彼が潔癖性でキスしてくれない。結婚話も出てるけど……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室93】
✳️今週のお悩み✳️
現在29歳の彼と付き合っています。まだ2ヶ月です。彼が潔癖性で困っています。キスをするのも好きじゃなく、たとえ美人モデルでもキスはしたくないそう です。エッチの時も前戯がなく、胸を触ってくれるくらいです。性欲はあるみたいなんですが、どうしても手が濡れたりはしたくないらしいです。だからかあんまり最中も気持ちいいと思えないし、物足りなくて、途中で気持ちが冷めちゃったりしてしまいます。でも向こうは29で結婚したら……ということも話してき てます。普通にいる分には、何でも言えるし楽しくいられるんですが……、どうしたらもっとそっちも充実できるか考えているんですがわかりません。キスしたい です……。どうしたらいいのでしょうか?
(ごんざ・20歳・京都府)
宇多丸:
「たとえ美人モデルでも」って言い方はごんざさんに失礼だろ! なんてことを思いつつ……。
潔癖性にもいろいろあると思うけど、この彼の場合、要は粘液接触が気持ち悪い、ってことだよね、たぶん。
まぁ、「寝起きの口内で繁殖してる雑菌は肛門以上!」なんて話もよく聞きますけど……、これは当然そういう問題じゃないですね。
こばなみ:
肛門!? は、さておき、キスって愛情表現みたいな意味合いもありません? そう考えると、彼にも事情はあるにせよ、それがないなんて、私は耐えられないかも……。
宇多丸:
それでも「性欲はある」っていうのが、面白いって言っちゃあ失礼かもしれないけど、興味深いよね。
おっぱいやお尻のかたちとか、視覚的な刺激には欲情するけど、実際の行為で生じるネチョネチョした触感とか、あとはやっぱり匂いとか、そういうモロに生き物っぽい生々しさは苦手みたいな、そういうこと?
あーでも……、よくよく考えてみたら、アダルトビデオ観たりして、つまり視覚イメージだけで性的に興奮することと、実際にそういう行為をするということのギャップ、みたいなのって、意外とみんな普通に感じてることだったりするかも、って思わない? 「見てるぶんには気楽だったけど、現場は結構大変なんだなぁ」みたいな。 僕も特に初体験直後はそれ、思いましたもん……。
こばなみ:
げっ! そんなふうに思ったんですか? AVとか観てるからこそ、全然抵抗ないのかと思ってました。
そう思うとその点、もしかしたら女性のほうが、抵抗ないのかも。もともと付いてるもんがそんな感じだし、言っちゃいますと生理とかもあるわけだから、慣れているというか。もちろん人にもよると思うけど、性的なネチョってのとかに対して、「まぁ、人間なんてそんなもんだよね」感はあるのかな。
宇多丸:
ただ、この彼はそこで、そのギャップを「気持ち悪い」とまで感じてしまった、ってことなんでしょうね。
だったらそれはそれで、生身の女性には興味ありません的な生き方のチョイスだっていまどきは全然アリだったはずなんだけど……。
一応、お付き合いとか結婚とかへの意欲はちゃんとあったりするんだよね。別に人嫌いっていうわけではない。
だけどそれゆえに、ごんざさんのような「生身の」お相手は、「人としては惹かれ合ってるはずなのに、肉体的には忌避されている」という矛盾に苦しむことになってるわけで。 彼も、厄介な人だな~!
こばなみ:
肉体的な拒否でも相当凹むのに、それでいて結婚話も出てしまうこのギャップ。複雑すぎる! ごんざさんも、もうわけわかんなくなってないんですかね?
宇多丸:
まず、この件でごんざさんが悩んでるってこと、彼はちゃんとわかってるのかな? たぶんだけど、彼側はのんきに結婚話なんて持ち出してるくらいで、ことの深刻さに意外とまったく気づいてなかったりするんじゃないの?
