見出し画像

【ライムスター宇多丸のお悩み相談室176】映画をもっと観たいけど時間がない! 睡眠時間を削るしかない?


✳️今週のお悩み✳️
宇多さんくらい……までは言いませんが、追いつけるくらい映画でも漫画でもアニメでも知識を入れたいと思っています。が、睡眠時間、仕事、家事をこなしているとどこにも時間がありません。休みの日も仕事のある日と同じ時間で起きて映画を1本見るくらいの時間の作り方しかできません。宇多丸さんは映画を何回も観て、その関連する本やビデオまで観てらっしゃる。どうしたらそれだけの時間を作ることができるでしょうか? やはり睡眠時間を削らなくてはいけないでしょうか。

(なおえつ・45歳・岩手県)


こばなみ:
これは私も興味がありました! いつ寝てるんだろうって思ってたので。

宇多丸:
まず大前提として、僕の場合は、映画観たり本読んだりっていうのが今や完全に仕事の一環になっているので、そのために割いているコストが、標準よりも多めなのは当たり前、というのはありますけどね。なんだか申し訳ない気持ちにもなってきますけど……。
要は、皆さんが日々お仕事や家事をされているその時間に、僕は映画を観たり関連の資料に当たったりしているだけ、とも言えるので。それ自体が偉いとかそういう話じゃない。

それを言ったら、たとえば映画に関する著述業一本で行かれてる皆さんのようなペースには、僕だってとても追いつけないですもん。なかなかわかってもらえないんですけど、僕、ラップ書いたりレコーディングしたりライブやったりもしなきゃなんないんで……(笑)。

まぁたしかに、ありがたいことにそんな感じで好きなことがどんどん仕事にもなってっちゃったぶん、公私の境がはっきりしてないというか、ある意味「常に仕事に関係した何かをしてる」ようなものというところもあるので、その意味では比較的労働時間が長いという言い方もできるかもですけど……って、甘いか?

でも、睡眠時間は別に短くないですよ。基本きっちり6時間は寝るようにしてますから。
単に生活サイクルが常識と極端に違うから、ときどきメールの返信タイミングとかで「こんな時間にまだ起きてるんですか?」みたいな反応が来るだけで。特にAbema TVの週一ド深夜レギュラーが始まってからは、世間様タイムとのズレが、いっそう激しくなってはいるけど。
ただとにかく、毎日寝ないで頑張ってるとか、そういうんじゃまったくないです。

睡眠時間を削ってしまうとしたら、それは別に仕事とかじゃなくて……、やっぱまぁ、ゲームですよね。

こばなみ:
ゲーム!?

宇多丸:
僕がやるゲームは、言わずと知れた『Grand Theft Auto』シリーズとか、オープンワールドで、あちこち行って好きなことできるってやつばっかりだからさ。出不精なぶん、僕にとっては旅行の代償行為みたいなところもあって……、まぁとにかく、ひたすら際限なくやれちゃうわけですよ、そういうのって。
それこそ10ウン時間ぶっ通しとか、ざらにやっちゃうし。

だから、ハマっちゃってるゲームがあるときは、さっき言ったような普段の生活サイクルにそのプレイ時間が加わるわけだから、当然、削るとしたら睡眠、ということにはなっちゃってますよね……、我ながら、いい歳してホントしょーもない感じですけども。
これって、なおえつさんがおっしゃってるような、いわゆる「有意義な時間の使い方」とは、ある意味正反対にあるものでしょうからね。
むしろ、さっき言った「常に仕事に関係した何かをしてる」ような状態からの、逃避としてやってるようなところもある。

なんにせよ、そんなのに比べたらさ、映画は所詮、いくら長めったって、よっぽどの例外じゃない限り、せいぜい3時間強がいいところなわけじゃん。

そういう意味で実は映画って、他のエンターテインメントに比べて、格段に「効率がいい」のはたしかだろうと思うんですよね。
本だってテレビドラマだって、普通2時間じゃ済まないわけじゃん。そこへ行くと映画は、劇場に行けば半ば強制的に集中度も高められるということもあって、「体験」としての時間的凝縮度がハンパじゃないんですよ。

