性格が悪いから、避けられたり嫌な顔をされたり……、研究室での人間関係が辛いです。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室282】
✳️今週のお悩み✳️
研究室での人間関係に悩んでいます。先輩達から露骨に避けられたり、目の前で陰口を言われたり、少しでも発言すると嫌な顔をされるのが辛いです。
私は小さい頃から生意気だとか口だけは達者だと言われるほど性格が悪く、本当は馬鹿なくせに馬鹿にされないように虚勢を張ってしまい人に嫌なことを言ってしまう駄目な人間でした。人目を気にしていることを表に出したり卑屈になってはいけないと思い、また自分でも気にしすぎないように明るく振舞おうと努力してきたのですが、やはりまた最近、人を馬鹿にしているとか逆に頭を使ってないとか、面倒臭いと言われてしまいました。元々自己中心的な性格なので自己主張を押し付けてしまったり上の立場の人にさえ注意してしまったり、手先が不器用なので片付けを忘れてしまったり力んで物を丁寧に扱えなかったり、せっかちでミスが多かったりするのも嫌われる原因だと思います。何とか改善しようとすぐに気がつくように心がけたのですが、気づききれなかったり裏目になったりして、イラつかせてしまいました。人と話すときにパニックになりやすく、相手が何を言っているのか理解できず相手の話し方の癖を理解するまでほとんど会話を噛み合わせることが出来ないのもイラつかせてしまった原因かもしれません。唯一心の拠り所だった実験に関しても頭を使ってないと言われショックです。もっと改善する努力をしなければと思うのですが、一方で人が怖く人付き合いに疲れてしまい消えたいと極端な思考に陥ってしまいます。この時期に研究室を変えることも出来ないし、最初は優しくしてくれたり好意を見せてくれた先輩もいるのでまだ先輩が好きで仲良くしたいと思っている自分もいます。ですが、最近吐き気や腹痛が出て辛いです。
趣味のオーケストラではある程度自己主張が必要な環境であることもあってか、私にも良くして下さる方がいらっしゃるので、研究室でもいつか改善できるかもしれないし好かれる努力をしたいと思う私は自分の感情を押し付ける自己中なのでしょうか。せめて存在が不快ということは変えることができないのでしょうか。頭が悪く長文で申し訳無いのですが、甘えた私に喝を入れて頂きたいです。
(もぐ・26歳・大学院生・東京都)
宇多丸:
フジツボ研究室出身のこばなみとしてはどうですか?
こばなみ:
いや~、こんな辛辣な感じではなかったですけどね。どちらかというとのほほんとした研究室ではあったんですが、人も少なくて狭い人間関係でしたけど、なんかそれぞれやってます!みたいな感じだったので……。
どちらかというと誰が何やってようがどんな性格であろうが我関せず的な感じでした。
宇多丸:
話の関係上、先輩たちにキツく当たられている、という訴えから始まってるけど、実は僕がこの相談文を読んでて一番気になったのは、もぐさんの、異常なまでの自己評価の低さのほうなんですよね。
たとえばさ、ぶきっちょで失敗とか、焦って変な感じになっちゃうとか、つい虚勢を張ってしまうとか、1つ1つは誰にでもあることだよね。
おそらくだけど、もぐさんはそこで、「やっちゃった!」=「嫌われた!」という思考に、過度にとらわれてしまう傾向があるんじゃないかな。 その場でイラッとされるのと、人格的に嫌われるっていうのはまったく違う話だし、そもそも誰ともなんの問題もなくうまくやれてる人なんて、どこにもいないのに。 で、それを気に病むあまり、余計にコミュニケーションがぎくしゃくしてしまい、ホントに人間関係に悪影響を及ぼしはじめる、という悪循環を起こしているってことなんじゃないか。
自己主張が強くてっていうけど、それがプラスに働く場面だって、世の中には全然あるわけでしょう。 実際、オーケストラでは問題ないということが証明されているんだし。
つまり、文中で致命的な欠点のようにおっしゃっていることは、すべて誰にでもあるただの凸凹で、「だから」ダメなんだ、ってようなもんじゃないと思うんですよね、本来は。
まずさ、性格がいいとか悪いとか、よくわかんねぇ話だよなと僕は前から思っていて。
たとえばそうだな、人が歩いてるところにいちいち足を引っ掛けてまわるとか(笑)、そこまで行きゃあさすがに性格悪い認定していいと思うけど、たいていの人はさ、その人の個性が、時と場合によっていいほうにも悪い方向にも働くっていう、で、そのどっちの面に触れたかで外から見た印象も変わるっていう、それだけのことでしょ。
それこそ、みんなが口をそろえて性格いいって評するような人の、そうでもない面を知ってるってこと、僕もいくらでもあるし、その逆もまた然り。
要は、一般に言う「性格」なんて、あくまでも一面から見たイメージみたいなもんでしかないんで、それをあたかも動かしがたい属性みたいに語ったり思い込んだりするのは、なかなかに有害なところもあるんじゃないか、と僕は考えているんですけど。 まぁ、誰かを褒めるとか、ポジティブに利用するときなら、まだいいけどさ。
こばなみ:
ホント、性格がいいってなんなんでしょうねぇ。それはそれで八方美人とか優しすぎるとか、言われたりもするし。
