少しでも、霧が晴れることを祈っております~!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年11月14日に公開したものを再編集し、掲載しています。