会うといい感じなのにメールでだけキレてくる取引先の人。心臓に悪いです……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室162】
✳️今週のお悩み✳️
こんにちは。仕事で最近気になることがあります。取引先の人で直接会うといい感じなのですが、メールだとキレた感じで返してくる女性がいます。わたしより年上です。こちらが納期が間に合わなかったり、段取りに手間取ったりすることもあるので、悪い部分もあるのですが、メールでだけキレてきます。会って謝ると普通です。このメールのキレが毎度すごく傷つきますし、ギャップに驚いてしまい、心臓に悪いです。そういう人と仕事上で付き合っていく場合、注意点や対処法を教えていただければと思います。
(のみの心臓・32歳・東京都)
宇多丸:
メールに限らず、インターネットでのコミュニケーションって、やはり文字によるものが大半だから、こういう「字面だけだと過剰にキツく伝わっちゃう」問題って、ホントに日々世界じゅうで、無数に起こってることだろうね。
こばなみ:
今回は違いますけど、攻撃的な書き方が天才的に上手い人もいますからね。
宇多丸:
ネット弁慶な人とかね。
まぁ、文章上では勇ましいこと書いてるけど、実際会うと口調からなにから全然そんな人じゃない、みたいなことって、大昔からよくあったことでもあるだろうけど。
でもこれ、人の振り見て我が振り直せじゃないけど、別に特定の変な人たちがいるって話じゃなくて、特にこの時代は、我々全員が、常に意識的に自戒しなきゃいけないことでもあるんじゃないかな。
たとえば、相手が仕事上のミスをして、こちらになんらかの迷惑がかかったとする。 向こうに落ち度があるのははっきりしてるので、こちらは言わば、「100%の正しさ」を背負って相手を責めることができるわけだけど……、ホントはたぶん、そういうときこそ、気をつけなきゃいけないんだよね。 それこそ前回ちょっと言ったような、怒りを言葉にするうちに、自分でその気持ち良さに酔っちゃって、勝手にどんどん怒りのテンションをエスカレートさせていっちゃうパターンに行きやすいというかさ。 特に、文字だけの、言わばバーチャルなやりとりだと、ことの白黒が論理的に明確になるぶん、そういう状態に陥ってしまう危険性も、より高まるんじゃないかな。
でも、実際にその相手に会って、心底すまなそうに謝ってる顔とか声とかを直接前にすると、たいていの人は、そうそう頭ごなしにも怒れなくなってくるもんだと思うんですよね。問題になってる件“以外”の要素がたくさん入ってきて、もろもろが相対的に薄まるというか。 「ま、この人も別に、悪気があってのことじゃないわけだし……」とか、「とは言え、あんまり怒って嫌われちゃうのもイヤだしなぁ」とか、相手の気持ちや立場をおもんぱかったり、自分を客観的に眺め直す余地が、格段に広がるでしょ、お互いの“顔”が見えると。
のみの心臓さんの仕事相手も、間違いなくそういう、わりと普遍的な人情の動きに従って、メールだとおっかないけど会うとそうでもない、という人になっちゃってるだけだと思いますけどね。
直接会って話せば、たとえば「こばなみ、あれはないよ~(苦笑)」とか、いくらでもニュアンスを和らげられる程度の件が、要件だけに絞った文字情報だと、「あれはないと思います」とかになって、ひたすらピリッとした感じになってしまいがち、みたいな……、これ、誰にだってあり得ることだと思うんですよね。
だからこそ、特にメールとかで人になにかネガティブなことを伝えるときは、いったん立ち止まって、常に自分の感覚よりちょっと余計にフォロー入れるよう心がけるくらいで、ようやくちょうどいいのかもね。
こばなみ:
カーッとなってメールすると、絶対良くない方向にいきません?
なので、そういうときは私、一度書いて保存して、少し時間を置いて寝かせて改めてもう一度校正したりします。気持ちが怒モードのときにその勢いでメールすると、ろくなことが起きない……。
宇多丸:
間違いないですね。
ましてアルコールが入ってたりすると最悪です(笑)。
よく、深夜に酔ってうっかりあげてしまったとおぼしき毒づきツイートを、翌日あわてて削除してる人とかいるじゃん。気持ちはわからないじゃないけど、大人なんだから、もっと気をつけよう!
