男性の性欲が怖いので彼氏は諦めていましたが、性的なことなしでお付き合いをしているカップルに出会い……。嫉妬してしまう自分は歪んでいますか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室204】
✳️今週のお悩み✳️
恋愛関係のお悩み相談が多い中、私の悩みは特殊かもしれませんが、読んでいただけるとうれしいです。私は過去のトラウマから男性の性欲が怖くなりました。一方で彼氏が欲しいという気持ちもまだ残っているのですが、男性の性欲を拒絶する以上、それは諦めるしかないと自分に言い聞かせています。そんな自分と同じような経験があり「セックスを一生したくない」という考えの女性と先日お話をしたのですが、その人にはお付き合いをしている男性がいました。彼女は「付き合ってから打ち明けて、理解してもらった」と説明してくれました。その場では何も言いませんでしたが、私はそれを聞いてモヤモヤしました。恋愛関係でこんなにも大切なことを、どうして付き合ってから言うのだろうと思いました。私はこういう人間なので男性との交流は自然と避けていますが、自分ならもし親密になったとしても、お付き合いをする前に本筋には触れずに伝えようと一応決めています。ですので、その女性の彼氏も、本当はしたいのに彼女に嫌われたくない一心で、理解と言うより我慢をしているだけなんじゃないか……とか、人のことなのにグダグダと考えてしまいます。正直私は「性欲は受け付けないけど愛してほしい」と男性に言える彼女を図々しいと思ってしまいました。そして一生したくないと言っても愛してくれる人と出会えた彼女に、明らかに嫉妬しています。そんな自分にイラつきます。こんな考え方をする私はやっぱり極端で、ズレているでしょうか? 誰にも相談したことがなく、一人で悩んでいるうちに歪んでしまっているかもしれないと思い、ご相談しました。
(きっと石頭・26歳・大阪府)
宇多丸:
きっと石頭さんが負ってしまったというトラウマの原因は、この文面からはわかりませんけど、さぞかし辛い思いをされたのでしょうね。
部外者の僕らとしては、どうにかその傷が癒えるようお祈りするばかりですが……、ひとつの手として、プロによるカウンセリング、心理療法が有効な場合っていうのも普通にありますよ、というのは一応言っておきますね。
前も言ったかもですけど、実際僕の知人でも、いったんちゃんとカウンセラーにかかってみたら、長年心にわだかまっていたものの根本原因が解きほぐされて、一気に気持ちが楽になったっていう人、いたりしますんで。もっと根っこから問題をなんとかしたいのなら、やっぱそっちに行くべきかもしれないですけど。
とりあえず、きっと石頭さんは、完全に男性恐怖症になってしまったというわけでもなく……、パートナーとしての異性を求める気持ちは全然あるんだけど、性交渉を拒絶するからにはそうもゆかないだろう、と考えてらっしゃるようなんですが。
いやいや、そんな風に決めつけることも別になくない?と僕は思いますけど。
だって、たとえ最初のうちはどんだけヤリまくってたとしても、次第にセックスレスになってくカップルや夫婦なんて、そっこらじゅうにザラにいるわけでしょう?
もちろん、それが原因で仲が険悪になってくようなところもいっぱいあるだろうけど、あくまでそれはそれとして、パートナーとしては円満な関係を維持してるっていう人たちだって、それ以上にたくさんいるはず、というか、むしろそっちのが標準的だったりするくらいじゃない?と思うんですよね。
加えて、もともと他人と性的な行為をすること自体が苦手、っていうような人も、男女問わず一定量は必ずいるわけで。この連載でもたまに出てきたよね? キスが嫌いな男性、とかさ。
つまり、誰かとパートナーシップを結ぶにあたって、性的なことのプライオリティって、少なくとも「誰にとっても絶対的に高いもの」とはまったく限らないでしょ、ってことですよ。
セックスしないけど仲はメチャクチャいいカップルとか、とりたてて珍しくもないよ!
