家事は女がやって当然と思っている夫。嫌味を言うと険悪になり、自己嫌悪に……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室161】
✳️今週のお悩み✳️
宇多丸さん、こんにちは。夫婦の問題で相談があります。我々夫婦は30代後半、1歳の息子がいて、共働きです。家事とほとんどの育児は私がやっており、たまに疲れて我慢ができずに嫌味を言って険悪になり、自己嫌悪に陥ります。よく宇多丸さんが仰るように、家事をやってと本人に直接言えば済む話、なのですが、夫はプライドが高く、どう言えば良いか分からず今に至ります。いつも家事ありがとう、とか、料理美味しいよ、とか、ゴミ捨て大変でしょうありがとう、とか、トイレ俺も使ってるのに洗ってもらって悪いね、とかとか言ってくれれば私の気持ちも全然違うのだろうと思うのですが、そういった声掛けはほとんどありません。夫はなぜやらずにいるくせに、嫌味を言われれば謝りもせずむくれるのでしょうか? 家のことは女がやって当然と思っているのでしょうか? 私は奴隷ですか? ストレスが溜まり、余裕が無く、夫に優しくできず、そんな自分が嫌でたまりません。なにか助言・喝を頂けたら嬉しいです。
(マミ・36歳・千葉県)
宇多丸:
まずもう、共働きなのにマミさんだけが当たり前のように家事をやらされてるって時点で、普通にアウトですけどね。
たとえ専業主婦だって、「ズボンや靴下を脱いだら脱ぎっぱなし、しかも改善の気配がまったくないダンナ」の回にも言ったように、家事という仕事に対する敬意が払われるべきなのは当然なわけだけど……、まして、こっちも外で身を削ってるっていうのに、家事のみならず育児まで一方的に押しつけといて、悪いとも思ってないって、何重にダメなんだよそのダンナ!
いまどきそんなの許されないでしょ!とは思うけど……、残念ながら、少なくとも今の日本ではまだ、決して珍しいとは言えない話なんでしょうね。
こばなみ:
朝は保育園に送って行ったり、土日はご飯つくったり、まわりの男友達とか、けっこう家事をやってる印象がありますけど、でも一方、ダンナがなんもやらない、ハナから期待してない、なんて話も女友達から多々聞きますしね。
宇多丸:
とにかく、この状況でマミさんが頭に来るのは当たり前。負の感情をつい出してしまったからと言って、そこまでご自分を責めることはないと思いますよ。
ただ、それは大前提として、じゃあどうするか、を考えてかなきゃならないわけだもんね。
まずはっきりしてるのは、マミさんのダンナさんは、ここまで言ってきたような、「旧態依然とした性差間の不平等は是正されなければならない」というような問題意識自体を、現時点ではちゃんと持っていない人、もっとはっきり言っちゃえば、マミさんのおっしゃる通り「家のことは女がやって当然と思っている」人なわけですよね、明らかに。
で、 そういう人に「嫌味」なんていう婉曲表現をしても、そもそもなにが悪かったのかがわかってないんだから、そこからマミさんが本当に望んでいることを推し量る、なんてことができるわけは当然なくて、とにかく悪意だけが確実に伝わるということに、どうしてもなってしまうんじゃないかなぁ……、「謝りもせずむくれる」のも、全然予想がつく結果というか。
