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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室132】自分の見た目がどうしても好きになれません……。


✳️今週のお悩み✳️
生まれてこのかた、自分のことを「太ってるし顔も可愛くない、どうしようもないルックス」と思って生きてきましたが、どうやら根本的な問題は容姿ではなく、自分で自分の見た目が好きになれないということのようです。メイクやお洒落やダイエットなど色々努力してみたものの、結局自分の容姿が全然好きになれないので、鏡を見ると「うわあデブでブスだな……」と思ってしまい悲しい気持ちになってしまいます。それだけならまだ良いのですが、家族や友達で集合写真を撮ってその場で確認するようなときに、自分の写りの悪さに本気で落ち込んでしまい周りを変な空気にしてしまうのが、いい大人のくせにみっともなくて、とても悩んでいます。わたしはどうすれば自分の容姿をもっと好きになれるでしょう?  ※容姿以外の部分は、そこまで自分のことを嫌いじゃないです。
(えびこ・26歳・東京都)


宇多丸:
自分の容姿が、客観的に見てどうこうって話じゃなくて、主観的にどーしても納得できない、ってことですよね。
僕ね、これ、すっごい気持ちわかりますよ。

別に、ただやみくもに自己卑下してるわけじゃないんだよね。
「容姿以外の部分は、そこまで自分のことを嫌いじゃない」わけだし。中身がそこまでダメとは思ってない。
その上で、できる範囲で見た目がマシになる努力も、一応投げずにしてるつもりではある。最低限そのくらいはやらないと、もっと目も当てられないことになるのが目に見えてるから……。

それでも! 
何をどうしようと、そもそも自分のルックスが、根本的に、「好みじゃない」んだよーっ!っていうね。

僕も、曲がりなりにも人前に出る仕事してるのにこんなこと言うのはなんなんだけど、自分が映ってるもの、特に動く画は、よっぽどの必要がない限りは、まず見返さないですよね。
てめぇのブサイクなツラが、見たくないんですよ!

こばなみ:
鏡は?

宇多丸:
そこはやむなく、だよね。
さっき言ったように、最低限のケアはしておかないと、もともと良くない見た目が、はっきり「見苦しい」レベルに突入しちゃうからさ。

それに、これは『ブラスト公論』の頃からの持論だけど、自宅の鏡ってのは、まさに「鏡よ鏡よ鏡さん」なんだけど、ちょっとだけ自分が良く見えちゃうんだよね。
おそらく、毎日見るものだからさ、脳が補正しちゃってるんだと思うんですよ。光の当たり方や明るさ込みで、「この状態を良しとしよう」って。
自分でも無意識に、ちょっとでもマシに見える角度を取っちゃってるだろうとも思うし。

でさ、その超限定的ベストセッティングだと、「あれ? 俺、いつの間にかわりとイケてきてない?」とかちょっぴり思えたりもするんだけど、いざそれで表に出てみると……、街中で、ショーウィンドウや鏡に映った自分がふと目に入ったりした瞬間、「なんじゃこりゃあ~!」と。
平板で間の抜けた顔立ち、青々と目立つひげの剃りあと、妙に赤らんだほっぺ……、とっておきだったはずのコーディネートも、なんだかやけにモコモコして、あか抜けなく見えたりしてさ。
もう、今すぐ帰らして~!ってなりますよね。

特にやっぱ、コンビニの鏡は最悪だよね。
あの、あらゆるものから陰影を消し去って均質化してしまう、蛍光灯と床のノッペリした白さ! 
あそこでまだそれなりに見える人こそ、ホンモノの美形ってことなんじゃないですかね。
そう言いたくもなるくらい、容赦なくすべてをむきだしにしてしまう空間だと思いますよ、あれは。

こばなみ:
たしかにわかります!
 あと、スマホで写真を撮ろうとしたときに、なんか知らなけどインカメラになってたときの、不意に映った自分の顔も最悪ですよね。

宇多丸:
わかる~! 
僕の場合タブレットだけども、たいていは下向いた状態でいじってるものだから、思いっきり二重顎を下から見た状態になってたりして、余計ギョッとしちゃうよね、
「誰だよこのとんでもないブサイクは!?」って。

似たようなことで言うと、家庭用テレビゲームでさ、カメラを設置して、プレイヤーの動きを感知するようなシステムがあるじゃん? Xboxのキネクトとかさ。
今のハードはそういうのが標準装備になってたりするけど、初期設定の過程とかで、一瞬こっちの姿がテレビに映し出されたりすると、やっぱ心底ドキーッとするし、ガックリ来るよね。
スキンヘッドにメガネ、寝巻き用Tシャツにトランクスってカッコしたおっさんが、ソファーにだらしなく寝っ転がってコントローラーいじってるとこが大画面いっぱいに映されてて……(笑)。一発で、ダメだこりゃ!ってなる絵ヅラですよ。

こばなみ:
Mac買ったときもそうですよね、口元とかだらしない感じ、勝手に映すなよーって!