なので、もしはっきり話したことがないのなら、一度きっちりこっちの気持ちを伝えておいたほうがいいのは間違いないでしょうね。
いつも言ってるように、どちらか一方だけが黙って我慢しなきゃいけないパートナーシップなんて健全じゃないし、長続きするとも思えないんで……。
その意味では、彼だって現状そういう行為に一種「我慢」して臨んでるわけだから、お互い得してない状態なんだよね。 だからまずは、「二人の関係は、目下解決すべき問題に直面してるんだ」というコンセンサスをちゃんと得る必要が、やっぱあるんじゃないかな。
その上で、彼自身がその性的な潔癖性を「治すべきもの」として考えてくれるかどうか、という問題が出てきますよね。 生理的な好悪って、ある意味自分のなかの、根本的な何かに関わることだろうからさ。 そこを変えてしまうって、実は本人的には結構覚悟が要る話なんじゃないかとも思うんですよね。
もし彼が、それでもいいからごんざさんの気持ちに応えたい、と言ってくれたなら、二人で次の段階に進むこともできる。 でも、そこでどうしてもいまいち折り合いがつかないようなら……、正直、お互いのためにも早めに決断して、別のもっと「合う」パートナーを探したほうがいいんじゃないかな~、という気はしてしまいますね。
ちなみに、いま軽くネットで検索かけただけですけど、極端な潔癖性っていうのは強迫性障害の一種だそうで、「治療」するなら当然、医療機関での心理療法や投薬が必要ということらしいです。 ま、彼のそれがどの程度のもんかわからないけど……、そのへんを診断してもらうって意味でも、もし彼が納得してくれたなら、一度一緒に専門医のところに行ってみる、というのもありなんじゃないですかね。
こばなみ:
それ、できたらいい! にしても潔癖性の治療ってあるんですね。やっぱりプロに頼るしかない……?
宇多丸:
関係あるかわかんないけど、ちょっと前の『探偵!ナイトスクープ』でさ、金属同士がこすれ合う音がとにかく苦手!っていう女性の回があって。
この人、小銭同士がチャリチャリいうのとか、スプーンとかフォークがカチャカチャするのとか、ほんの小さな音でも耐えられなくて悲鳴を上げてしまうような、結構なレベルの恐怖症なの。これってもう、社会生活に完全に支障きたすレベルじゃん?
そこで番組ではどうしたかっていうと、なんと、彼女をゲーセンに連れていって、メダルゲームを延々やらせるんですよ! 荒療治もいいとこ、っていうか、そんな乱暴なことして大丈夫なの?って、観てるこっちが心配になってきちゃうんだけどさ。
ところが驚いたことに、この女性、最初はやはり悶え苦しみながらメダルゲームやってるんだけど、しばらくすると段々慣れた様子になってきて、最後にはついに、本当に金属音アレルギーを完全に克服してしまうんですよ! そんなんでホントに治っちゃうの?って感じだったんだけどさ。
こばなみ:
ななななんとも荒技! そんなこともあるんですね。
あ、荒技で思い出したんですけど、先輩(女)で手が濡れるのがイヤだから洗い物をしたくないって人がいて、でも主婦になったらそんなこと言ってられなくなったって。それまではゴム手袋をして流しに向かってましたけど、今はなんともないって。
宇多丸:
そう考えると今回の相談の彼も、ヌルヌルグチャグチャの極致みたいなところ、たとえば「干潟オリンピック」やってるところとかに連れてってさ、思いきってドーン!と飛び込ませてみたりしたら、意外とあっさり呪縛が解けちゃったり……、しないとは限らないですよ!
「もう、ここまでドロドロになっちまったらなんも関係ねぇ!」的な、ヤケクソのパワーが出てきたりして(笑)。
こばなみ:
「干潟オリンピック」って単語、よく出てきましたね。20年ぶりくらいに聞きました。
宇多丸:
そこまで付き合ってくれるならもう、彼のごんざさんへの愛も、すでに相当確かなもの、ってことにもなるだろうけど。
だって、この世で一番嫌な思いをするに違いない場所に、それでも彼女のために飛び込もうとしてくれるんだよ!
前回の相談とも通じるけど、パートナーシップを維持するために必死で相手に歩み寄る、自分を変える努力を重ねるって、もうそれ自体尊重されるべき立派な「愛」だと思うんだよね。 ごんざさんも、彼がもしそうやって、自分のためにできるだけ頑張ってくれようとしてるようなら、そこはぜひ汲み取ってあげていただきたいと思います。
まぁ、もひとつ現実的な話をすれば、荒療治の結果、余計トラウマが深くなってしまう可能性も全然あるんでね……、ごんざさんたちはやっぱり、くれぐれもいきなり無茶しないように! まずは彼とちゃんと話す→彼側の意見も聞く→両者同意の上で専門家の診断を仰ぐ、という正攻法なプロセスを踏んでくださいませ。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年4月25日に公開したものを再編集し、掲載しています。