こばなみ:
たしかにそう言われると、きっと石頭さんは、付き合う=セックスする、しないわけない、と思い込んじゃってるところがあるのかもですね。
宇多丸:
きっと石頭さんは、トラウマがあるくらいだから、オスというのは常に強い性欲をもてあましているものだ、というようなイメージが根深くすり込まれてしまったのかもしれないけど……、実際には、男だっていろいろいるから。「セックスとか、そこまで優先順位高くないっス」っていう男性も、特にいまどきはそれほどレアケースってわけでもないと思いますよ。
「草食系男子」っていう言葉はいかにもメディアが作ったものっぽい一面性が強くて好きじゃないんだけど、それでもやっぱり、日本社会全体で見て、性的なものの価値というかありがたみが、相対的に下落してゆくいっぽうなのは間違いないんじゃないんですかね。
マスターベーションはするけどセックスはめんどくさい、っていう人もこれからますます増えてくだろうし。
なのでまずは、「性的関係を結べない=パートナーシップを結べない」とは別に限らないですよ、そんな悲壮な決めつけをすることもないですよ、ということははっきり断言しておきたいと思います。
もちろん、きっと石頭さんとちょうど合うような性的テンションの持ち主とうまく出会えるかどうか、そのうえでその人と相思相愛になれるかどうか、なんてことは現時点ではなにひとつわからないわけだけど、そんなこと言ったら、どんな出会いだって確率問題であることに変わりはないんだからさ。
で、ある意味ひと足早くその理想をかなえてしまったとも言えるお友だちのことを、いろいろとおっしゃってるわけですけど。
たしかにね、「付き合うことになってから、事後的に重大な条件を提示するというのは、フェアじゃないんじゃないか」というモヤモヤに関しては、まぁ理屈として理解できる部分がなくもないですけど。
ただ別に、籍入れちゃったとか、後戻りがそこまでしづらいところまで行っちゃってから、というわけでもないからねぇ……、その友人カップルも、肉体関係はないわけだから、「付き合うことになった」っていうのも、要は「改めて互いに好意を抱いているという確認をした」っていうような段階でしょ。いずれにせよいつかは「実は……」を切り出さなきゃいけないんだとしたら、意外とこのタイミング以外なくない?って気すらするくらいですけど。
そんでもって、さっきから言ってるように、「性欲は受け付けないけど愛してほしい」も、別に図々しくはないんじゃないの、と僕は思う。っていうか、それこそきっと石頭さんが実は望んでいることなんだろうしさ。
その方向で真に図々しいのがあるとしたら、「私は愛さないけど愛して欲しい」ってやつでしょ。悲しいかなけっこういるタイプだと思いますけど(笑)。
「本当はしたいのに彼女に嫌われたくない一心で、理解と言うより我慢をしているだけなんじゃないか」っていうのもねぇ……、懸念としてはわかるけど、そもそも「理解」と「我慢」って、そんなに明白に切り分けられるようなもの?って気がするし。
「相手が望むようにしたい、嫌なことはしない」「自分のやりたいことを一方的に押し通したりしない」って、性の問題に限らず、単にパートナーに対して取るべき基本的態度ってだけでしょ。
まして当人同士がそれでいいって言ってるんだから、それ以上周りがとやかく言うのもどうなのよ、っていうのもあるし。
ということで、お友だちになにかとモヤってしまうのは、きっと石頭さんご自身も自覚してる通り、概ね嫉妬というか、彼女たちを否定することで自分の境遇を肯定したいっていうような、そんな心理から来てるものということでまず間違いないと思いますよ。
そして、そういう感情がわいてきてしまうこと自体は、人間だもの、まぁ無理からぬ部分もある。
でもホントはさ、その友人カップルは、「性的なこと抜きに付き合える男性は実在する!」(笑)ってことを目の前で証明してくれたようなもんなんだから、きっと石頭さんにとっての、ある種希望の星的存在でもあるはずなんですけどね。
こばなみ:
ほんと、友だちがそういう男性がいるってことを実証してくれたのはいいことのはずですよね。
宇多丸:
もちろん、そのカップルだっていずれ別れたりするかもしれないけどさ。
だからって、「ホラ! やっぱりセックス抜きのカップルなんてうまくいかないんだ!」とか決めつけても、なんの意味もないから。だって、どんなカップルだって、別れる可能性はそりゃあるんだから(笑)。てか、たいていのカップルは「ほぼ必ず、いつか別れる」んだよ!
