私は未婚で子どもがいません。両親に孫を抱かせてあげられなかったこと、先祖代々からのタスキをつなげなかったことに自責の念が……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室340】
✳️今週のお悩み✳️
私は未婚で子どもがいなく、両親に孫を抱かせてあげられなかったこと、そして先祖代々からのタスキをつなげなかったことを憂いて、自責の念が募っています。タスキをもらったのに渡せなかったことが悔やまれ、先祖のお墓を守る人も私の代で途絶えてしまいます。2つ年上の兄がいて結婚していますが、子どもはいません。せめて甥っ子、姪っ子がいたらその子がタスキをつないでくれるので、これほど悲しい思いをすることはなかったと思います。私の母は子どもや赤ちゃんが大好きでベビーシッターもしていて、私が高校生の頃は帰宅するとうちに赤ちゃんがいる状況でした。そんな両親が、自分の孫を見ることなく一生を終えること、本当に申し訳ない思いでいっぱいです。きっと、この思いは日に日に強く、つらくなると思います。兄弟すべてに子どもがいない、私のような境遇のみなさんは、どのようにこの思いを昇華しているのでしょう。宇多丸さん、この自責の念をどうしたらよいでしょうか。
(sasami ・41歳・会社員・東京都)
宇多丸:
まず一応言っておかなきゃいけないのは、世の中みんながみんなsasamiさんと同じような考え方をしてるわけでは、別にないんですけど……ということですよね。
子どもを産んで家系をつなぐ、みたいなことが、人生のプライオリティとしてまったく高くない人というのも、言うまでもなく普通にたくさんいて。
まさに僕らも、今後どうだかは知りませんけど、現状は中年にして子どもいない組なわけで……、僕はひとりっ子ですしね。
相談文を読んでるうちに、今までそんなことビタイチ思ってなかったのに、あれ? タスキつなげてないオレって自分を責めたほうがいいのかな?とか一瞬思っちゃいましたよ。
こばなみ:
わたしも~~~。
宇多丸:
もちろん、人生の優先順位をどうするかなんて人それぞれ以外の何ものでもないんだから、sasamiさん自身がそう考えたいのなら、それはそれでぜんぜんいいんだけど。
でもそれは、ほかの選択肢が考えられないほど普遍的かつ絶対的な価値観、というわけでも当然ないので。
もし、その考え方に固執してるせいで余計に不幸な思いをしてるんだとしたら、そこはやはりちょっと、モードを変えるよう心がけてみてもいいんじゃないかと思います。
この件に限らずいつも言ってることですけど、人生において、「こうじゃなきゃいけない」「これをクリアできなきゃ不幸になる」的な考え方は、逆に不幸を招く確率を増やしてるだけだから、やめたほうがいいと思うんですよね。
だって、絶対に、完全に思い通りになんかならないんだから、なにごとも。
だからってそれをいちいち嘆いてるだけじゃなくて、「これはこれでアリなところもある、そのうえでどうするか」を考えて、動いてゆかないと。
加えて、さっき言ったように、それぞれ違う考えや事情があって子どもを持たない人も僕ら含めそこらじゅうにワラワラいるので、たとえ自虐のつもりであっても、あんまり「タスキつないでないヤツ、ダメ!」イズムを当然の前提のように話さないほうが、これは他者に対するマナーとして、いいかもしれないですよね。
こばなみ:
ただ、こういう風にsasamiさんが思ってしまう社会の圧力といいますか、そういうのもあるのかと思いました。
私はちょっと前に、カラダ的にもう子どもがいる人生はないなってわかって、自分でも整理がついたので、あまり気にしてないんですけれども、同じ女性として考えると、たしかに「結婚して子どもを産むのが普通」みたいなのは、いつもつきまとっていますよね。
宇多丸:
うん、それはそうだよね……。
要は日本社会が相も変わらず、女性に画一的かつ不公平な役割を押しつける、差別的な考え方や構造から抜け出せずにいて、今や世界の中でもかなり取り残され組のほうに入っちゃってる、ってことなわけだけど。
それこそ「少子化問題」に当たっているはずの政治家自身が、今こばなみが言ったような考え方を、本気でしてそうだったりするもんね。
本音は「産む機械」発言からたいして変わっていなさそうな感じがちょいちょい垣間見れちゃうというか……、その非人間的な不平等さこそが少子化の一大要因だっつーの!
ということで、ここから先、なんとかsasamiさんの気が楽になるような考え方を示してゆければいいのですが……。
こばなみ:
ちなみにこれ、本当にご自身の希望なのですかね? そして両親に直接言われているわけではないんですよね?
宇多丸:
たしかに、世継ぎを!的な要望が強い親族というのも現実問題尽きることはないだろうし、心情としては理解できなくもないけど、得てしてそういう人たちはさ、絶え間なくせっついてくるもんじゃん?
