夫の実家で過ごすのが憂鬱…。行かなくていい方法はない?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室 お正月SP】
✳️お正月SP相談①✳️
年末年始、彼(夫)の実家に行くのが面倒です。朝はゆっくりできないし、食事の味付けやお風呂の入り方まで常に気をつかわなきゃいけないので、毎年ぐったりしてしまいます。向こうに嫌な気持ちを抱かせずに、実家に行かない方法はないででしょうか?
(エリーヌ・千葉県)
宇多丸:
みなさま、あけましておめでとうございまーす!
回を追うごとにボリュームを増しているこの連載、最初はごくテキトーに始めたオマケのお絵描きがどんどん濃密になっている件含め、僕としても大変楽しく、気合いを入れてやらさせていただいております!
こばなみ:
今年もどうぞよろしくお願いいたします!! たしかにお絵描きがどんどん進化していますね。バックナンバーはこちら♪で〜す!!
で、さっそくですが、宇多丸さん、年明け早々、定番っちゃ定番ですが、ディープなお悩みがきていますよ。
宇多丸:
これはまた、正月のひまつぶしには持ってこいの大長編になりますよ……。
ちなみに僕は、奥さんの実家に行くよりも、自分の実家、というか自分の両親と一緒にいるほうが、ずっとグッタリしちゃうんですけどね。
親にとってはやっぱり、いくつになっても子供は子供、っていうのはわかるんだけどさ。
「オレ、いま何歳だと思ってんだよ……」って言いたくもなるような、ホントーッにチマチマした小言とかを、しかもしつこく言われたりすると、こっちはこっちでだんだん思春期の気分に戻ってきちゃうというか。
思わず「うっせーなっ!」とか大声で返しちゃったり。
完全に10代レベル!
でも、皆さんそういうことって、ない?
端で見ている奥さんに言わせると、両親と会っているときの僕、どんどん消耗していって、身体が小さくなっていくのがわかるそうですよ。
なので、正月だからって実家で何日も過ごしたりなんかしたら、僕、消えてなくなってしまう恐れがある。
とはいえ、僕の親も相当な歳ですから、正月くらいはそこそこ親孝行したいという気持ちも、あるにはある。
そこでここ数年は、三が日中の家族内新行事として、高級ホテルの中華料理店とかを予約しておいてドカンと御馳走する、という会を催しております。
これなら、確実に喜ばれるし親孝行としてカッコもつく。
なおかつ、こっちが疲れちゃう前にその場でさくっと散会できる!
親が近場に住んでる人にはこれ、オススメの方法ですよ。
こばなみ:
金を使って時短で親孝行。大人のやり方ですね。
宇多丸:
ただまぁ、これはあくまで僕の家のほうはそれで済むけど、という話だからね。
当然、パートナーのご家族の「正月観」というのも尊重しないといけない。
「最低でも盆と正月くらいは帰ってくるのが当然」みたいなところも、まだまだ全然多いんでしょうしねぇ……。
ちょっと気になるのは、年末年始は旦那さんの実家に行く習慣ということだけど、同じようにエリーヌさん側のお家に旦那さんが来る、というのは別にないんですかね?
それともやっぱあれかな、「お嫁に行く=旦那側の家の人間になる」みたいな、昔ながらのザ・家父長制!的なイズムなのかな。
だとしたら間違いなくお嫁さん側には不公平な話になっちゃうわけだけど。
そういうのってまだ根強い?
こばなみ:
旦那さんの実家に先に行って、あとから自分の実家に行くとか? でもこの方の場合、年末年始って書いてあるから、旦那さんの実家に何日もいるんですかね?
宇多丸:
そんなのおかしくない?
少なくとも、一方的にそういう状況に置かれた奥さんが気疲れするなんて、目に見えてわかるはずのことじゃん。
なのに、もしこの旦那さんが、それを気づかない、気遣えない人なのだとしたら……もう根本的なところで、ダメ!
旦那側はひょっとすると、「結婚したんだからそういうのが当たり前」と思っているような、要はさっき言ったような、昔ながらの家父長制みたいなものの在り方に、まったく疑いを持ってないような人なのかもしれませんけど。
でも、エリーヌさん側はちゃんとそこに疑問や不満を感じる現代の女性なわけで。
だからまずは、「当たり前じゃねーよ!バカ!」ってことを伝えてやるべきですよ!!
あ、最初に怒って話し始めちゃダメ、とは前回言いましたけど……。
要は昨年からずっと言っている、「結婚したって他人なんだよこのやろー」っていう話ですよね。
お互いへの敬意なき関係に未来はない!
