ヘアサロンなどで、あまり話したくない私。感じ悪くしゃべらずにいられる方法は?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室102】
✳️今週のお悩み✳️
ヘアサロンやマッサージ、ネイルサロンに行ったとき、「お仕事は?」などと聞かれるのですが、実はあまりしゃべりたくありません。ただ、無愛想にするのも感じが悪いだろうなと思い、一応あわせて話してはいるのですが、本当はぼーっとしていたいんです。どうしたら感じ悪くなく、その気持ちが伝わるでしょうか。宇多丸さんはそういうとき、どうしますか?
(ヤッホー・35歳・東京都)
こばなみ:
私もこの気持ち、よくわかるんですけども、これって行きつけの店というよりは、初めて行った店とかの場合ですよね?
宇多丸:
いや、そうとも限らないんじゃない?
そういう美容系のサロンとかマッサージとかって、リラックスしに行ってるって部分も大きいだろうから、何度か通って顔見知りになってようがなんだろうが、そこで必要以上に話すこと自体が億劫、っていうのはあるでしょ。
気持ちよさに集中したいのに、なんでこっちに気と頭使わせてんだよ!って。
飲食店や洋服屋でもそうだけど、いま話しかけるべきタイミングかどうかとか、こっちがわざわざ話したいような内容なのかとか、とにかくそういうなんらかの配慮もなく、ただカジュアルに話しかければいいと思ってるようなとこは、やっぱりだんだん足が遠のいていっちゃいますよね、僕は。
かと言って、ひたすら無愛想なのも普通に嫌だからねぇ。 要は厚かましくもなく冷たくもない、つかず離れずの絶妙な距離感を保ってくれるのが、やっぱりベストなんだけど。
あと、僕とかの場合、そういう会話問題に一番直面しやすいのは、タクシーだよね。 比率としてだいぶ減った気もするけど、やっぱ話しかけてくる人は一定数いる。印象としては二割くらいかな。 あれはたぶん、サービス精神というより運転手さん側の気晴らしって要素が大きいんじゃないかと思うんだけど……。
そもそもタクシーって、終電なくなっちゃったとかのやむを得ないときじゃなくても、ちょっと疲れてて、電車乗り継いだり歩いたりするのがめんどくさいな~ってときとかに、お金がもったいないとは思いつつも、つい使っちゃったりもするもんじゃん? それこそ、乗ってる間だけでも寝れるかな、みたいなときもあるわけで。 なのにそういうときに限って、やけに話好きの運転手さんに当たっちゃったりして……、こっちは明らかに目をつぶって仮眠取ろうとしてるのに、それでもお構いなしにガンガン話しかけてくる人とか、全然いるからね。 それも、道順のこととかだったらしようがないけど、「平日なのに人が多いねぇ」とか、ホントにどうでもいい、こっちも返答に困るようなこと。単に口さびしいだけなんだろうな、っていう。 しかも、そういう人はだいたいタメ口だったりして。
こばなみ:
あと私、「お仕事は?」って聞かれると上手く説明できないので苦手です。「編集をしてます」というと「何の雑誌ですか?」となり「いや、今はWebが多いですね」と言うと「プログラム系ですか?」とかになり、まったくもって噛み合ない会話が続くという……。
宇多丸:
はっきり言って、初めて会った客にいきなり職業聞いたりすること自体、ちょっと失礼だろとは思うけどね。
僕も、僕のことを知らない人にホントのことをいちいち説明するのはめんどくさすぎるしそんなこともしたくないので、タクシーとかでそれなりに会話してもいい気分のときは、完璧にウソの職業言ったりしますよ。 それも、あんまり関係ない仕事だと、会話のどこかでボロが出たりして余計に面倒なことにもなりかねないので、「コンサートの音響やってます」とか「アーティストのグッズ作ってます」とか、自分は微妙に知識があって向こうは知らなさそうなあたりにしとく。 そんなこと言ったら言ったで、「へぇ、どんなことやるんですか?」って、結局妙に興味持たれるだけだったりもするけど……、ま、それで車中にいる間、話が盛り上がるなら結果オーライじゃん?