ただ、自宅などでソフトや配信で観ると、その「体験としての効率性」みたいな部分は、グッと落ちてしまいがち、ではあるとも思うけど。
家ってやっぱ、いろんなことで気が散るからさ。
僕自身、じゅうぶん作品に入り込めなかったり、入ってこなかったりして、逆に時間の無駄になっちゃったなと感じることも多いので……、特に初見の作品はやっぱり、できるだけ映画館で観たいなぁとは思ってますけどね。

あとなんか、時間の有効利用的なこと、してたかなぁ……、まぁ本は、電車で移動中とか、お行儀はよくないけど食事中とか、トイレでとか、とにかくちょっとでも「待ち」の余裕があるようなときには、基本なんかしらは読んでるかもしれないですけど。
ただそれも、ホント活字中毒とはよく言ったもんで、常時文字を「見て」いたいってだけで、実は全然ちゃんと頭に入ってなかったりするんですけどね(笑)。

でも、本当に時間を取るのは、そういう「インプット」のほうじゃないんだよな、当たり前っちゃ当たり前だけど。
歌詞を書くとか、原稿を書くとか、「アウトプット」のがやっぱり大変だし、手間もかかる。

こばなみ:
移動時間の利用などのほかに、効率をよくする工夫ってしてます?

宇多丸:
う~ん、どうだろう……。

そもそも、僕だって別に、「知識を効率的に入れる」ために映画や本に触れてるわけじゃないんですけど、っていう根本的な問題もあるよな。

たしかに、資料としてある作品に当たってるような場合は、必要な部分だけチェックして「効率」を上げる、みたいなことも当然やってますけど、それにしたって、あくまで僕の興味がそのときそこに向かってるからこそ、それらも「知識」としてスルスルおぼえられたりするわけで……、そういう感じじゃなく、それこそ学校の授業や受験みたいにある種の義務感だけでやる「お勉強」は、なかなかすんなりは頭に入ってこなかったりして、かえって効率悪いんじゃないかなぁと思うんですよね。

こばなみ:
私の場合だったら、編集知識を得るために雑誌やWebを読んでるって感じですかね。それだと、たしかに義務みたいで苦しくてつまらなくなってしまいそうですね……。

宇多丸:
たとえばさ、なおえつさんのツボにドストライクな、生涯ベスト級かも?というような映画に出会ったとしたら、じゃあ同じ監督や脚本家のほかの作品も観てみようかなとか、原作があるならそれも読んでみたいとか、同じ原作者の別の作品がまたまったく違うメンツで映画化されてるらしいからそっちもチェックしてみようかなとか、とにかくそうやって、最初に受けた感動から、どんどん興味をリンクさせてくことができると思うんですよね。
で、そうやって自分なりに重ねていった鑑賞遍歴、そこで感じたこと、考えたことこそ、なおえつさんの血肉になってくものだからさ。

たぶん、世の映画やらなにやらに詳しいとされる皆さんだって、そういう一個一個の蓄積を、そのへんの人よりは長年してきた、ってだけなんだと思いますよ。元はと言えばただ「好きだから」やっていただけで、努力とか、ましてや苦労っていうような感覚自体ないっていう。
「好きこそ物の上手なれ」って、あれホントだと思うよ。ま、「下手の横好き」っていうのもあるけど(笑)。そっちはね、やるべきことひと通りやり尽くした後の、それなりに高いレベルで言ってるならいいけど、たいていは単に「“好き”が足りない」だけなんだと、少なくとも僕は考えるようにしてます! 「好き」は才能、これホント!

だからなおえつさんも、知識知識って、無理して詰め込むもんでもないと思うんだよなぁ……。

こばなみ:
にしても、ですよ。ほかに削っている時間ってありません?

