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彼氏がAVを観ていることが判明した後、エッチする気になれず、会いたいとすら思えないときも……。「気にしすぎ、男の性だから許して」と言われて、悶々としています。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室337】


✳️今週のお悩み✳️
男性はほとんどの人がAVを観るというのは百も承知なのですが、彼氏がAVを観ているんだと先日実感する出来事があり、それからというもの、彼との性的なシーンを考えるとオエッて感じで、エッチする気になれず、会いたいとすら思えないときがあります。なんか、女性の身体を道具にして性欲処理してる感じが無理です。若い頃は「男ってそういうもんだよな」で気にしてなかったのですが、最近すごく気持ち悪く感じてしまいます。自分とエッチする時も、私の唯一無二の身体を愛するっていうよりかは、女体として興奮してるだけなのかなと思っちゃいます。また、デートしているときなど彼が他の女性を目で追いかけたりしているときもキモっ!と感じてしまいます。普段は面白くて、思いやりがあって優しい人なのですが、女性を「女」として見てる節があって、オエッてなってしまいます。以前お付き合いしていた人達や男友達にもそういうところがありますし、その人だけではないし、以前は男ってそんなもんだよなと気にしないでいれたのに最近はマジで無理です。私が気にしすぎなんでしょうか。彼氏に軽くこの話をしたら気にしすぎ、男の性(さが)だから許してと、案の定な答え方をされました。ぜんぜん腑に落ちませんが、私が潔癖すぎるのかなとも思います。こういう話は不毛な戦いに発展し、雰囲気が悪くなるので、できればしたくないし、こんなことで気持ちが萎える自分も心が狭い気がします。でも、私のこのモヤモヤに少しくらい寄り添ってくれてもいいだろ!という気もして……、あーー!!! むかつく!と1人で悶々としてます。どうしたらいいと思いますか?
(sara・27歳・大阪府)


宇多丸:
これはまず、彼の答え方が本当によくなくて。

こばなみ:
彼、開き直って「男の性」って言っちゃいましたからね。

宇多丸:
前から言ってますけど、この手の「男はそういうもんだから」でひと通り許されるとでも思っているかのような言い草って、「だったら去勢でもしろ!」と言うしかない無責任で勝手な論理であるのは言うまでもないし、実際はもっと多様であるはずの男性というものの在り方を、とんでもなく粗雑なイメージのなかに押し込めてしまうという意味で、男にも抑圧的に働くし女性との分断もより深めてしまう、要は性別問わず全員に対して、ホントに有害な物言いだと思いますよ。

加えて彼のこの対応には、彼女の気持ちに対するケア、配慮というのがまったく感じられないでしょう。

優しくないし正しくもない。全方位的にダメですよ!

男性として半世紀生きてきた個人的な経験則からすると、saraさんが思ってるほど即物的な欲情の仕方をする男って実はそこまで多数派とは言えないんじゃないか、どっちかと言うとみんな広義の「物語」に反応してるというほうが正確なんじゃないかという気もしますけど……、たしかに男は男で、まさにsaraさんの彼がそうであるように、「男はそういうもの」論を安易に内面化しちゃってる人が多いからね。

人間の性欲なんてすでに大部分が文化的な刷り込みの産物なんだから、そんなにざっくり普遍化できるもんでもなかろうに。

それは、ありとあらゆる欲望に対応して細分化した現代のポルノ市場を見ても明らかだと思うんですけど。

ただ、こと性的な件に関しては、皆さん重々ご承知の通り、最大級にプライベートな問題ですからね。

人に言えるような外ヅラと、ホントは考えてたりやってたりすることの実態に、相当のギャップも当然あって。

しかもそれがほとんど表面化しないから、表だって厳密な話がしづらい、というのは多分にありますよね。

あの、ちなみに、一応念のため男性の立場から確認させていただくと……、ポルノって、要は性的なファンタジーの具現化/商品化ということだと思うけど、その意味では女性も、現実に目の前にいる対象などとはまったく別の、人にはあんまりバレたくないような性的幻想を抱くことって、普通にありますよね? バカみたいな質問で申し訳ないですけど。

