【小安美和さんに聞く 女性活躍と「年収の壁」】専業主婦モデル前提の制度が、ブレーキをかけている!?
「女性活躍推進」という言葉がなくなるような、本当に女性が活躍する2030年を迎えるためには、どうすればよいのでしょう? 「女性×はたらく」をテーマに掲げ、企業や地方自治体と連携して全国各地で女性のエンパワメントに取り組んでいる、株式会社Will Labの代表取締役 小安 美和さんにインタビュー。女性活躍先進国の現状や、日本の女性活躍の現在地や課題、女性活躍という言葉がなくなるくらい当たり前になるために大切なことなど、あれこれと聞いたお話を連載でお届けします。
今回は、「女性と社会制度」について考えてみます。日本がどんどん成長していた時代には適していた制度が、現在を生きる女性たちの活躍のブレーキになっているという側面もあります。その制度に縛られないために私たちが意識するべきことなどを伺いました。
経済格差に気づき始めた女性たち。でも、足並みが揃わないから声が上がりにくい。
——戦後から高度成長期、バブル期を迎える中で、女性は家庭を守る存在として扱われたことが、70年経った今でも女性が活躍しきれない原因になっている気がします。
その通りですね。当時は夫が大黒柱として家族を養い、妻は第3号被保険者として専業主婦になるのが一般的なモデルでした。
妻がパートタイマーとして家計を補佐的に支えるということはありましたが、日本全体が元気だったから、そこまで家計が苦しくならない環境だったと思うんですね。だから、前回の記事で紹介したアイスランドの女性たちのように声を上げる必要がなかったのです。
令和になった今、日本は諸外国に比べて、男女の賃金の格差が大きいことが知られています。男性一般労働者の給与水準を100としたとき、女性一般労働者の給与水準は75.7との調査結果※も出ているんです。
■ 男女間賃金格差の国際比較
女性の高学歴ワーキングプアやシングルマザーの貧困などが社会問題になっていますが、この男女の収入格差はかなり大きい。そして、結婚を選択しない女性も増えていくなかで、当事者である女性たちも、ようやくこの「経済格差」に気づき始めました。
一方で、専業主婦として制度の恩恵を受けてきた女性たちは、特に声を上げる必要は感じていないかもしれません。環境変化しても、昭和のままのこの制度が、同じ女性でも足並みが揃わなくさせているわけですね。
「年収の壁」を超えて、意識や行動を変える。
——日本全体で収入が増えていない現在、共働きで家族として家計を支え合うのが、これからの理想形のような気がします。
そうですよね。就労支援をしていると、もっと働きたい、稼ぎたいと思っている女性は少なくないと感じます。でも、女性の働く意欲にブレーキをかけているうちの1つにいわゆる「年収の壁」があります。それ以上稼ぐと税金や社会保険の扶養からはずれ、短期的には手取りが減少してしまいます。そのため、就業調整をする女性がたくさんいらっしゃるんです。
でも、時代に合わせて社会の制度を変えていかなければ、意識も行動も変わっていきません。政府もようやく、昭和の家族モデルを前提とした制度の見直しを検討しています。
とはいえ、いつ制度が変わるのかはわかりません。5年後かもしれないし、10年後かもしれない。だから私は、こう考えています。今、いろいろな条件が揃ってもし働ける環境があるなら、いっそのことしっかり稼ぐことをおすすめしたい。100万円前後の収入だと、その壁が気になりますが、振り切って稼げば壁の存在も忘れるくらい手取りも増えるでしょう。厚生年金に加入できれば、将来受け取る年金額も増やせます。
家庭や子育てを中心にしていて、長く就労から離れていたとしても、稼げる能力や意欲を持つ女性はたくさんいるんです。企業も人材不足に悩むなら、女性が稼げる仕事をどれだけ提供できるかを考えてほしい。経営者の意識が変われば、できることはたくさんあります。
また、メディアが「手取りが減らないために」といった記事を出すことも課題。日本の今後の課題を構造的に捉えたら、お役立ち情報的に紹介することなんてできないと私は思っています。当事者である女性、経営者、メディア、みんなの意識が変わらなくてはならない時期が来ているのです。
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【小安美和さんに聞く 地方における女性活躍】中小企業のトップにこそ、ダイバーシティの真の意味の理解を。
に続きます。
<お話を伺った人>
株式会社Will Lab(ウィルラボ)代表取締役
小安 美和 さん
取材:F30プロジェクト 文:武田 明子