3年近く失恋を引きずっていて、これから男性を好きになれる気がしません。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室309】
✳️今週のお悩み✳️
3年ほど前、10歳くらい年上の男性を好きになりました。出会って1年以上も経ってから、会話をしているとものすごく楽しいことに気づき、最初は妻子があるものとばかり思っていたのですが、バツイチ(子持ち)であることがわかり、ごく短期間ですが恋愛関係になりました。ある日「私と本気で付き合ってくれる気はあるか? ゆくゆくは結婚を考えてくれるか?」と尋ねたところ、突然泣き崩れ「それはできない」と言われ、詳しい説明もないまま振られてしまいました。辛すぎてどうしても自力では心の整理がつかず、悩んだ末、信頼できる共通の知人に打ち明けたところ、かなり複雑な家庭の事情があることを初めて知りました。バツイチであることさえも、こちらが好意をもっていることがわかったうえで、やっと打ち明けてきたくらいなので、人に心を開くことが難しい人ではあったのだと思います。そして今思えば、そういう性格や置かれている状況からくる、どこかさみしそうなところに惹かれたところもあるのだと思います(昔からそういう人を好きになる傾向があります)。往生際悪く、そのあと何度かメールをしましたが返信はありませんでした。3年近く経った今でも、たった何カ月かの間しかなかった恋をを引きずっている有様です。そんな状態なので「こんなんじゃだめだ、新しい出会いを探そう」と出会いの場に行っても、お見合いをしてもうまくいくわけもなく。もともと自己肯定感が低いこともあり、今では「恋愛も結婚もできればしたいけれど、年も年だしもう無理なのかな……」という方向に傾いてすっかり心が八方塞がりです。こんな状態の私ですが、なにかアドバイスをいただけたらと思います。
(雷鳥の里・40歳・長野県)
宇多丸:
世の中には面倒臭い男が多いんですねぇ。突然泣き崩れてって、どういうこと!?
にしても、それを引きずって3年か……。
こばなみ:
この連載でも、忘れられない恋がある、引きずってる相手がいる、という相談は多いですよね。
宇多丸:
そもそも「引きずる」って、どういう心理の動きなんだろうね。
あーすればよかったかも、こーすればよかったかも、みたいに、過ぎた可能性をほじくり返してる感じかな?
こばなみ:
そうだと思います。あのときああしていれば今は一緒にいたはずなのに、と可能性をあらゆる方向に見出してしまうのは経験上、私もわかります!
宇多丸:
その意味でひとつだけはっきり言えるのは……、この彼との可能性は、まずないよ!
こばなみ:
そう、それをなかなか自分で認められないんですよ。
宇多丸:
ここらでもう一回、メールかなんか送ってみれば?
「いかがお過ごしですか? 気は変わりましたか?」とか送ってみて、それでも返事がなければ、今度こそはっきり可能性ゼロ、あきらめもついたりしませんかね。
こばなみ:
ほかに考えられないから、結局は次に好きな人ができないと引きずっちゃうんだと思います。
宇多丸:
でも同時に、「引きずってるからこそ新しい好きな人ができない」ってことでもあるんだろうから……、悪循環なんだよね。
普通どうやってこの負のループを脱するのか?
こばなみ:
私はだから、「相手の嫌なところを10個書き出す」作戦ですよ。
宇多丸:
こばなみみたいに自己暗示が上手い人はそれでいいんだろうけど、雷鳥の里さんはもともと自己肯定感が低いって書いてあるから、「あいつがわりーんだよ!」ってなかなか思えないのかもしれないよね。
こんな私でもギリギリ恋愛できたのが彼なのに、それを取り逃がしてしまったんだから、もう恋なんかできないんだ!って思い込んでいる、とか。
ちなみにさ、「どこかさみしそうなところに惹かれたところもあるのだと思います」ってあるけど、いま40歳でしょ。だったらこれからどんどん、さみしそうな男性はまわりに増えていきますよ(笑)。
よりどりみどり! まわりの男性をよく見てください。さみしそうではありませんか?
