仲がよくなった友達とは毒(悪口)を吐きあいたいのですが、乗ってくれないと本当の友達になれない寂しさを感じてしまいます……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室173】
✳️今週のお悩み✳️
23歳の女子大学院生です。私の悩みは、大学でできた多くの友達に向かって、「ぶりっこめ」と思ってしまうことです(男の子でもぶりっこはいます)。私は時折、先輩の悪口を言ったり、両親の悪口を言ったりするのですが、そのとき、たいがいの私の友達は、「世話になっているのにそんなこと言える立場じゃないだろう」「今まであなたを育ててきたのは、両親だろう」というような答えが返ってきます。また、言う前からそういう空気を感じる場合は、(あたりまえですが)悪口を言うことは自粛します。しかし、私の望みは、悪口を言える立場ではないことは、わかっていて、それでも、口の堅い、仲のよい友達と二人のときは、毒を吐き出し(吐き出され)たいと感じます。それは、ストレス解消の意味と、タブーを持ちたくないという気持ちです。なので、ある人と仲のよい友達の関係になって、相手の倫理観の輪郭を探る段階で、その友達モラルがかなりしっかりしていることがわかると、悲しくなります。もちろん、相手を嫌いになるわけではなく、真面目な性格をもつ友達を尊敬する気持ちにもなりますし、大事にしようとも、思います。ただ、うまく言えないのですが「共犯者」になってくれる友達をずっと探しています。ある友達に、両親を批判していけない理由は?と聞くと、「友達がただで作ってくれた料理をまずいとは言わないだろう」と言われました。よい例えだなぁと思う一方、ただゲスな人間になりたくない、下品なことをしたくないだけなのではないかと思います。女友達は、彼氏の愚痴を言いあう「共犯者」には、比較的たやすくなってくれる気がします。しかし、親や先輩のことは、悪く言おうとしないし、そんな自分に満足している節も見受けられます。なんというか、そのような男友達・女友達を高等なぶりっこに感じて、あざといと感じるのは変でしょうか。また、一応は、彼(彼女)らの、「これから人生うまくやっていく感」に、自分は嫉妬しているのだろうなという自覚はあります。でも、嫉妬よりも、本当の友達になれない寂しさや、これからも人間関係において同じ状況が続くだろうという予兆が、とにかく悲しいです。
(はる・23歳・大阪府)
宇多丸:
まぁ、パートナーの悪口は、特に女性はわりとカジュアルに言う人が多い印象がありますけどね。
こばなみは、友達とかとこういう付き合い方するほうですか? ざっくばらんに人の悪口を言い合えるかどうかで、親密度をはかるというような。
こばなみ:
その時々によってもちろん違うと思うんですけど、この相談文で気になったのは親の悪口とかって、よく言うじゃん!とは思いました。
たとえば、「おかんからの日曜の7時にガンガン電話かかってきた、マジ厄介!」とかって私が言ってたとして、それをこういうふうに「今まであなたを育ててきたのは、両親だろう」と正論を吐かれたら、そりゃ、ぶりっこめ~って思うかも。
でも、悪口とか毒吐きとか、会話がそればっかりになるのも楽しくないですね。
宇多丸:
もちろん、誰にだって毒を吐き出したいときはあるわけで、それに対して頭ごなしに、陰口は良くないだの親に感謝しろだの、「んなことぁこっちもわかった上で、あえて言ってんだけど!」っていうような一般論的キレイごとで諌められたりしたら、思わずイラッと来ちゃうのもわかりますよ。
その意味でははるさんのお友達にも、「つまんねぇ堅物どもだなぁオイ」という言い方はできるかもしれない。
ただ、それはさ、あくまで「友達なら愚痴ぐらい聞いてやれよ」って話じゃん。 「そうなんだぁ、ひどいねぇ」とか、ちょっとでも共感してあげるだけでいいのに、っていうことであって、そこからさらに、こっちも同じような悪口を乗っけてゆくべきかどうかっていうのは、また別問題だと思うんだよな。
実際僕も、人の話を聞くぶんにはいいけど、自分の親、というよりパートナーとか含めた身内の悪口は、どっちかって言うと、よっぽどのことがない限り言いたくないほうなんですよね、はるさんには申し訳ないけど。「変な人でね~」とか、茶化すくらいはするけど、ガチで悪く言うってことは、まずないです。 それは、別にいい子ぶってるわけじゃなくて、単にホントに本気で、そこまで悪く思ってないから、ってだけのことなんだけど……。
いやそりゃ僕だってね、特に「共通の敵」がいるような相手とは、陰口を叩くことでこちら側の結束を固める、みたいなコミュニケーションの取り方をすることは、全然ありますよ。 それこそ、インタビューとかで「ライムスターの3人がずっと仲良くいられる理由は?」みたいな質問をされたときには、「グループに限らず、ある関係を長続きさせたいのであれば、“好きなもの”は違っててもいいけど、“嫌いなもの”は一致してたほうがいい」って答えてるくらいで。
こばなみ:
たしかに!!
