見出し画像

【宮城】空き家とクリエイターをつなげ、幸せなライフスタイルを作る「巻組」

日本全国でがんばっている女性を紹介する「のぼり坂47」プロジェクト。今回は、主に、空き家とクリエイターをつなぐことで、石巻市を多様性あるおもしろい街にするべく活動しているクリエイティブチーム「巻組」の代表・渡邊享子さんに聞きました。


資産価値が下がりきった空き家とクリエイターをつなぐ事業


巻組は、簡単に言うと、石巻市にある資産価値が下がりきった空き家を買い取ったり、借り上げたりしてリノベーションをし、その住宅をクリエイティブな活動をしている人に貸し出すという事業を主にしています。

石巻市はご存知の通り、2011年の東日本大震災で被災しているんですけれど、その後、市内に約7,000戸住宅が供給されたんですね。そのおかげで、平成30年の住宅・土地統計調査によると、市内に約1万3,000戸、空き家があると言われています。

空き家になりがちなのは、古い、立地が悪いなど、条件が悪い物件。しかも、ご高齢の親御さんが住んでいたが、今は誰も使っていないため持ち主さん自身が処分に困っているケースも多いんです。
そういうものを安い価格で買い取ったり、あるいは格安で借り上げたりして、リノベーションをし、新たに価値づけをして運用します。

スクリーンショット 2020-11-18 14.02.53

私たちが扱う物件の住人は、起業家だったりアーティストだったり、学生や外国人も含めて、クリエイティブな活動をしている方が多いんです。

というのも、そういう方々は、なかなか普通の不動産市場ではマッチしない場合が多いから。
たとえば、ペインティングの制作をしながら、鹿を捕りたいんだけど、猟銃所持の免許の登記を大家さんがOKしてくれなかったりとか、パフォーマンスの練習をしたいという方だったりとか…。

そういった規格に収まらないニーズを持った人たちと資産価値の低い物件をつなげて、多様性あふれる豊かな街にしていきたいというコンセプトで活動しています。

2020年7月現在、改修した不動産物件は30軒。私たちで直接運営しているシェアハウスが11軒あります。

ちなみに、現在、シェアハウスに住んでいる人はどういう人かというと、たとえば洋裁業と木工業をやっているユニットの女性。彼女は土間を生かした空間で、洋裁作業をしたり、この住宅の裏手にある雑木林で畑をやってくれたり、すごくよく活用してくださっています。

スクリーンショット 2020-11-18 13.59.58

また、空き家を活用してくれる人材を集めるために、使いたい人と大家さんのマッチングの場づくりや、起業家の育成も行っています。

たとえば、静岡県の伊東市出身で、いつかは自分のお店を持ちたいという希望を持って移住した小川奈津美さんは巻組のプログラムを通して事業をブラッシュアップし、起業してくれました。

最初に彼女が始めたのは、実家でおばあちゃんがつくっていたおまんじゅうを復興させる事業です。その後、彼女自身がアスリートフードマイスターの資格を持っているので、地元の野菜や海産物、ジビエを使った「SONO」というテイクアウトの惣菜屋を巻組の店舗物件で始めてくれました。

スクリーンショット 2020-11-18 14.02.43

「巻組」の原点は、東日本大震災のボランティア活動


2011年3月は、私はまだ東京で学生をしていました。ちょうど就職活動中だったんですが、全然うまくいってなくて。
どこの会社に行っても、あんまり必要とされている感じがしないし、自分もそこで役に立つイメージが持てなかったんです。

スクリーンショット 2020-11-18 14.00.26
「巻組」代表・渡邊享子さん

そんなときに、東日本大震災が起こりました。「やっぱり役割があるところに行きたい」と考えて、就職活動を中断し、石巻市に大学の仲間たちと一緒にボランティアに行ったんです。

東日本大震災の支援って1、2カ月では全然終わらなくて、半年や1年といった長期戦だったんですね。

最初は私も、泥かきなどの活動をしていたんですけど、長期で地域に関わり続けているうちに、「定住して新しいことをはじめよう」というボランティア仲間が増えていきました。

一方で、今は空き家だらけの石巻ですが、当時は、全壊家屋が約2万2,000戸もあり、地元の人ですら住むところがない。実際に不動産屋も貸してくれないという状況でした。

