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「どう生きたいかは誰と生きたいか」、友達のSNSを見てどんより……。一人で生きている私は何か欠けているのでしょうか。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室445】


✳️今週のお悩み✳️
先日、友達がSNSで「どう生きたいかは誰と生きたいかだと気づいた」と書いているのを見て、深く刺さるとともに自分にどんよりしてしまいました。
私は26歳から7年間結婚していた人と別れてから、誰かと生きることが想像つかずに暮らしてきました。周りの人のようになぜなれないのかと定期的に落ち込んではいましたが、生きたい人がいないということに、決定的に心が落ちました。
親や兄弟の家族は大好きですが一緒に生きる人たちでないことはわかっています。一緒に生きる人を作れない私は心が狭いのでしょうか、わがままなのでしょうか、そんな簡単な表現で済ませていいのか、直さずいたらどんな寂しいことが待ってるのかと思うことも身勝手な気がしてしっちゃかめっちゃかです。
すごく単純なことをお聞きしているかもなのですが、一人で生きていくのはやっぱり何か欠けているんでしょうか。誰かと生きる努力をした方がいいのでしょうか。
(ライコネン・46歳・公務員・兵庫県)


まぁ、「どう生きたいかは誰と生きたいか」っていう表現の、バシッと決まった「格言っぽさ」というか、いかにも説得力がありそうな「言い切り感」に、否応なく食らってしまう気持ちもわからないじゃないけども……。

まず、僕はその発言、どっちかというと、前からちょいちょい出てくる「職種じゃないよメンツだよ」論に近い意図なんじゃないか、と解釈するんですが。
つまりこの「誰と生きたいか」というのは、イコール「誰と生きたくないか」ということを含む……というよりむしろそっちのが肝要くらいの、要は「主体的な生き方の選択が大事だ」って話をしてるんであって、「とにかくなんでもいいから誰かと一緒にいるべき」みたいなことが言いたいわけじゃないんじゃないか、と思うんですよね。

逆に、誰でもいいからパートナーを見つけなきゃ!みたいな強迫観念に駆られて、そんな本意じゃないような人ととりあえず一緒にいる、みたいになるのが一番よろしくないんじゃない?的なことを言おうとしてるんだと思うんですけど。


そうですね。誰と?ってところを問うていますもんね。


その意味でライコネンさんは、もともとご自身にあったコンプレックスに過剰に引き寄せて、その友人発言を解釈しちゃってるんじゃないかな、って気が僕はします。

「どう生きたいかは誰と生きたいか」……だったら私はとりあえず私自身と生きていきたいです、ってことでもぜんぜんいいわけだから。たとえばですけどね。

てか、この連載ではまさにその「私は私と生きていく」っていうのをこそ、誰もが人生の基本スタンスにすべき!って主張を、これまでずっとしてきてるんですよ!


いつも言ってますね!


人に優しくしたりとかなんとかってのもすべて、そこから始まるもんだろって僕は考えてます。


なので「1人で生きてくとやっぱり何か欠けてるんですか?」ってのもそんなこと全然ないですよね。


そんなの、僕がどう答えるかなんて、わかりきってるでしょ!(笑)

まずもって人間、誰と一緒にいようと、欠けてる部分が完全に満たされるなんてことはありませんし……。

それとは別の視点として、とはいえ大半の人間は、まるっきり「一人で生きてる」わけじゃ実はなくて、何かしら他人と関わったり手を借りたりしてなんとか生活してるわけでしょ、というのもある。
だったらその人たち含めた「どう生きたいかは誰と生きたいか」って話でもあるんじゃない?とも思うんですよね。
それこそ、意地悪な人ばっかりいる職場に我慢して居続けていていいのか?みたいなこととかさ。

なんにせよたぶん間違いなく、「つまるところ独り身のヤツはダメ!」なんてしょーもないことが言いたかったわけじゃ(笑)、絶対ないと思うんですよね、そのお友達も。

もちろんライコネンさんは、現状のフリー状態を不本意に感じているようだから、事実としてさびしいのは仕方ないとしても……それをまるで、避け得ない運命や属性であるかのように嘆くのは、ちょっと行きすぎというか、不毛なんじゃないかなという気が正直いたします。

「周りの人のようになぜなれないのか?」って言うけど……「周りの人のようになる」ってどういうこと?って感じだし、仮にそれ風にしてみたところで、それで「幸せ」になれるなんて保証はどこにもない。
ある人の人生はほかの誰とも違うし、だからこそ意味があるんでしょ?

