飲み代の割り勘分を忘れている友達、言い出せなかった私。どうしたらいい?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室144】
✳️今週のお悩み✳️
久々に会った友達と飲みにいったときのことです。会計のときに友達は1万円札しかないとのことだったので、後で崩して渡すねといって、私が払いました。そのまま駅まで歩いてるうちに友達は忘れたのか普通に帰っていきました。私はおぼえていたのですが、言い出せず。頻繁に会う友達ではないので、この場合、どうしたらいいでしょうか。友達はあれから何も言ってきません。
(しーちゃん・35歳・東京都)
宇多丸:
もちろん本来、お金のことは、どんな場であれきちんとしとかないといけないっていうのは大前提として……、それでも、調子よく飲んでるとつい、もろもろが雑になっていってしまう。というのは人間よくあることでして……。
正直、僕もちょいちょいやっちゃってますよ。 お店出てけっこう経ってから、「あれっ? あそこのお代、オレ払ったっけ?」とかさ。 そういうときはだいたい、周りに聞いてみると「いや、ちゃんといただいてますよ」か、「◯◯さんがまとめて払ってくれちゃいました」か、どっちかなんだけど。
で、 後者だったら当然慌ててお詫びして、すぐに必要分払うか、大人同士だと向こうも「いや、ここは持ちますんで!」みたいに言ってくれちゃうケースも多いから、そしたら(ホントに本気の申し出なのか見極めた上で、だけど)「じゃあ、次は必ず僕に出させてください!」とかなんとか言って、さっさと次の店に移動するなり次回の約束をするなりして、あくまでざっくりと貸し借りのバランスを取っていくっていう……。 ずいぶん前にも、おごられたときの対処法ってことで似たような話が出た気がするけども、とにかく、少なくともお互い、飲み代程度に困ってるわけじゃない社会人同士なら、わりとみんなそんな感じで、酒の場だしってことでアバウトに流してくことが多いんじゃないかと思いますけど。なににお金を払ったかと言えば、つまるところ「楽しい時間を過ごした」ってことに対してなんだからさ。
今回みたいなケースにしても、一番多いのは、お金を出したほうもその場では徴収し忘れちゃってて、「まぁこっちもうっかりしてたし、次回はあっちに勘定持っ てもらえばいいかぁ」くらいに思ってそれ以上気にしない、なんなら次会う頃にはこっちもまた完全に忘れてる(笑)みたいなパターンじゃない? ならば、所詮はその程度のことだったってことだしね。
こばなみ:
そもそも、1万円を崩して後で払うね、ってことは、いくらだったんでしょうね?
宇多丸:
僕もあんまり計算得意なほうじゃないんでアレですが……。
お友達がその1万円札でまとめて払ったほうが早いって話にならなかったということは、しーちゃんさんもぴったりは持っていないが2人分払うことはできて、しかもそれが1万円を超えず、1万円札出した残りからしーちゃんさんにおつりを払って帳尻を合わすのも難しいってことだから……、1万円に対して2人分のおつりが5,000円以上、つまりお代は一人2,500円以下で、しーちゃんさんも5,000円札しか持ってなかったって可能性が高いんじゃないか、と僕は推測しますけども。
こばなみ:
あるいは、2人で1万円以内の会計で、両者1万円しか持っていなくて、しーちゃんさんがひとまず払ったとか?
宇多丸:
ま、金額の大小の問題ではないのでしょうが……。
ただ、僕がちょっと気になるのは、しーちゃんさんは、自分ではおぼえていたんだよね。でも、言えなかった、言わなかった。 要は、お友達から言いだしてくれるのを待ってたわけだよね。もちろん、それが本来の「筋」なのは当然なんだけど……。
とは言え、お友達にも悪気があったわけじゃなくて、ただ単に忘れちゃってただけなのは明らかなわけじゃん? 「いや、あいつ前から金には汚いところがあって……」とか言うんならまた話は別だけどさ。 そこでしーちゃんさんがひとこと、「あっそうだ、さっきのお代まだもらってなかった!」とかサクッと言えば、「あーっ! 完全に忘れてた! ホントごめーん! すぐにそこのコンビニでなんか買って崩してくる!」ってことで、速攻その場で解決した話だと思うんですよね。
なのに、黙っていたのはなぜかと言えば……、しーちゃんさんのなかに、「借りてる側が忘れてんじゃねぇよ! こっちから言わせんな、バカ!」みたいな、イラつきがちょっとだけあったからなんじゃないかって感じがするんですよ。
最後の「友達はあれから何も言ってきません」っていう一文にも、同様の静かな怒りを感じる……、普通に考えたら「忘れたまんまだから」以上の理由はないはずなんだけど、しーちゃんさんはどうやら、とにかくその「借りてる分際で忘れてる」こと自体の図々しさに、どうしてもイライラが止められないでいる、って感じじゃないですかね。
