【ライムスター宇多丸のお悩み相談室98】フリーライターをしています。ストレスになる編集者との付き合い方を教えてください!
✳️今週のお悩み✳️
いつも楽しく拝読しています。私はライターを5年しています。ウェブサイト(雑誌、本でもですが)は宇多丸さん、こばなみさんのお悩み相談室のような、面白いものある一方で、昨日見たテレビの感想など、こんなんで金もらえるの? これ個人ブログ? みたいなものも散見できます。私が書いている媒体でもそういう記事があるのですが、同じギャラと聞き、ライターが編集者の愛人なのではないかと邪推するほどです。編集側から赤を入れられると、なんであんな個人ブログがOKでこれはダメなのか、私は編集者の「仕事した感」に付き合わされているのか、と思うこともあります。たしかにこれは納得のいく指摘だ、というのもあるのですが、あとから思っても前のほうがよかった、と思うこともあります。フリーランスなので自分の健康も大切です。どうもこの編集者の指摘は身にしみない、ストレスにばっかりなる、という方とは仕事の量を減らしたり、断ったりできるフリーランスの強みを生かし、微調整はしていますが、クリエイターの先輩として宇多丸さん、そして編集者としてこばなみさんのご意見をお聞かせください。
(飲酒・33歳・千葉県)
宇多丸:
僕自身も、大学出てしばらくはフリーの音楽ライターとしての収入でずっと食ってましたし、今もこうして連載をいくつか持たせていただいてたり、インタビュー記事を書いてもらうこともちょいちょいあったりで、編集者の方と仕事する機会はかなり多いほうだと思うんですが。
ちなみに今の僕の立場からすると、渡した原稿に勝手に赤を入れられるっていうことはまずなくて、逆に、修正案含め何か意見を言ってくれる人のほうが少なくなってきちゃうんですよね。
一番テンション下がるのが、死ぬ思いで〆切守って原稿提出したのに、いつまでたっても連絡ひとつないって場合……、こういう仕事についてる皆さんに改めて言っておきたいけど、基本そっちがいついつまでによろしくって依頼してきた件でしょ! 最低限の確認として、ちゃんと受け取って内容もチェックしましたってことくらいは、なる早で連絡返してくださいよ。届いてるかどうか自体が不安になってきちゃうしさ。
その上で本当は、いいとか悪いとか、なんかしらの感想くらいはやっぱり添えて欲しいもんだよねぇ。 そこで、もちろん手放しで褒めてもらえば嬉しいのは当然だけど、さっき言ったように、今みたいにどっちかと言えば「原稿をお願いされる」ような立場になっちゃうと、率直な意見を言ってもらえることもだんだん減ってくるからさ、たまに「ここはこうしたほうがいいんじゃないでしょうか」みたいな提案があったりすると、それはそれで手応え感じますよ。
そういう意見のなかには当然、言われてすぐ「あーなるほど」と納得できるのもあれば、「えっ、それはちょっとどうなんだろ……」って思っちゃうのもあるんだけど、たとえ後者の場合でも、たとえば「そこはこれこれこういう意図で今の表現にしてるので、その直し入れちゃうとちょっとニュアンスが違っちゃうんですけど」とか自分の考えをしっかり伝えた上で、先方が示した例とはまた違う修正の方向も提案してみたりとか、なんにせよ担当の方とコミュニケーションを密に取りながら、最終的にはやっぱり双方満足できるような着地を探るようにはしますよね、できるだけ。
その意味では、ホントはメールとかじゃなくて、打ち合わせから編集者と書き手が直で会ってやりとりするのが一番いいんですけどね。 『BUBKA』でずっと僕の連載の担当やってもらってて、今や編集長になっちゃったサミュLくんが新人時代に先輩にまず教えられたのは、「必ず直接会って打ち合わせしろ、そこから何か生まれることもある」ってことなんだって。すっごい真っ当な教えだと思いますよ。 最近は僕のほうが忙しさにかまけてなかなかそこを守れてないのが申し訳ない限りなんですが……、白夜書房ってとかくアウトローなイメージあるかもだけど、そういう点では僕が仕事してきた相手のなかでもトップクラスにちゃんとしてますよ。僕ごときに律儀にお歳暮お中元も欠かさないし! こばなみは、編集者としていろんなライターさんとどう接するようにしてる?