そこへゆくとsesamiさんの文からは、親御さんからのそうしたプレッシャーの強さ、みたいなことは、特に伝わってきませんよね。
単に「ベビーシッターをしていたくらい子ども好き」というだけで……、てか、正直そのベビーシッター観もどうかとは思うけど、まぁそこは今は置いとこう。
とにかく、親御さんが実際に「孫の顔も見れないなんてガッカリ」的なことを子どもたちにずっと言い含めてきた、とかいうわけでも、別にないんですよね?
こばなみ:
だから、親御さんに聞いてみないと本当のところはわからないですよね。
いざ聞いてみたら、「そりゃいればうれしいけど、いなくてもあなたが幸せであれば」ってなるんじゃないかな、とは思っちゃいますけども。
ちなみに私は2年前、結婚したときに母から「産むなら育児を手伝うわよ~!」的な話はありましたが、「うーん、わかんないけどたぶんない方向かな~」って話したら、「いいんじゃないの。2人で楽しめば」みたいな感じで、さらっとした感じでした。
宇多丸:
なので、現状sasamiさんが勝手に後ろめたくなってるだけ、という可能性もぜんぜんあるし……。
仮に万が一、やっぱり親御さんがゴリゴリの「産めよ増やせよ」主義者だったとしても、子どもとしてsasamiさんが自動的にそれに応えなきゃいけない、なんてことは、まったくないですから!
あなたの人生は、親を含めた誰かのものじゃなく、あなた自身の責任と選択の下にあるものなので、言うまでもなく。
ということで、まずは「親は本当にそれを望んでいるのか?」「それ以前に、私自身は本当にそれを望んでいるのか?」ということを、改めてきっちり問い直したり、考え直してみるべきですよね。
特に後者は、前者など比べものにならないほど重要な、人生のほとんど本質と言っていいようなものなので、なによりそれをしっかり把握し優先できるよう生きることこそが、「幸福」への一番の道なんじゃないか、と僕は考えていますけど。
もし、それでもやっぱり、「出産こそが至高!」というsasamiさんご自身の考えはブレない、というのであれば……。
今からでもガンガン、その方向でなんらかの努力をすることは、まだまだできるはずでしょう。
あきらめるのは早い!
こばなみ:
未婚であっても、産むということなら、やろうと思えばできますよね。
精子バンクは未婚だとダメだったと思っていたのですが、ちょこっと調べたらシングルの方への提供支援などもありました。
宇多丸:
さらに、タスキ云々が生物学的なものに限らないなら、選択肢はさらにひろがりますよ。
こばなみ:
里子とかですか。こちら、参考にしてくださいませ。
宇多丸:
江戸時代くらいまでは、血縁にこだわらず優秀なやつに家督を継がせるとか、普通にバンバンやってたわけだしね。
つまりそれこそが「タスキ」だったわけで。
おそらくsasamiさんはもっと「遺伝子」的なことをおっしゃってるのかもしれないけど、だとしたらそれってホントは、いち個体とかいち家系って単位じゃなくて、「種全体」で考えるべきことですから!
その意味では今なんか、地球規模では人口過多のほうが問題ですからね。
自分の子どもを増やすより、たとえば伝統工芸でも街の美味いメシ屋でもなんでもいいんだけど、このままだと後継者がいなくて途切れちゃう、というような文化遺産を受け継いだりするほうが、よっぽど人類にとってタメになる「タスキ」リレーなんじゃないの、という考え方もできるし。
あるいは、僕は毎月引き落としで「セーブ・ザ・チルドレン」「国境なき医師団」「アムネスティ」に、それぞれわずかながら寄付しているんですけど、それで誰かの人生や健康や命がちょっとでも救われることがあるんだとしたら、それだって完全に有益な「タスキ」じゃん!と、僕ははっきり胸を張りたいと思ってますよ。
とにかく言いたいのは、人生の価値や豊かさのあり方というのは本当に人それぞれ、自分で選びつかみとるしかないもので、タスキだの親の期待だのが先だってあるわけではない、ということに尽きます!
まして、世間が押しつけてくる(ように感じてしまう)「普通」など、まったくこちらの幸せを保証してくれはしないので。
要は、sasamiさんはsasamiさんの好きなように生きればそれでいいの!
親御さんだってたぶん、それが一番の望みなんじゃないのと思いますけどねぇ……。
こばなみ:
sasamiさんなりの整理がつくことを祈っております。
女子部JAPANで、年末恒例のクリスマス・イブ女子会を今年はオンラインで開催するんですけども、sasamiさんと同じライフステージの女子もたくさんいるので、よかったら遊びにきてくださいませ。
いろんな女子の人生模様をリアルに見るのも、お悩み解決のきっかけになるんじゃないかなって。クリスマス以外にも女子たちが集まって話せる機会をつくっていく予定なので、ぜひお会いできたらうれしいです!
【今週のお絵描き】
*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年10月31日に公開したものを再編集し、掲載しています。