私は恋愛感情を抱いたことがありません。誰のことも愛したことがないのが強いコンプレックスです。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室205】
✳️今週のお悩み✳️
はじめまして、最近このコラムの存在を知り、更新のたびに楽しんで読ませていただいています! 今回ここで打ち明けたいのが、わたしがまったく恋愛経験がないこと、そしてそれをコンプレックスにしてることです。私は誰かに恋愛感情を抱いたことがありません。恋人がいたこともありません。恋人がいたことがないというより、誰のことも愛したことがないのが強いコンプレックスです。自分が無性愛者なのか?と考えたこともありましたが、そうではなく、単に経験がないだけで本当は人一倍そういうことに興味があるんだと思います。片思いでも両思いでも、自分以外の誰かを愛する人を見るとすごく羨ましくなります。学生時代から誰かと両思いになった、フラれたと盛り上がる友人が羨ましく、結婚していく周囲を見て自分は誰かに愛されるどころか誰も愛したことがないなあ、とものすごく寂しい気持ちになります。とはいえ今までどおり通り人と関わっててもこのままだろうし、現にチャンスがあっても、相手のアプローチに気後れして早々と断ってしまいます。周囲の人に「もったいない、もう一生現れないかもよ」と呆れられて萎縮するばかりです。鬱屈した気持ちを切り替えて自分のコンプレックスを解消したいです。
(フセッセイ・24歳・東京都)
宇多丸:
実は、この連載にみなさんから送っていただいている相談のなかで、最近けっこう多いのが、まさにこういう「誰とも付き合ったことがない」「恋愛経験がない」っていうやつなんですよね。
いつかはちゃんとお答えしないといけないなぁとは思いつつも……、やっぱ、とは言えそれぞれ、事情からなにから個々でまったく違うものでもあるからさ。十把ひとからげにまとめて回答するわけにもいかないし。
ということで、さしあたって今回は、「恋愛感情自体を抱いたことがない」という、ちょっと極端なこのパターンから取り上げてみたいと思います。
まぁ、そこをコンプレックスに感じるのをやめられればとりあえず解決、ということではあるけど。
こばなみ:
まぁたしかに、絶対に誰かと恋をしてお付き合いしなきゃいけない、ってわけじゃないですもんね。
宇多丸:
つっても、そう簡単にやめようと思ってやめられるもんでもないからねぇ、思考の癖って。
僕は逆に、フセッセイさんの相談から、「“人を好きになる”って、そもそもどういう心理の動きなんだっけ?」って、すごく本質的な部分から改めて考えさせられちゃいましたね。 見た目から惹かれることもあれば、人柄で好きになることもあるし……、でもなんにせよ、そうやって自分が魅力や価値を見いだした人、人としての輝きを感じた相手から、言ってみれば「照らされ返したい」というか、それによって自分もまた価値ある人間なんだと実感したい、みたいな、まぁ概ねそんな感じじゃない? 気持ちの在り方としては。 だからこそ、フラれると、自分の存在が全否定されたような気分にもなるっていう。
こばなみ:
私なんて……って、ペシャンコになりますよ……(泣)。
宇多丸:
とにかくその意味で、 人を好きになるためには、とりあえず、「他者の長所に反応する感覚」が必要とは言えるかもですが。
フセッセイさんは「単に経験がないだけで本当は人一倍そういうことに興味があるんだと思います」っておっしゃってますけど、それはあくまで、恋愛という「状態」に対するぼんやりした憧れであって、他人に具体的な関心を持ちたがっているわけでは、いまのところやっぱりないもんね。
こばなみ:
だから友だちが盛り上がってるのを羨ましがってるのか。
宇多丸:
でもこれ、よく言う「恋に恋している」段階って考えると、フセッセイさんも、別にそこまで珍しいこと言ってるわけじゃないのかもしれませんよね。
イイ歳した大人で、恋愛経験それなりにある風でも、まだまだ当たり前のように恋愛「状態」や結婚「状態」を幸せのゴールみたいに考えてる人、全然いっぱいいるでしょ。そんなわけねぇだろ!ってことなんだけどさ。
フセッセイさんも、「単に経験がないだけ」っておっしゃってるけど、ホントその通りなんじゃない?