宇多丸:
もぐさんはきっと、小さいころから利発で口が立ったのを頭ごなしに否定され続けてきたことで、体内にぬぐいさりがたい呪いのようなものが巣食っている、みたいな自己イメージを抱くに至ってしまったんじゃないでしょうかね。
だから、周囲の人たちの、それ自体はあくまで日常的な範囲の反応をも、ご自分の人格否定にまで飛躍させて考えるようになってしまっているんじゃないか……、そしてそれゆえに、たしかに円滑なコミュニケーションが取りづらい状態にも、結果的になってしまっているんじゃないか。
この悪循環を脱するためには、なにはさておき、適正な自己肯定力を回復する、ってことでしょう。 それは本来、生育過程で周囲から育んでもらうべきものだし、もぐさんの場合は逆に、どんな経緯があったのか強い自己否定感をすでに内面化しきってしまってもいるようなので、自分だけでなんとかするのは、ひょっとしたら難しいかもしれないけど。
だとしたら、またまた言いますけど、普通にお医者にかかるっていうのも、全然ありですからね。 プロとして、もぐさんがこれまでずっと感じてきたような生きづらさ、人との付き合いづらさの、ご自分でも気づかなかったような根本原因を探りだして、解きほぐしてくれるかもしれない。 実際、僕のまわりでもそれで一気に長年の心のつかえが取れたって人、ちょいちょいいますから。 もちろんそれは、まーったく引け目に感じることなんかじゃないですしね。盲腸、自分で治せますか?って話だから。
こばなみ:
治せない~!
宇多丸:
とにかくもぐさんには、自分が全部悪いんだ型の思考を、一刻も早く脱してほしいもんですよね。
だいたい「好かれる努力をしたい」って言ってる人の、どこが自己中なんだよ!って話ですから。
もぐさんはむしろ、周囲に気を使いすぎなことのほうが問題なタイプですよ。
おそらくだけど、もぐさんがこんなに苦しんでいることを知ったら、まわりの人もショックを受けて、謝ってくるんじゃないかな。
なんならその好きな先輩とかに、実は私、こういう風に考えてしまって苦しいんですって、ストレートに相談してみてもいいんじゃない? 要は自己開示が苦手というか、甘え下手なところが、自分で自分を追いつめてしまう元でもあるわけだから。 失敗しても、もっと「てへぺろ」で済ませられる図々しさが、もぐさんにあるといいんでしょうけどね。
ただまぁやっぱり、知り合いにいきなり胸の内をさらすほうが、ハードル高いかもね。 そういうときのための、さっき言ったように、プロですから。遠慮なく甘えるように!
こばなみ:
研究室は私のところもそうだけど、わりともくもくと自分の研究をやる人が多い気がするので、みんなそこまで思ってないかもしれないし……。
宇多丸:
まわりの人も実は単にくそマイペースなだけで、人あたりがぶっきらぼうだったりして、他人が失敗したときも普通はするようなフォローをしなかったりするせいで、余計にキツく見えてしまいがち、というのはあるかもしれないよね。
こばなみ:
それは本当に考えられると思います。気遣いとか、あんまりなかった。マイペースで変わった人が多かったですよ。自分もしかり、かもしれませんが。
宇多丸:
なんにせよ、もぐさん側がここまで悩んじゃってる時点で、彼らは彼らでコミュニケーション上手ってわけじゃないこともたしかですからね。
あとね、「相手の話し方の癖を理解するまでほとんど会話を噛み合わせることが出来ない」って、これも全然、誰にでもよくあることだと思いますよ。 それは、向こうのトークスキルにも問題があるって話なわけだからさぁ。少なくとも、一方的にこっちが悪いってことじゃないのは明らかでしょう。
とにかくまぁ、僕もさんざん教師とかから「口だけは達者」って言われ続けてきたから、もぐさんの心境とも紙一重なとこ、ありますけどね。僕はそのたびに「大人が子どもに言う言葉として、最低の部類だな」と内心思ってきましたけど。 だって、こっちの言ってることそのものは間違ってないけど、そうやって主張してくること自体が気に入らない!って話でしょ? 要は「言い返せないから黙れ」って言ってんでしょ? こんな、クソみたいな言い草を内面化する必要は絶対にないですよ!
まして、大人の科学研究者であれば、主張したり疑問を呈したりに遠慮などあっては、本来いけないはずですしね。
なので、これ読んでるお父さんお母さん、先生方もね、特に教育上言っちゃいけないフレーズとして、胸に刻んでおいてくださいね、「口だけは達者」。 もぐさんみたいに、それが精神の檻や枷になってしまうことだってあるんだから。 何かが「達者な」子には、その能力がポジティブな方向に伸びるよう導いてあげるのが、年長者としての務めというものでしょう。 逆に、子どものほうが自分より頭いいっぽいからって逆ギレするとか、何度でも言いますけど、最低ですから! そしてもぐさんは、これ以上自分を責めちゃダメ! そっちに出口はないですよ。 ときにはちゃんと人に助けも求めつつ、なんとか考え方の根本を、いい方向に転じられるといいですね。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年6月1日に公開したものを再編集し、掲載しています。