【小安美和さんに聞く 世界における女性活躍】 海外の成功事例を日本に当てはめても、きっとうまくいかない。
「女性活躍推進」という言葉がなくなるような、本当に女性が活躍する2030年を迎えるためには、どうすればよいのでしょう? 「女性×はたらく」をテーマに掲げ、企業や地方自治体と連携して全国各地で女性のエンパワメントに取り組んでいる、株式会社Will Labの代表取締役 小安 美和さんにインタビュー。女性活躍先進国の現状や、日本の女性活躍の現在地や課題、女性活躍という言葉がなくなるくらい当たり前になるために大切なことなど、あれこれと聞いたお話を連載でお届けします。
まずは、女性活躍が進んだ先にある理想の世界を思い描きながら、日本の現状や、日本と女性活躍における先進国との違いなどを伺いました。
このままではダメだと、みんなが思っている。では、どんな世界が理想なのだろう?
——日本の女性活躍推進に向けていろいろな課題があると思いますが、そういった課題が解決され、女性活躍が進んだ先にどんな社会が待っているか、まずは小安さんが考える未来予想図についてお伺いできますか?
未来予想図……どんな未来を描くかに正解はなく、一人ひとりが「どうありたいか」を考えることが大事だと思います。
私自身がどう考えているかというと、 “一人ひとりがありたい姿を実現できている社会”になればと思っています。誰もがありたい姿を邪魔されない世界を私は目指しています。
私は、女性にフォーカスした事業に取り組んでいますが、今、日本において男性もありたい姿で生きられているかというと、そうではないと思います。性別役割分担意識が根強い社会なので、男性も女性も、行動や未来を縛られています。そういった性別役割分担意識にとらわれず、男性も女性も自分の人生を選択できる社会であってほしいというのが、私の思いです。
——日本はジェンダーギャップ指数が世界116位※で、後進国と言われています。ジェンダー平等先進国で、日本のお手本となるような国はあるのでしょうか?
※世界経済フォーラム公表「The Global Gender Gap Report 2022」より
海外にお手本となる国があるかどうかは、それぞれの歴史的背景が異なるので、なかなか「この国」というのは難しいと思っています。
ただ、個人的に注目しているのはアイスランドです。ジェンダーギャップ指数を見ると限りなくジェンダー平等に近く、ランキング1位なのですが、実際のところ、ジェンダー平等に近い国というのはどういう景色なのか、私も行ってこの目で見てこようと計画しているところです。
■ジェンダーギャップ指数の日本とアイスランドとの比較
少し前に、アイスランドのグズニ・ヨハンネソン大統領(第6代)の講演会に行ってきました。ヨハンネソン大統領曰く、「我々はジェンダー平等でトップランクではあるものの、100%実現しているかというとそうではない」と。とはいえ、あらゆる分野の意思決定層に女性がいるかいないか、男性だけで物事を決めていないかという点においては、アイスランドは日本のかなり先を行っていると思います。
例えば、第4代の大統領は女性で、しかも、16年間も務めたそうです。だから、アイスランドの子どもたちは、女性が大統領になることを当たり前だと思っている。ヨハンソン大統領は、「男の子が大統領になってもいいの?」と子どもたちに聞かれたというエピソードをその講演で話していました。国のトップ層のジェンダーバランスが、子どもたちの生き方に大きく影響することを実感しました。
一方で、DV(ドメスティックバイオレンス)や性暴力などにおいて、被害者に女性が多い点ではアイスランドも変わりません。ジェンダー平等に向けて、まだまだ取り組むべき課題がある。トップランクと言われている国でも、まだジェンダーギャップ解消に向けて取り組んでいる、そういった状況なのです。
日本はアイスランドの足下にも及ばない状況ですが、日本ならではのアプローチを考えないといけないと私は思っています。なぜなら、歴史的背景が違うからです。
アイスランドのジェンダー平等のきっかけは、1975年の「ストライキ」。
——アイスランドで、ジェンダー平等が進んでいるのはなぜなのでしょうか?
1975年に女性が起こしたストライキが、現在へとつながるきっかけとなりました。「Women's Day Off」という、女性が家事も育児も仕事も放棄する1日を作ったら、さまざまな生活インフラが麻痺したんです。もともと女性の就業率の高い国だったので、女性が1日働かないと生活インフラが止まってしまうんですね。鉄道が止まり、スーパーも稼働しない。それが一つの契機となって、ジェンダー平等に向けて、さまざまな施策が動き始めたという経緯があります。
これは、ジェンダー平等実現に向けたアクションの好事例として知られた話なのですが、きっと日本の女性にはまったく刺さらないですよね。今、この話を聞いて「じゃあ、ストライキを起こしてみよう!」と思う人は少ないのではないでしょうか。
以前、日本でも「女性があらゆる仕事を休む日」をキャンペーン的に作れないかと考えたことがあるんです。そこで、子育て中の友人女性に相談したら「1日仕事を休んだところで、家事や育児がたまって翌日しんどくなるだけ」と返ってきたんです。
日本においてどれだけ女性に家事や育児の負担が偏っているのかが、よく分かる返答でした。1日何かしただけでは、何も変わらないという諦めもあるのでしょう。また、ある地域の講演で、女性たちにこのストライキの話をしたところ、共感されるどころか「ここは日本。小さな町で女性が声をあげるのは難しい」と反発を受けたこともありました。
「もう、これまでの社会とは違うんだ」と腹落ちすることが、変わるための第一歩に。
——文化や歴史など背景が違うから、他の国で成功したからといって、そのまま日本に取り入れられるわけではない。
そうなんです。アイスランドは漁業が盛んで、女性も漁業に従事してきた歴史があります。「女性も働いているのに賃金が低いし、待遇が悪いから改善すべきだ」という経済的なニーズから起きた労働者としてのストライキだったそうです。
日本では戦後の高度成長期に、特に都市部で男性が「大黒柱」として稼ぎ、女性は専業主婦として家庭を守るというモデルができてしまいました。地方では、以前から共働きが多い地域もありましたが、それでも、「外」の仕事は男性、「内」の仕事は女性が担うという性別役割分担意識が今も強く残っています。
——その地域が持つ文化や風土が、その後の高度成長期と組み合わさって、女性の生き方にフタをしてしまったような気がします。
「この町では、この家庭では、こういうことをしてはいけない」というような心理的な影響は大きいかもしれませんね。そういう「思い込み」を取り払って、女性も男性も、ありたい姿で生き、働ける社会にするためには、やはり意識をアップデートするしかありません。女性も男性も、もうこれまでの社会とは違うということを腹落ちすることが第一歩だと思います。
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【小安美和さんに聞く 女性活躍と「年収の壁」】専業主婦モデル前提の制度が、ブレーキをかけている!?
に続きます。
<お話を伺った人>
株式会社Will Lab(ウィルラボ)代表取締役
小安 美和 さん
取材:F30プロジェクト 文:武田 明子