あとはたとえば、「彼女とヤれてないぶん、よそで発散してるんじゃないか」っていうような疑念を抱いたとしても……、僕は、そんなこといちいち追求してどうするんだよ、とはそもそも思うけど……、それだってやっぱ、「どんなカップルでも同じこと」でしかない問題じゃん。
浮気してるかもしれない、風俗行ってるかもしれない、AV観てるかもしれない……って、最後のひとつくらい許してやれよって話だけど(笑)。むしろ、「セックスでつなぎとめる」みたいな発想のほうがよっぽど危なっかしいよ。
極端なこと言えばさ、セックスなんて、特別な愛情を抱いてない対象とだって、生理的不快感さえなければ、全然できちゃうものじゃないですか。
もちろん相思相愛同士でそこが合えば最高だろうけど、あくまでそれは「色んな意味で相性のいい相手とのセックスは最高」ということであって、だからって「セックスのない愛情関係は物足りない」とか、まして「成り立たない」ということには、必ずしもならないと思うんですよね。
愛と性は不可分なもの、みたいな考え方って、どっちかと言うと「善きこと」的に世の中に流通してるけど、それって実は、大半のカップルをほぼ確実に不幸にする思想なんじゃないかとすら思いますよ。
年月が経つにつれ、どっちかの性的テンションが下がってくるなんて、当たり前にあることだし。
だったら、最初からそのファクターが希薄な、ほかのもっと目減りしづらい部分での絆が濃いカップルのほうが、安定的に長続きするかもしれないくらいですよ。
こばなみ:
なんか私はいいなって思いましたけどね。性的なことなしでつながりが強いっていうのも……。
宇多丸:
ま、単にお互いに対する執着が薄い、ってだけで終わるパターンも考えられるけど(笑)。
ただ、こればっかりはご縁というか、何度も言うけど、どんな出会いであれ結局確率の問題という点では同じことだから……、なんにせよ、わざわざ先回りして悲観的な決めつけばっかりしてたら、出会いの確率が下がるいっぽうだということだけはたしかですよね。
きっと石頭さんも、それこそ「こんな男性もいるんだ!」っていうような、嫌悪感をもよおさないで済むような人と知り合うことができれば、だいぶ気持ちもほぐれてきたりするかもしれないじゃないですか。
もちろん、そんなにうまく行くとは限らないっていう不確定性とか、そこに持ってくまでの労力とかを考えると、つい不安になったり気が重くなってしまう、というのもわかるんですが。
でも、それってある意味、どんな人だって最初は抱えているはずの悩みですから。「本当の自分」をさらけ出すと他者に受け入れてもらえないんじゃないか、という不安や恐怖、それと向き合うめんどくささ。
いっそそういう部分に関してはハナから「投げて」しまうというのもひとつの知恵ではあるかもしれないけど……、きっと石頭さんはやっぱりちょっと、そこまで諦めきれてもいないわけじゃないですか、明らかに。
だとしたら、自分のなかだけでグルグルグルグル、モヤモヤモヤモヤし続けるサイクルから、ここらでいったん抜け出す方向でがんばってみるのもいいんじゃないですかね、やっぱ。
最初に言ったように一度ちゃんとカウンセリングを受けてみるもよし、少しだけ勇気を出して、まずはできるだけオープンマインドで男性と接するよう心がけてみるもよし……、とにかく、きっと石頭さんの気持ちを尊重したうえでちゃんと愛してくれるっていう男の人も、絶対いるはいますから。
こばなみ:
そうですね。諦めたり決めつけたりしなければ、可能性はなくなりませんもんね。応援しております!
【今週のお絵描き】
*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年8月12日に公開したものを再編集し、掲載しています。