誠実で申し分のない彼氏。しかし携帯を見たら合コン三昧だった!?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室83】
✳️今週のお悩み✳️
私には3年付き合ってる同い年の彼氏がいます。仕事に対して頑張り屋さんで真面目でしっかり者で私に対しても誠実に向き合ってくれる申し分のない彼氏で、結婚も意識しています。少し離れた場所に住んでるため、休みの度に2時間かけて会いに来てくれたり、連絡もマメにくれたりと行動では本当に私のことを大事にしてくれていると思うので すが……、たまに嘘をついて女の子との食事や合コンに行ったりすることをやめてくれません……。というのもたまにこっそり携帯を見てしまい、それがわかって落ち込む……。という繰り返しです。携帯を見ることが悪いことだとわかっており、やめようとも思ってますが、本当のことが知りたくて見てしまいます。携帯を見たことは彼氏に言ったことはありません。実際本当に手を出してしまうタイプではありませんが、メールでは女友達にも多少気があるようなそぶりを見せたりしてます。合コンも自分からセッティングしたりして積極的です。男性はやっぱり、大事にしている彼女がいても常にあわよくば、と考えているんでしょうか。彼の周りも皆同じような感じで遊んでいるので環境もあると思いますが、男性はやっぱり常にモテたい、彼女以外にもちやほやされたい、と思うんでしょう か……。別れは考えていませんが、そこ以外が完璧なだけに理解できずもやもやします!
(O.H・31歳)
宇多丸:
前に言ったことの繰り返しになっちゃうし、O.Hさんも一応頭ではわかってはいるようだけど、まずはやっぱり、改めて念を押しておく必要があるんですかねぇ……。
こんな風に嫉妬心からパートナーの携帯を盗み見るって、僕は本当に、愚の骨頂そのものだと思いますよ!
なぜなら……っていうのももう、その回のコピペで十分なくらいだよね。 「仮にそこで浮気の証拠とかが別に見つからなかったとしても、『上手に隠されてるだけかもしれない』とか、いくらでも、際限なく疑い続けることはできちゃうわけですよ。そんなの、上手くいったところで相手に対する『支配』でしかないんだからさ。お互い楽しくねぇよ、絶対」 そういうことです! とにかくO.Hさんは、まさにその典型的な罠にハマり込んじゃったわけですよ。 ほら言わんこっちゃない!って感じ。
こばなみ:
たしかにこの連載を始めてから、宇多丸さんと話していて、「愛って信頼すること」っていうのが本当だなって思うようになりました。パートナーへの愛だけではないけれど、やっぱり開けちゃいけない箱はあるし、べつに開けなくても支障ないんだったら、開けないほうがいいんだなって。
確かめたい気持ちはわかるけど、確かめても何にも解決しないんだって思うと……。
あと昨今は、SNSなんかで勝手に相手の情報が流れてきちゃって、知りたくなかったことを知っちゃったり、ってのもありますよね。以前、「仕事だから」って断られた日に、その人のプライベート飲み会の写真がアップされていて、まったくせこい嘘つくなよなー、とは思いましたが。 まぁ、でも今回は完全にシークレットな状況の携帯電話を覗いてしまったってことだから……。とはいえ、彼も彼で防ぎようなかったんでしょうけど。
宇多丸:
しかしこの彼もまた、わりと無防備な人ではありますよね。メールとか、そんな簡単に盗み見られちゃうような状態にしてるんだからさ。
こばなみ:
あ、そうか、たしかに。今どきiPhoneもパスコードロックを指紋認証にもできますしね。
宇多丸:
そう考えると、彼にも別に、そこまでやましいことをしてるって意識はないのかもね。
それにしてもなぁ……、そもそもO.Hさんは、その彼にちょっと過大な、都合のいい幻想を抱いちゃってたんじゃないの?ってフシは感じますけどね。
「頑張り屋さんで真面目でしっかり者で」「誠実に向き合ってくれる申し分のない彼氏」って、どんだけ持ち上げるんだよ! 「完璧」とまで言っちゃってるけどさ。 いや、たしかにそれも彼の本当の一面であるのは間違いないんだろうけど……、裏を返せば、それはあくまで「一面」でしかない、ってことでもあるわけでしょ。
