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【浜田敬子さんに聞く家庭内のジェンダーギャップ】 一番身近な存在である夫を変えるのが、なかなか難しい。

「女性活躍推進」という言葉がなくなるような、本当に女性が活躍する2030年を迎えるためには、どうすればよいのでしょう? AERA編集長時代から女性の働き方を発信し、現在はダイバーシティや働き方について広い知見をもとに活動されている浜田敬子さんに聞く連載企画

今回は、ジェンダーギャップ解消への取り組みが職場では少しずつ進む一方で、なかなか進まない家庭内のジェンダーギャップ問題について、改善策を伺いました。


一番身近な存在である夫を変えるのが、難しいという現状。


——職場でダイバーシティが進み、女性自身もリーダーを目指したいと思える状況がだんだんと整っていく一方で、家庭内ではジェンダー意識改革ができておらず、家庭と職場の間で引き裂かれるような思いをしている女性がまだまだいると思っています。書籍でもそこに触れられていたと思いますが、家庭内のジェンダー意識のギャップを解消するためには、どう取り組めばよいでしょうか。


これは、かなり難しい問題です。私も後輩の女性たちが苦しんでいるのを見てきました。長時間労働の職場環境は、なかなか変わりません。「あなたが好きで働いているんでしょ?」といったことを平気で言うパートナーが、まだまだいるのも事実です。

家事や育児がワンオペになってしまい、会社側が期待して管理職に登用したい、もっと大きな仕事を任せたいと伝えても、「今、パツパツで難しいです」と返ってくる。

私が今まで上司として、メンバーの女性たちにやってきたことは、ワンオペの状況でもできる方法を提示すること。コロナ禍で今はリモートワークが当たり前になってきましたが、当時はまだ制度として取り入れているところは少ない状況でした。それでも、上司の判断で「リモートでも大丈夫」「家であなたが一番やりやすい時間にやってくれればいいよ」と伝え、早く帰ってもらうなど柔軟な働き方を提案してきました。

そうやってできることをやったつもりでしたが、彼女たちの心理的な負担は全然軽くならなかったんです。やはり、一番身近な存在である夫を変えるというのが難しく、夫との交渉が憂鬱だったと言っていました。交渉が決裂してしまうと家庭の中がギスギスとして雰囲気が悪くなってしまうからです。まさに自転車操業で、家事と育児をなんとか回している状況で、夫との関係性も悪くなったら大変です。



完璧主義をやめて家事の手抜きを。それはコストではなく投資。


解決策は2つあります。1つはもっと楽になる方法を考えることです。完璧主義をやめて、家事の手抜きをするということですね。共働きなら、食洗機などの便利家電は、コストではなくて投資です。お掃除ロボットがあれば、家が汚くてイライラすることも減ります。

もっと言えば、家事代行サービスなども取り入れる。こういったサービスの利用を躊躇するのは、お金の面ではなく、心理的な面という人が多いです。「こんなサービスを使うのは贅沢なのでは」「夫が知らない人を家に入れるのを嫌がる」など心理的なハードルが高いようです。でも、利用すれば土曜日の半日、病院に行ったり、カフェに行ったりでき、家事に追われないですむわけです。


あなたが夫と対話することも、社会を変える一歩になる。


もう1つは、夫とちゃんと話してみること。妻がどれほど会社で大事な仕事をしているかを軽んじている夫が多いように感じています。私は、AERA編集長時代に、家事や育児のシェアについて、もっと夫にお願いできないか、それを本人が切り出しにくい場合は私がお願いしていることを本人から夫に伝えてもらったりしたことがあります。

そして本人には、「あなたが夫と対話することが、社会を変える一歩になる」と伝える。夫との交渉は面倒くさいし、後回しにしたい気持ちもあるかもしれません。でも、そうやってみんながやらないから、多くの男性たちが変わらないのだと思うのです。

例えば、週に2日くらい夫が早く帰ってきて、子どものお迎えや家事をする。そして、その2日は、本人は早く帰ってもいいし、残業をしてもいいし、飲み会に行ってもいいわけです。
この自由な2日を手に入れることは、精神的な面からも大事です。まずは、その交渉から始めること。そうすると、夫も家事・育児に参画するようになって、子どもとの関係も変わっていくはずなんです。

ダイバーシティと言うと、企業の中の構成員のダイバーシティの話が多いですが、一人ひとりの人間の中に多様性を持つことも大事です。男性の育休は、男性がその経験をすることによってより成長して豊かになるという側面もあります。それは、ビジネスにも役立つはずです。

夫が家事や育児を経験することは、夫自身のためにもなります。夫が職場で早く帰るファーストペンギン※になれば、その職場の女性たちも助かります。男性が早く帰り始めると、「いつもごめんなさい」と言いながら早く退社している女性たちの罪悪感もなくなります。若い男性社員も、自分が結婚して子どもが生まれたら育休を取りやすい職場だと認識できます。

※リスクを恐れず初めてのことに挑戦する、ベンチャー精神を持つ個人や企業に対して、尊敬を込めて呼ぶ言葉。ペンギンの群れから、天敵がいるかもしれない海へ魚を求めて最初に飛びこむ1羽のペンギンに由来する。

上司やその上の世代が変わらなくても、誰か1人が勇気を持ってやり始めることが変わるきっかけになる。そして、1つの職場が変わると、隣の職場にも伝わり、会社中に広まっていく。小泉進次郎さんが環境大臣のときに育休を取られたことで、環境省内で男性が育休を取りやすくなったという話も聞きました。

今まで変わらなかった昭和型の企業が変わるきっかけが、1人の男性の育休ということもあるでしょう。身近にいる夫と対話することが、そんなふうに社会を変える一歩になるかもしれません。

——一人ひとりのなかにある多様性も大事という視点でみると、自分ごと化しやすいですね。いろいろなお話をありがとうございます。



<お話を伺った人>

ジャーナリスト
浜田 敬子(はまだ けいこ)さん

前Business Insider Japan統括編集長。元AERA編集長。 1989年に朝日新聞社に入社。前橋、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。 編集長時代はネットメディアとのコラボレーションや1号限り外部の人に編集長を担ってもらう「特別編集長号」など新機軸に挑戦。 2017年3月末で朝日新聞社を退社し、世界12カ国で展開するアメリカの経済オンラインメディアBusiness Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。 2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。 2022年8月にリクルートワークス研究所が発行する『Works』編集長に就任。 「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」のコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティや働き方などについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心企業の終焉』。


取材:F30プロジェクト 文:武田 明子




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