私の過去を知っている彼。浮気を疑われ、信じてもらえない……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室92】
✳️今週のお悩み✳️
付き合って半年の彼氏がいます。彼と出会うまでは、彼氏がいても他の男性と関係を持ったり、体だけの関係を持つ男性がいたのですが、彼を好きになってからは一切連絡をとっていません。彼は私の過去を知っているので、何かにつけ「浮気していないか」「嘘をついているんじゃないか」と疑ってきます。私が悪いのは重々承知ですが、どうしたら彼からの信頼を得られるでしょうか。
(愛はおしゃれじゃない・26歳)
宇多丸:
女性にとっては「それまでの異性遍歴を全部清算してしまうほど、今の彼が圧倒的に好き」ってことなんだけど、彼にしてみれば「そんな彼女の気持ちが どうしても信じきれなくなってしまうほど、それまでの異性遍歴が“圧倒的に”気になってしまう」という話になってしまうという……、これ、前に男性心理研究用に最適!ということでオススメした映画『チェイシング・エイミー』と、まさに同じ構図だよね。
こばなみ:
でもイヤだな、実際にこんなに疑ってくるのは……。
宇多丸:
もちろん彼は、典型的な男のダメ反応しちゃってますよ。
ただ、前のときも言ったけど、それが決して褒められた態度じゃないってのは男のほうだって「重々承知」しつつ、それでもどうしても気になっちゃう、って話だからさ。
それに、これもいつも言ってることだけど、疑惑というのは実体がないぶん、一度抱いてしまうと、際限なく、どこまでも膨らませることができてしまうものだから。その意味で、「疑いという病」に一発で効く根本治療薬というのは、ないです。 な ので、この段階で愛はおしゃれじゃないさんにできることと言えば……、そりゃあとにかくひたすら、今の彼への気持ちがいかにホントに「圧倒的」なのかってこ とを、ちゃんと言葉と態度にして、まっすぐに伝えていく、ってことしかないんじゃないですかね? それに比べれば過去の経験も、なんなら未来の可能性も、 きれいさっぱり捨て去って惜しくない程度のものなんだ、と。 そして、その「ストーリー」を、いつか彼が心の底から信じきれるときが来るまで、誠意をもって繰り返す!
こばなみ:
ううっ、なかなか先が長い……。途中でくじけそう……。
宇多丸:
そこまでやってもダメなもんはダメ、ということも全然あるかもしれないけど……、常に疑われてる状態から完全な信頼を得るところまでいこうってんだから、そりゃまぁ大変なのは覚悟しとかないといけない。
ただ、もし仮にね、愛はおしゃれじゃないさんがそこまで頑張ってるのに、それをまーったく認めようともしない、自分からは歩み寄っていこうとしない彼、なんだとしたら……、それはそれでどうよ?って話にもなるよね。 つまりこれは、愛はおしゃれじゃないさんだけじゃなく、彼側にとっても、パートナーとしての資質や度量が「試される」局面と言えるんじゃないですかね。
現状出来る限りの誠実さを示してみせた愛はおしゃれじゃないさん「本人」に、ちゃんと向き合ってくれる人なのか。 それともやっぱりそれ以外の、あくまで過去に愛はおしゃれじゃないさんがしでかしたこととか、それによって揺るがされてしまう俺の男としてのメンツとか、そういう言わば抽象的な「問題」ばかりが、どうしたって気になってしまう人なのか。 残念ながら後者だったとして、それ以上の努力に果たして彼は本当に値する相手なのかどうか、改めて愛はおしゃれじゃないさんも、考えてみたほうがいいあたりかもしれませんよ。
こばなみ:
なんかちょっとイラッとしちゃうのは私だけですか? 今時点でも彼からの歩み寄りってないんですかね?
宇多丸:
ホントは、この彼に直接いろいろ言って聞かせたいくらいですよ!
たぶん、まだ若くて余裕がないだけなんじゃないかと思うんだけど……。
何よりも、それまでの自分を捨ててまでお前を好きになってくれてるんだぞ? そんな相手が人生にそう何度も現れてくれると思ったら大間違いだ!ということは声を大にして言っておきたいですね。
そして、それがどれだけありがたいものだったか、失ってから気づいても遅いんだぞ……ということも。
先週の相談者の方みたく、本当に「好き」な人と出会えないでいる人たちだって世の中にはいっぱいいるなか、相思相愛の確認から無事お付き合いまでたどりついた幸運なカップルはしかし、自分たちがいかに恵まれているかということにも気づかぬまま、互いに不平不満ばかり漏らしている、というね……。
こばなみ:
先週も目頭が熱くなってしまいましたけど、「好き」な人に会えるほうが珍しいですもんね。付き合ってることが普通なんじゃなくて、ラッキーなことなんですよ(うらやましさいっぱい!)。
宇多丸:
そう、なのに人は……。
『マトリックス』のなかでさ、人間というのは、人生にある程度の不幸が含まれていないと世界を「リアル」に感じることができない不合理な生き物だ、っていうようなセリフがあったの、覚えてる?
なんか今、あの話を思い出しました。
愛はおしゃれじゃないさんのところも、本来とりたてて騒ぐような「問題」は別になかったのかもしれない。 でも、この恋愛関係の「リアルさ」を感じるためには、常に何か軽い波風を立てておく必要がある……、彼のキリがない嫉妬も、無意識的なものにせよ、おおむねそういったものなんじゃないでしょうか。
彼にとっては一種愛の確認法というか……、される側にとってはただただ迷惑な話だけど、女の人でもそういう風にジェラシー的な感情を使う人って、全然いっぱいいますよね。 その意味では愛はおしゃれじゃないさんも、この件であまりシリアスな罪悪感とかは抱かなくていいと思います、間違いなく。「私が悪いのは重々承知」ってほどは悪くないから大丈夫!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年4月18日に公開したものを再編集し、掲載しています。