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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室23】 事務職で正社員? クリエイティブなアルバイト? 自信がなくて踏み出せない就職活動中の私…。


✳️今週のお悩み✳️
現在、就職活動中の学生です。もう大学卒業が近付いてきているのに、いまだに自分がどの道に進めば良いのかわかりません。両親はわたしがイキイキ働けるならどの道でも応援すると言ってくれていますが、事務などで正社員になって働く道に進むべきか、クリエイティブな仕事ができる職場でアルバイトとして働く道に進むべきか迷っています。雇われる側として迷っている場合でもないと思うのですが、自信がなくて一歩踏み出す勇気が出ません。宇多丸さんの立場からの意見を聞きたいです。
(A子・長野県)


宇多丸:
ちょっとよくわかんないのはさ、なんで「事務などで正社員」か「クリエイティブな仕事ができる職場でアルバイト」かっていう二者択一になっちゃうの? 「クリエイティブな仕事ができる職場で正社員」っていう選択肢がハナからないのはなんで?

こばなみ:
採用試験をきちんと受ければ別なのでしょうが、出版社とかではアルバイトにはなれても、そこから正社員にはなれない、なんてこともあるみたいですよ。

宇多丸:
そもそも「クリエイティブな仕事」ってなんだよ?って話なんだけどさ。
たとえば雑誌を作るのと映画を作るのと洋服を作るのとでは、当然のことながら求められる資質も、努力すべき方向もまるっきり違うわけでしょ。
だからまずA子さんは、「クリエイティブな仕事」とか、この期に及んでぼんやりしたことしか言えてないのが大問題!

ただ、一般論的に言えば、いわゆる「クリエイティブな仕事」の現場って、正規の門戸は狭くみえるけど、「やる気のある人材」そのものは、実は切実に求めていることが多かったりすると思います。
それこそ、最初は給料すらほとんど生じないような下積み時期があったとしても、そこでスキルを積んで、次第に頭角を現してゆく……みたいな、そういうプロセスをいとわない、ガッツのある若者を求めていない業界というのはないと思いますよ。

「本当に使えるヤツかどうかは現場に投入してみないとわからない」タイプの仕事ってけっこうあると思うし。

こばなみ:
私も編集をする制作会社に勤務しているので、その類ですね。たとえば編集の仕事だったら、出版社に入る以外にも、最初は丁稚奉公みたいな感じで働く、そういうスタイルもあるし、けっこう他の制作仕事もそういうスタイルが多いと思いますよ。

宇多丸:
だから、やりたいことがはっきりあるなら、強引にでもそこに飛び込んじゃったほうがいい、とは思います。
自分からどんどん売り込みに行くとかさぁ。たとえばライターなら原稿の持ち込みをしつこく続けるとか。
とにかく、正式な採用試験みたいなの、以外の入り方も意外と多かったりするのが、いわゆる「クリエイティブな仕事」業界ではあるかもしれないです。

ただ、それって要は実力主義ってことだから、実はより厳しい道ってことでもあるんだけどね。
もちろん貧乏と苦労、あと将来の保証もないのは覚悟しないといけない。
その前に、「クリエイティブな仕事ができる職場で正社員」の可能性も、ちゃんと探ったほうがいいとは思いますよ。

ひとつ、A子さんの言い方で気になるのは、「クリエイティブな仕事」に対して、「事務」的な仕事を完全に別なもの、なんなら下に見てるような感じさえすること。
言っとくけど、「クリエイティブな仕事」とやらのなかにも、「事務」的な側面は全然ありますから!前に出た「華やかな世界、って言うけどさぁ……」の話にも通じますが。

そういう、ひたすら地味だったり泥臭かったりもする現実を目の当たりにして、しぶしぶ、ルーティン的に仕事をこなすようになってしまったら、それがどれだけ「クリエイティブな」ことに関わっていようが、その人にとってはただ単にキツい職場、というだけのことになっていってしまうでしょ。

逆に、どんな仕事にも「クリエイティブ」な側面ってあると思うし。たとえばビルの掃除でもいいよ、
「もっと効率のいいやり方を発見しました」とか、
「すごく汚れが落ちる拭き方があるんです」とか。
そうやって仕事って充実させていくもんじゃん。

たとえそれが本来夢に描いていた職種ではなかったとしても、投げずに、何かしらやりがいを見いだして努力してゆけば、そこにはちゃんとクリエイティビティも、職人芸も、誇りも生じうる……。
大きな話をすれば、そういう考え方が人生や世の中を少しずつマシにしてゆくんじゃないかと思うんですけど。