こばなみ:
ありますね。私の場合、松潤妄想でしょうか。
あと小説とかムフムフ読んだり。

宇多丸:
主に女の人向けにそうしたファンタジーを具現化/商品化してみせたもの、要は女性向けのポルノも、たとえばレディースコミックとかBLとか、昔よりはまだ、市民権を得てきているようには見える。

実写のAVも、ぼちぼち作られるようにはなってきてますよね。

ただもちろん、男性向けのそれが大手を振ってそこらじゅうで販売/消費されてきた歴史とは比べるべくもないのは言うまでもないし、そもそも前述のような「男はそういうもの」論が堂々たる通説としてまかり通ってきたなかで、ろくなゾーニングもされないまま、女性が目にすれば不快になって当たり前の性的イメージが無分別に世にあふれかえり、まるで現実との見境がついていないかのような連中も残念ながら少ないとは言いがたい、というのが現状なわけですから、saraさんが「またぞろあんなもんで欲情しやがって!」と強い拒絶感を感じてしまうのも、まぁ無理からぬ話だろうと思います。

また、レディースコミックやBLと違って、AVなどでは、それこそ「現実の」出演者の人権が侵害されたりする事例や危険性という、また別の次元の懸念があったりもしますからね。

それらが法などによって厳しく戒められ、また警戒されるべきなのは、前提中の前提なわけですが。

ともあれsaraさんは、彼の「案の定な答え方」もダメ押しになって、言っちゃえば男の性の在り方全般に嫌悪が拭えないほどになっちゃってる、感じですよね。

まぁ、その彼に関しては、正直……、いったん生理的な拒絶感を抱くところまで行っちゃうと、なかなか元に戻すって、難しくない?

こばなみ:
編集部でもみんな「無理!」って即答でした。そしてこのことで、男性全般に対しての嫌悪感を抱いてしまっているのだったら……、本当に心配ですね。

宇多丸:
なんにせよ、この彼のことを無理して「許す」必要はないと思うし、なんならAVとか観ないし好きじゃない、というような男性も世の中には意外とたくさんいるはずなので、よりよいマッチングを求めて次に行く、というのもぜんぜんアリだと思いますよ。

あえて言えば、さっきから話しているように、女の人にもたしかにあるはずの性的ファンタジー、それこそ場合によってはかなり即物的だったりするかもしれないそれと、そのポルノ的な発散、というあたりに思いを至らせてみたり、いっぽうで男性の欲望の在り方というのもそれはそれで、saraさんが現状思ってるよりホントはもっと多様なものなのかもしれない、と考えていただいたりすることで、ちょっとは心安らかになったり……しないですかね。

僕個人の考えを言っておくと、生身の人間と直接相対するがゆえに責任やリスクなども生じる現実の性的行為と、胸の奥密かに抱く後ろ暗い幻想を基本誰にも内緒の安全圏でもて遊ぶ、という両者は、実のところまったくの別物だし、後者に関してはそれこそ内心の自由に関わることなので、たとえパートナーであってもそこには勝手に踏み込まないようにするというのも、逆にうかつに目に触れさせないようにするというのも、どちらもマナーだろうという風に思うんですよね。

ただ、そこに「正しさ」を持ち込んで断罪したりするのは性別関係なく誰の得にもならないので絶対によくないと思ういっぽう、無闇に人目にさらしたりすれば良識に照らして批判されたりするのも当然のものだろうと思うし。男性向けポルノは、明らかにそのへん、あまりにも考えてこなさすぎでしたよね。

だから、あらゆる意味でやはり、ゾーニングが徹底されるべきという話だとは思うんです。

その意味で、saraさんがどんな状況でどの程度それを目の当たりにしてしまったのかはこの文だけではわからないけど、とにかく彼の不注意さや、言い訳の仕方にも現れている無神経さが重なってなんでしょう、結果的に修復困難なまでの傷を受けることになってしまったというのは、やはりとても不幸なことだったと思います。

腹立たしいのはごもっともだし、仮にその彼とはもう無理、となっても、これは仕方ないかもな、という気がしますよ。

あるいは、改めて真剣にこの問題を話してみたら、彼もようやくことの重大さや己の至らなさに気づいて、もう少しsaraさんの気持ちに寄り添った対応をし直してくれる、というような可能性も、ないわけではないですけどね。

そこに賭けるモチベーションがあるかどうかは、saraさん次第ということで。

こばなみ:
自分以外の人で彼が欲情しているのがショックだったりもするんですかね。saraさんが少し潔癖ぎみ、ということも考えられます?