だって、彼は同時に、「たまに嘘をついて」、O.Hさん以外の女性たちとも、むしろ積極的に交際を展開しているような男性でもあるんだから……、そういう言い方をすれば、どこが「誠実」?って、客観的には思えちゃうような話ですよ。 さっきと同じ人の話してんの?ってくらいの。 つまり、彼にはそういう、「また別の一面」があるってのもどうやら間違いないと。
でもね。 だからと言ってこれ、彼が二重人格だとか、とんでもないワルだとか、そんな話じゃないでしょう。 要は誰だって、ある固定的な「一面」だけでできてるわけじゃない、ってだけのことですよ! 人間とは多面的な存在であると……、改めて言葉にすると、ホントにバカみたいな当たり前の話なんだけどさ。
O.Hさんにだって、できれば彼には見せたくないような、自分のなかの「また別の一面」みたいなの、あったりするはずでしょう? そんなのありません!とか言い張るような傲慢な人じゃないことを祈りますが……。
とにかく、誰だって醜い面というか、「正しくない」面は持ってるわけで、そういう「本当のこと」までぶしつけにほじくり返して、勝手に不信感を募らせたりするのって、ホント不毛だと思うんですよね。
その意味で、この彼の「また別の一面」なんか、まだまだ可愛いほうじゃん、とも思うしさ。 会いに行くのに2時間かかるような、そこそこの遠距離恋愛なんでしょ? で、結婚も意識してるようなお付き合い。 つまり、彼にとっては、これが独身として、最後の自由な時間とも言えるわけじゃん? そこで、バリバリ浮気しまくるとかでもなく、お友達とちょっと浮ついた気分を味わってる、程度のことで今のところは済んでるわけだからさ。 きっと、そんなにワルいヤツじゃないよ、彼(笑)。
こばなみ:
しかも、彼は隠してるわけだから、それでいいじゃない!ってやっぱり思っちゃう。
宇多丸:
それは本当にそう。
これも前から言ってるけど、相手を傷つけないようちゃんと配慮してるんなら、それ自体がもう、立派な誠意じゃないかって思うんですよね。
ホントに「完璧な」人間なんて存在しない以上、現実にはそういうレベルでお互い努力してくしかないじゃん。
まぁこの彼氏は、そういう「また別の一面」が刻印されたメールを盗み見されるってことに対して特に警戒もしてなくて、結果O.Hさんを疑心暗鬼にさせてしまっているわけだから、そのへんのツメというか、脇が甘いのもたしかなんだけどさ。
でも、少なくとも彼側は、それだけO.Hさんのことを信用しきってるとも言えるよね。携帯盗み見なんていう、僕に言わせれば重大な背信行為を働かれるなんて、おそらくこれっぽっちも思ってない。 そのマヌケさ込みで、やっぱそこまでワルい人じゃないんじゃないかって気が、どうしてもしちゃうなぁ(笑)。
ちなみにその意味で、盗み見したことを彼には知られないようにする、というのは、O.Hさん側が今後も絶対に死守すべき「相手を傷つけないための配慮」、せめてもの誠意のうちだと思いまーす。
あと、それとは別の話で、この連載に寄せられる相談文でもたまに出てくるけど、「男性はやっぱり~」みたいな雑な括り、いいかげんやめてくんないかな?って、いち男としてはついつい思っちゃいますけど。 僕は合コンなんか行ったことないし、前にも言った理由から今後行きたいとも全っ然思わない! 草食系とかそういう問題じゃなくね。 たとえば、「女ってのは結局~」みたいな雑な一般化を男がしてるところを想像してみてよ! イラッとくるでしょ? それと似たようなもんなんだからさぁ。ホント、その言い方やめれ!
こばなみ:
それに合コンっていっても、私が行った限りは知らない男女のただの飲み会ですよ。別にイチャイチャしてる感じでもないし。まぁそれも人によるんでしょうけど、大したことないっていうか……。
女の子と2人で飲みに行ってるとかならまだしも……。
宇多丸:
ただ、O.Hさんはすでに、疑いという病に取りつかれちゃってますからね。
目の前の彼が「完璧」に見えれば見えるほど、その裏に「また別の顔」が隠されてるんじゃないか、だまされてるんじゃないか、と思えて仕方なくなってきて……、あとはドミノ倒しみたいにひたすら、実体がないだけに拭い去りようもないもやもやが連鎖していくばかり、みたいな。
結婚したらしたで当然、彼のグレーな部分はもっと見えてくるだろうしね。
こばなみ:
じゃ、どうしましょ?
