今、好きな女性がいます。生きやすくなるし、あわよくば!とも思い、上京してのルームシェアを誘ったのですが……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室229】
✳️今週のお悩み✳️
いつも楽しく拝見しています! 私には今好きな女性がいます。彼女は6歳年下で、5年前に趣味を通じてネット上で仲良くなったのですが偶然にも相手も同性愛者でした。自然と両思いになったのですが、かなり遠距離だったこともあり「じゃあ付き合おう!」とはいきませんでした。彼女は地方のいわゆる過疎地の実家住まいで安定した職にもついていたため、情けない話ですが私が「東京にきて一緒に暮らそう」とか言う自信がなかったのも一因です。毎年誕生日やイベント時にプレゼントを贈りあったり旅行に行ったりという関係を続けて今にいたりますが、彼女がまだ私を恋愛感情で好きかどうかはわかりません。そして半年ほど前から、彼女が実家を出て上京したい気持ちが強くなっているとよく話して います。私は自分が同性愛者なことで悩むことがそれほどないのですが、それはLGBTのコミュニティが探せば身近にあり、世間の理解も進みつつある東京に住んでいるというのが大きいと思います。彼女の場合は田舎では女は当然のように結婚するものかつ、結婚するまでは実家を出ないでほしいという親御さんのようで、彼女から周りへの諦めや心細さをすごく感じます。私は元々は恋愛願望が薄く、人生わりと楽しいしこのまま一人で生きていくのもいいかなと考えていたのですが、彼女と出会ってせっかく好きな人ができたのであわよくばモノにしたい!という気持ちです。なので彼女が真剣に上京を考えていると聞いて即座に「ルームシェアしよう、仕事がなかなか安定しなくてもそれなら少しは安心だし!」と誘いました。ここでルームシェアという言葉を使ってしまったのが私のヘタレな所なのですが……。関係が進むかはひとまずとして、彼女が東京で毎週のようにLGBTのイベントがあったり同性で結婚式をあげるカップルがいることを見たり実感したりして、少しでも生きやすくなったらなと思っています。結局どうするかを決めるのは彼女なのですが、私ができる後押しや心構え、ご意見・ アドバイスがあればぜひお願いします!
(ぐんぐんビール・33歳・東京都)
宇多丸:
まずさ、 その彼女を東京に引っ張りだそうっていう考え自体は、 とってもいいことなんじゃないですかね。
おそらく彼女は周りにカミングアウトしてないし、今後も、 少なくともしばらくはまず、できそうもないわけじゃない? これはLGBTに限らずだけど、そういう風に、 自分が生まれ育った土地の風土や力学に縛られて、 ヘタすりゃ生涯「自分らしく」 生きるのを諦めるしかないような人って、 悲しいけど世の中にはまだまだいっぱいいるわけでしょ。 で、そこから脱するには、まず、当人側の意識というか、 視野が広がらないとどうにもならない。 そのために、さしあたって居場所を変える、特に、 コミュニティの抑圧が段違いで弱い大都会に移り住む、 的な行動って、むちゃくちゃ有効だと思うんですよ。
名作マンガ『自虐の詩』 のクライマックスが、まさにそういう話をしているよね。 もはや地元ではどうしたって肩身狭く生きてゆくしかなくなってし まった高校のころの主人公に、 ホントはそれ以上にキツい思いをずっとしてきたはずの超絶名キャ ラクター「熊本さん」が、「あんたのためにある街があるわ」 つって、黙って地図上の「東京」を指差す、っていう……、思い出すだけでちょっと涙ぐんできちゃうくらいの場面なんですけ ど。 まぁ、そんなこんなで東京に出てきてからも、 結局いろいろと苦労が多い人生であることには変わりないんだけど さ。でも、そこで初めて「 自分の意志で自分の進む道を選びとった」 ということこそが大事なわけで。
