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フリーライターをしています。安請け合いするクセをなんとかしたい!【ライムスター宇多丸のお悩み相談室223】


✳️今週のお悩み-1✳️
以前、「フリーライターをしています。ストレスになる編集者との付き合い方を教えてください」という相談をさせていただいた飲酒です。 こちらでいただいた回答、今でもたまに読み返して力をもらっています。あらためてありがとうございました。回答いただいた当初より、 読み返すほど「あ~」と沁みています。 おかげで今ももりもりと微調整しつつ、フリーランスで食べられています。
今回の相談は「安請け合いするクセをなんとかしたい」です。メールだと冷静に断れますが、電話や口頭だと断りにくく結局受けてしまいます。「相手がいい人」「世話になった」「電話や口頭で頼まれる」が重なると、ミッションインポッシブルです。 依頼する側も心得ているのでしょう。たいてい「こんな案件があるけどどうか?」と聞けば断られることを知っていて「飲酒さん、◯日空いてる?」みたいにスケジュールから聞くんですよね。「要件を聞かないとなんとも」と私も言えばいいのに、つい聞かれると「空いてます」とうっかり言ってしまい、あとから要件を聞いて「それならやっぱりイヤです」と言いにくくさせる心理テクにまんまと乗せられてしまっています。ナンパテクに似たようなものがあると聞きました。結局不本意で受けて、不満を抱え仕事したところでお互いいいことないし、かえって信用を落とすのだからと、昨年安請け合いをして大後悔したときに「安請け合いしない」と去年の手帳の表紙に書いたのですが、今年もまた安請け合いしてしまい後悔し、手帳の表紙に「安請け合いしない」と書いた瞬間、昨年と同じことをしていると自分の進歩のなさにガックリ来ました。今は携帯の待ち受けも「安請け合いしない」という文字にしていますが、ぜひ、アドバイスいただければ幸いです。
(飲酒・33歳・千葉県)


宇多丸:
飲酒さん! 僕もまさに、ずいぶん前になりますけど書き初めで「安請け合いしない」と書いたくらいで、まーったく同じタイプですよ! 
なので、相談相手としては完全に不適格かもです(笑)。

ちなみに今は、基本マネージメントを通してもらう、という必殺技でなんとかやってるわけですけど。

いやでもホント、三顧の礼とはよく言ったもので、一度目は普通に断ってた案件も、二度三度と礼を尽くしたアプローチを重ねられると、なんだか「そろそろこの熱意に応えてさしあげないと失礼かも……」っていうプレッシャーを勝手に感じ始めちゃうんですよね。
条件は変わってないんだから、ただの心理的な錯覚なんだけどさ。

で、うっかり「じゃあ、受けるかどうかは別にして、せめて一回会って話だけでも聞いてみますか」なんてことになったらもう、後はズルズルですよね。
わざわざ足を運んでもらった人を目の前にして断る、なんてほうが明らかにキツいんだから!

こばなみ:
依頼する側もきっと、受けてくれるだろうという前提でその打ち合わせにのぞんでますもんね。

宇多丸:
たまーに、それでも難しいものは難しいと判断して、せっかくお越しいただいたのに申し訳ないのですが……って感じでお断りしたこともあるはあるけども、そのあともしばらくは「悪いことしたかなぁ……」とかウジウジを引っ張っちゃったりして、あんまりすっきりはしないよね、やっぱ。

とは言え、そこで自分のキャパを超えてたりホントはモチベーションがそれほど持てないような依頼を受けちゃうほうが、結果としてはやっぱり間違いなく、絶対によろしくないことになってしまうわけだからね。
NOと言える勇気、僕も常に持ってたいですよ……。

こばなみ:
私は受ける方も依頼する方も、どっちもするほうなのですが、自分が依頼するほうだったら、こんなに図々しくいけないですねぇ。
逆に断られたり嫌がられたりしそうで、強引にねじこんだりできない。って、あんた十分してるっよ!って思っている方いたらすみません!ですけど……。

宇多丸:
飲酒さんの場合はフリーライターなんだから、「自分は月産◯◯文字」みたいな目安を設けるのはどうですか?

そこから、仕事を受けられる上限の実数を割り出してみる。

そしたら、「今月の月産ベースを現状すでに超えてるのですみません」みたく、明快な理由を提示して断ることができるじゃない。
それならお互い変な感じにもならずに済むんじゃないかな。

とにかく、自分という工場の生産ラインを自分でもしっかり把握しておくこと。なんにせよこれ大事じゃない?