とにかく!
この連載でもこれまで繰り返し言ってきたように、他者という不確定極まりない外部要因では簡単に左右されないような、その人だけの生きる喜び、人生の意義みたいなものを、誰もが自分自身でまずは見つけて、大事にしてゆくべきだと僕は強く思います。

その上で、不愉快な誰かと一緒にいるんじゃなくて……っていう、お友達の格言的なことも意味を持ってくるんじゃないかと思うんですよね。

なので、相談文後半の「〇〇でしょうか」連発とかは全部もう、「そんなわけないでしょ!以上!」ってだけですよ。
たとえば一緒にいる「誰か」がクソ心の狭い暴力男だとか、そのへんにザラにある話なわけで。
パートナーがいればいいってもんじゃないし、いつも言ってるけど、一人でいたときより心持ちはずっと孤独になってしまう、みたいなことだって、けっこうな確率で起こり得る話ですよ。

ひょっとしたらそのお友達も、そのマイ格言を書いたタイミングでは、どなたか理想的だと思えるお相手とお付き合いを始めてことさら浮かれてたとか、その程度の話である可能性すらありますよ。
だとしたらそれ、ただのノロケだから!(笑)
だし、時間が経てば当然それだってどうなるかわかんないんだからさ。まぁほぼ確実に、テンションは変わってゆきますよね。

なんにせよ、SNSでインスタント格言を発信してる人って、要は自分の何かを肯定したい/してもらいたいっていうのが、根本の動機にあるのは間違いないでしょうからね。
そんなもんにいちいち右往左往すること自体、できればやめたほうがいいのはたしかだろうとも思いますよ。


たしかに、肯定したいから言語化してつぶやくってありますよね。まぁX(Twitter)とかなんてまさにそういうためにある気もしてきました。


だから、まぁその友達はその方なりにその結論にひとまずたどり着いたというだけのことで、それ以上でもそれ以下でもない。
ライコネンさん自身の幸や不幸とそれは、本来あんまり関係がないことなはずなんですよ。

もっと言えば、孤独かそうじゃないかと、幸福か不幸かも、本質としてまったく別個の問題ですから。

またその、「孤独」というものの捉えかたもさ……。
たとえば「親や兄弟の家族は大好きですが一緒に生きる人たちでないことはわかっています」って、逆に言うとパートナーには親兄弟以上の「一緒」感を求めているということだろうけど、いやいや、家族だろうがパートナーだろうが、結局のところすべてをわかり合えるわけではない「他者」であるということに変わりはなくて……でも、それでもできる限り理解し力になりたいと互いに努力を怠らない、そういう間柄であることこそが大事なんじゃない?と僕は考えていて。
それは友人や仕事仲間、極端な話、赤の他人相手だって同じことだろうと思うんですよね。

逆に、パートナーなんだから家族なんだから当然なんでもわかり合えるはず!的な幻想こそ、必然的に絶望を招く元凶的な発想じゃない?というのが僕の意見ですね。


宇多丸さん、前も言ってたけど、別になんもかんも一致する必要はないですよね。


そうそう。
むしろ互いの「他者性」を忘れてしまった関係のほうが、よほど危ない。

ということでね、ライコネンさんは言うまでもなくライコネンさんご自身で、いいこと悪いこと、いろいろと経験したり考え抜いたりした果てに、ご自分なりの「真理」めいたものにたどり着いたり着かなかったり……っていう、そこにしか意味はないんで。
他人の、ましてSNSでなんの責任も負わずに発された言葉でこっちのかけがえない人生の意義を疑いだすなんて、気持ちはわからいじゃないけど、やっぱりちょっと、バカバカしいですよ。

それよりも、たとえば本当に心底独り身が辛いようならば、それこそ新たに良きご縁を呼び込むべくアクションを起こすとか、もっと具体的な何かに思考力や時間を使ったほうが、なんにせよ有意義な結果につながるんじゃないですかね。

そうじゃなくて、外野の雑音さえなければ、それまでは一人でもぜんぜん心穏やかに楽しくやってたんですよ!ということならば、単純にそのノイズを物理的にも精神的にも遮断して、元の状態になんとか戻してゆきましょうよ。
繰り返しますが「自分の人生最高の相棒は、自分!」ってことで、まーったく無問題だと思いますよ。
てか、そっちのが絶対強いから!

どっちにしても元気出してほしいなぁ……。


今回はこの連載のこれまで大事にしてきた考え方がてんこもりでしたね。
自分を愛そう! じつは最近やっちまったことがあって、私も落ち込んでたんですが、これ読みながらそう思いましたよ。
ライコネンさんの固有の人生を応援しています!!



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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」(毎週月曜日から木曜日22:00-23:30の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。




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