宇多丸:
「うまいこと言う」シリーズだけどね(笑)。
ライムスに限らず、信頼できる仕事相手同士、「ああいうのはダメだよね」みたいな話題で盛り上がることで、逆に自分たちが目指すべき方向みたいのが浮かび上がってくる、みたいなことはちょいちょいありますよ。
無論そんなのは、決して人に自慢できるようなことじゃない、どっちかと言えば間違いなくゲスい行為だなんてことは重々承知の上で……、だからこそ、そのハードルを越えて価値観を共有できた喜びというのが、大きかったりもするわけで。まさに「共犯」感覚だよね。
だから、はるさんの気持ちも全然わかるんです。
ただね……、そういうのが有効なのは、やっぱり、そもそもお互いの「共通の敵」が、よっぽど明確な場合、に限られると思うんですよね。 そこではるさんみたく、「相手の倫理観の輪郭を探る」手段、つまりコミュニケーションの「糸口」として悪口ぶっちゃけ作戦を投入するのは、順番的に正直ちょっと、危険だと思いますよ。
というのも、今回の相談を読んでいて、はるさんとは完全に逆の立場に置かれた、知り合いの女性のことを思い出しまして。 新しい職場の同僚、というか事実上の先輩たちが、まさに、「そこにはいない他の同僚の陰口を叩き合う」ことでこっちとの距離を詰めようとしてきたんだけど、その知人にしてみたら、それぞれどういう人たちなのかもまだよくわからない段階だし、もともと積極的に人の悪口言いたいようなタイプでもなかったから、そこまでノリノリで同調することもなく、「いい人だと思いますよ~」的に、まぁ無難に受け流していたと。 そしたら、いつの間にか「ぶりっこしちゃって!」みたいなレッテル貼られて、今度は彼女自身が、その人たちに陰口叩かれる対象になってしまった、という。典型的にイヤ~な感じの同調圧力だよね。
でもじゃあ、最初の段階で一緒になって同僚の悪口言っときゃよかったのかっていうと、それも、ねぇ……、誰かと仲良くなるために、たいして思ってもない他の誰かを悪く言わなきゃならないなんて、そんな法はないでしょ! 無理してそんなことしても、自己嫌悪になっちゃうだけだよ。
だからはるさんも、相手が自分の思い通りに「共犯者」になってくれないからと言って、少なくともぶりっことかあざといとか一方的に決めつけてしまうのは、やめたほうがいいんじゃないかなぁと僕は思いますね……、せっかく相談送ってくださってるのに、結果説教くさい感じになっちゃって申し訳ないけども。
念のため何度も言うけど、別に毒を吐くなって言ってるんじゃないんです。そういう面は誰にだってあるし、すでに信頼関係がしっかり確立されている者同士なら、ときにはそこをさらけ出したり、受けとめてあげたりっていうようなことも、そりゃあ当然あるでしょう。 でも、それを「深い関係性の絶対条件」みたいに考えないほうがいいよ、ってことですよ。そうじゃない信頼や友情のありかただって、普通にいっぱいあるのにさ。
こばなみ:
悪口を持ちかけられて、受け流すも乗るも、どう思おうと自由ですしね。
宇多丸:
まして、強要したりされたりなんか、絶対するべきじゃないし。
とにかく、今回のように、「自分のなかのダークサイドを見せあえるかどうか」ということに限らず、「こうでないとホントの友達になれない」とか、「こうでない人は本音で接していない」とか、そういう決めつけは、あまり人を幸せにしないと思いますよ。
だって、そうやってこっちが考えてる鋳型に、完全にハマるところ「だけ」でできてる人なんて、現実には存在しないんだもん。他者ってそういうことでしょ? いつも言ってることだけどさ。 つまり、そういう考え方をしている限りは、遅かれ早かれいつかは絶対に、どんな相手にも失望して回るハメにならざるを得ないわけですよ。他人に、勝手に現実的じゃないレベルの期待しておいて、それが叶わないとまた勝手に失望する、その繰り返し、みたいな……。
こばなみ:
はるさん自身も嫉妬や寂しさなど、ちょっと困惑していて辛そうな感じも……。
宇多丸:
だよね。
そのサイクルから抜けだすためには、はるさん自身が、ある部分では確実に自分と違う考え方や立場を持っている他の人の心情、たとえば「今ここでその人の悪口は言いたくないんだけどな」っていうような気持ちに想像力を働かせてみる、ってことしかないんじゃないかなぁ……。
たとえばさ、はるさんとは昔から本当に仲良しで、特に不満を抱いたこともない大親友のAさんがいたとします。あるときAさんが、別のお友達Bさんを連れてきました。はるさんとBさんは大変ウマが合ったので、たまにAさん抜きでも遊ぶようになりました、と。 そこまではまぁいいとして、このBさんが、はるさんと二人きりになると、猛然とAさんのことを悪く言い出して、「はるさんもそう思うでしょ?」などと同意も求めてくる。要はこれまでのはるさん同様、「共犯」関係を持ちかけることで、こちら側の結束を確認しようとしているようなのですが……、みたいな。
さぁそのとき、はるさんならどうする?って話ですよ。 Bさんに合わせて、その場では一応自分も、実はそこまで思ってなくとも、親友の悪口を言うのかどうか。
もちろん、そういう処世術が有効な場面というのも、この世にはままあるのはたしかだろうけども……、それこそ最悪の場合、「はるさんもAさんこと嫌だって言ってたよ」的なかたちで、本人の耳に入ってしまう危険だってあるわけでさ。
本当にあるからね。「あの人、最近オレの悪口言ってるらしいけど、なんで? なんか悪いことでもしたっけ?」ってこと。 要は、その場のノリで言ったサービスのつもりの発言が、いまどきはSNSとかを通じて、ネガティヴなニュアンスだけ増幅して伝わったりしやすい、ってことだったりもするんだけど。 みなさんホントに好きだからね、自分以外の誰かがモメてたりするのを見物するのがさ……。
こばなみ:
あの悪口言ってたよ報告って最悪ですよね……。こちらを参照!
