まわりの人がほぼ何も考えていないことに腹が立つ! もう少し柔軟性をもつ方法は?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室275】
✳️今週のお悩み✳️
いつも楽しく拝見しています。早速ですがもう少し柔軟性をもつ方法を知りたいです。私はまわりの人がほぼ何も考えていないことに腹が立つ癖があります。問題が起きた際に安易にまわりのせいにしたり、簡単に批判や不満を言いがちなのは、普段から受身で自分の選択に対する自覚が薄く、物事を深く考えていないのが原因であると考えているので不快になるのです。普段の生活のなかではいろんな方がいるしな、と固執しませんが、自分が他人、特に家族やパートナーなどから批判的態度をとられたり、喧嘩になった際、私はその選択をする際に自分の感情や周囲の状況などを含め割としっかりした理屈があるので、それを伝えることができますが、いざ批判や不満をぶつけて来る人間に様々に質問しても答えることができないか、自分の感情すら把握できていないという状況ですので妥協案すら出せませんし、発する言葉は矛盾だらけで考えていないことが伺え、質問したことで結果自分の思考の浅さに気づいた相手がプライドで逆ギレ。こうなると、もはやまともな話し合いは出来ないために、自分の意見やこれに関する質問はできず、クレーム処理的な対応しかできず、相手に迎合するだけのやり方しかなく、理不尽さを感じ悶々としてしまいます。相手を変えるのは難しいと思うので、自分の受け取り方や考え方を少し変えて柔軟性をもたせたいのですが、いい案がなかなか思いつきません。いいアイデアやご意見頂けると幸いです。宜しくお願い致します。
(マリモ・40歳・愛知県)
宇多丸:
これは要するに、主張の正しさというのは、決して感情のこじれを解消してはくれない……どころか、言っていることにスキがなければないほど、相手は感情的な逃げ場を断たれて、ますます逆上するしかなくなったりしがち、という、わりと普遍的なコミュニケーションの齟齬の問題じゃないですかね。
誰かを徹底的に論破してしまうと、なまじ表面上の答えが出きってしまっているぶん、その議論の周囲にしかし人間だから絶対まとわりついているはずの気持ち的なモヤモヤが、逆に解消されづらくなってしまう、という。 たぶんマリモさんも、頭がいいから、そのくらいのことはわかっちゃいるけど……って感じなんでしょうけど。
その手の事態を客観的に観測できる参考作品として、前にもこの連載で話題に出しましたけど、『レボリュショナリー・ロード/燃え尽きるまで』っていう、「倦怠夫婦もの」映画の傑作がありまして。
冒頭で、ディカプリオとケイト・ウィンスレット演じる夫婦が、激しい口論をするんですけど、そこで夫側が、いかにもこちらは冷静かつ論理的であると言わんばかりに、「いまキミが言ったことの間違いを、三つ挙げよう」みたいな論法を持ち出すわけです。 そして案の定というべきか、それがさらに妻の怒りと絶望に油を注ぐ。
そもそもなんで言い合いが始まったかと言えば、妻側からすると大変無神経な皮肉を、夫がドヤ顔で口にしだしたから……、それは同時に、結婚前はカッコよく見えていた彼のそういう「賢さ」が、今はただの偉そうな一言多さにしか思えなくなっている、ということでもあるんだけど。
とにかくひとつ言えるのは、夫側は知的優位を常にキープしてるつもりかもしれないけど、ちょっと俯瞰した視点で見ると、目先の子どもじみた勝ち負けにしか意識が向いていないせいで、本当は何よりも大事なはずのパートナーとの相互理解を台無しにしてしまっている、要は誰も得しないことになっちゃっている、という意味で、夫のほうが明らかに愚かなんですよね。 何が最優先すべき大目的なのかを、完全に見失っているわけだから。
まぁ正直、僕も特にもうちょい若いころは、しばしば陥っていた状態ですよ。 さっき言った「相手の主張の論理的穴を、箇条書きでピックアップ」的なのもぶっちゃけやっちゃったことあるし……。
こばなみ:
うへっ! そうなんですか!
宇多丸:
いやホント、絶対やっちゃダメなやつですよ。
前も言ったけど、今はもうそれ用の友達としかやってないです、議論。 同じ「競技」のルールと技術を共有している同士なら……的な感じ。 それにしたって引き際はありますよ。「あっ、これ以上は踏み込んでもただ険悪になるだけだから、この話題はこのくらいにしとこう」みたいのは。
こばなみ:
私は議論にやり込められる側になることが多いから、もう逃げたいし、ギャーピー言ったりします。まさにマリモさんの親しい人と同じですね。
宇多丸:
だからさ、こっち側は単に「も~、バカバカバカッ!」って感情的なわだかまりを吐き出しくてちょっと叩いただけ、のつもりなのに、もう片方は「えっ何、ボクシングやんの?」って(笑)、いきなり次元が異なる勝敗モードに入っちゃってる、みたいな感じだよね。
ボクシング側からするとそっちが始めたんだろ!なんだけど、こっちは別にどっちかが倒れるまで殴り合いたかったわけじゃないのに……っていうね。
こばなみ:
ごめんねごめんねって言ってるのに、議論を突き通し、負けを認めさせたりしますよね?
宇多丸:
それはやっぱり、あっちもそれなりに感情的になっている、ムカついているからでしょうけど。
なんにせよ、遺恨を残してもいいと思ってる相手なら別だけど、それこそ「家族やパートナー」は、個別案件の白黒よりも、言っちゃえば、「とにかく仲良くやる」ことこそが大目的なはずだからね。 そこで徹底論破は、明らかに賢明とは言えない。
理詰めで「こうでこうでキミが悪いよね」ってやって、「たしかにそうですね、私が間違ってました……好き!」って、なるかい!っていうね(笑)。
こばなみ:
なんない~(笑)。
にしても、ホントわかりますよ。ちょっと胸をたたきたいだけなのに、ボクシングになる展開! ほんと、それが怖いんですよ。
宇多丸:
こばなみの旦那さん、のほほん系かと思ってたけど。
こばなみ:
のほほんとはしてるけど、議論好きですよ。私が片付けないこととか、論破してきますよ。
宇多丸:
よっぽど散らかってて実害があるんでしょ!(笑)
何度言っても直んないなら、ガチでやってやろうか!みたいな感じ?
こばなみ:
そうそう。だからごめんごめん今やる!って言ってるけど、まぁやらないじゃないですか(苦笑)。で、そうすると、そこからの話が長い!
まぁ、私もやらないのが悪いんですけどね。
宇多丸:
やれよ!(笑)
まぁとにかく、ジェーン・スーさんも言ってましたよ、「論破は何も生まない」って。
完全ノックアウトが有効なのは、学会と国会と法廷くらい! 要は、ぶっ倒してもいい場合ですよ。絶対的に、不可逆的に勝ってまんまでいいとき、だけですよね。
マリモさんはきっと合理的な方だから、「その場の大目的は何か」を把握したうえで、最大利益が出るよう戦略的に振る舞う、みたいな考え方は、実はわりと受け入れやすいんじゃないかと思うんですけど。 「家族やパートナー」が本気で憎いとかじゃない限り、それは理不尽な迎合とかじゃなくて、最も近い他者と共存するための、知恵なんだと僕は思いますよ。 ま、マジで自戒を込めて、なんですけど……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年4月6日に公開したものを再編集し、掲載しています。