こばなみ:
初めての方はほぼ絶対会いますね。あと新しいことをやるときは会って打ち合わせしたり。女子部の記事をお願いしている方々とは、月1で会議をやったり、新作発表会に一緒に行ったり、取材ついでに飲みにいったり、けっこう会ってるかな。
コミュニケーションを頻繁にとって、お互いわかりあった状態にすれば、細かいことはメールで詰めたりしたとしても、齟齬はなくなりますからね。
どうしても関係性が薄い状態で、メールの文字面だけだと、ニュアンスによって誤解も生じてしまうことがある。 言った言わないとか……。
宇多丸:
ライターさんへの修正依頼はどうやってるの?
こばなみ:
後輩への戻しが多いのですが、人によっては口頭で「もっとテンション上げたい」とかって抽象的に言うときもあるし、赤字を細かく入れるときもあります。でも前者が多いです。
宇多丸:
そこでさ、さっき僕が言ったみたく、「ここはこういう意図だからこうしてるんですが」とか返されたらどう感じるの? ムッとする?
こばなみ:
ムッとはしないです。さっき宇多丸さんも言ってたけど、そう思えればそうするし、媒体の主旨として違うって思ったら「こうしない?」って話し合う。
ただライターさんに頼む時は基本的に「あなたに書いて欲しい!」というスタンスでお願いしているので、なるべく書いてもらったものを活かしたいという気持ちはありますね。
あまり自分の考えを押し付けてしまうと、広がらない気がしていて。
宇多丸:
なるほど。
とにかくひとつ言えるのは、仮に意見の相違が生じたときも、お互い納得するまでやりとりして、確実に前よりいいものにしていく、というのがどんな場合でも理想なのは間違いないよね。
まぁ現実にはなかなか、〆切間際だったりしてそんな時間的余裕もなかったりするんだろうけど……。
なので、もし飲酒さんが、納得いかない修正や指摘でもこれまではとりあえず黙って受け容れてきただけ、なのだとしたら、一度はっきりこっちの考えを伝えてみるのは、全然アリだと思いますよ。 まともな編集者なら、さっきこばなみが言ったみたいに、ちゃんと話し合ってくれるはず。
前に曲作りの場合を例に挙げて話したけど、関わっている人全員に共通の大目的として、「いい仕事をしよう」ってのがあるだけなんだからさ。 たとえ、要所要所で考え方が違って議論になったり、ときについ感情が出ちゃうようなことがあったとしても、それは個人的な意地とかエゴの通し合い、ケンカとは違うんだから、本来は遺恨なんかいっさい残らないし残しちゃダメ、なはずなんだよね。
ま、お互い人間だから、わかっちゃいてもそこまでさっぱり割りきれないことも多いでしょうけど……。 問題は、飲酒さんと、今お仕事をされている編集者の方の間に、そういう信頼ベースのやりとりができるような関係性が、残念ながらまったくできていないっぽい、ってことですよね。
たとえばその編集の人が、職種に相応しい能力をまったく備えてない、はっきり言えばホントに無能で、話し合ったってどうにもならない、みたいなことだってもちろんあり得るだろうし……、あるいはそもそも、人としての相性が最悪、って話なのかもしれない。
こばなみ:
どう密にコミュニケーションを図ろうとしても、合わない人ってのはいますからね。
過去に一度、直しを依頼したら怒っちゃって、その企画からライターさんが降りちゃったことがありました。私も20代で経験不足な上に生意気盛りで言い方がなってなかったってのも原因だと思うのですが。わりとベテランの方で、もう何もかもが合わなくて……。結局どうしようもなくなり、取材をし直して自分で書きました……。辛かった……。
宇多丸:
で、飲酒さんはまさに、フリーのライターとして、そういう「合わない」編集者と距離を置いたり、依頼を断ったりしても大丈夫なもんなのかな?っていうのをちょっと心配されてる感じですよね。
たとえばこばなみは、フリーのライターさんに何か仕事を頼もうとして、何度か連続で断られたら、もうその人には連絡しようと思わなくなる、とかってあります?