「自分も照らされ返したいと思うほど輝きを感じる他者」、要は「好きになれる人」ってことだけど、なにはともあれそういう具体的な存在がいないと始まらない話ですからね。
そこ抜きであーだこーだ言っても、それは恋愛「状態」への抽象的な憧れの域を出ないのも当たり前だし。
こばなみ:
いまはこれっていう人もいないんですもんね。悩んでも仕方ないのかな。
宇多丸:
まだ24歳なんだし、本当に単純に「まだそういう人と出会ってないだけ」って考え方をしておくこともできるよね、一応。
こばなみ:
周囲の人の「もったいない、もう一生現れないかもよ」というアドバイスもありましたけど。
宇多丸:
これ、最初読んだときは余計なお世話だよ!って思っちゃったけど、ひょっとしたら、さっきの「他者の長所に反応する感覚」じゃないけど、「目の前の人のことをちゃんと見てるの?」っていうことが言いたかったのかもしれないよね。
抽象的な概念としての「恋愛」なんかじゃなくて、あくまで具体的な相手との「関係」に、しっかり向き合っているのか?
じゃないと結局、一生誰とも本当の意味では付き合えないよ?……っていうような意味で言ってたのかもしれない。
実際フセッセイさんは、アプローチしてくれたらしいその人に、恋愛感情とはいかないまでも、好意込みの関心とか興味とか、とにかく積極的な気持ちみたいなものは、いっさいと言っていいほど示してないもんね。 まぁ、こればっかりは好みもあるんで、ピンとこなかったんだったら仕方ないし、そこに関して必要以上に悩んでも意味ないとは思うけど。 ただ、一般論で言うと、他人に対する興味や関心のレベルが低い人は、恋に落ちる可能性もまた相応に低い、ということは考えられるかもしれない。 でもまぁとにかく、少なくともいまのところは、好きになれる人が現にいないんじゃしょうがないし。
こばなみ:
だったら、あんまり焦らなくてもいいんじゃないですかね?
宇多丸:
僕もそう思う。
そもそも、恋愛「状態」にいない人は不幸だ、みたいな考え方自体が間違ってるんだから。
そこで無理して、その「状態」を作るだけのためにお相手を探したりするのは、みなさんとかくやりがちですけど、ホント不毛だと思うし、ほぼ間違いなく不幸な結末を招くと思うんで。
シンデレラで言えば、誰も履いたことのないガラスの靴を先に作っておいて、「これに合う人いますかー?」って聞いてまわってるようなもんだよ! しかも、大半の人はまず、「そもそもなんで自分がそれ履かなきゃならないの? アンタ何様だよ!」って話になるから(笑)。
こばなみ:
でも結婚条件とかなんて、そうしてることが多いですよね。好きなタイプは?とかもそう。あれ聞かれると本当に困る。だから私もう、好きなタイプは「働いてる人です」としか言ってませんよ……。
宇多丸:
「靴のサイズ何センチの人が好き?」って聞かれてるようなもんだもんね。
好きになった人の靴のサイズがなんぼか、には意味あっても、靴のサイズがなんぼかってことで人を好きになるわけではないでしょ、っていうことだよね。
ちなみに、「私のことを好きな人が好き」っていう、それはそれでごもっともな考え方もありますけど、あんまりそっちばっか追求してると、さっきからの「輝きに照らされ返したい」って話で言うと、「鏡の中にしか光を見いだせない」、つまり結局は自分にしか興味がない人、ってことにもなってゆきかねないので……、まぁ、ナルシシズムもほどほどに、ってことですね。
それに対してさ、やっぱ、他人の長所を見いだす能力に長けてる人って、間違いなくその人自身も好かれやすいじゃん?
こばなみ:
逆に嫌なところばかり見つける人、いますしね。話してて萎える……。
宇多丸:
そういうやつに限って自慢話が多かったりね。
愛されるよりも愛したい真剣(マジ)で!
フセッセイさんも、さしあたって恋愛「状態」にないことを引け目に思う必要なんかはまったくないんだけども、それとは別に、もし仮に、なかなか好きな人ができないという性分のベースとして、「他者への無関心」というのがちょっとでも思い当たるのならば、そこだけはやっぱ、意識的に改善してく余地がある部分なのかもしれないですよね。 それって、恋愛に限らず、友人でも仕事仲間でもいいけど、これから人とかかわってゆくとき全般に影響してくる話だからさ。 少なくとも、「目の前にいる人としっかり向き合い、美点を見いだすよう心がける」って、愛だ恋だ以前に、人としての心がまえとして、絶対にマイナスにはならないものでしょ。
まぁ、僕みたいな、人付き合いも面倒見も悪いやつに言われたくないよ!って話かもですけど……(笑)。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年8月19日に公開したものを再編集し、掲載しています。