ダイバーシティのための制度が、不公平感を招いている!? こんなとき、どうする? 《板挟み編-3》
リーダーとして仕事をしていれば、必ずぶつかる
コミュニケーションや人間関係の問題。
相対する人も違えば、状況もさまざまで、
「こうすれば正解」がないのが
難しいところです。
そこで、
女性リーダーたちが実際に体験した
コミュニケーションの課題と
それに対するアクションを
ケーススタディとして紹介。
同じような課題を抱える人のヒントになれば、
という思いで届けていきます。
今回は、IT企業グループの広報室長として多忙な日々を過ごすチナミさんが抱えている課題を紹介。ダイバーシティを力強く推し進める企業であるがゆえに抱えがちな、なかなか表に出てこないようなモヤモヤです。お互いが尊敬しあって、気持ちよく働くためにはどうするべきか。そんなことを考えさせられました。
「みんなでフォローし合う」が理想でも、現実はモヤモヤ
前任者から引き継ぎ、広報室長に就任して2年が経ちました。プレイングマネージャーとして、役員案件やグループ企業の広報もすべて担当するようになり業務は増えましたが、充実した毎日を過ごしています。広報室のメンバーは5名と企業規模にしては少ないですが、みんな性格もよく、それぞれが自分の仕事に責任を持って向き合っていて、まさに少数精鋭。大きな問題はありません。
ただひとつ課題としてあるのが、「立場が違うがゆえのギャップ」です。ギャップというか、「モヤモヤ」といったほうが的確かもしれません。部のメンバーは20代から30代の女性で、シングル、ディンクス、子育て中など、それぞれのライフステージは異なります。
うちの会社は、フレックスやテレワークも取り入れ、コンプライアンスもしっかりしていて、働きやすい会社だと思います。産休・育休、復職に関しても手厚い制度があり、安心して働けます。でも、裏を返せば、その制度を利用する必要のない社員にとっては不公平だと感じる場合もあるのだろう、と現場の声から感じています。
今、うちの部では、部下の4人中2人が子育て中。フレックスのため、子どもが寝てから業務再開するなど柔軟に働けるので、それを希望するメンバーには深夜残業にならない程度に本人の意思に任せています。反対にそこまでして働きたくないと考えている社員には時短を勧めるなど、それぞれの状況に合った働き方をしてもらっているのですが……。
どうしても、子育て中のメンバーはお子さんの都合で突然休んだり、早退したりすることがあります。急に休みをとる彼女の仕事をほかのメンバーでフォローをしあっているのですが、4名体制ではリソース不足なうえ、対外的にも社内的にも仕事は山積み。自分の仕事だけでも手一杯なのに、ほかのメンバーの仕事も負うのはキャパオーバーになってしまうこともあります。でも、組織の人数が少ないゆえにそこを調整してあげるのが難しいことが多いんですよね。
子育て中の部下にもちろん悪気はないのですが、子どもが体調不良の場合は、そちらが最優先で業務が滞っても仕方ないという雰囲気を出してしまっているメンバーもいます。もちろん、働きながら子育てすることは大変だし、特に今はコロナ禍でより大変であることはみんなわかっているんです。お互いの立場をよく理解しているし、「いつか自分もみんなにお世話になるかもしれないから」「こんなご時世だしね」と笑ってはいるのですが、そういったことが続くとやっぱり内心はモヤモヤを抱えてしまうようです。
あるとき、部下の1人が「こういうことは言ってはいけないですが、もし新しい人を採用する場合は、子育てしていない女性がいいですね」とポツリ。これは本音と言えるでしょう。
フォローする側へのフォローについても、会社全体で配慮すべき
私自身は、ここまで仕事優先で生きてきたこともあり、いまは独身で子どももいません。だから、フォローする側にいる彼女たちの気持ちもよく理解できるんです。でも、同時に同じ部下として、子育て中の部下も応援しているし、権利も守ってあげなくてはいけないので悩ましいところです。デリケートな問題なので、フォローする側もあまり大きな声で不満を言ってはいけないと思っていますし、一方で、子育て中のママも「迷惑をかけているのでは……」といったストレスを感じているはずなんですよね。
少しずつ育休を取る男性も増えていますが、共働きであってもママの負担が大きい場合が多いのが現状です。一緒に働く仲間として、子育て中のママの働き方に寄り添うことも大切ですし、それ以外の社員に負担が行き過ぎてしまうことも避けなくてはいけません。フォローする側も子育てする側も、お互いがストレスを感じて働きづらさを感じる前に、何か対策をしなくてはいけないと考えていますが、難しい問題ですよね。
いまのところ、部下たちが無駄なストレスを溜めないよう、可能な限り話を聞いたり業務の調整を行ったりしています。細かい作業や事務業務などは、派遣スタッフにお願いして、少しでもメンバーの負担を減らすような工夫も。上長も「ライフステージの変化で物理的に働けない機会が増えてしまうのは仕方ない。フォローができる体制を作ろう」と言ってくれています。もちろん、完全に解決はしませんが、理解してくれているのがありがたいですね。
この問題は広報室のみならず、他部署でも起きているはずですから、人事部や経営陣を巻き込み、社内全体の課題として取り組んでいくべきことです。今後、子育てしながら働く人が今より増えていくなかで、子育てする人もしない人も公平に気持ちよく働き続けるためには、会社全体で考えていく必要があると思います。どちらの立場でも、ストレスやモヤモヤを抱えさせてしまうような組織では、今後も女性の社会進出は厳しいものとなってしまいますよね。
イラストレーション:高橋由季