でも、やる気や志があるのに、住むところがないという理由で地域に関われないのがもったいないと思ったんですよね。

そこで、地元の人でもあまり住まないような条件が悪い、そして被災で壊れた空き家があれば、そこを仲間と直して、シェアハウスにすればいいんじゃないか。そう考えて、実際につくったのが巻組の原点です。

最初の物件は、空き家を一軒一軒しらみつぶしに探して見つけた、8畳2間の平屋です。

スクリーンショット 2020-11-18 14.00.37

人づてに大家さんを聞き出して、借りることができました。
ただ、大家さんが壊そうか悩んでいたのも納得するほど、床上浸水して床が傷んでいたので、建築系の仲間とDIYで修復して貸し出しました。
2012年暮れから2013年にかけてのできごとです。

しばらくは個人やユニットで、「物件を直して貸す」ということをやっていたのですが、長期的に考えると外部の人を受け入れて、地域を元気にしていくことが重要なんじゃないかと思い、2015年に「巻組」として事業化したんです。

現在は、正社員6名、パート2名の8人体制で運営しています。

スクリーンショット 2020-11-18 14.00.54

ちなみに巻組の名前の由来は、「石巻」の「巻」と、そこからもじって、巻き込む→組むで、「巻組」としました。

実は私自身、建築士でもないし、不動産を専門に学んだ経験もありません。
自分ひとりでは何もできないということはわかっていて、だからこそ、いろいろな強みがある方々と“組”みながら何かができていくっておもしろいなと思ったんですよね。
それも名前に「組」を入れた理由になっています。

あとは、工務店って「○○組」という名前がすごく多いんです。「現場主義」という点で、工務店の大工さんのかっこよさにインスピレーションを受けました。その影響もあって、女子が多い会社ながらロゴも力強い感じにしたんですよ(笑)。

スクリーンショット 2020-11-18 14.01.10

コロナ禍で窮地に陥ったクリエイターを助けたい!


このコロナ禍でクリエイティブな活動は続けたいのに、生活に困って制作ができない人が増えています。その人たちを救うため、弊社シェアハウスの空室の家賃を1年間、無償にする代わりに、月1回制作物をつくってもらう「Creative Hub」というプロジェクトをスタートさせました。

きっかけは、2020年の2月にオレゴン州のポートランドにいる知人のもとへ遊びに行ったとき、現地の美大でペインティングの勉強をしている福岡萌香さんと出会ったことです。

そのときは、まさかここまで新型コロナウイルスが広がるとは思わず、私が帰国したあとに事態が急展開して、彼女もビザがないため強制的に日本に帰国せざるを得ない状況に。絵を勉強する機会が奪われてしまったんです。

やる気や才能のある子たちががんばる機会を奪われてしまったのが心苦しくて、「暮らしくらいは面倒を見られるので、石巻に来て、ここで制作したらいいんじゃないか」という想いから「Creative Hub」をはじめました。

スクリーンショット 2020-11-18 14.01.27
「Creative Hub」のきっかけになった福岡さん(右から2番目)と。

ちなみに、巻組が手掛けている住居に住んでいるクリエイターは、クリエイティブ意識が強いけれど、それほど高額な収入につながっていない方が多いんです。それでも、お金に頼らず自分で野菜をつくったり、お裾分けをもらったり、地域の人との繋がりのなかで、自分らしく暮らして行ける人が多いのです。

巻組の物件に移住者が入居すると、最初は「大丈夫なのかしら?」と近所の方々が心配そうに見に来ていました。しかし、次第に地域に若者がいることに喜んでくださって、差し入れをくれたり、足りないものを気遣ってくれたり、たくさんおすそ分けしていただいたんですね。

住人が地域の方から差し入れてもらうことも多くて、「1食分、食費が浮いて助かった」なんて話をしたこともあるくらい、食べ物をいただく機会も少なくないんです。

不定期でクリエイターの作品と持ってきたものを交換する物々交換市をするのですが、「何かクリエイターの支援になるものがあったら持ち寄ってください」とアナウンスすると、「あげたい、あげたい」という問い合わせがすごく来るんです。

物々交換市以外でも、「アーティストの支援をしたいので、何か余っているものがあればください」という話をしたところ、生活物資はもちろん、自転車やエアコン、端材、断熱材といった建築資材など、本当にたくさんのものが集まりました!

スクリーンショット 2020-11-18 14.01.48
地元の方からタイプライターをもらったことも!