宇多丸:
ね。コンピュータにも見られたくない!っていう(笑)。
だから僕は基本、そういう機能は全面的に切ってますけども。

ということで今回のお悩み、痛いほどよくわかりますよ……。

改めて考えてみると、スキンヘッドにサングラスっていう僕のトレードマークも、要は自分の素の見た目に自信が持てないから、公の場に出るときはそういう記号 的な要素を並べて、ある種キャラクターを演じるモードに入るというか、いちいち「お面」をかぶるようにした、ってところはあるかもしれないですね。
プロレスのマスクマンみたいなもんですよ、事実上!
 2000年代初頭とかは、そこからさらに「全身レザー」っていう記号性まで身にまとうようにしてましたから。完全にコスプレ感覚ですよね。

いまだに、写真とかビデオとか、よーっぽど身内しか見ないような場合じゃない限り、サングラス持ってないときは撮らせませんしね。
逆に、仕事でカメラを向けられるようなときは、さっき言ったアイテム2つに加えて、まさにこの連載の左側に並んでる写真がそうですけども(笑)、表情もポーズも大きめのアクションでさらに記号性を加えて、「素」の状態からどんどん離れていくようにしてる。
さっき言った、特に自分が映ってる動画は見たくないっていうのも、静止画にくらべて当然そういうコントロールは行き届ききらないから、どうしたって素の表情が出てしまってイヤ、というのはあるかもしれないですね。

でもさ、そういう部分って、大なり小なり、みんなあるんじゃない?
 メイクなんて全般「お面」じゃん!

さっき言った僕の、特にスチール画におけるキャラの作り込みっていうのも、女子で言えばちょうど、例の「別人級に可愛く見せる自撮りテク」に当たるものなんじゃないかと。
ばっちりメイクして、角度もポーズもここぞーっ!ってとこでキメて、その上ソフトフォーカスになったり瞳がデカく見えたりするアプリ通したりして……、たしかに仕上がりは「別人のように」カワイイっていう。

正直、前は僕もさ、浅はかにも、そういうのにちょっと意地悪な疑問を抱いてたりもしたんですよ。
「実際に当人が可愛くなってチヤホヤされるわけでもないのに、そんな実体のない“カワイイ”を必死こいて捏造して、いったい何になるの?」って。
でも、知人の女性に、あれは「自分の最高打点」の記録、「今はこんなだけど、本来ここまで行けるポテンシャルは持ってるんだ」っていう確認なんだって説明 されて、ちょっと納得したっていうのもあるし……、自分に置き換えてみると、なるほどあれは僕にとってのスキンヘッドにサングラスなのかもしれない、むしろ 記号的な「カワイイ」に落とし込むことで、より素の顔を覆い隠せるという安心感もあるんじゃないか、と思えてきたんですよね。

つまりやっぱり、お面をつけなきゃ人前に出られない!的な引け目って、わりと誰もが持ってるもんだったりするんじゃないですかね。

こばなみ:
女子部員にもアンケート取ってみたんですけど、

一見、好き派、嫌い派が半々くらいですけど、「どちらかと言えば好き」と答えてる人の多くは「好きになるようにしてる」って意見が多かったです。私もそうですね。なかには「可愛いと暗示をかけてる」って人もいましたよ。

宇多丸:
なるほどなぁ。
「鏡よ鏡よ鏡さん」っていうのも、実はそういう自己暗示のことを描いてるのかもね。面白いな~。

たとえばアイドルや女優、モデルみたいに、なんだかんだでルックスを商売にしてるような人だって、自分の容姿に対するコンプレックスがまったくないわけは、もちろんないだろうしさ。
むしろ、己の欠点を厳しく見つめること含めて、人からどう見えるかの自己分析をきっちりしてるからこそ、長所を最大限生かすセルフプロデュースもできてる、言ってみれば「お面の最適化」に成功した人たち、っていう風に考えたほうが正確かもしれませんよ。

しかも、だからってその「完成形」を、本人が心から良しとしてるとは限らないわけだからね。
一般人と比較にならないくらい、容貌に関するジャッジを露骨にされてしまう立場なぶん、抱えてる闇はさらに深いかもしれない。
だからこそ、いちいちお抱えのメイクさんを引き連れて移動したり、バラエティ出るときも「女優ライト」必須!とか、極端な場合もはや原型をとどめないレベルまで整形を重ねたり、いろいろ頑張っちゃってるわけじゃんよ。全身のお面キープに必死ってことですよ!

ちょっと前の芸能人ブログとかで、すっぴん写真をアップするのが流行ったのも、「打点が高い状態」を吟味して提示してる時点で、本質としては完全にお面イズムの一形態だよね。

こばなみ:
すっぴんって言いながら、アートメイクだってしてるだろうし、それこそマツエクだってそうですよね。

宇多丸:
ということで、お面はみんなかぶってる!