こばなみ:
理由によりますよね。私のことが嫌いで私もなんだかなーって思ってしまったら、もう頼みませんけども、スケジュールや予算の関係で断られた場合、またその人にお願いしたい内容があれば頼むと思う。
宇多丸:
やっぱり、「その人ならでは」の何かがあるかどうかってことですかね。
フリーでやってくっていうのは、そういう自分なりの武器をなんかしら持ってる、ってことだもんね。
逆に言うと、自分の武器を生かせるような仕事を「選べる」っていうことこそ、フリーの特権のはずなんだよね。 得意なことをピンポイントでやってるんだから質も上がる、そしたら評判も高まってさらにそれ関連の依頼が増える、もちろん自分も楽しい!っていうサイクルを目指すべきなわけでしょ。
こばなみ:
そうそう。やりたい仕事しかできない状況を作っちゃったらいいと思うんですよ。
私が所属してるのは、編集を請け負う制作会社なんですけども、若い頃は自分で仕事がつくれないから、これやって!あれやって!というふうに、いろいろとやらねばならなかったわけなんですが、20代後半くらいでしょうか、ダイエット本を作ってたんですけど「私、このままずっとダイエット本つくってくのはイヤだな……」ってふと思ったんですよ。
で、そうだ!と思いついたのは、苦手な仕事をやれるスキマがないくらい、やりたい仕事をつくればいいんだって。
ぼーっとしてると、向いてない仕事も無条件にまわってきてしまうので、企画を考えて営業に行ったり、ライムスターのみなさんにも連載をお願いしていた某ラジオ局のフリーペーパー人脈で派生した本をやったり。そうすると、そこから同じ傾向の仕事が広がったりもするもんで、一石二鳥というか。
実は女子部JAPAN(・v・)もやりたくて始めたことなんですよ。もともとは「iPhone女子部」ですけども、立ち上げた理由は当時iPhoneのことって男性向けの雑誌ばかりでやってて、女子が読めるものがないなと思ったから。 だからまず自費出版で絵本みたいな解説本を企画して作ろうと、社長にプレゼンして、いろいろ調べて、売ってくれる協力会社を探してってやっていって。その後、本だと一過性で終わっちゃうから、じゃぁWeb作ろうって最初はブログから始めてコツコツやってたら、部員になりたいでーす!って人が集まってきてくれて、そのうちメディアに取り上げられるようになってと……。 最初はノリもありましたけど、続けていくうちに、そこから広がってフリーペーパーを作ったり、イベントやったりで、まぁ今に至るんですが。
やっぱり受け仕事、つまり決定権が自分らにないのものよりも、自分たちの媒体だったら編集方針や基準を決められるわけで、それはそれですっごく難しいって実感してるんですが、ワクワクはものすごい。 こうして、宇多丸さんにまた連載をお願いできるようになったのも、当時の私からしたら、夢叶った!みたいな感じもあります。
もちろん、まだまだ課題はいっぱいだし、修行は続きますが。
宇多丸:
へぇ、そんな経緯があったんだ!