宇多丸:
で、さっきのBさんの「共犯への誘い」にどう応えるべきかという件について、これはあくまで僕個人の信条からするとこう思う、という一意見として聞いてほしいんだけど……、まず、Bさんのことも友達として全然好きで、今後も付き合っていきたいんだったら、さっきも言ったように、いい悪いは別にして、とりあえず話を「聞いてあげる」べきだとは思う。言ってることに対して「そうか、それはさすがに嫌だよね」程度の同調もしてあげていいと思います、普通に。
ただ同時に、Aさんのことも大事で、別にBさんほどネガティヴに思ったこともないんだったら、やっぱ、なにも一緒になって悪口言うことはないでしょ、とも思うんだよな。
そんな風に、友達として親身に愚痴や相談は聞くけど、こっちの事情はまた全然違うから……なんてこと、当たり前にいっぱいある、というか、「それが当たり前」ってことでしょう。
たとえば親の悪口とかもさ、人によっては、厳しい環境で苦労して育てあげてくれたからとか、ご闘病中だとか、早くに亡くされてるとか、とにかくそうそう軽々しく言いたくないってことだってあり得るわけじゃん。 ま、僕の場合は別にそこまで重い理由はないですけど(笑)。
なんにしてもさ、ひとことで言えば、「人それぞれなんだから」ってことに尽きますよ! 期待していたようなリアクションが返ってこなかったからと言って、すぐにいちいち「その人全体」にレッテル貼って絶望なんてしてたら、キリないですよ。勝手にどんどん孤独感を募らせてくいっぽうで辛いだろうし、ハタから見るとそういう人って、単に「めんどくせぇなぁ」の一語だからさ。
ちなみに僕は、今回の「ぶりっこ」とかもそうだけど、誰かが何かしたことに対して、「あの人って◯◯だよね」みたく、すぐに具体的な言葉で「分類」してしまうのって、そもそもあんまり考え方として良くないんじゃないかなって気が、特に最近すごくしてるんですよね。 いったん言語化してしまうと、それ以降はもう、その表現に従ってしかその人を見れなくなってしまったりするじゃん。 でも、その誰かの言動にしたって、そんなのはその人のごくごく一部、しかもその日そのときだからこそ出てきたものでしかないわけで、それだけで全人格をわかったような気になってるこっちのほうが、ホントは褒められたもんじゃないというか、薄っぺらな考え方しちゃってるんじゃないかなと思って。
ま、それって元をたどれば、人間という生き物の、認識能力の特性でもあるでしょうから、よっぽど気をつけてない限りは、普通はついそうやって考えて済ませちゃうもんだとは思うんですけどね。 僕なんか、基本人より決めつけが激しいくらいだよ!(笑)
ただ、それで失敗したり、後悔することも多かったりするからさ。 表面的な第一印象で一方的に「あの人はこう」って思い込んじゃって、それこそあちこちで散々そんなようなことを言いふらしちゃってから、後になってから改めてちゃんと会って話してみると、なんだよ全然いい人じゃん!ってなるとか、恥ずかしい話だけど、いまだにけっこうあるし……、なので、今回は自戒を込めてって面も大きいんですけどね。 あと、僕自身もそうやって見られがちだったりするからね(笑)。
こばなみ:
私ももちろん、そういう失敗ありますよ。きっと誰でもありますよね。失敗したり悔やんだりすることは直せばいいし、女子部でも今日はクリスマス・イブパーティで、2016年の失敗をみんなで笑い飛ばして、さっぱり浄化しましたよ! 大丈夫、来年からはうまくいく!!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年12月24日に公開したものを再編集し、掲載しています。