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どうすれば人を信じられる? 性被害に遭った後、被害者支援相談員の「妊娠しないからほかの人ほどひどくない」という言葉が忘れられません。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室313】


✳️今週のお悩み✳️
先日の
在日韓国人の方の記事を読んで、私も相談してみたいと思いました。質問したいのは、どうしたら人を信じられるようになるか、です。私は10代前半で性被害に遭いました。当時まわりに頼れる大人がいなかったので、警察、病院、NGOの被害者相談に行ったのですが、いつも話を真に受けてもらえませんでした。被害者支援の相談員の「妊娠しないからほかの人ほどひどくない」という言葉が忘れられません。恐らく被害にマイノリティ性が絡んでいるので、聞き手の理解の枠組みを超えていたのだろうと思います。とはいえ立て続けに心ない対応を受け、援助希求を諦めてしまいました。以後十数年、自己流の対応で何とかやってきましたが、人生を削って一日一日しのいでいるような心地で、最近はいよいよ持続可能性が見えなくなっています。恐らく専門的なサポートが必要な状態が被害当時から改善されていません。でも過去の経緯から、しかるべき場所に出るのが怖くて仕方ないのです。メディア等で発言内容がわかっている専門家なら少しハードルが下がりますが、居住地域の問題でアクセスが難しい状況です。昔よりは社会のマイノリティ理解が進んできているのは確かですが、#metoo などのムーブメントでも相変わらず自分のような被害は置き去りにされているようで、また無理解な人に当たってしまうのではないかと尻込みしてしまいます。一方で現状を改善したければ、自分も他人を信頼する努力をしなければいけないと頭ではわかっています。どうすれば人を信じられるようになるでしょうか。
(blowup・32歳・北日本)


宇多丸:
これ、直接的な表現を使いたくないくらい傷が癒えてないということだろうけど、ちょっと行間を読む必要がある文章で……、もろもろから推察するに、要はおそらく、同性からの性暴力を受けた、ってことだよね?

まずはシンプルに、ひどい目に遭われたこと、心からお気の毒に思いますし、さらには助けになるべき機関の理解を得られなかったばかりか、心ない言葉まで投げかけられたという、20年前の状況すべてに怒りと情けなさを感じずにはいられません。

遅まきながらですが、ずっと苦しみ続けてきたblowupさんの助けにどうしたらなれるのか、このコーナーでできることを考えてみたいと思います。

この場でこうして取り上げさせていただくことで、同じようなことで苦しんでいる方たちのお役にも、ひょっとしたら少しはなれるかもしれないし……。

まぁ20年も経ってるし、さすがに世の中全体の意識も変わって、いろんなことがだいぶ整備されてるんじゃないか、と思いたいけど。

ということで、こばなみにいろいろ調べてもらいました。

こばなみ:
「女性からの性暴力」などでネット検索していたのですが、なかなか探せなくて、そうこうするうちに、縁あって、新宿区の男女共同参画推進センターというところに行ったので聞いてみたんです。

そこでご紹介いただいたのが「東京都性自認及び性的指向に関する専門電話相談」でした。

電話をして、blowupさんの話をして、まずは「妊娠しないから他の人ほどひどくない」というような対応をすることがあるのか?ということと、知人からこういう相談を受けたのですがどうしたらいいですか?と聞いてみたんです。

まず「妊娠しないから他の人ほどひどくない」という発言については、いまの相談員は、というか、もともとそんなことは言わないはずです、と。

ただ、20年前だから、電話相談の方も、LGBTなどの知識もなく、そういうふうなことを言ってしまったのかもしれないけれども、と恐縮していました。

いまはさすがに絶対ないと思う、とは何度も言っていました。

もう1点、知人からこういう相談を受けた場合はどうしたらいいか。相談すべきところを教えてくれました。「性暴力被害者支援センター・ふくおか」というところに、LGBTという項目があり、そこは24時間365日やってるので、私(こばなみ)ではなくて御本人がお電話してください、とおっしゃっていました。

宇多丸:
ひとまず、調査お疲れ様でした。

しかしさ、まずなんで福岡なのかな?

やっぱり、全国的にはまだあんまり、受け皿が多くないってことなのかな。

だとしたら、それはすごく残念な現状ですね。

blowupさんは北日本在住で、ただでさえいろんなアクセスに困難を感じているようなのに……、もっと近場にも、ないはずないと思うけど。

そもそも、普通に検索しただけではしかるべき窓口がうまく上位に出てこなくて、かんたんにたどり着けないのも大問題だよね。

こばなみ:
あと、おっしゃっていたのが、PTSDを発症しているようであれば、福岡の支援センターに相談する際にそれも言ってもらえれば、医師をご紹介ということもあるかもしれないとは言ってました。

宇多丸:
そこは本当に、そういう選択肢もぜんぜん、必要ならばありうるでしょうね。

「どうすれば人を信じられるようになるでしょうか 」って、blowupさんが悪いわけじゃないんだから、そこを自力で頑張って直さなきゃっていうのもおかしな話で。

こばなみ:
相談員の方もそれはすごくおっしゃっていて。

宇多丸:
悪いのは言うまでもなく加害者であり、blowupさんを助けになるどころかさらに苦しめたこの社会のほうですからね。

だから、blowupさんが再び人を信じられるようにするのもまた、我々含む「他者」の役割なんだと思います。支援組織、医者やカウンセラーといった「プロ」はその最たるものなわけですが。

無論、また傷つくだけではないかと尻込みするのは当然だし、なんとか比較的安心して連絡できそうなところがご紹介できればいいんだけども……。

あと、案内されたのが「被害にあったLGBTの方へ」っていう窓口なのがどうもひっかかるかな。

blowupさんご自身がLGBTかどうかは文章からは判断できないけど、そもそもこっちのセクシュアリティと、性被害は関係ない話じゃない?