そんな風に、少なくともタクシーの運転手さんに関しては、いったん話しかけられちゃったらもう、これも一期一会、二度と会うこともなかろうこの人と話す一生で唯一の機会なんだと思って、内心多少イラッとしてても、むしろこっちから積極的に業務について質問したりして、できるだけ会話、と言うかその状況自体を「面白がる」ようにはしてますね。
愛想のない対応してスルーしたって、客っていう立場からすれば本来全然いいはずだとは思うんだけど、それはそれで僕とかヤッホーさんみたいな小心者、じゃなくて繊細な人間は、「感じ悪かったかな……」とか、また別のモヤモヤが始まっちゃうでしょ。 それならいっそ、あきらめてさっさと話に乗っかっちゃって、「知らない人ともフレキシブルに話題が合わせられる自分」に密かにイイ気持ちにでもなってたほうが、まぁ賢明じゃないかな、と。
それで実際、後々ずっと話のネタになるような、本当に興味深い話が聞けたりすることもあるしさ(イラスト参照)。
ただまぁもちろん、こっちもホントに疲れきってて、そんな気力もないときもありますからねぇ。 そういうときは、 「この時間までお仕事ですか?」 「ええ、まぁ……」 「お仕事、なにされてるんですか?」 「普通の会社員ですけど……」 「そうですか、大変ですねぇ!」 「ええ、まぁ……」 このくらいでもう、いいかげん察してくれよ!って感じですけど。
あるいはもっとアグレッシブに、メール見ながら露骨に舌打ちしたり、「アイツ、何やってんだ……!」とか聞こえよがしにつぶやいたりして、要は何か仕事上でトラブルがあっていま超不機嫌、触るなキケン!感をビンビン出してく、とかはどう?
でもこれ、タクシーならどうせすぐ降りちゃうからまだいいけど、ヘアサロンみたいにそれなりの時間お店の人に身をまかせる場だと、空気悪くするとこっちも気詰まりになっちゃって逆に疲れそうだし、仕上がりにも悪影響与えかねないもんね。 やっぱ、できればその方向は避けたいよなぁ。
本来これって、単にサービスに関する要望のはずなんだから、変に構えず、正攻法で伝えちゃダメなんですかね? さすがに「いましゃべりたくないです」はモロすぎかもしれないけど、「ちょっと疲れてるんで、目つぶってていいですか?」とかの若干遠回しな表現で、最初にひとこと断っておくのが、やっぱり一番無難なんじゃない?
たしかに、初めての店だとそれも言いにくいのかもしれないけど……。 特に美容師さんとかの場合、知らないお客さんだと好みもわからないから、どうしてほしいのかできるだけ正確に把握するためにコミュニケーションを取り続ける必要っていうのも、一応あるだろうし。 職業とかプライベートなことまで踏み込んでくるっていう件も、好意的に解釈すれば、そういう周辺情報まで知っといたほうがその人に似合うスタイルをイメージしやすい、とかはちょっとあるのかもしれないね。
とは言え、そんなこんなも別に、サービス受ける側の義務とかではないからねぇ。 伝えるべきことを伝えて、さっきの「目つぶってていい?」断りを入れた後に、「何かあったらいつでも起こしてくださいね」とか付け加えておけばもう、十分なんじゃないかなぁ。
もしも、せっかく丁寧に張ったその予防線まで平然と踏み越えて、「えっ、なんでそんなにお疲れなんスか? お仕事っスか? お仕事何スか?」とかさらにグイグイ来ちゃうような無神経な人に当たっちゃったとしたら……、その店、もう行かなくていいよ!
逆にヤッホーさんみたいな人はさ、この「目つぶってていい?」を問題なくクリアできるかどうか、つまり、客に合わせた気遣いがちゃんとできるところなのかどうかをこそ、今後のお店選びの基準にしてけばいい、ってことなんじゃないかな。 なので、とりあえずは臆せず、「疲れてるんで……」と切り出してみましょう!
こばなみ:
ヘアサロンの接客マニュアルってどうなってるんですかね? やっぱり「話しかける=いい接客」になってるんですかね?