まぁ、なかには吉田豪さんみたいに、トークイベントに出ながら原稿を書いてる強者もいたりするけどね。
他の出演者の発言にいちいち突っ込み入れながら、パソコン開いて仕事してるの。まじで?って思うよ。

こばなみ:
それはすごいですね!!!

あと、断るときとか、宇多丸さんは宇多丸さんしかできないことが多いからなんともなところはあるし、飲酒さんがどんなタイプのライターさんなのかわからないけど、私とかの場合、自分が受けられないときでも、なるべくなんとかしてあげたいから、同じことができる人を紹介したりはしますね。

宇多丸:
僕もそれはあるよ。
その件なら僕よりもこっちの人のほうが適任だと思うんで、みたいに言って、後輩の誰かを紹介するとか。

でもさ、ひとつフリーランスの習性として、とは言えそうやって依頼を断ってたら、仕事がいつか来なくなるんじゃないか?という不安にかられてしまって、ついつい来るもの拒まず姿勢になってしまいがち、というのはあると思うんだよね。

こばなみ:
断らないで全部やる!ってそういう方もいますよね。で、ちゃんともりもりこなしていくっていう……。
もう1つ飲酒さんからキャパシティに関する相談がきていて、それにもつながると思うんですけど。


✳️今週のお悩み-2✳️

相談の二点目は、「パワーの容量が違う人との仕事のコツ」についてです。 少し前にあった
「フリーライターの私と夫。彼の書くものは尊敬しているけど、仕事を取りに行こうとしない姿勢にイライラしてしまいます……」で、旦那さんはあまり積極的に仕事を取らないタイプ、とありましたが、私も旦那さんにとても近いタイプです(借金はしませんが)。 体力が昔からなく、小学校の持久走は半べそでビリを走っていましたし、会社員時代は繁忙期で帰宅が22時になる日が続いた頃は完全に死んでいて、「毎日終電」とかいう人とは体のつくりが違うのだと、そして、そういう仕事は自分には無理だと思いました。体力はつけようとDVDで15分のエクササイズをしていますが、途中で息切れします。休日、一日に二つ以上のイベントをこなす人(昼間友達に会い、夜は別の友達と飲む)を見ると凄いと思います。ただ、フリーランス業界で生きているとパワーの容量が尋常じゃない人によく会い、また、そういう人と仕事をすることも多いのですが、熱量や行動量が半端なく、ヘロヘロになります。メールの返信がLINEみたいな速度で返ってくると(しかも長い)とうわああ、と思います。 上記のフリーランスの奥さんからの質問で、こばなみさんが「この部分、ほんと仕事に対する考え方って分かれますよね。そこって人に言われたからってなかなか変えられないところだな、というのは会社勤めの私でも実感できます」 とお話されていて、本当におっしゃる通りだなと思います。体力というか、キャパシティの違いといいますか。 おそらく、宇多丸さんもこばなみさんも、超絶キャパが大きい方、だと思うのですが キャパシティが小ぶりな人が、キャパシティがでかい人と仕事をする際のコツについてアドバイスいただければ幸いです。 どうぞよろしくお願いいたします。

(飲酒・35歳・千葉県)


宇多丸:
僕は全然キャパでかくないですよ! 
おちょこですよ、おちょこ(笑)。

だからこそ、さっきの話の続きでもあるけど、不安にかられながらも、それで不本意な仕事をしてしまうよりは……と考えるようにはしてますよね。

やっぱフリーランスって、両面あってさ。好きな仕事を選べる反面、いいように使われてしまいがち、という側面もある。
これはもう、自分のブランディング次第だよね。
ほっとけば単価がどんどん下がってっちゃいかねない立場でもあるからこそ、自分の値を適正に保つためにも、やっぱ安請け合いはあんまり良くないんだよね。

とは言えひたすらふんぞり返ったまんまでも、いつかホントに仕事が来なくなっちゃうからね(笑)。
数をこなすのと、ブランディングと、バランス取っていかないと。
どっちかだけだとダメだと思う。

こばなみ:
どっちかの人もいますもんね。そこまででもないのにお高くとまってる人とか。逆に、お仕事くださいモードが強すぎても、大丈夫かな~?ってのもあるし。そのバランスって本当に難しい。

宇多丸:
そうそう。
だから結局は実績を重ねながら、自分のブランド力が高まるような仕事を要所要所で残していくしかない。

たまにいるはいるけどね。
締め切りまったく守らない、原稿落としちゃうこともしばしばで有名なのに、それでも依頼は絶えないし人気も上がるいっぽう、っていうような人。
それはもうさ、上げてくるもののクオリティがすべての難点を吹き飛ばすほど、ってことだし、しかもそれがその人にしかできないものであるっていうさ、とてつもなく高いレベルを、逆にクリアしてなきゃいけない話だからさ。
凡人がいきなりそこ目指しちゃダメですよ。