こばなみ:
たしかに。
宇多丸:
あとさ、この前も言ったけど、やっぱりそもそも、好きな人とうまくいかなかった、というのを引きずったままの状態で、そういう出会いのシステムみたいな場に出て行っても、改めて恋に落ちるような気分には、そりゃあなかなかなれないよね。
こばなみ:
でもみんな、振られたり、うまくいかないと、すぐそこ行きますよね。
宇多丸:
僕も前は、そういうところに行って出会いの機会を増やしていけばいいじゃん、的な回答をしたこともあったかもしれないけど、みなさんからの相談文をたくさん読んでるうちに、どうやらそれじゃダメなことが多いんだな、ということを学習してきた感じですね。
たぶんだけど、飲み屋とかさ、むしろパートナー探しに特化してない、もっとフラットな場に行くほうがいいんじゃないかな。
さぁ恋愛しなさい、婚活しなさいってお膳立てができすぎてるところじゃなくて、もっとフラットな人間関係をひろげてゆくよう心がける、というか。
そのなかで、ご縁があったりなかったり、くらいの話でしょう、出会いというのは本来。
こばなみ:
飲み屋で男友達をつくるくらいの気持ちでいいのでは?
宇多丸:
なにしろ雷鳥の里さんはさ、「会話をしているとすごい楽しいことに気づき」ってくらいでその彼のことも好きになっちゃったんだから、絶対そういうほうが話が早いと思うけどな。
とにかく、一度かかってしまった恋愛という呪いに対抗するには、また別の呪いしかないわけで。
『貞子 vs 伽倻子』ですよ!(笑)
要は、また別の事故に遭うしかない。
で、事故に遭うためには、まさしく犬も歩けば棒に当たる、いろんなところに出ていくしかない。最初はそれがネット上とかでもいいからさ。
こばなみ:
飲み屋、趣味、習い事……!?
宇多丸:
でもたぶん、現状はやっぱり、その人のことをうじうじ思い出しているほうが、雷鳥の里さんにとっては「快」なんだよね。
結局そっちを選んでる。
いっぽうでは、たいして好きでもない人と結婚して、そこまで楽しいわけでもない結婚生活を送ってる人とかだって、普通にいたりするわけでしょう?
それの、どっちが幸だ不幸だって言えます?
こばなみ:
言えないですよ。
宇多丸:
それとやっぱり、そもそも自己肯定感が低いと、なんにせよあんまりハッピーなところにはいきづらいんじゃないですかねぇ。
ホイットニー・ヒューストンの『グレイテスト・ラブ・オブ・オール』を聴いてくださいよ。至上の愛とは、まず自分を愛することなんですよ!
私の良さに気づいてくれるなんて、素敵な人! そして、そんな人に好かれる私も、やはり価値があるのだと改めて思える……そういう愛の好循環も、やはり自己肯定がしっかりできていてこそ、じゃないですか。
逆に、自分のことをちゃんと好きになってもくれないような人は、性格か頭が悪いんだからろくなもんじゃない!とかって考えときゃいいんだと思うんですよね。
たとえばその彼なんかは単に、自己憐憫に浸ってる人なんですよ、客観的に見るとね。
家庭環境だなんだってみんななにかしら抱えてるのに、悲劇の主人公ヅラで。
やめとけやめとけって感じですよ、ホントに。
こばなみ:
年齢も本当に関係ないですよね。
宇多丸:
前も言ったけど、人間は常に「いまが一番若い」んだから!
ちなみに、自分と自分の人生を愛するには、ということに関してひとつアドバイスめいたことを言っておくなら、これも何度も言ってきてることだけど、何をしていれば自分は「快」なのか、小さなことでもいいから、日々の暮らしのなかで1つ1つ見つけてゆく、意識化してゆく、ってことなんだと僕は思います。
散歩が好きとか、あったかい布団で寝るのが好きとか、おいしいごはん最高とか、こういうとき私は幸せだな、っていうのを、重ねてゆく。
そうすると、恋愛とか結婚とかは大きいことかもしれないけど、そういういろいろある幸せのうちの1つでしかない、ということに気づく。
そこに頼るのがすべてじゃない、ってことがわかるんだよね。
世界に散らばっているはずの無数の「好き」をしっかり見つけてゆく、と言いかえてもいいかもしれない。
趣味や恋愛に限らず、友達でもいいし、この人と仲がいい私、最高!とかさ。
一方通行の「好き」だって、アイドルや二次元相手に楽しくやってる人たちもそこらじゅうにいるわけですからね。
「裸一貫つづ井さん」、ぜひ読んでくださいよ!