宇多丸:
潔癖というか、文から察する限りsaraさんは、本来なら「私の唯一無二の身体を愛する」べき、つまり「性」と「愛」は一致しているべき、という考えを持っているわけですよね。

それが理想だというのも、気持ちとしてもちろんわかるけど。

でもね、実際のところ、パートナーに性的魅力を感じているうちの、何%がその人に対する純粋な愛情から来るもので、何%が即物的な発情か、とかなんて、そんなぱっくり分けられるもんでもないでしょう?

あとは、これもこの連載でいつも言ってることですけど、どれだけ相手のことを知り尽くしているつもりの近しい人間、それこそパートナーや家族でも、本質的には、完全に理解しきることなど不可能な、「他者」同士なわけじゃないですか。

「本当には」何を考えているのか、というのは表面から類推するしかない、実は得体の知れない存在なんだ、という側面も、これはもう絶対にあるわけですよ。お互いにね。

今回ほど深刻な不信感じゃなくとも、たとえば、自分宛てじゃないメールをパートナーが間違って送ってきたりしたとき、そこにまったく悪い要素が含まれてなかったとしても、文体というか口調が自分に普段向けているものとはちょっと違う、というだけで、知らない面を垣間見ちゃったというか、まるで赤の他人のように一瞬感じられて、思いのほかギョッとする、みたいなことって、たまにありうるじゃん?

こばなみ:
それはありますよね。パートナーがお店の人に、これまで自分が知らなかったような対応をしてたりだとか。

宇多丸:
その点、「相手のなかに他者性を強く見てしまう瞬間にこそ興奮する」というのが基本構造だと言ってよかろう、いわゆる「ネトラレ」趣味は、実質最強ですよね!

今やポルノの一大ジャンルですけども。

こばなみ:
自分の好きな人やパートナーが他の誰かと性的関係になる状況に性的興奮をおぼえる嗜好ですよね。前に「好きな人のエッチしてる姿を第三者目線で見たい。私の性癖は変ですか?」という相談もありましたね。

宇多丸:
その回は、今回の相談とちょうど裏表の関係みたいな感じだから、参考になるかもね。

もっと言えば、自分自身が「本当には」何を考えているか、望んでいるかなんてことも、そんなにしっかりわかってるわけじゃないじゃん? 我々って。

しかも、人間なんて、その場その場、あるいは相手次第でも、コロコロ変わってくもんだしさ。

たしかなものなど何もない。

でも、だからこそ! 少なくともパートナーと言うなら、お互いに「信じあえる」関係を維持するために、努力が必要なんだと思うし、その意志こそが「愛」なんじゃないの、と僕は考えてますね。

完全には理解しあえない他者なんだということがよくわかっているからこそ、敬意と配慮は欠かせない、という。

今回彼は、そこをちょっと甘く見ちゃってたよね。

そもそも他者同士なんだから、うかつなことすれば信頼なんか一瞬で失われるし、一度そうなってしまえば、再び回復するのはすごく難しい。

saraさんはsaraさんで、この件に関してはもちろんなんの責任も感じる必要はないけど、さっきから言ってるような近しい人の他者性、ということについては、もう少し寛容な考え方ができるかどうか、検討してみる余地はあるかもしれない。

あくまで今後は、ということで言えばね。

くどくどと述べてきましたが、僕に言えるのはそんなところかな。
saraさんの気が晴れるような内容だったかは心許ないですが……。

こばなみ:
Saraさん、ご自身のことを心が狭いとかは思わないでほしいですけど、他者と付き合っていくのだから、オープンな部分と秘めたる部分の両方を持って、ということは改めて意識していきたいですよね。あ~、私も反省。松潤、松潤って言いすぎてる……。信じ合える関係を維持する努力、ちょっと怠っていたかもです。これを機に引き締めてまいります。


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年9月26日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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