そもそも「嫌味」って、相手に対する不満の核心を直接突くことはあえてしないことで、いきなり正面衝突になるのを避けつつ、読んで字のごとくとりあえず嫌な感じを味わわせて、こちらに怒りや敵意があるということだけはわからせてやろう、っていう攻撃テクニックなわけでしょ。 もし、その人との間に生じた問題を本気でなんとかしようと思うなら、むしろ「核心を直接突く」ほうがどう考えたっていいわけで……、つまり、嫌味っていうのは、ちゃんと話し合って関係を修復するという労力を払う気も起きないような、こじれようが疎遠になろうが構わない、要は限りなく無関心に近い真の「嫌い」な相手に使ってナンボ、な手段なんであって。 言った側が一方的にストレスを解消できる……かも、という面があるくらいで、本質的になにか、物事を解決するためのものではまったくないわけですよ。
マミさんもさ、「なんでわかってくれないの?」っていう怒りや悲しみが蓄積しすぎちゃってて、まずはその負のバイブスを夫に叩きつけて、思い知らせてやりたい!というような、言わば報復感情のほうが、いまは先立っちゃってる状態ってことなんじゃないかな。
それはそれで無理からぬことだろうとは思うけど、ダンナさんみたく、ハナからなにが問題なのかもわかってない人に、「なにをわかってほしいのか」を理解させる前に「なぜわかってくれないのか」に対する怒りを(しかも遠回しに)ぶつけたとしても、向こう的には「理不尽に怒られた」としか思えないから逆ギレで返す、その態度にマミさんもますます怒りを募らせる……っていう、出口のないネガティブ感情の高速増殖サイクルに入っちゃうだけ、なのもたしかなんじゃないですかね。
「こんなこと、なんで言われなきゃわかんないの?」って怒り方をせざるを得ないときもそりゃあるとは思うんだけど、それと、相手に本当の意味で「わからせる」ために取るべきアクションは、また別というか。
なので、マミさんがダンナとの夫婦生活のあり方を本気で改善したいのであれば、どこかのポイントではやっぱり、「いちいちこんなこと言わせんなよ!」っていうごもっともなイライラをグッと抑えつつ、ダンナと向き合って、冷静かつ本質的な話し合いの場を持つ必要があるんじゃないかと。
もちろん、その上で夫がどういう反応をしてくるかはまた別問題ですけど……、万が一、結局残念なリアクションしか返ってこなくって、極端な話それこそ離婚するしかない!ってとこまで行っちゃうのだとしても、それでもやっぱり、いつかはどこかで、覚悟を決めてきちんと話し合わなきゃならないってことに変わりはないんだからさ。
そうじゃないと……、圧倒的「正しさ」を背景に感情を爆発させるって、一種の快感も確実にあるものだからさ。意地悪な言い方するようだけど、怒っている自分に酔っちゃって、やめられなくなってるだけなんじゃないの?という風にも見えてきちゃう。 実際、怒りを吐露するうちにテンションがどんどん上がってきて、ヒートアップしすぎちゃって、結局どうしたいのかはよくわからないことになっちゃってる人って、ちょいちょいいるじゃない?
こばなみ:
いるいるいるいる!!! お怒り沸騰赤鬼劇場みたいになっちゃって、それだけで終わっちゃう、とかですよね。
宇多丸:
まぁ、問題に真正面から立ち向かって解決するって、やっぱり面倒くさいことでもあるからね。
こっちはなんとかいらだちを抑えながら、できるだけ優しく優しく説いて聞かせているのに、下手すりゃ反論さえされるかもしれない。想像するだけで腹立つわ~!っていうね(笑)。
でも、皆さん自分のことを振り返ってみてほしいんですけど、誰かからこっちの落ち度を指摘されて、その場ではつい感情的になってしまいちょっと言い返しちゃったりもしたんだど、後からよくよく考えてみたらやっぱあっちの言う通りかも、やっちまった……って反省することとか、けっこうあるでしょ?