だから、まだどうやらやりたいこともそんなにはっきりしてないのに、「クリエイティブな仕事」と「事務」を差別するなんて、十年早いよ!
なんだか「事務くらいだったら、正社員になれるだろう」って了見に聞こえちゃうんだよね。

こばなみ:
何か具体的なキーワードがあったらいいんですけどね。たとえば、映画がつくりたい、雑誌がつくりたいとか。

宇多丸:
とはいえ、このまま嫌々「事務などで正社員」になっても、A子さんは不満を引きずったままの人生を送ることになってしまうのかもね。
仕事は仕事とわりきって、生きがいは趣味に託す、『釣りバカ日誌』的な生き方も、全然ありなんですけどね。なんとなく、A子さんはそれでは満足できなそうな。

こばなみ:
心の中では決まってるんじゃないですかね。だったら、どんな雇用形態であれ、やったほうがいいと私は思います。宇多丸さん自身は、若い頃って仕事に対してはどう思ってたんですか?

宇多丸:
まともな就職活動は最初からやろうともしてなかったですね。
真夏にスーツ着て歩き回るのとかマジ無理、みたいな、ダメ人間すぎる発想で。
ただ、当然ラップだけで食っていけるとも思ってなかったから、当時すでにそこそこ軌道に乗っていた音楽ライターとしての活動で、CDのライナーを月に何本か書きつつ、実家暮らしで贅沢しなければ、まぁ飢え死にはしないだろう……的な、本当に最低の人生設計ですよ。

それで人様から後ろ指をさされても構わない、って程度の覚悟はありましたけどね。
こばなみはやっぱり編集業に就きたいと思ってたの?

こばなみ:
いや、実は就職活動もあんまりしていなくて、もともと目指していたわけでもなくて。大学では理学部で、フジツボの研究をしていたものですから…。

宇多丸:
え? で、どうしてここにたどりつくことに?

こばなみ:
フジツボの研究していて、もちろん就職もなくて…。もともとは研究とかに憧れていたけれど、イマイチ夢中になれなかったんですよね。で、その頃、写真が好きで、じゃ、卒業したら写真の専門学校にいこう!ってなって写真をはじめるわけですが、そこでも「プロカメラマンになる!」とかではないなぁって。どちらかというと、写真を撮るより、写真を使って何か発信したり、おもしろいことができたら…、とうすぼんやり思っていて。で、たまたまアルバイト情報誌でいまの会社をみつけてバイトで入ったという……。しかも面接では最初、落ちてしまって、社長が軽く「また、遊びにこいよ」と言ったのを真に受けて、写真の作品ができるたびに通ってたんですね、そしたら「しつこいヤツだ、空きができたからバイトするか?」みたいになって、編集アシスタントになったという経緯です。

これだ!と明確にやりたいことがあったわけでは全然なくて、むしろぼーっとしていて。なんかおもしろそうだな、と入った感じでしたね。入ったら入ったで貧乏だし忙しいし、彼氏には振られるし、メチャクチャな生活だったけど、なんだかんだ楽しくて、いま12年くらい経ちますかね。

宇多丸:
なるほど……。
これもさ、落ちたけど遊びに行ってた、っていう、さっき言ったようなプラスアルファのガッツがあってこそ、たまたま空きが出たっていう偶然のチャンスをつかみとることもできたわけだよね。
あと、ここは居心地が良さそうだな、とかって勘もあったんでしょ?

こばなみ:
そうですね。なにかしらのワクワク感はあったかも。と同時に、ダメだったらいつでも辞めていいんだ、とも思っていました。結局、ドハマりして辞めてないわけですが、選択権はいつも自分にあるわけですから。だから、もうちょっとフランクに考えてもいいんじゃないかな、とも思うんですよ。

宇多丸:
本当はさ、学生時代から、目的の職場周りをうろちょろ出入りしてるのがベストなんだよね。

それこそ学生の頃は、とりあえず日々の暮らしは心配しなくていいわけで。
その時期にバイトでも手伝いでも、とにかく「コイツは使えるヤツだ」というのがきっちり証明できてさえいれば、「おまえ就職決まったの? まだ? しょーがねぇなぁ。じゃあ、安月給だけどウチ来る?」みたいな話にもなってくる。

