フリーライターの私と夫。彼の書くものは尊敬しているけど、仕事を取りに行こうとしない姿勢にイライラしてしまいます……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室217】
✳️今週のお悩み✳️
私の悩みは1つ年上の夫のこと、もしくは自分の仕事のこと(?)で、是非、お二人のご意見を伺いたくご相談しました。私はフリーランスで文筆系の仕事をやっており、夫も同業者です(仕事歴は私が4年で、夫が1年長いです)。私は依頼が来るのがとにかく嬉しいというタイプで、限界まで仕事を詰め込む & 少しでも余裕があるとすぐに営業を掛けにいく方なのですが、夫は来ればやる、という程度で全体的に仕事を受ける量が少なく、月の収入が家賃光熱費などとほぼ同額、というときもよくあります。私としてはここがあまり理解できません。夫もものを書くという行為自体は好きなはずで、仕事がある時は全力を傾けて頑張っています。なら普段から積極的に仕事を取って来て、お金を稼いだ方がいいんじゃない?と思うのですが……、私が「来月は一体何の仕事をするの? お金はどうするの?」と少し強めに言わないと、新しい仕事を探してきてくれません。しかし、これをやると夫はすごく落ち込んでしまいますし、本人はそのせいでED気味になっているかも、と言います。けれど夫は放っておくと(私には内緒にするのですが)自分の友人や家族に借金を頼んでしまうので、私も黙っていられないのです。正直、仕事やお金に対する考え方が違いすぎて、夫の考えがわかりません。話し合いをしても、謝罪と「自分も色々考えているから」「これから頑張るから」ということぐらいしか言ってもらえず、またすぐ同じことが繰り返されます。と、つらつらと書いてしまいましたが、結局これは、忙しい自分が楽そうな夫に嫉妬しているだけ?という気がしないでもないです。夫にお金がない、貯金がない、というのは将来のことを考えると辛いところですし、借金はやめてもらいたいですが、生活費は折半、財布はわけていて一応迷惑をかけられたことはないし、仕事の取り方などは夫個人の問題で、私が口を出すことではないのかも、と思う面もあります。でも同業者として、一緒に仕事をしたい相手がいて営業のための企画書まで作っているのに何故かいつまでも送らなかったり、仕事を取りに行こうとしない姿勢というのは理解が出来ないし、なら転職した方がいいんじゃないのとイライラする面もあるし……、ああこういう気持ちで仕事について話すから夫を落ち込ませるのかな、私が夫の才能を潰しているのかなと悩むことばっかりです。宇多丸さん、こばなみさん、私は今後、夫に対してどう接していけばいいのでしょうか? 普段はとても仲のいい夫婦だと思いますし、私は夫の考え方や書くものを尊敬しています。だからこそ余計にイライラしてしまいます。何卒、アドバイスよろしくお願いいたします。
(はた子・27歳・東京都)
宇多丸:
夫婦がフリーの同業者同士、と。
お互いの仕事に理解があって、いい面も当然あるだろうけど、なまじいろいろわかりすぎてるぶん、ついイライラしちゃったり、プレッシャーを感じてしまったりする場面も多いんでしょうね、きっと。
ちなみにですが、僕もどっちかと言うと、あんまり自分からガツガツ仕事を取りに行くようなタイプじゃないかもしれない……、今でこそ、ありがたいことにほぼ途切れなく何かしらの依頼が来るようになってくれてるからいいけど、それこそ20代後半、音楽ライター業でなんとか食ってた頃も、あくまで人から振られた件を、しかも相当選り好みして受けてただけで、わざわざ営業かけたりとかはまったくしてなかったし。
決して褒められた姿勢じゃないよな、というのも一応は自覚しつつ……、なんだかこう、わりとのんびり楽観しちゃう性格なんですよね、意外とそこは。
だから、彼側の感じも、ちょっとわからないでもない。
こばなみ:
仕事のスタイルは人それぞれだと思うけど、借金しちゃうっていうのはどうなんですかね……。
宇多丸:
あ~、そこは本当に大問題だよね。
僕もさすがに借金はしなかったから、よく考えたら全然違うっちゃ違うわ。
仕事取りに行くのも気が重いだろうけど、お金借りるために人に頭を下げて回るほうがさらに数段イヤでしょ!って思うんだけど。
ということで、じゃあどうするか。
大きく分ければ、二つの方向があるよね。
「彼のほうの姿勢を変える」のと、「はた子さんのほうの心持ちを変える」のと。
すでに前者のアプローチに対しては、けっこうな拒絶反応があったわけだけど……。
でもまぁ、まずさしあたっては、「借金ゼロでの生活費折半」というのを、最低ラインとして文字通り死守させる、というところからじゃないですかね.、やっぱり。
そこだけはホント、仕事を積極的にするとかしないとか以前の、対等なパートナー同士であるために最低限守るべき一線じゃないですか。
だいたい、黙って勝手に借金するとかさ、夫婦的にはほとんど、完全アウト!の背信行為だと思うんですよね。
だって、事実として、はた子さんだってリスクを背負わされてるわけだからさ。知らないうちに!