今回のこれなんてまさしく、両者の立場がフェアじゃない状態なわけだからさ。
片方だけがひたすら、来る年も来る年も不公平感を溜め込んで……。
今すぐじゃなくたって、何年も経ってから熟年離婚とかするパターンですよ、きっと!!
こばなみ:
新年早々、白熱してきましたね。でもそれ、男性側に言ってくださいよ!
宇多丸:
だから毎度おなじみ「本人に直接言え」シリーズってことだよ。
もちろんエリーヌさん自身にはなんの落ち度もない話でございます。
でも、これだってさ、ホントは旦那側の気遣いひとつで、だいぶ違った話にもなるはずなんだよ。
つまり、奥さんにとってこれはもはや数日間ノンストップの「仕事」なんだということを、旦那も当然のようにわかってあげた上で、「毎年ごめんな」みたいなひと言でもあるかどうか。ていうか、そんくらい言えよなマジで! 常識として!
むしろ、この正月恒例行事を「夫婦で乗り越えるべき共通の課題」として捉えることができてたりすれば、
逆にふたりの結束が深まる機会にすらなり得ると思うんですけどね。
そう考えるとあれだな、『歩いても 歩いても』って映画、観たことある?
阿部寛と夏川結衣が夫婦で、夫側の実家に里帰りする、その一日の話でさ。
全体としては、それこそ「家族という他者の集まり」が浮き彫りにされてゆくような、淡々としてるけどホントに背筋が寒くなるような怖ーいホームドラマなんだけど……。
その息子夫婦は、最初からこの実家帰りを、「できれば早く切り上げたい面倒なミッション」として、共通して捉えているわけですよ。だからもちろん、気疲れしてしまう奥さんへの気遣いも、夫はちゃんとしているし。
つまり、親と子に関しては冷え冷えした断絶のほうを強く感じさせる作品なんだけど、夫側が親にそういう距離感でいるぶん、夫婦間にはむしろホットな「団結」が生じているっていう。あれはあれで悪いことじゃないよなって、いま改めて思ったんですけどね。
だからさ、毎年奥さんを自分の実家帰りに付き合わせてるような旦那さんたちは、最低限「ごめんな、休むどころか疲れさせちゃって」とかフォローするのは当たり前として、その埋め合わせに、今度は夫婦水入らずの温泉旅行に連れてってあげる、とかすればいいんじゃない?
そこまで行けば逆に夫婦仲、良くなっちゃうかも!
でもまぁ、普通はなかなかそんな余裕もないか……。
とにかく、奥さんだけが一方的にストレスを溜め込んでる状態だ、というのを旦那は一刻も早く思い知るべき!
実家に行く行かない以前に、そこのコミュニケーションをもっとちゃんと取るべきだと思います。
こばなみ:
世の奥さん、こんな意見きいたら、みんな喜びますよ。
宇多丸:
ただはっきり言って、ここまでこういう状況を平気で放置してきたような旦那さんは、奥さんが勇気を出して不満を表明しても、「俺の親のこと、嫌いなのかよ!」とか逆ギレするだけ、ということも十分考えられる。
これ、反対側も全然あり得る話なんですよね。
要はパートナーよりも、親とか「元々の家族」を優先させる人っていう。
僕はそれ、ものすごーくダメだと思うんですけどね!
例えば、何かっていうと実家に帰っては夫の不満を親に言ったりする奥さん。僕が知る限りそういうとこの夫婦は、やっぱりあんまりいいことにはなってないですよね。
こばなみ:
そういうのって付き合ってる段階でわからないですかね?
宇多丸:
たぶん付き合ってるときにも、小さな違和感はあったはずなんだけど、その段階では「好きっ!」ばっかりが先に立ってるから、なんとなくスルーしちゃってるんですよ。
むしろ、冷静に見れば「なんかこいつマザコン?」「ファザコン? 」みたいな部分を、「母親思いでステキ!」「家族と仲いいコに悪いコはいない!」的に、ポジティブ変換しちゃってる恐れもある。
だってさ、「親を大事するのはいいこと」って、疑う余地のない価値観として社会的に確立されちゃってるわけでしょ?
