過去の恋愛にトラウマがあるからと突然付き合えないと言ってきた年上男性。精神を叩き直してやりたい!【ライムスター宇多丸のお悩み相談室151】
✳️今週のお悩み✳️
過去にトラウマがある10歳ほど年上男性との恋愛に悩んでいます。3、4ヶ月の間何度か食事やデートに行き、このまま付き合うのでは?と思っていた人がいました。相手の仕事の都合でしばらく会えなかったのですが、次いつ会えますか?と聞いたところ、突然君とは付き合えないと言われてしまいました。その後すぐ直接会って話を聞いたところ、過去の恋愛の中で浮気をしたり、女の子を振り回した経験があったり、また仕事を放り出したことや職を転々としたことがあったり、自分はまともな人間ではないから誰かと付き合うような資格はない、俺は仕事にしても恋愛にしても最後には結局うまくいかないんだと言われました。寂しさもあったから付き合えないくせに、君に甘えてしまった、だから私に対して思わせぶりな態度をとって本当に申し訳ないと謝られました。恋愛感情はないのかと聞いたところ、ないとは言い切れないし、そういうふうに思ったことももちろんあるけど、とにかく付き合うとかはできないとのこと。そして、彼にとって私は特別な人で、付き合うことで傷つけることは決してしたくないと言われました。彼の仕事のこともよく知る共通の知人に確認したところ、今の彼はとても真面目に働いていますし、話していてそれは伝わってきますし、女性関係は荒れてないどころか、今は特にないはずとのことでした。彼とは気も合うし、一緒にいてこんなに落ち着く人はいるんだなあと思っていました。今の彼のことしか知りませんが、誰に対しても優しくて面倒見がよくて、気もききます。たしかに彼の過去はまあまあショックキングでしたが、今の彼を信じたいです。もっとまともな過去を持った人がたくさんいることはわかっています。そしてだからこそ、ただこれだけ話を聞いても、全然嫌いになれません。彼の弱さを受け止めて、恋愛から逃げようとしている精神を叩き直してやりたいとすら思います。トラウマがある男性に付き合うことに対して前向きになってもらうにはどうしたらよいでしょうか?
(ヨシ・22歳・東京都)
宇多丸:
僕はまずこの彼に、「オメー、いい歳こいてなーに自分に酔ってんだよ!」って、一喝してやりたいですね。
そりゃ三十路にもなれば、思い返すと死にたくなるような恥ずかしい過去がそれなりに積み重なってくるのも、当たり前の話でさ。 逆に、その恥ずかしさをある程度客観視できる年齢になってきたからこそ、自己評価も厳しくなりがちだってだけで、それって単なる普通の「人間的成長」だから。
だいたいさぁ、「過去の恋愛の中で浮気をしたり、女の子を振り回した経験があったり、また仕事を放り出したことや職を転々としたことがあったり」って……、大したことなさすぎだろ! こんなの「トラウマ」なんて呼ばねぇよ! その程度のやらかしで「自分はまともな人間ではないから誰かと付き合うような資格はない」「仕事にしても恋愛にしても最後には結局うまくいかない」とかいちいち言い出してたら、世の中の人の大半、世捨て人にでもなるしかないよ!
こばなみ:
付き合うのを誤魔化したいから……、なーんてことはないですよね?
宇多丸:
いやいや、さっさと断りたい人がわざわざこんなめんどくさいこと言わないでしょ。
きっと、彼としてはホントに、正直に告白したつもりなんだろうとは思うよ。 ヨシさんを大切に思ってるからこそ、という言葉にも、彼のなかでは嘘はないんでしょう、間違いなく。
ただ、この人さ、自分の過去を、ドラマティックにとらえすぎ!
てめぇのヘマを真摯に反省するってこと自体はもちろんいいことのはずなんだけど、「オレはなんということをしでかしてしまったんだ~!」って思い詰めるあまり、ちょっとナルティスティックな領域に入りだしちゃってるんだよね。 前に「20代後半から30代初めくらいは第二思春期!」って話をしたけど、まぁおおかたそのセンでしょう。
て言うか、30代そこそこで、20代でのありがちな失敗を恥じて、いまは真っ当になってる……ってそれ、ただの真面目だろ! 「オレはまともな人間じゃないからキミと付き合う資格はない……」とか、こんなんで悲劇の主人公気取りしてることのほうがよっぽど恥ずかしいわ!
そこへ行くとヨシさんの、「恋愛から逃げようとしている精神を叩き直してやりたい」って姿勢は、歳のわりに頼もしいですよね。ホント、実はそういうヨシさんに甘えてるだけなのよ、その人。 いっそ、いきなりビンタでもしてやればいいんじゃないの?(笑)
こばなみ:
目を覚ませー!