しかし「一歩踏み出す勇気がでません」か……。
さっきのこばなみの話もそうだけど、何をするにしても、やっぱり最初の一歩だけは、「本人もよくわからないうちに、なんかやっちゃってた」的な、理屈を超えたジャンプが必要だったりするもので。

たとえば、いろんなジャンルで活躍してるような人に、「なんでこれをやろうと思ったのか?」をどんどん掘り下げて聞いていくと、最終的には「よく考えたら根拠なんかないんだけど、なんか自分にはやれると思った」とか、「気づいたらやっていた」とか、そんな一点に行き着くことが本当に多いんですよ。

それを始めたことで生じる「こんなことやってていいのか?」的な迷いとか行き詰まりっていうのは当然あるんだけど、一番最初の「やる/やらない」の葛藤っていうのは、みんな思い出せない、っていうか、たぶんそもそもない。

こばなみ:
たしかに。なんでやろう!と思ったのか、っていうのは、明確には覚えてないですね。

宇多丸:
僕がラップやることになったのも、最初は大学入りたての頃、サークルのパーティの出し物としてだったんですけど、そこでみんなに褒められた、っていうのはもちろん大きいにしても、それ以前に、そもそもなんでラップをやろうと思ったのか、自分にはできると確信していたのか、についてはよく思い出せないんですよね。当時としては無理からぬ意見として、「日本人にラップは無理」っていう先輩の強い反対もあったのに、それを押しのけてまでやり通したあの自信は、いったいどこから来てたのか……。

ちなみに音楽ライターをやり始めたのも、そのサークルが出していた同人誌があって、そこで気合いを入れたレビュー原稿を書いていたら、先輩の紹介で『Black Music Review』にレコード評を載せてもらえるようになり、そこからあちこちに呼ばれるようになって……という流れ。

こばなみ:
運っていうか、偶然性みたいなものもありますよね。

宇多丸:
僕の資質やモチベーションが、時代のタイミングとちょうど一致したという感じですかね。音楽ライターになりたい!というよりは、「こういうスタンスの意見があるということを世の人に知らしめたい!」という気持ちのほうが強かった気がします。

こばなみ:
音楽ライターで思い出しましたが、音楽ライターになるための専門学校とかってあるの知ってます? どんなことを勉強するんだろう?って思いますが。

宇多丸:
そこで学べる知識やスキルっていうのも当然あるんだろうけど、さっきも言ったように「本当に使えるヤツかどうか」はまた別問題だからねぇ……。
あと言っとくけど、音楽ライターっていうのは、ハンパじゃなくお金にならない仕事ですよ!

とにかく、本当に向いてる人っていうのは、その位置に自然と導かれてきたりするんだよなぁ、ふらふら~っと。
まぁ、A子さんにそんなこと言っても始まらないだろうから……。
とりあえず、途中で違うと思ったらやめたっていいんだから、まずは、ちょっとでもモチベーションがあるほうに行ってみればいいと思うよ。

以前のプールの話じゃないけど、どんな職場に入ったって、特に最初のうちは、必ずキツい時期というのを経ないといけないわけで。
だったら、少しでも自分がやりたいこと、嫌じゃないことのほうが、まだ我慢もできるじゃない?

こばなみ:
「あ、違う」って気づいたら、方向転換すればいいと思いますし。最初から失敗しない方法を選ぶよりは、失敗してもいいやってくらいの気持ちで臨んだほうが楽かも。

宇多丸:
うちのMummy-Dだって、早稲田の政経を出てから、桑沢デザイン研究所に勉強して入り直して、一時はデザイナーで食っていこうとしてたんだから。そうやって道を選び直してる人って、意外といっぱいいるもんですよ。

ただね……。
職場選びに関して、最後にひとつ、とても大事な真実を伝えておくならば。

幸せな、充実した労働生活が送れるかどうかは、
「なんの仕事をするか」よりも、
「誰と仕事をするか」にかかっている!
つまり「職種」よりも、実はそこにいる「メンツ」のほうがはるかに重要だったりするもんです。

で、こればっかりは完全に運の領域なんだけど、その運を呼び込みやすくするのも、やっぱり仕事上の努力だったりするので……、とにかく頑張ってみるしかないってことです!


結論:
やりたいことがあったら
理屈を超えて飛び込んでしまうのも手。
やってみた後はいかようにも方向転換できるのだから。


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2013年12月7日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
こちら


女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。


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