こばなみ:
TOPページには、「相手との関係、あなたの年齢、立場、セクシュアリティなどは関係ありません」と書いてありますけども。

宇多丸:
それがもちろん正論なんだけど……。

なんにせよ、LGBT用窓口みたいなところにblowupさんをいきなり誘導しちゃうのは、それこそかなり問題ないかな?

こばなみ:
そうですよね。ちょっとまた調べてみるので、少し時間をください。


―数日後―――


こばなみ:
性暴力被害者支援センター・ふくおか」に電話をしました。まずなぜ東京の方がここを推したのかわかないけど、もしかしたら、「女性からの女性の性被害」ということで、LGBTに詳しい人のほうがいいと思ったのかもしれないですね、とのことでした。

というのも、この福岡の支援センターにはLGBTに詳しい人がいるそうなんです(出勤日は要確認)。

ほかで支援センターにはあまりないのかもしれない、とのことでした。

それとサイトのくくりについては、福岡の支援センターの方としては、やはりどうしても女性からの相談が多いので、女性を主体としてサイトを作っていて、別枠として「被害にあった男性の方へ」「被害にあったLGBTの方へ」というくくりがあるという認識でした。

そして、今回のblowupさんの相談の場合は、相談者がLGBTでないなら、性被害ということで、どこの地域の相談所でも大丈夫なのでは?とのことでした。

ただ、お住まいの近くの支援センターのほうが、電話だけでなく対面でケアしてくれたり、一緒に病院に行ったりもできますので、いいかもしれないですね、とのこと。

お住まいを伝えたら、blowupさんのお近くの被害者支援センターも教えてくれました。

そして、全国の被害者センターがまとまって載っているサイトは以下です。

*************************************

性犯罪_性暴力被害者のためのワンストップ支援センター 一覧はこちら

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それと、この福岡の支援センターの相談員さんがとてもいい方で、blowupさんが言われた「妊娠しないから他の人ほどひどくない」というひどい発言に対して、同じ相談員として申し訳ないです、と何度もおっしゃっていました。

また、相談員もいろんな方がいるので、あなた(こばなみ)に話してくれたのだから、あなたが先に電話をして、大丈夫か確認するのもいいかもしれないですね、とも。

そういう意味では、私の電話に対応してくれた福岡の支援センターの方はとても親身でした。


さらに数日後―――


こばなみ:
福岡の支援センターの方から教えてもらった、blowupさんのお住まいの近くの相談所にも電話をしてみました。

こちらの方もとても丁寧に対応してくれました。

お住まいの地域に近いところに相談したほうが、対面で支援できるのでいいと思いますが、対面の必要がなければ、どこに地域の支援センターでもいいですし、ほかにも厚労省がやっている

**************

 よりそいホットライン

**************

も相談可能、とのこと。

こちらは24時間なので、夜中にふと思い出してしまったときなどでも電話できるのでお伝えしてみてください、とのことでした。

今回、3人の相談員の方とお話して、まだごく一部かもしれませんが、それでも全体像がぼんわりと見えてきたわけですが、私が電話をかけた印象としては、3人ともみなさん丁寧に話を聞いてくれ、ちゃんと教えてくれ、話もしやすかったです。

いろんな相談員の方がいるのは事実なので、たしかなことは言えないけれども(支援センターに電話したときにどの相談員の方が出るかはわからないですし)、でも各支援センターとも、きちんと真摯な対応で、少なくとも私としては「頼れる」存在でした。

ただ、ここまで電話しないと「よくわからない」のは問題。検索もあまりうまくできないし、いろんな団体や相談所も出てくるのでどこに相談していいかわからないし……。そういうところは改善されるといいですね。

宇多丸:
改めて、今回はいろいろ調べてもらって、お疲れ様ね。

まだまだサポート体制がじゅうぶんとは言えないようなのはちょっと残念でしたけど、それもこういう事例を明らかにしてゆくことで改善のきっかけにはなるかもしれないし、何よりやはり、誠意をもって対応しようとしてくれてる方々は確実にたくさんいらっしゃるということはわかったかなと。

今回のこれがblowupさんのお力になれたかはまだわからないけど、女子部JAPANとしてこういう問題で苦しんでいる方もいるということに焦点を当てること自体に意義があるかと考え、取り上げさせていただきました。

こばなみ:
調査に時間がかかってしまったため、ご相談いただいてから取り上げるのが遅くなってしまい、すみませんでした。

一人で思い悩んでいることがあれば、blowupさん、そしてみなさん、今後もご連絡いただければと思います!


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年3月14日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
こちら


女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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