宇多丸:
「そんな程度の過去で嫌いになれるわけねぇだろがーっ! (べチーン!) そういう甘ったれたとこ、イチから叩き直してあげるから、四の五の言わずアタシと付き合えばいいの!」って、こっちがグイグイ引っ張ってってあげるくらいでもいいんじゃないかな。
まぁ実際にビンタするかは置いといても(笑)、要は、「あなたのこと丸ごと受け止めるから、あなたも勇気出して飛び込んでこい!」っていう、こっちの覚悟を伝えてあげるってことですよね。 もっと本質的な言い方をすれば、「あなたのことを信じるから、あなたも私を信じて」っていう話。
こばなみ:
男前だわ~!
部員さんのなかにも、
という方もいましたよ。
宇多丸:
ホント、元カノと死別とかねぇ、そこまで行きゃあなるほど、「トラウマ」って表現も許されるかもしれないけどさ。
でも、ぶっちゃけこの彼もさ、拒絶するだけならもっと簡単な言い方だっていくらでもできただろうに、わざわざそんな身の上話までしてみせたのは、「……というオレですが、どうでしょう?」っていうような気持ちが、どこかにやっぱり、ちょっとはあったからなんじゃないかなぁ。 つまり、本当の本音は、「こんなオレでも、理解して、受け入れてくれたり……しませんかね?」っていうことなんじゃないかと思いますよ。 逆に言えば、やっぱりヨシさんには甘えた面を見せ始めてるんだよね。確実に心を許し始めてる。
こばなみ:
宇多丸さんのまわりに、こういう酔ってるメンズいます?
宇多丸:
まわりって言うか……、ホントにお恥ずかしい話ですけど、ほかならぬ僕自身が、ちょうど20代半ばくらいかなぁ、まさにこんな感じで、「オレみたいな男は結局ひとりで生きていくしかないのさ……」みたいなやさぐれ方してる時期はありましたよね、ぶっちゃけ。
いま思えば、完全にてめぇに酔ってただけ! ハズカシー!(笑) なので、この彼のことも、半ば過去の自分を見るようで、余計に一喝してやりたくなるんですよね。
この彼もさ、ヨシさんを傷つけたくないとは言いながら、結局自分のことしか見えてないし、考えてないし、話してないじゃん。ホントに傷つきたくないのは自分ってことだしね。 鏡ばっかのぞき込んではウジウジしてる感じだよね。ホント中二病だよ(笑)。
僕自身もそうだったので、人生のなかでそういう季節があるのも理解はできるけど……、僕がもし女性だったら、こんなこと言いだす男、「うわっ、めんどくせっ」ってなっちゃいますね、普通に。
こばなみ:
わたしも~。
宇多丸:
当たり前の話だけど、僕もその時期が成人してからでは一番モテなかったよね(笑)。
その意味では、この彼には、ヨシさんっていう、それでもたしかな好意を寄せ続けてくれる、ありがたいお相手がすでに現れてるわけですからね。 それがどんだけラッキーなことだと思ってんだ絶対付き合ったほうがいいよバカヤロウ!って、ヤツに直接忠告してやりたいよ、ホントに(笑)。
かつての僕も、あるポイントで、「恋愛に勝手な理想像描いてそことのギャップに思い悩むとかマジ非生産的なだけ! それよりも、目の前にいる人を大事にして幸せにできるかどうかっていう、具体的なアクションのほうがよっぽど大事だろ!」と思えるようになって、ようやくその『若きウェルテルの悩み』症候群、みたいのから脱せたんだよね。ま、あれはあれで自分の成長には必要なプロセスだったのかなという気もいまはしてるけど……。
なので、ひょっとしたら彼も僕と同じように、いずれはそういう自家撞着的な思考サイクルから自力で抜け出すときが来るかもだけど、さすがにそれを待ってもいられないでしょうからね。 改めてヨシさんという「他者」に正面から向き合わせるためには、やはり、ヨシさんからの積極的な働きかけというのは必須になってくるでしょうね。場合によっては、ビンタなどの荒療治も辞さず、ということで(笑)。「鏡ばっか見てねぇでちゃんとこっち向けーっ!」ってね。
でもホント、さっきも言ったように、彼も心のどこかでは絶対に、自分のことを受け入れてほしいと願っているからこその告白、ではあると僕は思うので。 めんどくさいにもほどがあるけど、そこは惚れた弱みということで、もうしばらくは、根気よく彼の第二思春期に付き合ってあげてみてくださいよ。
まずはヨシさん側から、彼のことを本当に信じているんだというのを、しっかり伝えてあげるよう努めてさ。「アンタはまともだよ! 私の知り合いのなかで一番まとも!」くらいの勢いで(笑)。 そしたらやがては彼も、そういうヨシさんのことを心から信じられるようになる、すなわち、自分自身のことを改めて信じられるようにもなる……かもしれない。 もともと脈がないわけではないはずなので、次第に心を開いてゆく可能性、決して低くはないと思いますよ。
あ、言うまでもなくだけど、彼の行状が実際に改善してる、その方向で誠実に努力をしてる、っていうのは大前提だし、それは置いといても、なんにせよヨシさん自身が途中でだんだんアホらしくなってきちゃったりしたら、それ以上ヤツを甘やかす必要もないと思いまーす!(笑)
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年6月18日に公開したものを再編集し、掲載しています。