老後2,000万円必要と言いますが、貯金も少ないし、給料は上がらないし、パートナーもいないし、八方塞がりな気がします……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室297】
✳️今週のお悩み✳️
老後2,000万円必要と言いますが、そのために今やりたいことを我慢するのは不毛な気がしてなりません。とはいえ、貯金が少ないのは怖くもあります。しかし、このまま働いていても給料がすごい上がるわけでもないし、一緒に生きていく相手(彼氏や旦那)もいません。予定も今のところはなし!
これでは、八方塞がりな気がするのですが、どうしたらいいでしょうか。
(コロ助・38歳・東京都)
宇多丸:
でもホント、2,000万円だろうがなんだろうが、とにかく生きてくのに最低限必要なお金も足りない老人ばっかりの国になっちゃったら、どうなるんですかね。
まさか全員のたれ死にしろってこと? ひとりたりともそうさせちゃダメ、って憲法に書いてあるんだけど……。
藤子・F・不二雄の短編に『定年退食』というのがありますけど、あの世界がシャレにならないくらい現実に近づいちゃってる感じがしますね。
さんざん税金も年金も払わされてきたのに、国ってなんのためにあるの?って気にもなってきちゃいますよね。
こばなみ:
2,000万円貯めるには?というのを計算したんですけど、60歳まで働くとして貯金が今ゼロとすると、毎月76,000円くらい貯金しないといけない。
む、難しいですよね……。
宇多丸:
だし、そうやって76,000円を貯めていったとしても、将来、日本円の価値や物価がどうなってるか、わからないからね。
こばなみ:
年金も期待できないですしね……。
宇多丸:
ちなみに2,000万円問題も、後からいや大丈夫です的な数字を出してきてたけど、その前提にしている条件が非現実なくらい楽観的で……、その前の、皆さんご存知データ受け取り拒否っていう、語るに落ちるの典型みたいな一件と合わせて、なんかもう、国民に対しては「とりあえずおとなしくしてて」としか言えないんだろうなって感じだよね、我が政府は。
こばなみ:
はぁ~。あと、コロ助さんの文面で「一緒に生きていく相手(彼氏や旦那)もいません」というのがありますけど、それもあまり関係ない気もしますね。
宇多丸:
たとえばパートナーや子どもが病気とか怪我しちゃって余計にお金がかかるとか、普通にあるわけだから。
子どもが成人したって、助けになるとは限らないですしね。
当然、家族がいるなりのリスクもありますよ。
なんならむしろこれからの時代、ひとりが身軽でいいくらいかもしれないよ?
なんにせよ間違いないのは、これってコロ助さんだけの問題じゃないよね。
こばなみ:
そうですよねぇ。でも私、お金を貯めるのをやめてるってわけではないけど、老後のためとかは思ってなくて。もちろん健康で長生きしたいけど、明日なにがあるかわからないなかで、節約とかするより、使いたいときに使ったほうがいい気がして。
宇多丸:
将来のための貯金とかっていうのが、さっき言ったみたいに当てにならない感じがしちゃうのは、僕もわかりますよ。
ハイパーインフレでも起きたらおしまいだしね。
ただ、たとえばいますぐ仕事を休んでも1年は余裕で暮らせるとか、しようと思えばすぐ引っ越しできるとか、そういうある種の自由を確保するための蓄え、というのはやっぱり、ないよりはあったほうがいいんじゃないか、という気もしますけど。
こばなみ:
お金の積立方法だったら、ファイナンシャルプランナーとかに聞いたらいいかと思いますけど、これって気の持ちようでもある気もするんですよね。
私はもう、健康でいることしかないと思ってて。健康でいたら働けるから!
宇多丸:
いや、そうおっしゃいますけどね、若いうちはまだいいけど、歳をとっても健康でいるためにこそ、お金ってかかるわけでしょう。
治療のために仕事をしばらく休んでも大丈夫、とか、より高度な医療を受ける選択肢が増える、とかさ。
こばなみ:
前に言ってた、エスカレーターに乗らないで階段を使うとか、わりと実践してるんですよ。足腰弱ったらいかんと思って。
宇多丸:
でもそれが、本当に健康につながるかもわからないからね。
こばなみ:
そっか……。健康オタクが早く亡くなっちゃうとかもありますもんねぇ。
宇多丸:
……たださ、日本が景気良くて調子こきまくってたように記憶されている時代だって、映像とか見ると、みんな今よりはるかに貧しそうな暮らしぶりだったりするじゃない?
だからまぁ、気の持ちようだって言われりゃ、それもそうなのかもしれないけど。
日本以外に軸足移すにしたって、常にオールオッケーな国、なんてどこにもないわけだしね。
全人類のこれまで歴史のなかでは、いまの日本はそれでもまだ、かなーり上位で暮らしやすいほうだというのも、やはり間違いないでしょうからね。できるだけ下見てこう!(笑)
だからこれ、子どもとかいたらまた違うんだろうけど、コロ助さんのいまの状況なら、あんまり先のことを考えてストレスばかり溜めるのも、明らかに良くないんじゃないですかね。
少なくとも僕は、考えても無駄なことは考えない、という方針でやってきてますね。
未来の予測なんて、その最たるものですよ。
こばなみ:
変わりますもんね。天変地異も確実に起こるだろうし。
3年後くらいまで考えとけばいい?
宇多丸:
いや~、3年もちょっと長いんじゃない?
とりあえず1年、何があろうと対処できる態勢を整えとく……、少なくとも、そこをさしあたっての目標にすればいいんじゃないのかな。
そのサバイブ資金としての貯蓄、ということなら、だいぶ話が現実的になるぶん、やる気にもなってこないですかね。
要は、悲観と楽観をバランスよく持ち合わせる、ってことだと思うんですよね。
悲観ばっかりしてるとつらいし、楽観ばかりしてるとバカになる。
こばなみ:
たしかに~! どっちかだけにならないことですね。それって何にでも言えますね。
宇多丸:
国力と個々の人々の暮らしが満たされているかどうかは、また別問題だったりもしますからね。
バブル期日本だってさ、地上げのための威力行使が公然と横行してたり、全然ロクなもんじゃなかったよ!
こばなみ:
ちなみに、『日経ウーマン』とか読むと不安になるって声も聞きますよね。メディアもいろいろ煽ってる感もあるし……。
宇多丸:
どこにいてどうすれば大丈夫、っていう正解があるわけでもないんで。
何があろうと、結局は誰だってその場その場で対応してくしかないんだから、最低限、そのためのたくましさや図々しささえあればいいよ。
少なくとも、何も起こんないうちから八方塞がりだって頭抱えながら生きてくだけなんて、バカバカしいですよ。
こばなみ:
ですね。そう思えば、少しは気が楽になりますね。
宇多丸:
どうしても不安なようなら、さっき言ったように、「とりあえず1年間は何があってもサバイブできる態勢」の確保、目指してみてはどうでしょう。
それを毎年キープしてゆくことができればいいわけですから、原理的には……、大丈夫、行ける行ける!
仮にいつか、ホントにすべてが立ちゆかなくなるときが来たとして……、そのときはたぶん、日本全体が一緒でしょうからね。みんなで最後のひと暴れでもしましょうよ(笑)。
もちろん、そんなことになる前に、仮にも主権者として、打てる手は打っておきたいものですが……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年10月12日に公開したものを再編集し、掲載しています。