職場で嫌な人に対してあからさまに嫌な顔をしてしまいます。これって直せますか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室66】
✳️今週のお悩み✳️
私は嫌なことがあると、それをなかなか忘れられない性格です。一度嫌な思いをすると、その人には、上辺だけの付き合いになるだけならまだしも、あからさまに嫌な顔をしてしまいます。友達同士なら会わなければすむ話なのでいいのですが、仕事場だとそうもいきませんし、雰囲気が悪く思われていると思うのですが。どうしても顔に出てしまいます。これって直せますか?
(るるる・30歳・千葉県)
宇多丸:
最初に言っておきたいのはさ、るるるさんは、自分の嫌な部分、ダメな部分をちゃんと自覚して、そこにしっかり向き合おうとしてる時点で、人として結構なハイステージにいるほうだと思いますよ。
前に「友達に嫉妬している」っていう相談をしてきた方とも通じますけど。
僕ら大多数の人間はさ、自分では「ホントは怒りや不満をものすご~くガマンしてるのに、それを表に出さないようにしてて私エラいっ」くらいに思ってるんだけど、ハタから見てると普通に「お前、顔に出すぎ!」って感じだったりとか、まぁだいたいそんなもんでしょ。
こばなみ:
ですね。私も出ないように出ないようにと気をつけていても顔に出ちゃうんですけど、仕方ないじゃーん、だって相手が云々とか思っちゃいますもん。
宇多丸:
まぁ、どうしても怒っちゃうときがあるのは、人間だからしょうがないんだけどね。
僕もたまに、全身から怒りのオーラが目に見えるほど出てるって言われることがありますよ(苦笑)。 だいたいそういうときは、自分でも意識的にピリピリムードを発散させてもいるんだけどね。 まぁ、イイ歳こいて褒められた話じゃないですよ。 ちなみにこばなみの部下で顔に出るタイプの子っている?
こばなみ:
いるいる。怒ってるとか、あきらかに不満顔とか。
宇多丸:
そういうとき、どうするの?
こばなみ:
どうしたの?嫌なの?とか聞くこともありますね。時間のないときや、不満を聞いたり怒りを受け止めるパワーが自分にないときは、こっちもプンスカしたりして、そのまま進めちゃったりしますけど。
ちなみに宇多丸さんは、怒ったことを忘れないほうですか?
宇多丸:
場合によるけどね。でも、基本的にはあんまり引っ張らないほうかなぁ。
さっきも言ったように、自分では覚えてなかったりもするくらいで……って、それはダメか。
でもとにかく、わりとその場で終わらせようとするし、実際終わっちゃうことが多いと思う。
あと、これは幸いなことに、今となっては、直接仕事するような人でそこまで「嫌な人」って、まずいないんですよ。 行き違いとかはあるにせよ、お互い悪気があるわけじゃないのははっきりしてるから、怒りや恨みを抱き続けるような対象にはなりにくいというか。
ライムスターとして活動を始めて何年か、どこへ行ってもホントに下の下の扱いを受けてた頃とかは、忘れられない屈辱的な経験、みたいなこともなくはないけども。 それすら今はもう、笑い話になっちゃってるからなぁ。
それよりさ、会ったことのない人のほうが、勝手に嫌な印象抱きがちだったりしない? で、直接会って話してみたら「あれ? なんだ全然いい人じゃん!」みたいな。
要はさ、当然ながらひとりの人間にもいろんな側面があって、ある一点だけ取り出せば絶対に相容れなかったり、ものすごく嫌なヤツみたく感じることもあるかもしれないけど、別にその要素だけでその人が出来てるわけでもないっていう、そういうことだと思うんですよ。 それ以外のいろんな要素を総合すると、別にそこまで、言っちゃえば本質的に「悪い」人ってわけじゃないよなそりゃ……っていう。
ライムスターに『POP LIFE』という曲がございまして、そのなかの僕の歌詞がまさにそんな感じのことを歌っておりまして。 るるるさんも、必要以上に親しくなろうとする必要なんかないけど、「その人から受けた嫌な思い」と「その人そのもの」は、分けて考えるようにできないですかね? 嫌な思いをしてしまったのはある一点のみにおいてのことであって、他の大部分では、ひょっとしたら決して相性は悪くない、どころかむしろ好きにさえなってしまうようなところがあるのかもしれない。 少なくとも、そういう考え方をするように努力してみるっていう。
ま、なかなかそうキレイにはいかないのも現実だろうけど……。
こばなみ:
どんな嫌な思いをしたんですかね?