宇多丸:
要するに、実は多面的な存在である人間同士、すなわち、完全には理解しがたい「他者」同士どう付き合っていけばいいのかっていう、おなじみのテーマにやっぱり結局は行き着いていきますよね。
本来、O.Hさんみたいなタイプの人はさ、彼が見せてくれる「完璧な」一面をひたすら信じ抜く、というのがやっぱり一番良かったはずなんだよね。 さっきも言ったように、それだって彼のホントの顔であることに変わりはないし、それ以外の「正しくない」面をO.Hさんには見せないようにするというのも、立派に誠意だし、愛なんだから。 そこをこそO.Hさんは信じきってあげるべきだった。
こばなみ:
でも、携帯見る前にきっと、あれ?って思ったところがあったんじゃないですかね。
宇多丸:
たしかに。
O.Hさんは「完璧」なんて言ってるけど、本当は、何か信じきれないようなところがポロポロ見えちゃったりもしてた、つまり、携帯を盗み見る前から、実は疑惑の種は彼のほうから蒔かれてたのかもしれないよね。
いずれにしても、「彼にまったく疑いを抱いていない状態」に今さら戻るのは難しいでしょうからねぇ。
それでいて別れるつもりもないんだとしたら……、あとはもう、彼のそういう多面性込みで受け容れてくしかないってことでしょ。 相手の他者性、平たく言えばその人の「わからなさ」、その不安定性含めて付き合ってくしかないというかさ。 それはそれでひとつの真っ当なパートナーシップの在り方だと思いますよ。
幻想に頼ってるわけじゃないぶん、そういうつながりのほうがタフだとも言えるし、常に緊張感を伴うから、甘えた関係に堕落してしまう可能性も、こっちのが低いかもしれない。 ただ問題は、O.Hさんがそういうのに耐えていけるかどうか、だよね。
つまり、O.Hさんにとって都合のいい「完璧な」面だけでなく、理解しがたかったり、はっきり嫌悪感を覚えるような側面だって彼にはあり得るんだっていう、そういう生身の人間として当たり前の、ミもフタもない真実を直視して、その上でなお、パートナーとしての信頼を彼に預けることができるのか?という。 たとえば相談文では「本当に手を出してしまうタイプではありません」なんて言ってるけど、それだって実際んとこは、わかんないよ~?というところまで、覚悟を決めておかないといけない。
で、その不確かさ、危うさに耐えていけないような弱い精神の持ち主は……、やっぱりそもそも、相手のプライバシーを盗み見るなんていうパンドラの箱は開けちゃいけない、そんな資格などないってことなんですよ!
こばなみ:
ううう……。
宇多丸:
とにかく、今回のケースに限らず、「パートナーへの疑い」という蟻地獄に陥らないようにするためには、極論すれば、次のふたつのうちどっちかのスタンスを取るしかない、ってことなんじゃないですかね。
何があっても「あの人に限って、そんなことあるわけがない!」と心の底から信じきれるようになるか。 もしくは逆に、何があっても「ま、人間ですからそういうこともあるでしょうねぇ」と達観できるようになるか。 ちなみに僕は、前も言ったように、今はどっちかって言うと前者的なスタンスを貫くようにしてますけど。
いっぽうO.Hさんにはもう、少なくとも彼との間には、後者の道しか残されてないよってことですね。 それで本当にいいのか、自分のハートとよ~く相談して! そこを曖昧にしたまま流れで結婚なんかしちゃうと、さらに延々苦しむハメにもなりかねませんから……。
まぁ、その彼は明らかにモテる人ではあるようだから、そこはポジティブに発想の転換を図る、って手もあるかもね。 彼のそういう危ういところ、下手すりゃ誰かによろめいちゃうんじゃ?的な可能性を、むしろ密かにドキドキ楽しむような性癖に、自分自身を持っていく! 男性用ポルノで言う「NTR(寝取られ)願望」ジャンルにも近いノリでさ。全部を「自分の妄想のためのネタ」として捉えるようにしてくっていう……ナシ?
でもさ、ホントにホントに「そこ以外が完璧」なんだったら、それくらいアクロバティックなというか、変態的な解決策に走るだけの価値も、やっぱちょっとあったりするんじゃないかなぁとも思いますけど。 『お熱いのがお好き』ラストの有名なセリフじゃないけどさ、いつかO.Hさんも、「完璧な人間なんていないよ」って、相手のダメなところを笑い飛ばせるようになるといいですね!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年2月14日に公開したものを再編集し、掲載しています。