リゾート挙式で私はウェディングドレスなのに彼がタキシードを着たくないと言い出し……!?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室94】
✳️今週のお悩み✳️
来年、彼とのリゾート挙式を行ないます。ゲストにはドレスコードを作らず、余興も頼まず、リラックスしてもらえるようなものにしたいと二人で話していまし た。期日が近くなり、私たちの衣装を決める際、彼は似合わないからタキシードを着たくないと言い出しました。私としてはウェディングドレスを着たいのです が、彼はアロハを着ると言い張ります。それぞれ着たいものを着ればいいのだと思いますが、私の母やドレス合わせの店員さんは解せないようですし、私も自分だけ張り切っちゃってるみたいで虚しく感じます。私の考えを伝えましたが聞く耳を持ちません。もう諦めるしかないのでしょうか。
(しまこ・32歳・東京都)
宇多丸:
タキシードが本当に似合う男なんて、この21世紀にはジョージ・クルーニーしかいないよ! 日本人なんて基本、全員七五三ですよ。
でも、そういう問題じゃナイ!
まずこの彼がわかってないのは、結婚式って、別にお前のために開くもんじゃないんだよ、っていうことだよね。 主役はあくまでお嫁さんなの! 極端なこと言えば、すべては彼女を満足させるためにある会ですよ。
あと意味があるとしたらせいぜい、対外的な体裁を保つため、ってことくらいで。 新郎は、その日はあくまで脇役なんだということをわきまえて、「記号」に徹したカッコしてりゃいいんですよ。だからタキシードか紋付袴なわけで。
そのなかでさ、新郎が何を「着たいか」なんて、プライオリティとしていっちば~ん下のほうにくる項目ですよ! 脇役が余計な自己主張とかしてんじゃねぇよ!っていう。
こばなみ:
すみませんけどね、似合ってようが似合ってなかろうが、新郎のことなんて見てないし、話題にもならないですから。
宇多丸:
ただね、「ゲストにはドレスコードを作らず、余興も頼まず、リラックスしてもらえるようなものにしたいと二人で話していました」ってくらいで、おそらくしまこさんも、まさしく「それぞれ着たいものを着ればいい」っていうような、言わば「自由な結婚式」イズムに、少なくともいったんは乗っかっちゃってもいるわけですよ、きっと。
「ああいうよくある形式ばった堅苦しい挙式とか、ホント嫌だよね~」みたいなこと、普段から彼と話してたりしたんじゃありません?
そこで、「そこへ行くと私たちは形式に捕われないもんね」「自由に行くもんね」ってとこで彼と盛り上がるあまり、「とはいえ私だって女だから一生の記念としてウェディングドレスはちゃんと着たいし、あなたにもそこだけは合わせてほしい」っていうような、言ってみれば自分のなかに確かに存在する保守的な部分みたいなものを、彼にしっかり伝えられてなかったところはあるのかもしれない。
いっぽう彼は、二人で合意した(と彼は思っている)「自由な結婚式」を100パーセント字義通りに受け取ってるから、「じゃあ俺アロハ!」「着たくないもんは絶対着ない!」こそが正義だと、たぶん現状、本当に心から思ってる。今さら何を言ってるの?って、本気でキョトンとしちゃってるんだと思いますよ。 ま、とんでもない野暮天なのは間違いないですけど!
こばなみ:
そうか。リラックススタイルってのを鵜呑みにしちゃってるんだ。
宇多丸:
僕も若い頃は「儀式」全般をバカにしてるようなところがあったので、人のことをあんまり偉そうには言えないですけど。
儀式って、中身じゃなくて「形式それ自体」に意味があるんだ、というようなところまで思いが至ったのは結構最近ですよ。浅はかでしたね……。
こばなみ:
宇多丸さんは、結婚式でお嫁さんからの要望があったら、本当はイヤなことでもやっちゃいますか?
宇多丸:
たとえば、披露宴でゴンドラから降りてこい、とかね。
そりゃ、降りてきますよ! 死んだ目で(笑)。
だって、さっきも言ったけど、とにかくお嫁さんに満足してもらうための日なわけだしさぁ。 この連載では最近、結婚というのをあまり人生の決定的カード、絶対的ゴールとして考えすぎないように、みたいなことを言ってるけど、挙式、というかウェディングドレス周りの話っていうのはそういうリアルな「結婚問題」とはまた別の次元でもあるっていうか、言っちゃえば「一日だけホントに“お姫様”になれる日」みたいな意味合いも大きいじゃん? 女の人にとっては。
多くの女の人は、ある意味子供の頃からずっと「プリンセス」に憧れ続けてきてるわけだから……、逆に言うと、曲がりなりにもついに生涯の夢が叶うまさにそのタイミングで、夫側が図らずも不満を抱かせてしまったりすると、後々に重大な禍根を残すことになること間違いなし、なわけですよ!
こばなみ:
一生に一度の晴れ舞台でこの程度の願いを叶えてくれなかった恨み、女はけっこうしつこいですからね。それにもっと大きな決断があったときにも譲ってもらえないとなると、先々不安すぎます。
宇多丸:
そうだよなぁ。
「私の考えを伝えましたが聞く耳を持ちません」って、これはちょっとひどいよね。
あんたの考える「自由」は、私の必死のお願いを聞き入れない「自由」も含んでるのかって。
もしくは、ひょっとしたら彼側にも、「アロハ」に関して、絶対に譲れない級のこだわりがあったりとかね!
すっごいレアなヴィンテージアロハを持ってて、これを結婚式で着るのが俺の長年の夢だったんだ!みたいな。
こばなみ:
ふっくん(布川敏和)ばりのアロハマニア!?
あ、そういや友達の結婚式がハワイであったとき、新郎は30分くらいの式はタキシードで、その後のパーティではアロハかなんかに着替えてましたよ。
宇多丸:
普通にそれでいいじゃん!
式の間30分だけ我慢して、写真撮れば済む話なんだからさ。一生恨みを買いかねないこと考えれば、お安いもんでしょうに。
で、「暑くて死にそうだし七五三みたいなんで僕はもう着替えさせていただきます」つって、然る後こだわりのアロハで登場でもすれば、生暖かい笑いも取れて、万々歳ですよ。みんなそれでハッピーじゃん!
とにかく、現状おそらく彼は、「それぞれ着たいものを着ればいい」「自由な結婚式」というのは二人の合意で、自分がアロハを着る「権利」もそこに含まれている、という風に考えていると思われます。
なので、しまこさんは改めて、自分にとってウィエディングドレスを着る場面というのがいかに大切であるか、そして、隣に立っている男がそこでアロハを着ているということがいかにその「夢の光景の実現」にとって興醒めな事態であるか、それをわかった上でなおその「権利」を行使したいのか、ということを、もう一 度彼に、噛んで含めるように伝えてみるしかないでしょうね。30分程度我慢してもらうわけにはいかないのか、という前述の提案含め。
あとは、できれば共通の友人などの第三者から、「結婚式、特にウェディングドレス関連でのしくじりは、嫁さんに取り返しのつかない恨みを抱かせてしまうことになる……、後々の結婚生活でキツい思いをするのは、結局『借り』を作ってしまったお前のほうだぞ!」という警告を、客観的に発してもらう。 実際これ、彼のためでもあるしさぁ。 適当なお友達がいなければ、いっそ今回のこの連載を、彼に読んでもらってください!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年5月2日に公開したものを再編集し、掲載しています。