宇多丸:
まぁ、お店側にしてみれば、そりゃあ黙りこくってるよりはフレンドリーなほうが喜ばれるだろう、と普通は考えるんでしょうけどね。
店内の雰囲気的にも、静まり返ってるよりは活気があるように見えてほしいとか、腕前だけじゃなくて人柄でもお客をつかむことでリピーターを着実に増やしていきたいとか、そういう営業的な論理からすればなるほど、どんどん積極的に話しかける方向にもなっていきやすいのかな、とは思いますけど。
でも、今回の相談で明らかになったように、それを疎ましく感じるお客さんが一定の割合いるのもたしかなんだからさぁ。 読者の方で、その手の接客業に就かれている皆さん! 少なくとも、話しかけるべき相手/タイミング/内容をしっかり考慮した上でじゃないと、「フレンドリーなトーク」は逆サービスになりかねない、ということだけは、今後頭の片隅に置いといていただきたいですね!
こばなみ:
ちなみに床屋はどんな感じですか?
宇多丸:
人によるけど、僕はまさにその、いわゆる「床屋談義」が嫌で行かなくなったクチなので。
こばなみ:
懐かしい! 連載第一回目のスキンヘッドの相談のときに言ってましたね。
宇多丸:
あと、行きすぎたフレンドリーさに引いちゃった例、もういっこ思い出したんで、ちょっと長いけど、最後にオマケとして……。
もう20年以上前になりますけど、実家の近くに、店の作りとか値段とかはよくあるチェーン風なんだけど、実はかなりイイ線行ってるカレーを出すとこがありまして。 で、バイトだとは思うんだけど、いつもお母さんと娘さんのコンビがカウンターに入ってて、僕もそこそこの頻度で通ってたから、すぐに顔を覚えられたと。
それはまぁいいんだけど、そのお母さんのほうが、ちょいちょい話しかけてくるだけじゃなくて、帰り際に「みかん要ります?」とか言って、自分のおやつ用だかに持ってきた果物とかを、毎回僕に渡してくるようになってきたんですよ。 もちろん僕も「いただきます!」って受け取るんですけど、表情に多少困惑の色が浮かんでたんですかね、娘さんは「やめなよ! 困ってるじゃない!」とかたしなめてて。でも、お母さん のほうは「あらいいじゃない、ねぇ~?」みたく意に介さずで、僕も「いやホント、ありがとうございます……」と返すしかないっていう。
いや、素直に嬉しいことではあるはずなんですよ。 いろんなお客さんがいるなかで、なぜだか特に僕に優しくしてくれてたわけだからさ。 でも、当時は僕もまだ若かったせいかまったく知らない人との接し方がこなれてなかったっていうのもあるし、知らない人からもらった生ものっていうのに、実は若干の生理的な抵抗も感じてたりして、おばさんの好意が次第に重たく感じられてきたっていうのも正直なところだったんですよ。
そんなある日、いつものようにその店で、それ自体はすっごくおいしいカレーを食べてたら、問題のおばさんが、こう言ってきたんです。 「餃子食べます?」。 完全に自分たちのまかない用だと思うんですけどね。 でも僕、カレー食ってる最中なんですよ? それも、味そのものはわりと本格寄りなインドカレー。それと、恐らくはおばさんの手作り餃子を一緒に食べるっていう……。 娘さんのほうは「いいかげんにして!」って、かなりはっきりキレてましたけど。 とは言え、やっぱり無下に断ることもできなくて、答えましたよ、「ぜひ、いただきます」って……。
餃子は、ちゃんとうまかったです。うまかったですけども。 その日を境に、その店にはどうしても、足が向かなくなってしまいました。 それからほどなくして、お店自体が閉じてしまったんで、あの母娘にも二度と会うことはなかったんですが。
40歳も半ばを過ぎた今ならね、おばさんの好意をもっとポジティブに受け止めて、なんならもっと仲良くなっちゃっても良かったじゃん!とも思えるんだけどさ。 その意味ではちょっと後悔というか、胸が軽く痛むような思い出でもございます……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年6月27日に公開したものを再編集し、掲載しています。