そもそも、地元の人たちは年配の方も多く、若い人やクリエイティブな人とあまり関わる機会がないんですよね。でも、おすそ分けの文化によってつながることができる。それが地域の活性化にも発展すると感じています。

また、お年寄りは何かと自分自身が支援の対象になりがち。誰かを手助けすることで得られる自己肯定感が下がっているという印象でした。
でも、余っているものを寄付して相手が喜んでいる姿を見ることで、誰かに貢献できたことが自己肯定感にもつながっていると思います。

それに、もし支援していたクリエイターがスターになったら…誇らしいですよね?

自分が持っているものを提供することで、発展途上中のクリエイターを育てていくという新しい形の社会奉仕でもあるし、新しい形のコミュニケーションが生まれていると最近、手応えを感じています。

現在、そういった支援を全国からも受け付けるクラウドファンデイングのプロジェクトを実施中です。

スクリーンショット 2020-11-18 14.02.09

支援いただいた資金は、倉庫のリノベーション費用に当てる予定です。その倉庫は、クリエイターの方のためにいただいたものや、住人や地域の人が集まる場として活用しようと考えています。

スクリーンショット 2020-11-18 14.02.26

また、金銭的な寄付が難しい場合は、ものの寄付も受け付けています。

▼詳細はこちら
https://motion-gallery.net/projects/creative_hub


全国の女性へメッセージ


私自身、大量生産型で、みんな同じように右にならって空気を読んで生きていくことが苦手なんです。似たような規格のものがあふれていて、心地よさとか嗜好性もマーケットにコントロールされている世の中が気持ち悪いなって感じていて、それを変えていきたいんです。

なぜ、変えていきたいかというと、自分自身が生きづらかったからかなって思うんですよね。

私は埼玉のサラリーマン家庭に育って、まわりの期待に応えようと生きてきて、学生のころは、まわりもそうするように、サラリーマンとして社会に出ようと思っていたんですよね。

でも、そういう一般的によしとされるような型にはまって生きようとすればするほど、居場所がなかったり、生きづらさを感じたりしていました。思えば、マニュアル通りにやるのが苦手で、アルバイトもすごく苦手だったんです。

でも今は、特別な特殊技能がなくても、まわりの人と組みながら、自分にとって心地よい生き方、働き方ができています。

それにはやっぱり、自分がどう生きることが納得するものなのか、その課題意識を突き詰めていくことがすごく重要だと思うんですね。

最近は家族のあり方も多様ですし、個人同士がいかにつながって、その関係性をお互いにうまく調整していくことが重要な社会になってきています。だから、ポジションとか肩書ではなく、自分の課題意識を大事にして生きる人が増えたらいいな、と思っています。

ただそう言うと、やりたいことプレッシャーに押しつぶされてしまったり、まわりの声に流されて、自分の生き方が見えなくなる人も見かけます。
自分なりの課題意識を探すときに、やりたいことを探し求めたり、人に助言を求めたりするよりは、一緒にいて心地いい人や心地いいコミュニティを探すのがいいんじゃないかなと思います。
その出会いによって、思いがけず課題が見つかる可能性もあるので。


★好きな言葉★

「動的平衡」
「Don’t think. Feel!」

「動的平衡」とは、生命は絶え間なく分解と合成を繰り返しながらバランスを保っている、この考え方のこと。分子生物学者の福岡伸一さんが提唱している生命理論です。
たとえば、人の体は1年前とはまったく違う細胞になっています。その理屈で言うと、持続可能とは絶えず入れ替わり、変化し続けることと言えます。
私が街や組織、人生の持続可能性を考えるとき、この考え方をいつも意識しています。

「Don’t think. Feel!」は、『燃えよドラゴン』のなかのブルース・リーの名言。
予測不可能な時代を生きるのに必要な考え方だと思っています。
過去の経験に囚われて考えるよりも、その背後にある目に見えない部分を敏感に感じて行動できるように直感を鍛えています。


石巻のクリエイティブチーム
巻組

スクリーンショット 2020-11-18 14.03.14


私たちは不動産や建築といった従来型の場づくりの方法論に止まらず、地域において多様な人々にとっての「幸せな暮らし方」を追求し、大量生産型市場が支配する人口密集地では実現できない、不便を楽しむライフスタイルを、ビジネスの手法を用いて実現していきます。




☟☟☟ 新着記事情報はTwitterでお知らせしています ☟☟☟
よかったらフォローお願いします!



みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

最後まで読んでいただきありがとうございます!! 新着記事はX(Twitter)でお知らせしています☞