で、今回の場合はさ、取引先の人だし、こっちが指図できたりする立場ではないから、そういう癖を指摘して治して差し上げる、というようなことはできないわけですよね。 あくまでこちら側が、どういう心構えで受けとめてゆけばいいのか、という問題。
たとえばですけど、さっき、メールとかでなにかネガティブな内容を伝えようとするときは、意識的にでもフォロー要素を足し気味にしてったほうがいいんじゃないか、それでようやく実際に会ったときのテンションとトントンくらいなんじゃないか、って話をしたでしょ。 ということは、逆もまた真なりでさ。 のみの心臓さんの取引先の人みたく、文面と、直接会ったときのギャップが激しいってことがすでにわかってる相手なら、仮にキツい感じのメールを受けとったとしても、こちら側で自動的に、怒気を何割か差っ引いて考えられるようになればいいってことじゃない?
だから、送られてきた文章のケツに必ず「(笑)」をつけてみるとか(笑)。 うまく想像できないようだったら、メールをコピペして、ホントに「(笑)」とか、おどけた絵文字とかスタンプとかをいちいち文末に貼りつけてみて、「まぁ、実際に会ってみれば、意外にこのくらいのテンションなんだろうな」と即座に脳内変換できるよう、訓練する!
「あの進行はありえませんよ(笑)」
「納期を守っていただかないと困ります(・´ω`・)」
「私の立場も非常に厳しくなっている現状ですorz」
みたいな(笑)。 こうやってみるとむしろ、悪いのはこっちなのに気まで遣ってもらっちゃって、余計にちゃんとお詫びして埋め合わせしなきゃ!って気持ちになるくらいじゃない?
なんにせよ、だいぶ前にもちょろっと言ったけど、とかく「きちんとした」言葉遣いからはこぼれ落ちてしまいがちな、感情のグレイなヒダまで補助的に表現してくれるこういう文化、本当に、素晴らしい知恵だと思いますよ。ノーベル賞とかあげてもいいくらいだよ!
こばなみ:
なんだか気持ちが楽になってきました!
「これでは上司に報告できません(^^;)」
「どうして間に合わないのでしょうか? ガ━━(゚д゚;)━━ン!!」
宇多丸:
いいじゃん!
会えば大丈夫ってことは、この顔文字テンションだって決して噓ではない、むしろ真意に近いってことでもあるんだろうからさ。 先方の文面の精度を、こっちで勝手に上げてあげてるんだ、くらいに考えとけばいいんじゃない?
とは言え、相手が本当にガチ怒りしちゃってて、こっちもそれを真摯に受けとめて対処しなきゃいけない、ってときも当然あるでしょうから……、そこんとこの見極めは、くれぐれも正確にしてかなきゃならないでしょうけど。
あと、さっき「お互いの“顔”が見える」と心持ちが全然違うでしょ、ということを言いましたけど、たとえば友達同士だったら、たとえ文面上多少キツい言い回しがあったとしても、相手の人となりをよく知ってるから、悪く受けとる前に、「あいつらしいわ」とかなんとか、善意に解釈することが普通にできるわけじゃない? その意味では、のみの心臓さんとその取引先の方も、もっと対面コミュニケーションの量を増してゆくというのが理想ではあるのかもしれない。 そうやって、互いの“顔”が容易に浮かぶところまで行けば、そこから先はメールでも、双方もうちょっと心穏やかにやりとりできるようになるんじゃないかなぁ。
それこそ、よく仕事上で迷惑かけるのは事実でもあるようだから、お詫びの接待がてら、のみの心臓さんから、食事や飲みの場を一席設けて、お誘いしてみるとかすればいいじゃん。 お土産とかもそうだけど、そういう古来からのコミュニケーション潤滑油って、やっぱそれなりの効果、あるもんだと思いますよ。
まぁ、先方も明らかに、悪い人ではないんだろうからさ。 それに、向こうにだって、こちらのことをもっと知ってもらうのは絶対にプラス、というか必要なことでもあるだろうから。
ということで、絵文字顔文字フィルター、からの一席作戦、でいかがでしょう?
こばなみ:
(o^-^)b
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年9月24日に公開したものを再編集し、掲載しています。