なので、もし仮に現段階で彼に借金が残っているのなら、そこをとりあえずゼロにするまでは、ちょっと無理してでも余計に働けや! 話はそれからだ!っていうのはありますよね。
そうやって、人としての最低ラインをきっちり守れるようになって初めて、仕事に対する積極性を持ってもらえるかどうかとか、そういうレベルの話もできるようになるわけで。今はぶっちゃけ、そのスタートラインにも立ってない感じかもしれない。
ただその、仕事のペースということに関しては、人それぞれってところも、やっぱどうしてもあるからねぇ……。
はた子さんも、彼が書くもののクオリティに関しては、すごくリスペクトがあるわけじゃないですか。
ひょーっとしたら、ヘタにペースアップなんかさせると、質からガタガタになってしまうタイプだったりするかもしれないよ? まぁ、甘ったれた話なのに変わりはないんだけどさ(笑)。
こばなみ:
その部分、ほんと仕事に対する考え方って分かれますよね。
そこって人に言われたからってなかなか変えられないところだな、というのは会社勤めの私でも実感できます。
宇多丸:
だからまぁ、まずはやっぱり、さっき言った最低ラインを死守させることから徹底して……、ただ、そこははた子さんにとってはあくまで妥協点でもあって、決して完全にハッピーというわけでもないんだぞ、というのはしっかり伝えておいたほうがいいでしょうね。
不満があるということは言いましたよ、と。そのうえでなお、それでも自分のペースを優先させないとダメなんだという、はっきりした確信と覚悟があるなら、私はもうなにも言わないから、お互いルールだけは守りながらそれぞれの道を行きましょう……って感じでどうですかね?
こばなみ:
普通のことを言ってますけど、思い切って線を引いた感じはしますね。
宇多丸:
ただ彼も、なかなか打たれ弱い人のようですから(笑)、そのぶんフォローはしてあげてもいいかもね。
たとえば、あなたの文章は素晴らしいとか、彼が仕事したら必ず、念入りに褒めてあげる。
で、もっと多くの人にあなたの才能を届けたい、あなたにはその価値がある……、だからこそ!というようなニュアンスで、彼の仕事へのモチベーションを高めていく、っていうのはどうですか?
たぶん、ちょっと強く言われるとEDになるくらいだから、逆に、褒められればすぐその気になるんじゃない?(笑)
こばなみ:
褒められて伸びるタイプ!
宇多丸:
というか、誰だって基本的にはそうでしょ。「自分にはやればできる!」っていう自信がベースにないと、できるもんもできなくなっちゃうっていうのは。
ひとつ言えるのは、おそらくは彼の生来の気質でもあるマイペース感を、はた子さんが絶対的なマイナス面として捉えるところから始めてしまうと、人間関係というのはやっぱり、確実にネガティブな方向にしか転がってゆかないものだからさ。
つまり、「彼はおっとりしたのんびり屋さんで、はた子さんはテキパキしたしっかり者」っていう二人の構図って、「お互い補完してサポートし合える好対照」にも、逆に「決して相容れない水と油の関係」にも、両方なり得る可能性を持っているわけじゃないですか。
で、その分かれ目っていうのはやっぱり、相手の「他者性」にどれだけ寛容かというか、それを大前提としてできるだけ「素直に」「優しく」接することができるかどうかっていう、そういうところだと思うんですよね。
だから、彼のケツを叩くにしても、さっき言ったように、あなたの仕事ぶりは社会的にももっと評価されて然るべきだと、心から思ってるからこその叱咤激励なんだ、というふうに、彼のプライドを傷つけず、なんならやや増長させかねない方向で(笑)伝えるような、そういう話し方というのは心がけられるはずだと思うんです。彼の心を折るのが目的でないのならね。
こばなみ:
表現の仕事をしているし、言い方はきっとうまくできるはずですよ!
宇多丸:
無論、それに対して彼のほうも同じく、ポジティブに、誠実に応えてくれてこそ、でもありますが……、そこから先は彼の器というか、人間性の問題でもあるからなぁ。
もういっかいもろもろ整理すると……。
まず、生活費折半というのは「お互い独立した対等な個人としての立場をキープする」ための考え方のはずなのに、ダンナがやってる無断借金というのは、一見「独立した対等な個人」の自由な選択に見えるけど、実際にはパートナーであるはた子さん側にも勝手にリスクを負わせる甘えた行為であって、本質的にルール違反なので、そこはやはり、多少仕事量を増やすなりなんなりしていったんチャラにするところまで持っていってもらい、今後も絶対にしないよう、しっかり約束させる。
そして、改めてそのスタートラインに立った時点で、もう一度だけ、はた子さん側の「あなたがこうあってくれればベスト」という希望と、彼側の考えというのを、お互い冷静にすり合わせてみる。
そこでどうしても折り合いがつかない部分に関しては、やはり、さっき言ったような最低限のルールさえ守っている限りは、はた子さんもこれ以上踏み込まない、ということにしたほうがいいかもしれないですね。
たぶんだけど、はた子さんにそこまで明確な線引きをされることで、彼側はむしろちょっと焦るんじゃないかな、という気もします。なんかこう、突き放されたような気分になるというか。
で、それでも彼との関係を良好に保ってゆくための一種の「知恵」として、平たく言えば、彼の仕事ぶりを叱るんじゃなくて、おだててその気にさせる(笑)方向のコミュニケーションを心がけるのはどうでしょう?と。
はた子さんはもともと彼の才能は高く買ってるわけだから、それもそんなに難しいことじゃないはずだし。
で、あとは彼の出方次第、と……、そんなとこでいかがですかね?
うまくいくこと、祈っておりますよ!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年11月25日に公開したものを再編集し、掲載しています。