こばなみ:
なので、えびこさんも、自分なりのお面を見つけなさいってことですかね?

宇多丸:
そうだね。
もともと持ってる目鼻立ちを素材に、どこまで自分が「ま、これならどうにか見られなくもないな」と思える落としどころを見つけていけるか……。

「記号的要素を増やして、素の成分を薄める」っていう、僕におけるスキンヘッド&サングラスの理論で行けば、たとえば「メガネ」「帽子」「ある程度決まったヘ アスタイル」などのアイテムで、自ら「キャラ付け」をしてしまうっていうのは、とりあえず手っ取り早い方法ではありますよね。
「自分」はその記号性のなかにすっぽり埋もれてるような感覚というか……、ちょっとこう、「見られる」ことへの安心度が増さない? 
だから、集合写真を撮るような際には、そのキャラのコスプレをしてゆくつもりで臨むという。

モノじゃなくてもいいんですよ。
ここぞというときだけ髪を下ろすとか、お決まりの表情とポーズを取るとか。
要は自分なりの「スイッチを入れる」ポイントを作るってことですね。

こばなみ:
私は「動き」でやってますね。
写真を撮るときは手とか挙げてうえーいって、元気モード。

宇多丸:
それは……、いいのか?(笑)

こばなみ:
なんか動きをつけると顔の造作とか、ごまかせるんじゃないかなって思ってやってます(笑)。

なので、逆にポートレートが困るんですよ。顔だけに注目が行っちゃうじゃないですか?

宇多丸:
あーわかるわかる。
証明写真とかね、ごまかしが効かない。

あと、取材の撮影とかで「自然に立っててください」って言われるのもホント困る!
 ついつい顎に手を当てたり、両手を広げたり、自分的にはおなじみの「記号的ポーズ」に逃げたくなっちゃう。

こばなみ:
私、出っ歯なのがコンプレックスなんですよ。もうちょっと言うと、出っ歯なのはいいんだけど、口を閉じたときに無理やり閉じてるから、今にも歯が出そうっていうか、歯が隠しきれないあの感じが嫌なので笑ってる写真にしたいんです。

宇多丸:
へぇ~。そんなの、言われなきゃ絶対わかんないけど。
そう考えると、その人が写真を撮るときに決まって取るポーズとかを見るだけで、どこにコンプレックス感じてるのかなんとなくわかっちゃったりもするのかもね。

つまり、あんまり隠そう隠そうとしすぎると、逆にそこが浮かび上がっちゃうってこともあるかもしれない。

そもそもさ、コンプレックスの強さって、実はプライドの高さの裏返しじゃん? 
僕もそうだけど、自分の見た目にいちいち落胆するって、逆に言えばどんだけ高望みしてたんだよ?って話だからさ。
「現実」と折り合いがつけられてないっていう意味では、たしかに「いい大人のくせにみっともない」態度とは言えるのかもしれないよね。

なので、あんまり自分の容姿を「好きにならなきゃ!」って方向に思いつめるのは、逆効果なんじゃないかな。
むしろ、自分のルックスと適当な距離を取るというか、いっそ軽く他人事的なテンションでいるくらいが、ちょうどいいんだと思いますよ。
それでこそ、「ま、このブサイクをなんとかするとしたら、こんなもんかな……」っていう、さしあたっての落としどころ=自分なりのお面の塩梅も、よりクリアに見えてくるんじゃないですかね。

ちなみに、これは今回の相談に限らずだけど、ヘアスタイルやメイク、服装とかに関して、自分ではどうしていいかわからないようなときは、いったんその道の達人に丸投げして、ホントの意味で客観的に「プロデュース」してもらいなさいよ、とは僕がいつも思うあたりでして。
人が決めたことだと思えば、さっき言った「軽く他人事的なテンション」にも、さらになりやすいでしょ?
自分では相変わらずブサイクだなぁと思ってたとしても、「あの人がこれでいいって言うんだから、まぁ間違いはないんでしょう……」くらいに、いい意味で諦めがつきやすいというか。

もちろん究極的には、パートナーとか好きな人に、日常的に褒めてもらうっていうのが一番の薬なんでしょうけどね。
「可愛いよ」「キレイだよ」って当たり前のように言われ続けてれば、「ひょっとしたらホントに、人によっては私のこの見た目が本気でタイプ!ってことも、あり得るのかもしれない……」くらいには思えてくるだろうしさ。
それ以前に、好きな人に好かれてるんだからもうそれで十分じゃん!とも言えるし。「好きな人が好きな自分」のことは、自分もやっぱり絶対、少しは好ましく思えてくるはずでしょ。
だから、早くそういうお相手が見つかるといいですよね……。

こばなみ:
今回は、誰もが仮面をかぶってるんだってこと、再認識しました!
 そう思ったら、私もちょっと気が楽になりましたよ。



【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年2月26日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
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その他のライブ情報は
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詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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