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叱ると必要以上に凹む部下。私たちの時代は叱られて伸びるというのが多かったのに……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室260】


✳️今週のお悩み✳️
部下のことで悩みです。叱ると必要以上に凹んでしまい、困ります。私たちの時代は、叱られて伸びるというのが多かったですが、いまはそうではないのでしょうか。凹むと業務が滞り、しかもあの先輩は怖いみたいなレッテルが貼られ、本当に困ります。私は仕事を円滑に進めたいだけなのに……。お二人はそういうことはありますか? そのときにどう対処していますでしょうか。教えていただけますと幸いです。

(よっこらしょっと・37歳・東京都)


宇多丸:
「『今どきの若いもんは私たちの時代と違って~』っていうような物言いは、古代エジプトの壁画にも書いてある」とかって、実は出典がはっきりしないネタみたいだけど、まぁよく聞く話ですよね。
それくらい、どんな時代でも普遍的に年配者が抱きやすい不満だってことでしょうけど。

ちなみに、これもどこかで読んだんですけど、「教育中の部下や後輩に言っちゃいけないフレーズ一位」がやっぱり、まさに「自分たちの時代はこうだったのに」でしたよ。
たしかに、若い世代からしてみりゃ、「そんなこと言われても、現にその時代に生きてないんだから仕方ないんですけど……」としか反応しようがないもんねぇ。

ひょっとしたら、よっこらしょっとさんたちだって、実はその先輩世代からは同じように困ったもんだって思われてて、それでもなんとか通じるような教え方伝え方を根気よく模索してもらって今に至る、というだけかもしれないですよ?

まぁ仮に、やはり世代差というのは厳然とあるのだとしても……、そこを踏まえて、じゃあどうすればうまく知識や技術の伝承ができるのか、を考えてゆかないと、「教育」って成り立たないでしょ。
「それぞれ立場や能力が違う、なにも知らない、わかってない人に、それでもなんとか一定ラインまでは知って、わかってもらう」のが教育なんだからさ。

たとえば以前の教育メソッドが通じなくなったからと言って、教わるやつらの世代が悪い、ってことで済ませちゃうのは、本末転倒というか、筋違いだと思うんですよ。

こばなみ:
人に指示をしたときに、あんまり考えずにそのままやってんだろうな……と思うことがあるんですけど、それってたどっていくと、目的が伝わってないんですよね。なので、伝えて理解しあって歩み寄らないと解決しないなって……。

宇多丸:
叱るとすぐ凹んで困るという件も、ひょっとしたら教える側の語調に、思うように伝達ができてないことへのいらだちや怒気が含まれていたから、かもしれないじゃない? 
部下にしてみたら「わかるように教えてくれませんか」というだけのことなのに、「私たちの頃はこれでわかったんだけど!」で怒られるって、そりゃ理不尽に感じてしまっても仕方ないかもしれませんよ。

これまたひょっとしたらだけど、よっこらしょっとさんの先輩や上司だって、よっこらしょっとさんにはそうしてたというだけで、実は人に合わせて言い方やり方を変えていた、という可能性だって全然ある。

学校教育に置きかえて考えてみるとわかりやすいかもだけど、ある課題に対して、一を聞いて十を知る的に飲み込みが早い生徒から、理解にそれなりの時間がかかる生徒まで、十人十色なわけじゃん、本来は。
それって、本質的な「頭の良さ」とはまたまったく別の問題だったりするから。
なのに、伝達がうまく行かない子を放置したり、むやみに叱って自尊心を低めるばかりじゃ、悪循環になるだけなんで。

……とまぁ、さっきから僕はきれいごとばかり言っちゃってますけども。
学校の先生みたいに教えること自体が仕事ってわけでもないのに、通常の業務をこなしながらの「教育係」は、そこまできめ細かく気を使ってもいられないもんね。

ただとりあえず、前にも話したけど、「1.指導する 2.注意する 3.叱る」という段階を飛ばして、いきなり「叱る」に行っちゃってないか、ちょっと気をつけるくらいはできるんじゃないかと。

こばなみ:
「叱る」という結論にいくのが早すぎるんですかね。

宇多丸:
「叱る」にはやっぱり、若干の怒りニュアンスが含まれてるじゃん。
そうすると言われる側も、どうしたって素直に聞きづらくなっちゃうもんでしょ、人情として。

その意味で僕は、「叱られて伸びる」っていうのにも懐疑的で。
これも前に言ったけど、それが有効なのはあくまで、成功体験が豊富で、ベースの自信がしっかり固まっている対象に限られるんじゃないかなぁ。
どっちかっていうと、上級者向けのやり方じゃない?
 最初から頭ごなしに叱られてばっかりの人が、伸びるわけないと僕は思うけど……、できなくて当たり前の段階なのに。

まぁたしかに、こっちが何をどう言おうが、そもそもあまりにも聞く耳を持たなさすぎて、伸びそうな余地がまったく見えない、みたいな人も世の中にはいるけどね。
ただ、そこまで行っちゃうのはもう、あくまでそういう極端な個人の問題であって、世代全体のせいにして何か溜飲を下げた気になるのは、やはりちょっと八つ当たりっぽい感じがしちゃいますよ。

こばなみ:
ゆとり世代がダメだっていって、その世代の人が全部ダメかって言うとそんなことは絶対ないですしね。

宇多丸:
だし、そういうレッテルを貼られた側にしてみりゃ、「生まれる時期も環境も選べないんですけど……、我々はじゃあ、どうすれば?」って、反発を余計に感じるしかないじゃん。
世代差があるっていうなら、それに合わせたやり方をこちらが考えないと。

たとえて言うなら、前はスムースに使えてたアプリケーションが、OSが変わったらうまく動かなくなっちゃったとして、ムカついたからってコンピュータを蹴飛ばしてもダメなわけじゃん?(笑)
 新しいOSに合わせて、アプリケーションもアップデートするなり、入れ替えるなりしないと、というだけの話で。

こばなみ:
ただ、どうしても忙しいとイライラしちゃうのもわかりますけどね。だからこそ、深呼吸でもして、がんばってほしい!

宇多丸:
あと、ひとつ思うのは、こういう「教育係」ならではの悩みというもの自体、人を次の段階へと成長させるための、これまた一種の「教育」的プロセスであるという面も、たぶんだけど確実にあるんじゃないかと思うんですよね。
下の世代への警鐘や伝達がすんなり行かないのは当たり前。むしろ、それをどうするか自分なりに試行錯誤したり、年長者としての責任を自覚したりすること自体が、その人をさらにひとまわり大きくなるためのステップでもある、というような。
そして今は、よっこらしょっとさんにその順番が回ってきた、と。

なので、ここはやはり投げずに、もうひと踏ん張りしてみるべき局面ではないでしょうか。
いずれその部下たちに心から感謝される日がくる、と信じて……。

で、本気でどうしていいかわからなくなったら、ご自分が若手時代に教育係だった方に話を聞く、というのがいいんじゃないかと。
そのものズバリの解答が得られなくとも、気はかなり楽になったりするんじゃないかと思いますよ。




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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年12月1日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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