頭いいですよね。人生を楽しむすべを知っている。
とにかく自分にとっての「好き」をいっぱい見つけて、他者に左右されない自分と身の回りの輝きっていうのをまず確立する、というのを目指してみてはいかがでしょうか。
こばなみ:
私も40歳になる前あたりにだいぶ、結婚してないこととか彼氏がいないこととか、言われましたよ。
いないからイライラしてる、うまくいかないことがあるとそのせいだ、みたいな。
関係ないよとは思いつつ、やっぱり言われると押しつぶされそうになるんですよね。
でも、宇多丸さんとかいつも、そんなの関係ない、うっせーよっていう意見で、そう思えたところがあって救われましたねぇ。
みんな言いたがりなんですよね。暇なの?
宇多丸:
そんな意見に合わせてなんかしたところで、幸せになれるわけでもなく、そいつらが我々の幸せを保証してくれるわけでもないしね。
どいつもこいつも、人に説教したくて仕方ないんですよ。
Twitterなんか説教スタジアムじゃん。みんなとにかく誰かに小言を言いたくてたまらないんだな、って思うよ。
だからこそ、せめて自分という城のなかは、綺麗に快適にしましょうね、っていうことなんだよね。
そこにはあいつらは絶対上がり込ませないようにして。
こばなみ:
ちなみにこの方、私お会いしたことがあるんですけど、女子部JAPANのイベントにきてくれたり、新宿二丁目にもけっこう行ってると言ってました。それこそ、宇多丸さんのラジオを聴いたり、ライブにも行ったりしてるみたいですし。
宇多丸:
なんだ、じゃあ余裕で見込みありじゃん!(笑)
でもまぁ確かに、恋愛は本当に、諸刃の刃だからね。そうそう合理的には考えられないという状態も、理解できます。
こんな素敵な人に好かれたら、どんなに自己肯定感が高まるか!という一方で、世界のほかの全員に拒絶されてもいいけど、この人にだけは!っていう相手によりによって拒絶されるという、世にも恐ろしい経験にもなりかねないわけで。
確かにそれは、当人にとっては、この世の終わりにも等しいことだよね。
もっとさ、本来は無限にあるはずの、いろんな恋愛の可能性が想像できるようになればいいんだけどね。
こばなみ:
松潤!
宇多丸:
なんだよ急に!(笑)
こばなみ:
いや~、最近、松潤のことばっかり考えてたんです。キムタクがずっと好きだったんだけど、お正月は松潤ばっかり出てたから、2020年は頭の中が松潤でいっぱいで(笑)。
宇多丸:
じゃあそれでもいいよ(笑)。
たとえば嵐の5人と、それぞれ違うパターンで恋愛におちる思考訓練してみるとかね。
なるほどそれもありか……みたいに。いい気なもんだよ(笑)。
でも確かに、雷鳥の里さんだって最初、「ん? この人ありかも?」ってところから恋に落ちちゃったわけじゃん?
結局、回路が開いちゃえすれば、なんでもいけるじゃん!ってことなのかもしれない。
てか、客観的に言えばホントにそうなんですよ。恋愛なんてただの思い込み。振られてこの世の終わりみたいに思うのも思い込み。
どうせ思い込むしかないのなら、思い込みの可能性を、もっともっと広げてみるのはどうだろう?
さっき言ったように、自分の心という城の守りがしっかりしていればこそ、門も開きやすくなるわけですよ。
城の守りは完璧じゃ!
いざ、開門せい~!
こばなみ:
開門せい~!
宇多丸:
ちなみに『ブラスト公論』のサブタイトルは「誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない」なんですけど、あれもつまり、さっきから言ってる城の話に近くて。
豪邸じゃなくても、私は私の部屋が好き! モデルルームみたいな家は落ち着かない、その点ここは築何年だけど、景色がいいよね! そう言ってくれる人もきっといるよ、と。
「この部屋の、景色を君がいいと言ったから」……『サラダ記念日』ですよ!
こばなみ:
今回は参考作品が盛りだくさん!
宇多丸:
参考ついでに、古内東子の『コートを買って』って曲も!
新しいコートでも買って街に繰り出せば、きっとなにかあるんだよ。
もしかしたら、なんかスマホの画面が暗いなぁと思ってたら、単にそういう設定をしちゃってた、みたいなことかもしれないよね。
僕もよくあるもん。なんかこの部屋暗くない? って思ったら、サングラスしてたわ!みたいな(笑)。
こばなみ:
いろんな話が出たけど、まずは「城の守りは完璧じゃ、いざ開門せい~!」ですね。
私もホイットニー・ヒューストンを聴きながら、松潤妄想、引き続きやりまーす。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年2月8日に公開したものを再編集し、掲載しています。