なんでもやりたいことがあるならやってみるもんだね! そう言えば僕の知り合いでも、まずはブログとかで自分から積極的に発信していった結果、その後のキャリアにつながっていったって例、結構多いもんなぁ。
それは一部の才能ある、ラッキーな人たちのことでしょ、って思うしかもしれないけど……、それにしたって、ネット発信にしろ持ち込みプレゼンにしろ、自分なりの「これがやりたい」や「これができます」をアピールしていったりもせず、ただ受動的に指示待ちしてるだけだったらそりゃ、不安定で保証もない上に立場が弱いから不本意な仕事ばっかり増えるっていう、フリーランスのマイナス要素ばっかり背負うことになるのは必然ですからね。
こばなみ:
せっかくやりたいことがあってフリーになったのに、日々の生活費を稼ぐためにやりたくないことをやってライターをやってても、制作会社にいるのとなんら変わらなかったりしますからね。
なので私は、お金に余裕があるなら、断っちゃったらいいのにって思いますけど。お金に余裕がないなら、期間を決めてがっと稼いで、やりたいことに向かう時期をきちんと決めるとか。
宇多丸:
あと、飲酒さんがどういうタイプのライターさんなのかにもよるけど、あんまりなんでもかんでもホイホイ依頼を受けすぎると、フリーでやっていくには 必須とも言える、「この件ならあの人でしょ」的な、言わば職人としてブランドがちょっと安くなってきちゃうって問題もあるよね。
逆に、ここぞというときに頼りになる何でも屋さん、便利屋さんとしてのブランド、という活動スタンスも当然あり得るわけだけど。
なんにせよ、飲酒さんが現にしているという「微調整」は、フリーランスとして当然の知恵だと思いますよ。その考え方で全然問題ない。
その上で、さっきから言ってるように、ただ受け身でいるんじゃなくて、日頃から「自分ならでは」の武器を外に向けて積極的にアピールしつつ、これはプロの矜持として、意見の主張やすり合わせが必要だと思えば、その場その場できっちりやっていく……って、改めて言葉にすると当たり前のことばっか言ってるようですけど、これがなかなか、実際にやり通すのは難しかったりするもんで。 とにかくそうやって、一個一個手を抜かず、真面目に「いい仕事」を積み重ねていけば、仮に誰かには生意気だとかめんどくさいとか思われてしまったとしても、同じように「いい仕事」がしたいと考えてるまた別の誰かは、きっと必ず反応してくれるはずだからさ……、少なくとも、そう信じて腐らず頑張ってかないと、ただただ搾取されて消耗してくだけ、ってことにもなりがちですから。
こばなみ:
これ、いろいろ話していて思ったけど、会社にいたって同じだ。
宇多丸:
たしかに。
組織に属してたって、さっきから言ってる「この件ならあの人でしょ」的な自分の得意テリトリーの確立とか、意見が対立したときに発展的に解決していこうとする姿勢とか、普通に大事なことなはずだもんね。
逆に言えば、フリーと言っても、誰かとの共同作業であることに変わりはないってことでもある。 むしろ、会社というワンクッションを置かないぶんフリーのほうが、人対人の信頼関係みたいな部分は、より重要になってくるとも言える。
飲酒さんもさ、どうにもウマが合わない編集者がいたりするのはしょうがないとしても、こんなペンネーム付けてるぐらいだから、「飲みニケーション」は苦手なほうじゃないんでしょ? だったらさ、たまには飲みにでも誘って親睦を図ってみたりするのも、ありがちだけど全然ひとつの手だと思いますよ。あっち側の真意みたいのもちょっとはわかるかもしれないし。 ただ、酒が入るとお互い遠慮がなくなるぶん、「しくじり」の危険性も高まるからな……、ま、そのへんは自己責任で!
こばなみ:
にしても、最初に話していたことにちょっと戻りますが、このやろーとか意見をガウガウ言ってくるライターさんが少ないなか、飲酒さんはガッツある感じでいいなって思いました。ってちょっとセンパイ面しちゃいました。失礼!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年5月30日に公開したものを再編集し、掲載しています。