こばなみ:
あるある! 言われたときはカチーンとくるやら悲しいやらで、冷静に判断できないんだけど、少し時間が立って感情的なものを排除していくと、問題の本質が浮かび上がってくるというか。仕事でも、よくありますね。
宇多丸:
まして、その言われ方が感じ悪かったりしたら、嫌味なんてのはまさにその最たるものだけど、たとえその中身がそれなりに正論だったとしても、ますます素直には飲み込みづらくなっちゃったりするもんでしょ。
要は、「相手の非を責める」のと、「相手に非を認めさせる」のは、似てるようでまったく違う話、ってことじゃないですかね。
だからマミさんもまずは、自分がホントにしたいのはどっちなのかということを、改めてきっちり自問してみるところから始めたほうがいいのかもしれない。 もっとはっきり言えば、夫との関係修復のためにもうひと頑張りするだけの気力が、残っているのかどうか。
一番良くないのはやっぱり、このままマミさんが一方的に憤懣を溜め込み続けて、年月だけが経ってゆく、ってことじゃないですかね。 夫のほうが都合よく勝手に反省してでもくれない限り、状況が良くなる糸口もないってことだからさ。夫婦仲もギスギスしてゆくいっぽうでしょ。 そこに挟まれて育つ子どももいい迷惑ですよ。
こばなみ:
そうやって何十年と生きていくのは、自分も相手も子どもも辛いだろうし……、悲しくなりますね。
宇多丸:
そういう風に長年耐えに耐えてきた奥さんが、ついに逆襲に転じた結果が、たとえば熟年離婚だったりするんでしょうけど。
でも、できればもうちょっと早めになんとかできれば良かったのに、という感じはどうしてもしちゃうなぁ。一度しかない人生を、お互いそんなかたちでむざむざ不幸に浪費するのって、どう考えても建設的じゃなさすぎると思うんですけど。
だいたいさぁ……、そういうのって、結婚する前に最低限チェックしておくべきことなんじゃないの? 家事や育児の分担に関して彼がどう考えてる人なのかなんて、超重要な話じゃん! そういうところでもろもろちゃんと一致してるかどうか、たしかめずに結婚しちゃったわけ? マミさんとこさんなんて、パートナーとしての信頼関係、事実上まったくできてない状態じゃん。
もちろん、結婚してからだってギクシャクするところ、うまく噛み合わないところは次々出てくるんだけど……、その都度お互い頑張って、こまめにすり合わせしてくしかないんだからさ。 前も言ったかもけど、夫婦生活だって、円滑さを保つためには、日々の手入れは欠かせないわけですよ。
結婚は、メンテナンスフリーの完成品じゃないよ!
こばなみ:
この相談でもよく出てきますよね。結婚=幸せという「結婚ゴール説」がまだ信じられているんですよね。
宇多丸:
ゴールどころか、パリ・ダカールラリーのスタートだよ!
そのパリ・ダカールたとえで言うとさ、ドライバーとナビゲーターが、信頼できるパートナーとして協力し合ってようやく、長く過酷な道のりを走りきれるかどうかって話なのに、マミさんとこのダンナは、助手席に座ってるくせに、ナビもしないで好きな曲かけてお菓子食ったりしてるわけですよ。どうやらそもそも、「ナビをしなきゃならない」ってことすらわかってないっぽくて。
客観的に見るとまず、「なんでそんなヤツ相方に選んじゃったんだよ!」ってことなんだけど……、すでにレースは始まっちゃってる。 で、運転席のマミさんはマミさんで、必死でハンドル握ってて余裕もないから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、横に座ってるバカに何をさせることもできないまま、ただただ舌打ちを連発して車内のムードを悪くするばかり、という。
でも、このまんまナビ無しで無謀な運転を続けても、道に迷ったあげく、最悪大惨事を招く可能性だってあるわけで。 やはり、どこかで一度車を止めてでも、相方にナビの必要性を理解させて、ちゃんとやらせるようにしないといけないでしょ? もしくは、すぐに棄権して、今度こそしっかりしたナビゲーターを選んでの再挑戦に賭けるか。 なんにしても、このまま無理して走り続けるのは危険だということです。後ろにはお子さんだって乗っけてるんだし……。
その意味で言うと、さっきの「結婚=幸せ」論者っていうのは、さしずめ「免許取っただけで喜んじゃってる人」みたいなもんですかね(笑)。その程度の覚悟と経験でいきなりバリ・ダカールに出場したら、そりゃすぐ事故るかリタイアするのも無理ないわ、っていうね。
こばなみ:
パリ・ダカールラリーとは、ナイスなたとえ!!
マミさん、日々のことからメンテナンスしていって、少しずつでもパリ・ダカールラリーを好走できるようになるといいな、と思います。諦めないで~!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年9月17日に公開したものを再編集し、掲載しています。