宇多丸:
そうだね。その種類にもよるかもね。
職場で考えられる原因として、大きく2つに分けてみようか。
1. 仕事上のトラブル
2. 仕事とは直接関係なく、単に意地悪された(と、るるるさんが感じた)
まず、前者の場合だけど。 意見の相違とか、ミスして怒られた、逆に相手のミスにイラッと来たなど、仕事上でもつい感情が先に立ってしまう場面というのは、往々にしてある。 時には口論になってしまうこともあるでしょう。 でもそれは、本質的には「ケンカ」じゃないはずですよね。 あくまで仕事という共通の大目的を達成するための、言わば「調整」でしかないはずでしょう。
自分に置き換えてみると、たとえばレコーディングで、曲作りの方向性にメンバーと意見の相違があったとする。 滅多にないけど、時には声を荒げるくらい言い合いが白熱することもあるかもしれない。 でもそれは、そこにいる誰もが、あくまで作品と良くするために議論を尽くしているだけであって、自分のエゴを通したりするのが目的ではないはずなんですよ。 まぁ、実際にはそこんとこを子供っぽく混同しがちだからこそ、ケンカ別れ、解散してしまうグループも多いわけですが……、逆に言うと、ライムスターが25年間もやってこれたのは、常にそこに意識的であろうとメンバー同士が努力してきた結果でもあると思うんです。
とにかく、仕事上の達成というのが共通の目的なのははっきりしてるんだから、なんであれそれを阻害するようなことはやるべきじゃない、っていうのは当然の話ですよね。 そこでたとえばさ、ミスばっかしてるとかやる気がないとかは言うまでもなく即時改善されるべきポイントなんだけど、そういう同僚や部下を、必要以上に怒ったり嫌ったりすることで職場の空気を悪くしちゃったり、スムースなコミュニケーションを取りづらくしちゃったりするのだって、結果的に「目的を阻害」しちゃってるって意味では、同じように戒められるべきことなんじゃないの、と僕は思うんですよ。 前にも「どれだけ自分では仕事デキるつもりのヤツでも、日々接してて感じ悪いような人とは、誰も継続して仕事したいとは思わない」つまり「仕事できない人と同じじゃん!」って話をしたけど、まぁそれと同じようなことで。
ということで、前者だった場合は、「仕事上の対立は“ケンカ”ではない」「感情的にならないのも仕事のうち」、この二か条を常に思い返して、自らを律するよう務めてください!
それじゃあ、後者の場合はどうか。
相手が過去に、はっきり悪意を持って何かしてきたりしたんなら、そりゃあどうしたってこっちもその人を嫌いになって、会う度につい構えちゃったりするのも、まぁ仕方ないことのように思えますけど。 ただ、いったんちょっと考えてみてほしいのは、その「はっきり悪意を持って」という部分。 もし、「なんとなくそう感じる」というレベルなのであれば、前に「LINEで実はハブられてる?」って相談があったときに回答した通り、元はかすかな悪意、の・ようなものでしかなかった感情のズレを、むしろこっちがわざわざ拡大して、確定的なものにしちゃってる可能性はないか、一度落ち着いて検証し直してみる余地はあるんじゃないかと思います。
いや、そんなんじゃなくてホントに、直接文句は言いづらいくらい遠回しに、でも間違いなく意図的な嫌がらせをされたんだ、みたいな感じなんだったとしたら……ひとつ言えるのは、そこまでいくと今度は、その人がなんかるるるさんに意地悪してるってこと、実は周囲の人にもちゃんと伝わってると思うんですよね。 「誰もあの人が問題アリってことに気づかないの?」って思うようなときは、たいてい周りの人間も同じように感じてるもんだっていう。
で、そうやって問題を共有していくと、「あの人、みんなにそう思われてるんだ……」と、だんだんかわいそうになってくるというか、上から目線の余裕が生まれてくるんじゃないかと。 嫌な顔どころか、慈愛に満ちた笑顔で接することができるようになりますよ
こばなみ:
職場のほか、学校でもそんなケース、ありそうですね。
宇多丸:
とにかくね、直接的な攻撃を受けたんじゃない限りは、鷹揚に構えてたほうが勝ちですよ、こんなもんは。
そのための気持ちの持ってき方を三段階にまとめると、
■ステップ1
「不快に感じたのはあくまであの人の一面に過ぎないのであって、他の大部分は違うのかもしれない」と鷹揚に構える
↓
■ステップ2
「と、鷹揚に構えているはずの私も腹に据えかねるほど、これだけはっきり嫌な人なのだから、みんなからも同じように嫌われているに違いない」と鷹揚に構える
↓
■ステップ3
「実際みんなに嫌われているのを確認。むしろかわいそうな人だ」と鷹揚に構える
注意ポイントとしては、ステップ3に進む際の「味方」選びはくれぐれも慎重にしたほうがいいということですかね。下手打つと、逆にるるるさん自身が評判を落としかねない。 いろんな意味で、できればステップ2くらいで止めておくのが望ましいとは思いますが。
とまぁ、あれこれ偉そうに言ってきましたけど。 いずれにしても、冒頭で言ったように「自分は顔に出るタイプだ」と自覚できている時点で、るるるさんはたぶん、そのへんの凡夫より実はずっと自己抑制ができてる人なんだと思いますよ。 ホントにもうあとちょっと意識的になろうとするだけで、余裕で直っちゃうんじゃないかな~、という気がします。
それより、気をつけなきゃいけないのは「そのへんの凡夫」たる僕ら自身だよきっと!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年10月18日に公開したものを再編集し、掲載しています。