しかも同時に、こうやって相談を送ってくるくらいだから、「ただでさえ友達にお金の話はしづらいのに、こっちから今さら代金を請求したりするのも、それはそれで気まずいというか、なんだかこっちががめついみたいなことになってしまうんじゃないか……」みたいな部分も、しーちゃんさんは重々わかってるわけですよ。 ホント、なんでこっちが気を遣わなきゃならないんだよ!って話なんだけどさ。それでさらにモヤモヤが増しちゃってるところも、ひょっとしたらあったりするのかもしれない。
こばなみ:
メールとかで「この間の飲み代、返してね。振込先は……」とかって言うのもなんですしねぇ……。
宇多丸:
振り込ませるとこまで行っちゃうと、なんだか攻撃的なニュアンスまで入ってきちゃうもんね。
そこまで切羽詰まった話なの?って。
とにかくね、お友達側にそもそもの落ち度があるのは基本としても、その場で言えば済むことをあえて黙っていたことで、その過ちをより取り返しのつきづらいものにしまったのは、ほかならぬしーちゃんさん自身でもあるんだからさ。 簡単に言えば、「借りっぱで忘れてたお友達もお友達だけど、わかってて黙ってたしーちゃんさんもしーちゃんさんだよ!」って話ですよ。 そういう、事態のこじれに対してこちら側にもちょっとはある責任みたいなものを、しーちゃんさん自身が受け入れることからじゃない? まずは。
こばなみ:
他の女子部員の声も集めてみました。
私だったら……、5,000円以内とかだったら、今はそのままにしちゃうなぁ。そして、次に会ったときに覚えてたら「あ! そういえば!!」って言うかもだけど、年月にもよりますが1年とか経ったら、たぶん覚えてないし、仮に覚えてても、もういいやって思っちゃうかも。
もし宇多丸さんがこの友達の立場で2年ぶりくらいに会って、「前回は私が払ったよね?」って言われたらどうします?
宇多丸:
普通に謝りまくって、その日は全額こっちが持つってことにでもするよ。「利子分込みで!」って。
こばなみ:
記憶がなかったとしても?
宇多丸:
だって、友達でしょ? 「こいつが嘘ついてるのかも」とか疑うわけ?
向こうが言うんならホントにそうなんだろうと思いますよ、素直に。
こっちが払う分にはなんの抵抗もないです。
こばなみ:
知人に忘れがちな人がいて、もうそれはギャグになってるくらい恒例なので、貸したときはすぐにみんなでiPhoneにメモったりしてますけども。
宇多丸:
それくらい常習犯すぎるとむしろ、笑える話にもしやすいよね。
「お前、ネタは上がってるんだぞ!(笑) 許してやるから今日はおごれ!」とかって。
いずれにせよ、仮にも友達だと思ってる相手なら、悪意ベースの行動など取ってくるはずがないっていう、最低限の信頼はないとダメでしょう。 逆に、お金をチョロまかすようなことを意図的に繰り返してるような人っていうのがいたとして……、そんな「友達」とお付き合いするの、やめたほうがいいってだけだよ!
ということで、しーちゃんさんのお友達だって、もちろんだけど、わざとやってるわきゃないんだからさ。 それこそ今からでも、いつも言ってる通り「素直さ」と「優しさ」の両輪を忘れずアプローチしていけば、まともな相手ならほぼ間違いなく、向こうからもポジティブなリアクションが返ってくるはずですよ。
たとえば、しーちゃんさんの感じているモヤモヤの元、つまり「こないだのお代、結局もらってないんだけど……」って件は、それはそれで「素直に」お友達に伝える。密かに抱え込んだあげくいつかドカーン!ってより、そっちのが断然いいのは間違いない。
ただしそのとき、言われた側が必要以上に引け目を感じないで済むような配慮、すなわち「優しさ」も大事で。 たとえばだけど、今回で言えば、黙ってたこちらもちょっとは悪いってのはさっき言ったように事実なんだから、「ごめーん! こないだ割り勘分もらうの忘れちゃってた!」みたく、むしろこっちが先に謝って下手に出るくらいのテンションで連絡する、とか。あくまでライトに、押しつけがましくならないように、ね。 そしたら向こうも、元はと言えばもっぱら自らに非がある話だったってことを、よりすんなり、自分から認めやすいでしょ。
でさ、今度はお友達がおごるって名目で、いつもよりちょい早めのサイクルでまた会う流れにでもなれば、それはそれで万々歳じゃない? 「またすぐ会えるきっかけになって、逆に良かったよ!」くらい言えるようになれば、完璧ですよ!
こばなみ:
ピンチはチャンスっていうか、イヤだなって思ってたことが、ひっくり返って素敵なことになるって、たまにありますよね。
「素直」と「優しさ」、どんな場面でもホント大事だわ!
宇多丸:
あとは、特にお金の話はこじれやすいだけに、話しづらいのもわかるけど、やっぱりなるべくその場で、オープンに解決してくほうが楽だよ!ってことですね。
僕も改めて、飲みのときは気をつけますです……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年4月30日に公開したものを再編集し、掲載しています。