宇多丸:
まぁ、テレビの時間はだいぶ少なくなってるかな。
『探偵ナイトスクープ』の録画も溜まっちゃってるし……(笑)。

あ、ひとつだけ、皆さんと大きく違うかもしれないところ、思い出した。
前から言ってるように、今は僕、SNS的なことっていっさいやってないんですけど、それはけっこう、大きな差じゃない?

インターネットも、自分が興味あることを能動的に調べる目的以外の、要はあてどなくリンクをたどってく、みたいな使い方は、今はほとんどしてないです。
そのせいで、みんなが知ってるようなことを全然知らなかったりするけどね。ピコ太郎とか知るの、すごい遅かったもん。

こばなみ:
それはかなり違いが出そうなポイントですね。だらだらとFacebookやInstagramを見たり、ネット記事を読んで関連記事にもまたタップしていってると、あっという間に1時間とか経ちますもん! 私はもちろんやっちまってますけどね(笑)。

宇多丸:
あとさ、これもSNSに通じる話だけど、電車乗ってるときとか、皆さんがピロピロと球を動かしたりしてるあいだに(笑)、僕は本を読んだり、それこそこの女子部JAPAN(・v・)の原稿をiPadで構成したりしてるわけだから、そこんとこは違うっちゃ違うかもだよね。

でもまぁ、さっきも言ったように僕だって、むしろ身になるようなことなんにもしたくなくて、ゲームや酒に逃避してる時間、なんなら人より長いくらいだと思うんで。やっぱそんな偉そうなこと、まったく言えないっすわ……。

よく思うんだけど、いつまでも好奇心を持って行動し続けるための、「精神的スタミナ」みたいなものってあるよなって

僕を含め、たいていの人は、日々のルーティンワークだけで疲れちゃって、そこからプラスアルファ、自分を向上させるようななにかに向き合ってゆくような、そういう精神的スタミナが残ってなかったりするわけですよ。

ヘトヘトになって帰ってきたあとに、このうえさらに知力体力を消耗するような刺激とか受けたくない、それこそヘタに「感動」とかしたくない、みたいな。
だから、脳ミソをいっさい使わないで済むようなテレビのバラエティ観たり、何度目だよってマンガやゲームに手を伸ばしたりして、ついついのんべんだらりと過ごしてしまう。

でもそこで、フットワーク軽くバンバンいろんなとこに出かけて、芸術に触れたり習いごとをしたりして、確実に「有意義な時間」を蓄積できるような人っていうのも、ちゃんといるはいるわけじゃない? 
なにかあると、けっこうな距離足を伸ばしてでも、サッと行ってきちゃうような人。「何々の展覧会やってるっていうから、昨日ちょっと福岡行ってきた~」みたいな。

そういう人と、うちで寝っ転がってテレビ観てるだけの人……、たとえば30年間とか経って、自分のなかに残るものとして、どれだけ差がつくか、とかって考えてみると……。

こばなみ:
ひょえ~、怖い話になってきたよー。新年明けてぼーっとしてたけど、一気に目が覚めました。

宇多丸:
なおえつさんも45歳ということで、僕とほぼ同世代。日々が過ぎてゆく体感スピードが、どんどん上がってるんじゃないかと思うんですよね。
なぜかと言うと、それはたぶん、脳が新たに経験するようなインプットが、減ってるからでしょう。
子どもの頃の1日が長く感じたのは、なんにつけても新たに知ることがめちゃくちゃ多かったからだけど、今はもう、ハイこれもう知ってる、これもインプット済、これもインプット済って感じで、たいして頭を働かせずに1日過ごすことができてしまう。

そこで精神的スタミナがある人は、もっともっとインプットしたい!って、貪欲に動き続けられるわけだけど。
正直僕みたいな怠け者は、そうしなきゃ、と思うだけでもう、ちょっと疲れてきちゃう……。

こばなみ:
今から精神的スタミナを培えたりできるんですかね?