あと、さっき言ったこととはある意味裏腹な話だけど、キャパシティって、別に固定的なものではないから、自分が思い込んでるよりはずっと広げられるものではあるよね。

たとえばさ、学生の頃、やたらと忙しい忙しい言ってたけど、今の視点で見ると「どこがだよ!」って感じだったりするじゃん。
仕事だって、20代そこそこのときとか、すぐ「もう限界!」みたく音を上げてたけど、年齢と経験を重ねてみれば、あんなのなんてことないレベルだったな、みたいなことって、よくあるでしょ。

だから、どこかで自分に過負荷をかけてキャパを広げていく局面というのも、人生の中にあっていいのかなとも思うんだけど。

なので、「キャパがでかい人と仕事する際のコツ」に対する直接の答えにはなってないかもだけど、せっかくそういう人とご一緒する機会があるのなら、その時期だけはちょっと無理してでも、その人のペースに食らいついていってみる、というのもひとつの手なんじゃないですかね。
マラソンで、並走者がいるとより早く走れる、みたいなのあるじゃない?
 そういう感じで、自分を成長させるいいきっかけになるかもしれないじゃない。

こばなみ:
近くで並走することで、その人がキャパが大きい理由もわかったりするかもしれない!

宇多丸:
そうだよね。
その人も、ただ力まかせに頑張ってるわけじゃなくて、効率のいい仕事の仕方をしてるからだ、みたいなことが見えてきたりさ。
それこそそのコツを、当人に聞いてみたっていいわけだし。

だいたいさ、人に与えられた時間は平等に1日24時間で、睡眠時間も、ご飯を食べる時間も、トイレや風呂の時間も必ず必要なんだから、結局はその残りの時間をどう使うかっていう以外の話ではあり得ないんだよね。そんな決定的な必殺技があるわけではないっていうか。

もしくは、いっぱい仕事こなす秘訣は?って聞いたら、「寝ない!」ってだけだったりして(笑)。
そんなの受験生だってやってるよ!
 それは能力じゃなくて、無理してるだけだから(笑)。

とにかくそんな感じで、別に持って生まれた資質のあるなしとかじゃないのかもしれないよ。
つまり、「キャパが大きい人と小さい人がいる」っていう考え方がそもそも、あんまり的確じゃないのかもしれない。

こばなみ:
キャパが大きい人っていうのは、自分なりの効率の良さを見つけた人なのかもしれませんね。
仕事でも、そんな細かいところ、いまはそんなにやんなくていいんだよってこととか、あるじゃないですか。

宇多丸:
あるある。
経験を積んでくると、力を入れるべきところと抜いていいところがわかってくるから、同じエネルギー量でもより多くの仕事がこなせる、みたいのはあるかもしれない。
ライブとかもそうだもんなぁ。20代の頃より、アラフィフの今のほうが全然長時間やれるしバテないし喉も平気だし、っていうのは、まぁそういうことだよね。

こばなみ:
たしかに、誰もが持ち時間は1日24時間ですからね。

私もやるまでに時間がかかるので、キャパは大きくないと思いますが、小テクとしてはそれでもなるべく早く取り掛かれるように、前の日にちょっとでも、0.1%でも進めておくっていうのはやってます。企画書を書かなきゃいけないかったら、骨子だけ寝る前にメモしておくとか。次の日にイチからやるよりはマシ。

宇多丸:
その考え方いいね! まさに知恵ですね。

こばなみ:
なもんで、そもそもやっぱりキャパがでかい/小さいの2タイプあるって思うのをやめたほうがいいってのはあるんでしょうね。

宇多丸:
さっき言った「私は月産◯◯文字なので」っていうのは、あくまでその時点で仕事を受けられるかどうかの目安ということで。

こばなみ:
だから次月ならできます!とかの交渉をしてもいいと思うんですよね。

宇多丸:
「ほかの受注を全部断ってやることになるから、そのぶんもらわないとやってけない」とか、ギャラ交渉にも使えるかもだし。

こばなみ:
そうですね。よりよい仕事をしていくためには、安請け合いしない/させない。
依頼する側とされる側が50/50な関係でいることも努めていかなきゃだな、と改めて思いました! 
飲酒さん、ともにがんばっていきましょう~!!



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年1月20日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
こちら


女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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