こばなみ:
はい、そりゃ。
宇多丸:
でもさ、結婚するからには、こっちはこっちでまた別の家族をつくるわけだからさ。
こっちはこっちで独立した城なんだから、前の城主は黙ってろ!と。いざとなったらそういう一線がビシッと引けないような人は、じゃあ別個の城を構える資格はないってことですよ。
だから、親とパートナーを天秤にかけて親を取っちゃうような、パートナー側の味方になれないような人は、そもそも結婚する資格ねーよ!とすら思うんですよね。
こばなみ:
この問題、もっと白熱しそうな相談がもう1つきていますよ。
✳️お正月SP相談①✳️
結婚して7年目の主婦です。年末年始、旦那の実家で過ごすのが憂鬱です。
いつもせかせかとして口うるさい姑、くちゃくちゃと音を立てて食べる舅、お風呂にカビが…など、細かいのですがナーバスになるポイントが多々あり、毎年イヤでたまりません。また、いろいろな理由があって私たち夫婦には子どもが一人なのですが、毎年「ひとりはかわいそう、子どもは多く生まないと社会のためにならない」などと言われるのも、傷つきます。往復の交通費をはたいてまでなぜイヤな正月を迎えに行かなくてはならないのか……。どうしたらいろいろ気にせず楽しい正月を迎えられましょう……。
(S子・東京都)
宇多丸:
うわ、これはまたキツいねぇ……。
と、その前に1つだけ。
舅のくちゃくちゃ問題ですが、年をとると咀嚼すること自体が肉体的に難しくなってしまい、どうしてもくちゃくちゃと音を立ててしまいがち、というのは聞いたことがあります。なので、この件に関しては、ある程度の年齢以上の人には、ちょっと寛容になってあげてください。
に、してもねぇ……。
さっきの質問同様、まずは旦那にS子さんの不満をわかってもらう、というのが基本的には大事だと思うけど、特にこの場合、相手側の家風というか、そもそも旦那自身がどういう環境で育ってきたか、にも関わる問題だからねぇ。
「あなたの家、不潔なんですけど!」って、確かにちょっと言い出しづらくもあるよね。
こばなみ:
こういうことを考え始めると、改めて「結婚する」って大変ですね…。
宇多丸:
相手の実家の風呂の清潔度なんて、それこそほぼ結婚が決まった段階でもない限り、なかなか普通はチェックできないもんなぁ~。
でもさ、前も言ったけど、例えば最初に相手の部屋に行ったりした時点で、衛生観念とか、ある程度の価値観は推し量れるとも思うんだよね。トイレとか、やっぱり一番如実に出るあたりでしょ。
まして結婚するつもりなんだったら……、つまりいずれ同居して、その後の人生をほぼずーっと一緒に過ごすような相手を選ぶんだったら、溢れ出てくる「好きっ(だから見て見ぬフリしたい)!」を理性で押さえ込んで、そういう「審査」をきっちり厳しく重ねていくしかないんじゃないですかねぇ。
その上で初めて、でもここまでは妥協できるかも、みたいな、真っ当な選択の余地も出てくる。
とにかく一番肝心なのはやっぱり、「みんな他人なんだ」って心構えなんだと思いますよ。
最初はどれだけ気が合うように見えたって、完全に理解し合ったり、まして一致し合ったりなんて、絶対にあり得ないんだから。
そういう他者同士だというのを常に意識していればこそ、相手に対する気遣いや、敬意も生まれてくるわけで。
よく言う「夫婦ならではのあ・うんの呼吸」とかは、そのはるか先の話だよ!
で、その正反対がさっきから言ってる「結婚したんだから○○は当たり前」っていう考え方。
他人相手になにひとつ「当たり前」なんてねーよ!
そこのすりあわせを誠実にする気がないような相手は、そもそも選ばないようにするのが一番なんですけどね!
いま「すりあわせ」って言いましたけど、逆に、今回で言えば夫側にこちらの意志をちゃんと伝える、というのも「すりあわせ」のうちですから。
「正月に実家に帰らなきゃ」というのが旦那的には、「でもやっぱり、どうしても譲れない線」なのかもしれないし。
だったらどうするか、というのを二人で探ったりするのも、大事な夫婦の仕事なんじゃないですかね。その先に、さっき言ったような埋め合わせとしての何か、が浮上したりするかもしれないし。
いずれにせよ、一方的な「当たり前」イズムは結婚生活の敵なので、即刻粉砕されるべきだと思います!
こばなみ:
一方的な「当たり前」イズムの撲滅、2014年はもっともっと普及していきましょう。そして世の奥さまからの支持を集めていきましょう(えへっ、横しまw)。
結論:
「当たり前」イズムは結婚生活の敵!
みんな所詮は他人なんだから、
2014年はもっともっとお互い気遣っていこう!!
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年1月3日に公開したものを再編集し、掲載しています。