宇多丸:
ぶっちゃけ、培うというよりは、体力と同じで、基礎的にある人とない人がいる、というところはあると思うけど……。

ただ、なおえつさんだって、「休みの日も仕事のある日と同じ時間で起きて映画を1本観るくらいの時間の作り方しかできません」って、そんだけ出来てりゃ相当ですよ。僕だって1本も観られない日もあるわけだからさ。
精神的スタミナ、普通よりはあるほうでしょ、明らかに。

あえてアドバイスするなら、せっかく限られた時間のなかで映画を観るんだから、さっきも言ったように、そのなかでの体験的な濃度を、できるだけ高くするよう意識したほうがいいですよってことくらいかな。
たぶん、自宅でDVDとかで観るってことがやっぱりどうしても多いんだろうと思うんだけど、だとしてもまず、絶対にスマホは切ろう!
で、部屋をちゃんと暗くしたりするのもそうなんだけど、作品により集中できるという意味で、オススメは「ヘッドフォンを着用しての鑑賞」ですね。生活音を完全に遮断して、大きい音も小さい音もしっかり聴ける状態なら、上映時間内の体験が確実に「濃く」なって、映画というもの本来の効率性も、それほど損なわれずに済むのではないかと。

あとはやっぱり、本数を観るというよりは、眠る前にでもいいから今日観たものを反芻して、作品についてちゃんと「自分なりに考える」ってことですよね。
なんなら、短くてもいいから毎回なにかしら批評や感想を残すとか、そういう習慣をつければ、間違いなくより体験としては濃くなりますよ。
そのために同じ作品を見返したり、別のなにかを調べだしたりしたらもちろん、さらにさらに、って感じですよね。

僕も、毎週の映画評で扱ったものとそれ以外では、記憶の濃度がぜーんぜん違いますもん。それは、作品の出来とかとは関係なく、です。

とにかく、時間は誰だって限られてるんだから、一回あたりの体験を「濃く」する、ってことを心がければいいんじゃないですか。
いくら数こなしたって、一個一個の印象がうっすーいんじゃ、意味ないじゃん。
それより、一本の映画に思う存分浸って、調べて、これに関しては誰にも負けない愛と知識を持ってます!というところまで煮詰めたりするほうが、絶対に価値あるなにかですよ。

突きつめると、「なにをもって人生における“価値”とするか」っていう、とてつもなく大きな話にもなってきちゃうんだけど……、もちろんいろんな考え方があるだろうけど、僕はそれ、究極的には、「その人固有の体験の蓄積がどれだけあるか」ってことだろうと思うんです。

人間なんて、所詮はいくらでも置き換え可能な存在として扱われて終わり、ってことになりがちなわけじゃん。社会のなかでも、生き物としても。
でも、そうじゃない!とちゃんと言いきれるものが、自分のなかにどれだけあるのか、っていう。

だから、言うまでもなく、別に映画をいっぱい観てるから偉いとかってわけじゃないですよ。
そこから自分なりのなにかを引き出せないんだったら、どんな貴重な体験しようが意味ないし。逆に、日々の暮らしに「自分なりの価値」を見出すことだって、当然できるわけで……。

それこそ、睡眠だって人生の大事な一側面! 
夢なんて、「その人固有の体験」の最たるものだし……、小さい頃から親に言ってたみたいですよ、「ボク、眠るのだ~い好き!」って(笑)。

ということでなおえつさんも、別に焦んなくていいから、ご自分なりの「豊かな」時間の使い方、見つけられるといいですね。



【今週のお絵描き】


*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年1月21日に公開したものを再編集し、掲載しています。


【全国書店やAmazonで発売中】
「ライムスター宇多丸のお悩み相談室」、ついに書籍化!! 幻冬舎より発売中!
執拗に、フェアに、意外と優しく、時に興奮しながら、とことん考え答えた人生相談34!
★詳しくはこちら


<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
こちら


女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




☟☟☟ 新着記事情報はTwitterでお知らせしています ☟☟☟
よかったらフォローお願いします!


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

最後まで読んでいただきありがとうございます!! 新着記事はX(Twitter)でお知らせしています☞