もちろん、ぐんぐんビールさんのそのお友達に関しても、たとえば親御さんの期待にそむくことになる辛さとか、堅実な職を手放してなじみのない街へ移り住むことへの不安は当然 あるでしょうし、なにが正解かというのは一概に言いきれないんですが。 ただ僕個人はやはり、少なくともいったんは東京なりなんなりに出てみて生き方の選択肢を広げるというのは、いずれ彼女が人生に悔いを残さないためにも、すごくいいことなんじゃないかと思いますね。
そのうえで、最終的にはやっぱり戻る、という決断になってもいいわけだし。
こばなみ:
前に茨城県在住の方の相談で、 プライベートなときもきちんとした服装を求められるって話もありましたね。
全部じゃないかもしれないけど、 場所を変えるだけで解決することってたしかにあるんでしょうね。
宇多丸:
まぁ、すでにルームシェアの提案まではしてるわけだから、さらにもっと後押しするなら、物件の当たりもつけてきちゃうとか、なんなら間違いのない働き口のツテも見つけとくとか、とにかく外堀を埋めてっちゃって、後は彼女が一歩踏み出すだけって状態を作ってあげる、みたいなことですかね……。
ただ、若干やはり気がかりなのは、このまま彼女の気持ちを確かめずに……、つまりステディとしての関係をしっかり確定しないまま東京に呼んじゃうと、たとえば彼女をこっちのLGBTコミュニティに紹介していったとして、最悪、そこで勝手にほかのお相手を見つけられてしまう、ってこともあり得るわけじゃん?
こばなみ:
気持ちを聞かないままでいると、その可能性もゼロではないですよね。
宇多丸:
だし、逆に彼女にしてみればさ、さっき言ったような外堀埋め作戦も、事実上その親切のベースにはぐんぐんビールさんの恋心がはっきりある以上、特に向こうにはそれに応える気はやっぱりなかったという場合、ちょっと困るとか、気まずいとかって話にもなりかねないわけじゃん。
だからやっぱ、なんにせよ気持ちはちゃん伝えておいたほうがいいと思いますよ。 そのうえで、万が一恋が実らなかったとしても、友人としては付き合い続けてゆきたいのかどうか。 もちろんあちらがどう考えるかはまた別問題ですが、まずはぐんぐんビールさん側が、ある程度覚悟というか、考えを決めておかないと。
繰り返しますが、彼女の人生を考えるなら、一度は東京に出てきたほうがいいのは、ほぼ間違いないだろうと僕は思う。 ぐんぐんビールさんも、「少しでも生きやすくなったら」って、とは言えまずはそこを考えてあげてるわけだよね。
こばなみ:
ぐんぐんビールさん、相手のことを考えていて、 いい人だなと思いました。
宇多丸:
ね。
恋愛として成就するかどうかは別にして、ぐんぐんビールさんが純粋に彼女のことを思うその気持ちは、それはそれでなんか、大切にしてほしい感じもありますよね。
ま、外野の勝手な意見ではあるけれども。
こばなみ:
にしても、最近はLGBTのことって、本当にどんどん変わっていきますよね。 それこそ東京にいるから感じてることなのかもしれませんが。
宇多丸:
あとはやっぱ、SNSの浸透も大きいだろうけど。
これまでは埋もれがちだった声が、届きやすくなったというか。
言うまでもなくというべきか残念ながら、日本はまだまだ、LGBTに限らず個人の人権意識という点では、はっきり後進国だったりもするんだけども……。 それでも、「こういう苦しみがあるんだ」とか、「こういう風に感じる人間がいるんだ」って声を上げるだけでも、僕なんかまさにそうですけど、遅まきながらでも「そうなんだ! 今まで全然わかってなかった、ごめんなさい!」って気づきを得る人も出てきたりして、意義は必ずあるってことですからね。
なので、これはLGBTの方だけでなく、必ずしも我々がこの場で解決できるようなことじゃなくても、 やっぱりとりあえずは、なんでも相談してみていただきたいですね。
こばなみ:
ですので、こんな悩みでいいの?とかぜんぜん思わなくていいので、ご連絡いただければと思います。
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【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年3月17日に公開したものを再編集し、掲載しています。